自分を古龍と思い込んでる田舎者   作:横電池

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冥帝の光儀

 紹介状焼失事件から、次の朝を迎えました。

 

 昨日のテオルの言葉がどこまで頼りになるか、不安が残る朝である。

 明日教える、と言ってたのだからもう教えてもらって大丈夫だよね。

 

「というわけでキリキリ吐きなさい」

「何で尋問なんだ」

 

 宿を出る前にテオルの考えを聞いておかないと。そんなわけで部屋での会話である。

 あ、ちなみに夜は波の音がうるさかったです。やっぱりちゃんとした宿がいいよね。

 

「いいから、考えってやつを言いなさい」

 

 もし変な考えだったら恥をかく前にここで止めるのだ。古龍の力が覚醒して空を飛んでいく。とかいう意味のわからない妄想の可能性が高いのだこいつの考えは。

 

「まぁいいだろう。俺の考えがうまくいけば、今日か明日には古塔へ行くことができる」

「古龍の力が都合よく覚醒して空を飛んで古塔へー、とかはなしだからね」

 

 今日明日中に出発可能って、つまり優先的に依頼をこなしてもらうってことだよね。つまり緊急性が高いやつみたいな。

 

「でも私たちの依頼ってそんなすぐに受けてもらえるものじゃなくない?」

「普通の人間だったらな」

 

 あっ、これは

 

「だが、俺たちは普通ではない。炎王龍と炎妃龍の化身である俺たちは、な」

「紹介状が昨日燃えたって正直に話すしかないかー。待ってる間の滞在費とか出ないかなぁ。犯罪に巻き込まれたってだけだし、被害者だし私たち」

「ナナリ、そんなことする必要はない」

 

 やっぱりテオルはテオルだ。真面目に考える気はないようだ。それとも真面目に考えた結果がこれなのか。

 

「もっとちゃんとした意見を出してくれない? 無いなら無いで紹介状焼失のこと話しにいかないとなんだし」

「大丈夫だと言ってるだろう。俺とてちゃんと考えている」

「考えた結果がさっきの発言っすか」

 

 護衛および移動費が紹介状ありで8万だったし、どれくらいになるんだろう……。10万として……、もっと安いかな? いや、ここは多めに考えておこう。10万だ。

 滞在費を節約していかないとなぁ……。格安宿のここで、観光は我慢するしかないかぁ。

 

「ナナリ、よく聞け。ハンターズギルドでは緊急性が高い依頼から優先的にこなされていく。緊急性が高いものはたいていは命の危機的状況であったり、生態系に大きな被害が起こりうるものであったり、だ」

 

 それと古龍の化身さまが何か関係あるんでしょうか。

 

「だがもうひとつ、優先的に受けてもらえるものがある」

「もうひとつ?」

「ああ、それは依頼主が特別な場合だ」

「じゃあ無理だね」

「このままではな。だからやつらに、俺たちが特別な存在だとわからせるのだ」

 

 長ったらしく話しておいて、結局自分は古龍妄想を周りに示すのだ、とは。ここまでブレないのも困ったものだ。

 だけどあれだね。古代衣装って珍しいし、私たちが特別な任務で急ぎ古塔へ行かないといけない、って誤認させるとかならいいかもしれない。私すごい冴えてる。

 

「古代衣装に関する特別な任務だから、急いで古塔へ行かないといけないって言えばいいかもしれないね! なんか特別っぽいし!」

「それだけだとダメだろうな」

 

 むむ、なんでさ。

 

「確かにそれだと珍しくはあるだろうが、ただの珍しい衣服を預かる人間で終わる。……、この服だけでなく、俺たち自身が特別でないとダメだ。ただの里からのお使いのような立場ではダメなのだ」

「そんなこと言っても実際それが事実じゃん」

「……、俺たちがただの人間ではない、と思わせたらいいのだ」

「なんか繰り返しになりそうだから一応聞いておくけど、具体的にはどうするの」

「古代文明に深く関係している人物だと思わせる」

「だからその具体的な方法よ」

「……」

「ないの?」

「……」

「ダメじゃん」

 

 ダメじゃん。

 所詮はテオルである。

 

「くっ……」

「とりあえずハンターずぎるどへ行こうか……」

 

 今日は観光ではないし、古代衣装を身にまとって出発である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 到着しましたハンターずぎるど。

 歩いている間にいい案がでないかと期待したけど出てこなかった。

 

「それにしても、なんか昨日より人多いね」

 

 シー・タンジニャにもハンターずぎるどにも、人が昨日より多い。シー・タンジニャは朝ごはん時だからだろうけど。そう考えると食べたくなってきた。もう一度タンジア鍋を頼みたい。今度はしっかり味わうから。

 

「何かあったのか」

 

 テオルが知らない人に普通に話しかけてる。丁寧さ皆無だけど普通だ。

 

「ん? ああ、なんでも海の底から不気味な光が出てるらしくてよ。ギルドで今調査中だからとかで、依頼の整理中なんだとよ。それで今依頼を受けに来たハンターがごった煮ってわけよ」

「不気味な光?」

「ああ、それが真っ暗で蒼い光だってよ。よくわからねぇけどそうらしい」

「ほう」

「あ、あの。依頼の整理中ということは今から依頼を出してもこなしてもらえそうにない、とかですか?」

「んー、緊急性が高ければ大丈夫だと思うぜ? あとはギルド側のさじ加減だな」

 

 これはまいった。ただでさえ優先度が低そうな私たちの護衛依頼。それがさらに遅れそうではないか。でも私たちは飛行船使わせてもらう、んだよね? なら海の底の問題とは無関係だし、大丈夫かな。

 

 情報をくれた男性に感謝を告げ、少し離れてテオルと相談する。

 

「海のことだし、私たちの依頼は大丈夫そうじゃないこれ?」

「どうだろうな。だがそれよりも、俺たちが特別だとわからせる方法が思いついた」

「え、何か知らないけどとりあえずやめておこう? 絶対くだらない方法でしょ? やめておこう?」

 

 引き留める私を無視して、カウンターにいる女性のもとへ歩いていくテオル。マジでやめておこうよ。

 

「おはようございますっ。どういったご用件でしょうかっ」

「海の底の光について話がある」

「噂になってますよねやっぱり……。申し訳ありませんがただいま調査中でして、詳しく話せないんですよ」

「その原因に心当たりがある」

「はい? ほ、本当ですかっ」

 

 え? 何言ってるのあいつ。

 

「ああ、教えてやろう。だが条件がある。腕の立つハンターを紹介しろ。そいつに頼みたいことがあるからな」

 

 ちょっと何言ってるのあいつ。腕の立つハンターを護衛につけたいのはわかるけど、交換条件でそれを取り付けるっていうのもわかるけど。そもそも海の底の光の原因なんて私ら知るわけないじゃん。

 あ、それとも里で読んでた本に書いてあったとか? それなら他の人も知ってるよね。それはないか。

 

「マ、マスター、どうしましょう」

「ふぅむ、話を先に聞かせてはもらえんかのぅ?」

「……、腕の立つハンターを紹介すると確約するのであればいいだろう」

「うむ、お前さんの話が真実なれば、必ず」

 

 近くにいた竜人族の男性も混ぜての会話である。なんかどんどん不安になってきた。今からごめんなさいテキトーなこと言ったんですって謝ったら許してもらえるかな。

 謝る前にテオルに確認しよう。そう思ってテオルに小声で話しかける。

 

「ちょっと、大丈夫なの? 本当に原因わかってるの?」

「大丈夫だ。むしろこの原因を他のやつらが気づけぬことに驚きだ」

 

 たいした自信である。まぁそこまで言うのなら、信じることにしよう。かつて里一番の本の虫だったテオルを。

 

「ふむ。ワシらが気づけぬことに驚きとはのぅ。では、聞かせてもらえるかの?」

 

 信じるとは決めたけどやっぱりドキドキしてきた。見当違いなこと言いませんように。本当に言いませんように。そしてばっちし聞かれてたんですね。超怖いですお爺ちゃん。

 

「ひとつ確認しておきたい。海の光は断続的なものか、持続的なものか。どっちだ」

「持続的なもの、と報告に上がっておる。その光がかなりの深部にあるようでの、そのため調査隊が組みにくい状況じゃ」

「なら、俺の考え通りだ」

 

 おお、なんだこのテオルから放たれる安心感は。さっきの質問でもともとあった自信がさらに強固なものに変わったのだろう。なんだ、いいとこもあるじゃない。

 

「海の光の原因は、ラギアクルスだ」

 

 ラギアクルスっていうのが原因なのね。全く聞いたことないけど、海の何かなのだろう。

 

 

「いや、それはないのぅ」

 

 え。

 

 

「報告によればもう3日ほど光を放っておっての。最初はラギアクルスの蓄電された背中の雷光と思っておったんじゃが、ずっとそこから移動せんのじゃ」

「……」

「ラギアクルスは肺呼吸、つまり陸に上がらなくてはいけないんじゃが、1日程度なら上がらなくても不思議ではないがの。3日となれば別じゃ。そのため、ラギアクルスではなく別のものと考えておる」

 

 自信満々に答えて違いますって、え? 超恥ずかしいんだけど。見てるこっちも超恥ずかしいんだけど。

 

「仮にラギアクルスの死骸であれば、3日も海の底にいるというのはあり得るかもしれんが、その場合は蓄電された雷は散っておる。そのため発光はせん」

 

 もうやめて。テオル君の退路を塞ぐのはやめて。

 

 ダメだ。もう見てられない。謝ろう。もう謝ろう。そう思って前に出ようとした。

 

「ふん、頭の固い人間だ」

 

 テオル君、恥ずかしいからこれ以上強がるのやめてくれない?

 

「うむ?」

「ただのラギアクルスなどではない。海の底、光の差さぬ暗黒、冥府の底に存在する王であるラギアクルスのことだ!」

 

 やめて。これ以上キツイこと言うのやめて。認めたくないのはわかるけど素直に引き下がって。

 

「……ふむ」

 

 あー、ほら、お爺ちゃん呆れたのか黙っちゃったよ。

 

「ただのラギアクルスならそこらの凡夫でも問題はないだろう。だが、奴は違う。だから腕の立つハンターを紹介しろと言ったのだ!」

 

 それっぽいこと言うために腕の立つハンターを求めてる理由まで変えやがった。

 

「まぁ、奴に対抗できるほどの強者はいないか。そう都合よくはいないか」

 

 うんうん、このまま引き下がるんだ。素直に謝らなかったあたりすごいよ。馬鹿だけどすごいよ。とにかくその流れのまま引き下がるんだ。

 

「……、冥府の王、か」

「信じられないなら仕方ない。意味のない調査隊を組み、悪戯に犠牲を出すがいいさ」

 

 挑発するのやめよう? 悔しいんだろうけど挑発するのはやめよう?

 

「……、まぁ待ってくれんかのぅ」

 

 引き留められた。挑発するからだよ馬鹿! 本当に馬鹿!!

 

「古文書にしか記述されておらん冥海竜について、どこで知ったか聞きたいとこじゃが」

「……、どこであろうとお前には関係ないだろう」

 

 明海竜? 確かに海で明かりを放ちそうな竜の名前だ。ひょっとしてテオルが苦し紛れに言った発言がそれと一致したの? それともひっかけ? かまかけ?

 

「まぁ今はそれは置いておくとして。強者はいないか、と言われちゃこの場にいるハンターたちの気がすまん。全員とはいかんが、何人かはお前さんが求める強者じゃよ」

「…………、それがどうしたというのだ」

「お前さんの言葉を信じるってことじゃよ。ここにはお前さんの求める、冥府の王に対抗できるものが揃っておる」

 

 なんてことだ。

 偶然の一致によりテオルが信じられてしまった。やはり謝り倒さないと……、でもあんだけ挑発してたし……、普通にこわい。

 

「さぁ、お前さんの依頼を言うがいい! このハンターズギルドはその依頼を受けようぞ!」

 

 なんか急にお爺ちゃん盛り上がりだしたよ。やめてよ、そういうノリやめてよ。テオル君雰囲気に流されやすいところあるんだからやめてよ。

 

「ふむ……、こうも都合よく竜どもに対抗できる者がこの時代に生まれるとはな。おもしろいものだ。……、ああ、すまない。ただの独り言さ。では改めて……、狩ってもらいたいのは冥界竜だ。少しばかり例外的な個体だが構わんだろ?」

 

 流されちゃったよあいつ……。本当に原因明海竜なの? これで違ってたらもう全員赤っ恥だよ? それに何その独り言。滅茶苦茶イタいんですけど。しかもなんでしたり顔なの? 腹立つんだけど。っていうか私たちの依頼は護衛依頼だからね?

 

 ダメだ。言いたいことが多すぎてもう駄目だ。

 

 この場にいるのが辛くなって、私は宿に逃げだした。




古代の衣装を着た青年
MH3Gではイベントクエスト「冥帝の光儀」の依頼主。
報酬金22200z 参加資格HR8以上
依頼内容はラギアクルス希少種の討伐。
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