ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!! 作:グレン×グレン
取り合えず、ジャンヌの案内で俺たちはラ・シャリテという町に向かっていた。
ロマニがすぐに連絡を入れてきた。
なんでも、サーヴァントの反応が五つもあると。
……嫌な予感がして飛ばしてきたが、しかしもう手遅れだ。
町は完璧に廃墟で、あたりには肉が焦げる臭いやら焼けた脂の匂いが充満していた。
「……ロマニ、手遅れだな?」
『ああ。そこに生体反応は君たちだけだ』
チッ。
「……これは、ひどいわね」
「ごめん。ちょっと吐きそう」
オルガも立花もかなりきつそうだ。
無理もない。こんな悲惨な光景、初見でショックを受けない方がどうかしている。
「マシュ。大丈夫か?」
「はい。私は……」
「OK。大丈夫じゃないな」
無理をするな。これは初心者にはきつすぎる。
「魔力がこもりすぎている以上、リビングデッドになる可能性もある。ジャンヌ・ダルク。異教式で悪いが鎮魂の儀式をするから、それまでの間、三人を連れて離れていてくれ」
「…………これをやったのが、本当に私なのですね」
ぽつりと、ジャンヌ・ダルクはつぶやいた。
「待ってください。それは―」
「いえ、それはわかるんです。でも、どれほど人を憎めば、このような所業をおこなえるのでしょう」
さてな。
だが、このジャンヌ・ダルクが生前に感じた憎悪は、それほどまでのものだったと仮定するのが妥当な案だろう。
だが、それがこのジャンヌにはわからない。
おそらく、このジャンヌは聖女としての側面が強く引き出されているのだろう。
それが、世界が魔女であるジャンヌに行った必死の抵抗―
『―待った! さっきのサーヴァントが反転した!! 五騎全員が一気にそっちに向かってきている!!』
なんだと!?
「チッ!! 全員走れ!! 今のままだとさすがにきつい!!」
「うそでしょ!? サーヴァントの数でも負けてるのに、そのうえワイバーンまで相手にするなんて―」
オルガが顔を真っ青にさせるが、しかしそんなことをしている暇はない。
「急げ!! このままだと追いつかれるぞ!!」
『三十六計逃げるにしかずだ! こんなの誰だって逃げる!!』
俺とロマニが声を荒げるが、しかし動かないものが一人いた。
ジャンヌ・ダルクは、まっすぐに空を見つめると声を出す。
「……皆さんは逃げてください。私は、ここに残ります」
「待ってください! 気持ちはわかりますが、ここは逃げないと!」
「駄目です。せめて、せめて真意を問いたださなければ……!」
まずいな、この光景を自分が作ったのが原因か、ちょっと気があれているようだ。
それともこれが聖女の性か? どちらにしても、これは言っても聞いてくれなさそうだ。
「……マシュ、立花とオルガを連れて先に車に行け。騎乗スキルは機能しているだろう?」
「は、はい。ですが兵夜さんは―」
「ここでジャンヌ・ダルクを失うわけにはいかない。安心しろ、策はある」
ああ、まったく。
流石は人理焼却に対抗する聖杯探索だ。初手からサーヴァント五騎とかハードだなおい!!
そこに現れたのは、ワイバーンの上に乗る五騎のサーヴァント。
様々な時代の英霊なのか、西洋風の服装だということ以外は統一性がない。
そして、そんな中一人だけよくわかる人物がいた。
肌は青白く、髪はくすんでいる。まるで黒く染め上げられた彼女を見ているようだ。
「―っ」
当然、ジャンヌ・ダルクもそれを理解している。だから目を見開いている。
「何てことかしら。こんなことがあり得るなんて」
そして、俺の隣ではなく視線の先にいるジャンヌ・ダルクは嗤った。
「だれか! 冷たい水を持ってないかしら? 今すぐ頭からかぶらないと、本気でおかしくなりそうだわ!!」
その姿を見て、俺はまあ想定通りだったので比較的冷静だった。
「……ジルがいたら、この羽虫を見せてあげたいわ!! ああ、こんな哀れな小娘に、この国はすがっていただなんて!!」
「貴方は、いったい誰ですか!!」
たまらず声を張り上げるジャンヌ・ダルクに、ジャンヌ・ダルクは嘲笑を浮かべる。
「貴女がそれを言うのですか? そんなもの、蘇ったジャンヌ・ダルクに決まっているじゃないですか!!」
そして、其のまま頬をさらに吊り上げる。
「ねえ、もう一人の
やはり、彼女の裏側面か!!
「……馬鹿馬鹿しい。私達が聖女などであるものか。それより、なぜこの街を襲ったのです!」
「そんなもの、間違いを訂正するために決まっているでしょう?」
即答だった。
「なるほど、ジャンヌ・ダルクが聖女なのが間違いだと認められたのなら、偽の聖女に救われたフランスもまた間違いだということか」
「あら、物分かりのいい異国のサーヴァントね。ええそう、そうです。この国は間違いです」
ジャンヌ・ダルクの裏側面……ええい長い! これからジャンヌ・オルタと呼称しよう。
ジャンヌ・オルタの目的とは明白だ。
自分を間違いだというのならば、フランスの救済もまた間違い。
だから燃やす。だから壊す。だから殺す。
老若男女の区別なく、物理的にフランスを亡ぼす問うわけか。
「馬鹿な私。裏切り、唾を吐いた人間たちの国を救うために、私の邪魔をするなんて」
ジャンヌ・オルタはジャンヌ・ダルクを蔑むと、そして俺をも鋭くにらみつける。
「貴方もそんな馬鹿な私に見切りをつけてこちらについたら? 死を得て成長した私と、死んでなお憎しみを見ないふりする聖人気取りの聖処女よりましだと思いませんか?」
『いや、サーヴァントは成長しないから、霊格アップとかのほうが―』
「―そこの蠅、あまりうるさいと燃やすわよ?」
『うわぁ!! コンソールが燃え出したぁ!!』
にらんだだけで通信先の相手を呪うってどうよ?
たぶんジャンヌ・オルタの宝具何だろうが、何気に万能だな。
火刑の逸話と憎悪の融合と思われるが、さてさてどうしたもんか。
「まあいいわ。あるべき憎悪もあるべき報復もしないというのなら、それはもう私じゃない。……バーサーク・ランサー、始末しなさい」
その言葉とともに、一人の男がワイバーンから飛び降りる。
……中世の貴族を思わせる、長い髪の男。
なんだろう、俺はこいつを知っている。
「では、血をいただいていいかな? 余をそのようなものにしたのは貴女なのだ。それぐらいは許してくれてもいいと思うのだが」
「かまいません。弱い者いじめも飽きたでしょう? サーヴァントという強者を喰らい、そして存分に嗤いなさい」
「よろしい。では食事の時間としよう!!」
『まずい! あのサーヴァントたち、黒ジャンヌを除いて全員狂化スキルをつけられてる!! サーヴァントのクラスを強制的に二重属性にするなんてありえない!!』
なるほど。悪性のサーヴァントを召喚するのではなく、強制的に気狂いにしているというわけか。
そんな真似まで使えるとか、やはり聖杯を使っているようだな。
ああ、それがわかれば十分だ。
「……マシュ!!」
「はい、兵夜さん!!」
俺が声を上げるとともに、装甲車が飛び出した。
「ふん、やはり伏兵がいましたか―」
ジャンヌ・オルタがそう言いながら戦闘態勢を取るが、俺はそれより早く即座に行動した。
「―え?」
まずはジャンヌ・ダルクを装甲車に投げ飛ばす。
彼女は現地のサポート役として適任だ。ここで消滅されるわけにはいかない。
そしてマシュとオルガはやられたらそれで終わりだ。俺のようにカルデアに戻って再召喚……とはいかない。
立花は当然却下。あいつただの魔術使いだし。
と、いうわけで―
「―
俺は即座にガトリングガンを展開すると斉射。
さらに、今回は対竜用の弾丸を使用する。
不意打ちでぶっ放された弾丸の嵐に、サーヴァントは対応できたがワイバーンは対処できなかった。
あらゆる異能を組み込んで開発された特注品の装甲車。サーヴァントの足でもそう簡単においつけられるものではない。
そして、今の攻撃で向こうも思い知ったはずだ。
俺を無視して背中を見せれば、ハチの巣にされると。
「……この、羽虫が!!」
「腹立たしいわね。男の血と臓物には興味がないのだけれど」
「ハッ! ざまあみろと言いたいけど、さすがにちょっとイラつくわね」
「同感だ。このフランスにこんな無粋なものを持ち込むとはね」
「……なるほど、どうやら貴様は余と同様に殲滅戦を得意とするサーヴァントらしい」
五者五葉に構えながら俺をにらむが、しかしまだ冷静なようだ。
仕方がない、少し挑発するか。
「……ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ羽虫がやかましいな。旧式のロートル風情がよくもまあほざく。古きをもって力とするなら、神代のサーヴァントを連れて来い」
あえて悪意満々に込めたその言葉に、狂化を施されたサーヴァントは敵意を増大化させる。
よし、これで当分ターゲットは俺に集中するな。
さて、それじゃぁ。
「あまりなめてくれるなよ、小国同士の争い程度の英霊風情が。こちとら文字通り世界単位で命運かけた激戦を生き残った最新の英霊だぞ」
光の剣を形成し、そして楯を呼び出して素早く構える。
さて、それではせいぜい時間を稼いでから逃げるとしますか。
「さあ、聖杯戦争を始めよう。……五対一だがそれで充分。くぐった修羅場のスケールの違いを思い知るがいい!!」
もちろん挑発目的です。さすがに倒せるなどと欠片も思ってません。
ですが、文字通り世界をかけた戦いを潜り抜けた兵夜からしてみれば、良くてせいぜい数国程度のスケールの相手にそう簡単に遅れを取るわけにいかないのも事実。
何より、この程度で臆していて、あの乳乳帝の相方は名乗れませんから。