ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!! 作:グレン×グレン
ワイバーンや骸骨兵を引き連れ、彼女はそこに立っていた。
……この魂に刻まれた血を求める本能が、今すぐにでも総力を挙げて叩き潰せと叫ぶ。
それを深呼吸一つである程度収める。
バーサーク・ライダー、マルタは鋼の自制心で自分を押さえつけながら、森を見据える。
「……ったく。手間をかかせてくれるわね。探すのに手間取ったじゃない」
冷静に考えればすぐにわかる。
この時代では珍しい車輪の跡。それも、馬車とも全く異なる独特の跡に気が付けば、それまでの苦労は何だったのかという気持ちになる。
ぶっちゃけその鬱憤も併せて暴れだしたいが、しかし耐える。
聖女には聖女の意地がある。彼女は迷える子羊を導くものであり、決して血と殺戮に酔いしれる者ではない。
あの女には色々と同情するところはあるが、それはそれとして殴り飛ばしたいっていうか一発殴らせろやと言いたい。
まあ、絶対服従状態なので、どうしようもないのだが。
「とはいえ、複数のサーヴァントが出てくるというのなら僥倖。抑止力というのも仕事をしているようね」
これは好都合だ。
聖女に虐殺させるような連中の言うことを素直に聞く義理はない。
既にこっそり手は打ったが、それでも限度というものはある。しかしそれもあの男とその仲間がお眼鏡に適うのならば問題ない。
それも含めて試すにはいい機会だ。少なくとも、あの自らの相棒を倒せないようでは、あの邪龍をどうにかすることなど不可能なのだから。
そう、自分は狂化の影響で制御が利かなくなって暴走しているだけ。それに関してはあの壊れた聖女の失態だ。
獲物を見つけて、その凶暴性を抑えきれず命令を無視して突貫した。しかも余計な嗜虐性を発揮して戦力を逐次投入という愚策まで行って。
そこまでしてやってやられるようなら、それは期待するような相手ではないということだ。
「さて、それじゃあタラスク、付き合ってもらうわよ」
自嘲と嗜虐の笑みを浮かべながら、マルタはまずワイバーンを半分ほどけしかけようとして―
「隙ありぃいいいい!!!」
森から、大量の弾丸が放たれた。
「
とっさに防御を行うが、しかしそれが原因で指示が遅れた。
攻撃を行う直前というタイミングでのカウンターにより、戦力の多くが一気に削られる。
そして、さらに状況は一変した。
森の向こう側から、百を超える数の骸骨の兵士が湧き出てきたのだ。
それも、自分達が死体などを使って製造した骸骨兵よりも遥かに強力。竜の牙を使って作り出された高性能は竜牙兵だ。
「はぁっ!? 向こうからくるとか何考えてるのよ!?」
人がせっかく戦力を逐次投入という愚策を行ってやろうというのに、向こうから突撃とか台無しである。
「そりゃもう、囲まれたら終わりだからな!!」
そして、そいつが現れた。
あの廃墟でこちらを徹底的におちょくってくれたあのアーチャーが、盾と光の槍を持って突進してくる。
なるほど。あの男は戦術というものを多少は理解している。
こちらが包囲殲滅をかけてくると勘違いして、される前に先手を打ったということだろう。
「その手の杖から聖職者関係の英霊とお見受けする!! せめてもの情けだ、聖四文字の神が作りし力によって討たれるがいい!!」
何故か蝙蝠の翼のようなものを生やして滑空してくるその男は、躊躇することなく攻撃を叩き込む。
とっさに杖でガードするが、しかしそこからさらに蹴りが叩き込まれて、杖を弾き飛ばされる。
「速攻でカタをつけさせてもらう!!」
「ハッ! なめんじゃないわよ!!」
そのまま止めとして振り下ろされる槍を、マルタは裏拳で弾き飛ばした。
そしてさらに一歩踏み込んで懐へと潜り込む。
あの黒聖女からこの男の危険性は聞かされている。
何より警戒するべきは蹴り。その一撃はあの邪龍ですらただでは済まないだろう。
だがそれがどうした?
そも、格闘戦で竜をぶちのめしたのはこちらとて同じことである。
「ハレルヤ!!」
腹部に膝蹴りを叩き込み、宙に浮き上がった相手を拳で叩き落す。
この間僅か1秒。
サーヴァントの動きとはいえ、それこそ格闘特化のサーヴァントですら打倒するような豪腕であった。
「こんなもんなの? 散々大口叩いた割には、意外と大したことないのね?」
「……俺の周りの聖女は、ツッコミどころが多いのだらけだなオイ」
即座に立ち上がって距離を取ろうとするので、遠慮なくその頭を掴んで引き寄せる。
色々挑発された鬱憤晴らしも兼ねて、狂化を発散する為にももう何発が殴っておこうかとしたが、しかしすぐに手を放して上へと投げ飛ばす。
その直後、カウンターで魔力弾が十発ほど叩き込まれた。
「……まあ、サーヴァントがいるなら魔術師もいるわよね」
「流石は聖職者のサーヴァント。対魔力が高いわね」
そこには、何やら動きに違和感のある女が一人。
どうやら、体の何割かを交換しているらしい。高位の魔術師がそういったことを可能とするとは聞いたことがある。
とはいえ、性能欲しさに意図的に健全な体を交換したというのなら、それは主の教えに生きる者として少々不快だ。
そう考えたことが悪かったのだろう。気づけば、距離を詰めて懐へと潜り込んでいた。
しかも、ボディブローを叩き込んでいた。
「あ、ゴメン」
「……っ!」
衝撃で宙に浮いた女性に追撃を放とうとするが、それより早く空中で蹴りが叩き込まれる。
人の蹴り飛ばし方を全く理解していない動きだったが、しかし割と衝撃は強い。
どうやら体中交換しているらしい。サーヴァントでも通用する高性能だ。
「魔術師ってのはそういうのばかりなの? 色々と嫌な気分ね」
「仕方ないでしょ! 体全部吹き飛んじゃったんだから!!」
反論は無視して、蹴り足を掴んで投げ飛ばす。
これで二人目。さて、次は―
「はぁぁあああああ!!!」
直後、巨大な楯を構えた少女が、楯に身を隠しながら突進してきた。
直撃すれば骨の一本ぐらいへし折れてもおかしくないが、しかしこの程度で自分を倒せると思ってもらっては甘い。
こちとら竜を説教(物理)した女だ。勢い任せの攻撃など効果がない。
「甘いわよ!」
さらりとかわしてそのままカウンターを決めようとし―
「先輩今です!!」
「うりゃぁああああ!!!」
その背中に紐で括り付けられていた、マスターらしき少女がアーチャーの持っていた武器を発射した。
その想定外の攻撃にとっさに回避を選択するが、しかし圧倒的な弾丸の量ゆえに何発がかすめてしまう。
「へぇ? 意外と根性あるマスターじゃない!!」
「マシュとお兄ちゃんにだけ任せるわけにはいかないもんね! ど、どどどどどうだこのヤンキー!!」
震えながらも啖呵を切れるとは中々肝の据わった魔術師だ。認めてやろう。
しかしそれはそれとして人を不良扱いとはいい度胸だ。しっかり説法(物理)をしてやろうではないか。
「だけど、この程度で私を倒せると思ってもらっちゃぁ―っ!?」
反撃を行おうとしたその瞬間、体から一気に力が抜ける。
「しまった! この弾丸、まさか特注品―」
「その通りだ」
ザッ……と、そこに先程のアーチャーが現れる。
「英霊に対抗する為の特注品。2015年の通貨価格にして一発数十億円もする希少素材と術式を使って開発されたが、精製コストと生成時間が掛かり過ぎ、加えて英霊相手に当てるのが困難ということでお蔵入りした高級品。……だが、リチャードの幻霊を宿す俺なら、一斉射分なら時間さえあれば用意できる」
あばらが折れたのか動きはぎこちないが、しかし彼はしっかりとその両足で立っていた。
「所属組織の都合的に、聖女を蹴り飛ばすのは避けたいんだが、狂気に囚われた聖女を開放するのも仕事の内か」
「ハッ! 未来の悪魔みたいなやつが何言ってるんだが。それとも何? 未来じゃあ悪魔は改宗したっての?」
気を遣わせないように言った言葉だったが、しかし相手は苦笑した。
「いや、俺の世界は悪魔と天使は和平を結んでな。お互いに気を使いながらやっていこうという話になったんだよ」
「………………は?」
思わず唖然としたその瞬間、彼の右足が自分の腹部に押し当てられる。
「一応言っとくが真実だ。安心しろ、悪魔の現トップは下手な枢機卿より善人だ」
「……笑えない話ねぇ。機会があったら問い詰めないと」
「かの熾天使ミカエル相手に聖女風情が問い詰めとかすごいな」
お互いに苦笑が飛ぶが、しかし遠慮をするつもりはない。
何せ自分は狂気を抑えるのも大変なのだ。そんな危険な手合いを入れても、獅子身中の虫にしかならない。
そんなこと認められるほど、自分は甘ちゃんではないつもりだ。
「最後に一つ言っておくわ。あの魔女の切り札である竜は最悪よ。勝ちたいなら、リヨンに行きなさい」
「礼を言っておこう。だが、あいにくドラゴン退治は得意でな。意外と必要ないかもしれないぜ?」
「……あんただとあり得そうなのが本気で怖いわ」
次の瞬間、あえて狂気に身を任せてマルタは拳を討ち放そうとする。
しかし、それより一瞬早く彼の義足が真の力を開放した。
そしてその瞬間、その足の全容をマルタは理解し、苦笑する。
―私を裁くのがギリシャの神って。主も流石にお怒りということかしらね。
そんな皮肉な感想とともに、マルタの意識は吹き飛んだ。