自分を古龍と思い込んでる田舎者   作:横電池

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先に謝っときます。ごめんなさい。




白い雷光

「観光に気を取られすぎだ」

「うるさいなー。ちょっと失敗しただけじゃない」

 

 さっきからしつこくテオルから小言が飛んでくる。くそう、責めれる案件があるからってグイグイ来やがって。

 別に財布を落としたとか鍵を落としたとかじゃないんだし、そんなに責めなくてもいいのに。

 

 えっと部屋は、こっちだこっちだ。とってある部屋に移動しながらも未だに小言が飛んでくる。何この小姑。

 

「明日はもう塔へいく準備をするぞ」

「えー、もっと見て回ろうよ」

「公衆の面前であんな珍事をやらかしておいて、よくそんなことが言えたものだな……」

「あれはあのおっさんが悪いんじゃない」

「……、とにかく明日にはハンターズギルドで手続きをする。紹介状は無くしてないな?」

「紹介状はちゃんと部屋に置いてるってば。風とかで飛ばされないよう鞄の中に入れて部屋に置きっぱなし」

 

 部屋の鍵を開けながら説明する。っていうかテオルも見てたでしょうに。相部屋なんだから。

 それにしても今日はほんと疲れた。精神的に疲れた。

 道を誤ってしまった美食家と暑苦しい貧乏人の2人にひどく疲れさせられた。

 海の音を聞きながらだらけたい。そう考えるとこの宿の部屋は悪くないかもしれない。海側の解放っぷりは爽快だ。都会の喧騒を忘れて安らげるだろう。宿代も安いしここは大当たりだね。

 

「ただいまー、って宿で言うのはなんか変かな」

「おかえりニャ」

「さぁな」

 

 疑問に思ったけどおかえりって返ってきたし変じゃないかもね。純白な毛並みのアイルーが鞄をゴソゴソしながら返事してくれたのだ。

 

 

 

 誰だあいつ。

 

 

 

「え、どちらさま? 部屋間違えた? ひょっとしてこの鍵ってどの部屋も共通で同じなの?」

「しまったニャ! ついうっかり……、あ、ここはボクの部屋ですニャ。君たちの部屋は別だと思うニャ」

「あ、そうなんですねごめんなさい」

「待て」

 

 やっぱり安い宿は何か欠点があるものだ。ちくしょう、恥をかいてしまった。

 

「この部屋で間違いない。何をしているんだそこのアイルー」

「え、うそ? って、あー! それ私の鞄!!」

 

 この純白アイルー、私の鞄を漁ってやがった。

 

「ニャ、ニャにをいうニャ!」

「私のだよそれ! っていうか隣にある服も私のじゃん! 何!? 泥棒猫!?」

「毛並みの白さとは裏腹に、やっていることは盗みとは、真っ黒だなこの猫」

 

 テオルの言う通りだ。この真っ白なアイルーめ。どこから入ってきたのだ。ひょっとして開放的な窓からか。窓と言えない窓からか。ちくしょう、安宿はやっぱりだめだ。この宿ははずれだ。

 

「バ、バレては仕方ないニャ! 撤退だニャー!」

 

 そう言って泥棒猫は素早く開放的な窓から逃げていった。木や屋根にぴょんぴょん移っていく。

 

「ナナリ、何も盗まれてないか?」

「も、もしものためにって思ってお金は全部持ち歩いてたの……。本当によかったぁ……」

「なんだと!? その金は落としたりしてないか!?」

「してないっての」

 

 私をなんだと思ってるんだこいつは。テオルの中では私は失敗ばかりのドジな子なのか。私は自他ともに認めるくらいのしっかり者だっての。ゴードン行くときの商人さんに、苦労してそうだって言われる苦労人でもあるんだぞ。

 

「ほら、ちゃんとあるって」

「なら問題ない、か」

 

 今回の私の行動はかなり褒められた行いだと思うんだけど。なんでこんな微妙な扱いなんだ。

 

 一応鞄の中も確認しよう。特に盗まれて困るようなものはなかったはず。いや、あるにはあるか。でもさすがに紹介状を盗むなんてないでしょう。アイルーから見たらただの紙切れみたいなもんだし。

 

「……」

「明日にはやはり古塔に出発した方がよさそうだな。下界はこうも下賤な場所とはな」

 

 鞄に……、あれ? 見つからない。奥のほうに行っちゃったかな。

 

「…………」

 

 あれ? ん? あれ?

 

「ナナリ?」

「………………、あんの泥棒猫ぉぉおおお!!!」

「どうした!? 何を盗まれた!?」

「紹介状がないの!! あのアイルーに盗まれた!!」

「ちゃんと探したのか!?」

「探したわよ!! っていうか真っ先に私疑うの!? どういうつもり!? あのアイルーでしょ!?」

「す、すまない」

 

 すぐに見つけ出さないと。こういう時どこに行けばいいんだ。官憲の詰所? タンジアのどこ? っていうかあの猫なんで紹介状なんて盗んだの? その純白の毛むしるぞ。

 

「とにかく早くあの猫を見つけ出さないとな……」

「とっ捕まえて! やったことを後悔させてやる!」

「あ、ああ……」

 

 

 

 

 宿を出て、人に聞く。純白の毛並みのアイルーを見なかったかと聞けば、答えはあっさり帰ってきた。あそこまで白いアイルーはこの街でも珍しい様だ。向かった先を聞き、そちらに向けて走る。

 

「街から出たわけじゃなさそうだな。この先はハンターズギルドがある。逃げ場はないはずだ。この分なら捕まえられそうだな、ナナリ」

「ふん、所詮は盗みを働く下郎よ!」

「お、おう。調子が出てきたなナナリ」

「テオルは広場についたら入口で待ってて! もし私を抜かしたらテオルで止めて!」

 

 ハンターずぎるどのある広場についた。あの泥棒猫はどこだ。いた。カウンターの女性に紙を渡そうとしている。それ私たちの紹介状だから。何してんだこいつ!

 

「この泥棒猫ぉぉ!!」

「ニャ、ニャー!?」

 

 全力疾走から転がりながら泥棒猫を捕らえることに成功した。私たちの紹介状をどうするつもりだったんだこいつは。

 

「え、あの? え? と、とりあえず落ち着いてくださいっ」

 

 カウンターの女性が戸惑っている。今日で2回目ですね。さっきも戸惑わせてしまいましたねごめんなさい。

 

「観念しろ! さっさと返せ!!」

「ニャ、ニャー! ボクだって古塔へ行きたいニャー!」

 

 古塔へ行きたい? 紹介状に古塔へ行く旨が書いてあるのを見たのか。勝手に行けばいい。けど私たちの紹介状を勝手に使おうとするな。これとお金がないと無理だけど。そしてお金のない盗人にはなおさら無理だけどな!

 

「このっ! 放しなさいそれ! 放せっ!!」

「ニャ―! ニャーーーー!」

 

 無駄な抵抗をしおって! そんな小さい手での抵抗なんて無駄無駄!

 一気に引っ張り、泥棒猫から紹介状を取り返すことに成功した。

 

 ふふん、これで分かったろう。お前はこの紙すら守れない! そして自分の身さえもな! その毛とお別れの準備をしな!

 

 紹介状を右手に高く掲げる。うん、間違いなく私たちの紹介状だ。

 

「いたっ」

 

 確認していたら腕を引っかかれた。その拍子に手から紹介状が離れてしまった。

 

「このっ……! あ!」

 

 風が吹いた。紹介状が飛ばされた。

 

 飛ばされた先には何故かやたらとでかい肉を焼いてるアイルーがいる。え、ちょっと待って。

 吸い込まれるように紹介状は火の中へ飛び込んでいく。

 

「ああああああああああああああああああ!?」

「ニャァァァアアアアアア!?」

 

「ニャ? 何か飛んできたニャ?」

 

 大事なものが飛んできたさ。気づいたなら火止めてよ。めっちゃ強火だねそれ……。あ、あああ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……、それで、紹介状は燃えてしまった、と」

「この猫が……」

「あっさり手放す方が悪いニャ」

「はぁ!?」

 

 泥棒猫の首根っこを掴みながら、テオルに状況を説明した。

 手放す方より盗む方が悪いでしょうが。どこまでも黒い純白アイルーだ。

 

「全く反省の色が見えないようねこの毛むくじゃらは……!」

「痛いニャ! 痛いニャ!」

 

 狭い額に何度もデコピンをしてやる。とっ捕まえた時に毛をむしろうとしたらハンターずぎるどの人に止められたので、この程度に止めておく。

 

「この小ささのせいでまるで私が悪いことをしてる気分になるんだけど……。そう考えるとますますムカついてきた……」

「おい、白猫。なんで紹介状を盗んだんだ」

「古塔に行きたかったからだニャ。あの紙に古塔にいくって書いてあったから使えると思ったんだニャ……。なのにあんな風に燃やしちゃうだなんて……」

「何被害者っぽく言ってんのこの泥棒」

「泥棒だなんて失敬ニャ! 今回が初めてだニャ!」

「一回だけなら誤射みたいな言い方やめてくんない?」

 

 初めてだろうとなんだろうと泥棒は泥棒だっての。

 なぜここまでふてぶてしいのだこいつは。

 

「っていうか何でそんなに古塔に行きたがってるのさ。古塔は危ない場所って聞くけど」

「古塔は楽園って聞いたことがあるんだニャ。そこでボクは夢のマイホームを作って隠居したいんだニャ」

「古塔が楽園って、そうなの? テオル」

「そんな話は聞いたことがない。そもそも古塔について世間でもあまり知られてないんだ。……、まぁ、人間と獣人とで違う情報があってもおかしくはないがな」

 

 古塔は危険って、ゴードンのハンターずぎるどでは聞かされたけど、ゴードンとタンジアでは情報が違うのかな? いや、この泥棒猫がデタラメを言ってるだけかもしれない。情報元を確認だ。

 

「楽園だなんて誰から聞いたのさ。キリキリ吐きなさい泥棒」

「ニャ、ニャァ……、鼻をデコピンするのはやめてほしいニャ……。ここから遠く離れた雪山のふもとの村で、女の子が言ってたニャ」

 

 子供の言葉を鵜呑みにしちゃったのが今回の犯行動機、いや原因か。

 

「本当なんだニャ。その女の子が古塔は楽園みたいに素敵な場所って言ってたニャ。白い光がキラキラしてて、大きい竜がいない場所って言ってたんだニャ」

「まぁ塔というくらいだから竜どもは住みづらいだろうな」

「はいはい、子供が見た夢を信じて暴走して、そして泥棒に走った、と」

「そ、そんなことないニャ! 夢なんかじゃないニャ!」

 

 自分が非行に走った根本が、ただの夢物語だなんてそりゃ信じたくはないだろう。だけど現実を突きつけてやらねば。放っておいたら再犯の可能性がある。

 

「その女の子強そうだった?」

「ニャ? 戦うような雰囲気はなかったニャ。綺麗な白いドレスを着てたからきっとお嬢様だニャ」

「つまりハンターじゃないんでしょ? 古塔はハンターがいないと危険な場所って聞いたよ。たぶんその女の子は夢で見た内容を言っただけか、もしくは電波少女だよ」

「あの女の子が、電波……」

 

 危険な場所を楽園とか素敵な場所とか、白い光がキラキラって意味がわからないよ。電波の線が濃厚だね。それか厨二病だね。

 

「そういえば……、あの女の子のそばに近づいたらなんだかちょっとピリピリしたニャ……」

「きっと強烈な電波少女だったんだよ……。静電気が出るほどの電波って相当やばいよ……」

「ぼ、ボクは電波の子の言葉を信じて、なんてことをしてしまったんだニャ……」

 

 かわいそうに。少しだけ同情してしまう。強烈な電波少女の言葉によって手を汚してしまった純白アイルーは、もう綺麗な体には戻れないのだ……。

 足を洗うことはできても、手は汚れたままなのだ。

 

「で、でもやっぱり万が一ってこともあるニャ。あまり知られてないのなら、本当に楽園っていう可能性もあるニャ!」

 

 諦めの悪い奴だ。このままではまた古塔を目指して盗みを働くかもしれない。なんとかして塔へ行きたくないと思わせなくては。

 なんとなくだけど、電波少女の言葉を信じちゃうあたりこのアイルーは単純なのだと思う。ここはうまいこと騙す形で塔を嫌に思わせよう。

 

「まぁもし楽園が本当だったとしても」

「ニャ?」

「私とテオルはこれから古塔へ向かう予定だからね。古塔でアレしちゃうんだよアレ」

「アレって何ニャ! 塔でどんな悪事を働く気ニャ!」

 

 悪事ってなにさ。っていうかこいつに言われたくないわ。っていうか何言えばいいんだろう。思いつかない。

 

「だからー、アレよ、ほら……、アレ」

「古代衣装を置いてくるのだ」

 

 普通に言いやがったテオルのやつ。それじゃただの謎行為すぎるよ。嫌がる理由にならないよ。まぁ以心伝心みたいにはいかないか。

 私がここからうまいこと軌道修正しないと。

 

「そうそう、何百年も残ってる古着を捨てにね! 他にも色々捨てにね!」

「マナーがなってなさすぎニャ! どういう教育を受けたらそんなこと言えるんだニャ!」

 

 泥棒に説教されるだと……!

 

「まぁそれだけじゃなく私たちが古塔に住むからね! 泥棒は住めないよ!」

「なに?」

「ニャ! ボクは泥棒じゃないニャ! 未遂だニャ!」

「思いっきり私たちの部屋から盗んでたでしょうが」

 

 うーん、古塔にお前の席ねーから! ってうまく信じ込ませる方法はないものか。この泥棒相手に……、そうだ、脅す方向だ。きっとうまくいく。

 

「……、ここじゃ人目につくから勘弁してやってるだけだから」

「な、なにをニャ」

「塔なら人目がつかないし、お前の全身の毛をむしってやってるとこだよ」

 

 ちなみに割と本気でむしりたい。

 今後のことを考えると割と本気でむしりたい。紹介状が燃やされたから出費がかさむんだよどうしてくれんだマジで。

 

「ナナリ、目が本気すぎる……」

「割と本気だから」

「ニャ、ニャァ……」

 

 いや、本当にどうするの? また衣装の調査や説明と、なんでか上がる移動費と延びる滞在費と食費、どれだけ増えるかわからないんですけど? こいつが盗みなんてしなければ何事もなかったのにこの……! 全身の毛をむしるだけじゃ足りない気がしてきたわ。

 

「ナナリ、本音が出てる。小声で出ている。不気味だからやめろ」

「ゆ、許してほしいニャ……、ごめんなさいニャ……」

 

 いかんいかん。考えてたことが無意識に口に出てたみたいだ。

 

「もう二度と盗みはしない?」

「は、はいなのニャ」

「もう二度と古塔には目指さない?」

「ニャ……。それは……」

「もう面倒だし部屋に連れ込んで毛刈りしよっか」

「ニャー! 行かないニャ! 目指しませんニャ!! だから許してほしいニャ! この毛並みはボクの自慢ですからお願いしますニャ!」

 

 ニャーニャーうるさい奴である。だけどまぁ言質はとった。非常に不本意だけど、非常に不本意だけども、今回は見逃して……、やりたくないなあ。どうしてくれよう。

 

「ナナリ、もういいだろう」

「なんでよ」

「この獣人にこれ以上構っても進展はないと思うぞ。紹介状が返ってくるわけでもないんだ」

「……、そうだけどさ」

 

 テオルがまさか泥棒猫を許そうとするとは。この古龍たる俺を怒らせたからにはただではすまさん! とか言って私より怒りそうな気がしてたのに。まぁ確かにこれ以上構っても意味がなさそうだ。

 

 純白のアイルーを見る。ひどく怯えてる。悪さをしたのだから罰が当然くだるのだ。今回は軽めだったけど次はないと思え。

 

「仕方ない、か。今回はこれで勘弁したげる。けど、古塔に来たら本当にハゲさすからね」

「ニャ、ニャア! ありがとうだニャ!」

 

 アイルーが泣きながら感謝を告げた。

 

「あの、そろそろ離してほしいニャ……」

「なんで?」

「え、今回はもう勘弁してやるってさっき」

「これから官憲に突きだすんだから、離すわけないじゃん」

「ニャ!?」

 

 何をそんな聞いてません的な反応をしてるのか。テオルも何その表情。泥棒を働いたんだから当たり前じゃん。個人の仕返しとしては今ので勘弁してあげたけど、ちゃんと然るべき場所に連行だよ。

 

「ニャー!? うそつき! 鬼! 悪魔!」

「うるさいなぁ」

「……、まぁ自業自得だし仕方ないか」

「いやニャー! せっかくここまで密航してきたのに、捕まったら村に強制送還されちゃうニャ! 許してニャー!」

「泥棒だけじゃなく密航までとか。悪事働き過ぎじゃない? 真っ白な毛並みに反して腹の中真っ黒なの?」

「あんな雪山のふもとのど田舎村に帰りたくないニャー!!」

 

 ニャーニャー本当にうるさいけども、知ったことか。

 そんな抗議の声なんて、私の耳には届いても心には届かないよ。

 

 

 

 ずっと騒いでいたけど、官憲に引き渡したら少しだけすっきりしました。

 

 とりあえず、ハンターずぎるどに明日行くかぁ……。事情説明したらわかってもらえないかなぁ。不安になりながら、テオルにどうしたらいいか聞いてみたら

 

「問題ない。俺にいい考えがある」

 

 意外にも心強い言葉が返ってきた。現実味のある考えだといいんだけど。

 どんな考えか聞いても、明日話す、と言ってはぐらかされた。

 

 もうなるようになれ、だ。




純白のアイルー
MHP2Gの上位イベントクエスト「祖なるもの」の依頼主
依頼文:旦那!これから古塔へ行ってみないかニャ?行かないといけないようニャ…でも、行ったらトンデモないことになるような…なんだか胸騒ぎがするのニャ…


白いドレスの少女
MHP2GのG級イベントクエスト「白光」の依頼主
依頼文:うふふ、あなたハンターなんでしょ?ある場所まで一緒に来てほしいの…素敵な所よ。白い光が綺羅星のように舞い散って…退屈なんてさせないんだから…


どちらも祖龍の討伐クエストである。

白いドレスの少女を電波系扱いしてごめんなさい。本当にごめんなさい。
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