ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!! 作:グレン×グレン
慌てて陣から外に出てみれば、いつの間にやらこっちに近づいてきていた。
『兵夜君、今ジャンヌがそっちに連絡をしに行こうとしているけど―』
「ややこしくなるから来るなと伝えろ!! 俺達で動く!!」
ええい、まだ準備ができていないというのに!!
「元帥! ここは俺達が受け持つから、その間に兵を引かせてくれ!!」
「よろしいのですか? いかにあなたといえどあの数は苦戦するのでは―」
「ここであなた方の兵力が激減されては困る!! ここはこちらで引き受けるから、何とか全員無事に凌いでくれ!!」
俺は即座に宝具を展開すると、一気にぶちかます。
単独行動スキルがあるのが幸いだ。一時的にだが、立花の負担を気にせずに撃ちまくれる。
「まったく、これはこの軍隊もまとめて滅ぼすつもりなんじゃ―」
「―兵夜伏せて!!」
いきなり、オルガに俺は押し倒された。
「ま、待つんだオルガ! 俺は不倫はしな―」
そう言いかけた次の瞬間、目の前で扉の閉まる音がした。
「……あら、残念」
そこにいたのは、バーサーク・サーヴァントの1人。確かアサシン。
そして、そこにあるのは乙女の姿をした鉄の像。
間違いない。奴の真名は―
「お前、エリザベート・バートリーだったのか」
血の伯爵夫人と呼ばれ、アイアン・メイデンで血を搾り取ったとされる殺人鬼。
優れた領主でありながら、不老の願望に取りつかれた結果血を浴びて若返るという幻想に取りつかれた狂気の女。
武闘派のサーヴァントとは到底言えないが、なりふり構わなさすぎだろう!!
「カーミラ、と呼んで頂戴。真名もそれで登録されているわ」
そういうなり、カーミラはアイアンメイデンをハンマーのように俺達に落とした。
俺はそれをオルガを抱えて回避。
危ない! なんつー戦闘方法を!!
しかし、こいつを相手しながらワイバーンを仕留める余裕は欠片もないぞ!?
と思ったその瞬間、魔力弾らしきものが放たれる。
それを撃ち落としながら、俺はさてどうしたものかと考える。
ここはオルガに任せるのが妥当な決断だが、しかしオルガの戦闘能力で対応できるとも思えない。
いや、単純なスペックなら十分対抗可能なんだ。だが、それをオルガが使いこなせるかというと話は別。
魔術刻印を失ったことで、オルガの魔術師としての能力は大幅に落ちているから遠距離攻撃は補助としか使用できない。やるとするならば偽聖剣を利用した接近戦闘だ。
だが、オルガに体術の心得はないはずだ。
とても、サーヴァントとの前衛戦闘なんて任せられるわけが―
「……下がってください!!」
その言葉と共に、旗が俺達の間に突き立った。
「あら、来たわねジャンヌ・ダルク」
その言葉と共に、ジャンヌが俺達の間に割って入った。
「下がりなさい!! ここは私が引き受けます、見知らぬ方々!!」
その言葉に、俺は彼女が言いたいことを理解した。
「ああ、よくわからんが感謝する!!」
そう返し、俺はオルガを引っ張るとすぐに距離をとる。
「な、何をやってるのよ兵夜! すぐにジャ―」
―オルガ、よく聞け。
ジャンヌを援護しろ、と言いかけたオルガを、俺は念話で黙らせる。
―ジャンヌは俺達が自分の仲間と悟らせない為にあんな言い方をしたんだ。
―え?
―魔女ジャンヌの恨みや敵意が強い今の兵士達に、俺とお前がジャンヌと繋がりがあると知られるのはまずい。下手をすれば今回の交渉が台無しになる可能性がある。
俺がわかりやすく説明し、オルガもすぐにどういうことか理解したようだ。
ああ、やっぱりお前は聡明だ。そして魔術師としての心構えもできている。
これが立花やマシュなら、またちょっと時間が掛かっただろう。
だが―
「おい、なんで魔女が竜達と戦ってるんだ?」
「知るかよ。俺にとっちゃ家族の仇だ。勝手に殺し合ってりゃいい」
……あまり、気持ちのいいものではないな。これは。
ほどなくして、敵も立花達も撤退していった。
とはいえ、あまり気持ちのいいものではなかったがな。
だから気になって、通信で質問してみた。
「ジャンヌ。あれだけ言われて怒りを覚えなかったのか?」
これに関しては、負の感情を覚えることだけは悪いことではないだろう。
いくらそっくりさんどころか同一人物が暴れているとは言って、命がけで助けている人物にあんなことを言われては、思うところはあるはずだ。
だが、ジャンヌは静かに首を振った。
『確かに、普通なら絶望に堕ちるところです。……ですが、同時に喜ばしいことです』
思わず唖然としそうになるが、しかしジャンヌは告げる。
『私に対する怒りで、絶望の淵に立たされている彼らに生きる希望が出てくるのなら、それはそれでいいかとも思うのです』
「お前、正気か?」
『バーサーク・アサシンにも同じことを言われました。ですが、それは生前から言われていることですので』
そう言って苦笑する彼女を見て、俺はアーシアちゃんを思い出す。
彼女もまた、教えを捨ててもおかしくないほどの扱いを受けたのにも関わらず、誰も恨もうとしなかった。
なるほど、これこそが聖女メンタルというやつか。
いや、アーシアちゃんは聖女の名を撤回されていたな。あ、ジャンヌも自分が聖女だとは思ってなかったか。ある意味似てるな。
「アンタと気の合いそうな子を知ってるよ。その子も聖女と呼ばれていたんだ」
『そうですか? できればぜひ会いたかったです』
「ここは世界が違うからなぁ。じゃ、またあとで」
そう言って、俺は通信を切った。
あまり長話していると、誰かに聞かれかねない。
この時代は、魔女を裁く魔女裁判も普通に存在していたはずだ。そんなところで奇妙なことを何度も繰り返していれば、魔女扱いされかねない。
今奴らと戦うには、彼らの力が重要なのだ。このチャンスを不意にするわけにはいかない。
そして、俺はもっと気にするべきところを気にしようか。
「……オルガ、どうした?」
今の通信の間、オルガはずっと黙っていた。
それが気になって、俺は聞いてみた。
……正直、オルガはメンタル面で弱いところがある。
冷静な状況下なら間違いなく頼りになる。ロードの名を持つアムニスフィアの後継者なだけあり、刻印抜きでも優れた魔術師であり、またカルデアの来歴ゆえに科学に対してもそこそこ理解がある。そして頭の回転も悪くない。
だが、割とメンタルが弱いところがある。
別に彼女が格段弱いというわけじゃない。だが、あまりにもカルデアの重圧は強すぎたのだろう。
そこに依存といってもいいほどに信頼していた昆布野郎の裏切りのせいでいろいろと追い詰められている。むしろ、よくもまあ今回の状況に力になれるほど頑張れていると褒めてやりたいほどだ。
「私は、彼女みたいにはなれそうにないわね」
そう、オルガは漏らした。
「学問の成り立ち、宗教という発明、航海技術の獲得、そして情報伝達技術への着手に宇宙開発。星の開拓といえる偉業は数あるわ」
ああ、確かにそのすべては偉大なものだ。
そのどれかが欠けていれば、人類は未だに中世の暮らしを続けていただろう。
人理定礎の一つともいえるそれは、下手をすれば特異点の一つに設定されているかもしれない。それほどまでに影響力が大きい。
「そんな数多くある星の開拓……。だけど、カルデアはそれらすべてを上回る偉業、文明そのものを守る神の一手を担っているわ」
確かに、もはやそれはアラヤの抑止力の代行だ。
いや、もしかすればアラヤの抑止力がカルデアを動かしているのかもしれない。そう思わせるほどに優れた偉業だろう。
「この天体を、地球を価値あるものと証明し続けることこそがアニムスフィアの絶対厳守、それなのに―!!」
オルガは、いつの間にかプルプルと震えていた。
「それを担う私は、格下を行う者たちよりも弱い……!」
オルガは、涙すら浮かべて自分の無力を呪う。
「サーヴァントに負けるのはいい。だけど、肉の体を失った私は、サーヴァントの依り代にもなれない。今回の説得だって、結局元帥が聡明なだけじゃない……っ!!!」
う~ん。確かにそうなんだが、これはフォローしておくべきだろうか。
「カルデアだって、作ったのはお父様であって私じゃない。私は、結局何もできてないじゃない!!」
オルガ、いやそれは―
「それは違いますぞ、マドモワゼル」
そこに、元帥が現れた。
「夕食の準備が整いました。大したものは用意できませんが、何もないよりはいいでしょう」
「ああ、すまない元帥。いただくよ」
うわ、ちょっとまずいところ見せただろうか……。
「それと、お嬢さん。ジャンヌを褒めていただく形になったのはありがたいですが、しかしそんなに卑下なさいますな」
そういうと、元帥はオルガに肩に手を置いた。
「貴女が未来から来たのなら知っているかもしれませんが、ジャンヌとて完璧であったわけではありません」
元帥は、まるで娘を見る父親のような瞳でオルガの目をのぞき込む。
「この時代の農家の出身なので当然ですが、生前は文字の読み書きがろくにできませんでした。私としては名前が書ければ最低限のことはできたと思いますが、後にそれが仇となって火刑に処されたのですから、これは致命的な欠陥でしょう」
「た、確かにそういう話は聞いたことがあるけど―」
「それに、なんというかどんな時でも思い切りが良すぎまして、夜襲や奇襲をよくしたがりましたね。騎士たちはその辺りが不満だったのですが、絶対に自分を曲げたりしなかったのですよ。いわば城塞です」
何それ。妥協は人生を生きるコツだよ。
「思えば、それらの不満が重なった結果が、ジャンヌを見捨てる愚行へと繋がったのかもしれません。何事にもその原因があるということでしょう」
そう悲しげに告げる元帥は、しかしあえて笑みを浮かべてオルガの肩に手を置く。
「誰にだって悪徳があれば美徳はあります。あなたにも貴女の美徳があるでしょう? 悪徳を自制するように努力して、美徳を生かすように専念すれば、結果はおのずとついてまいります。どうかそれをお忘れめさるな」
「元帥……」
オルガマリーが見上げる中、元帥は立ち上がると陣へと戻っていく。
「さあ、先ずは夕食をいただきましょう。これからが忙しいですよ?」
ぽかんとするオルガマリーに、俺は肩に手を置いた。
「オルガ、オレだって、完璧超人じゃない」
「貴方、割と何でもできるじゃない」
「そりゃそういう風に体をいじくってるからな。そうでもしなければ追いつけなかっただけさ」
俺の才能はそこまであるわけじゃない。
人生二週目というある意味やる気を持ちやすい状況と、大企業の幹部の子供という環境的優遇の二つを最大限に生かした。しかしそれでも平均以上はいけてもトップクラスには届かない。
ゆえに、個人能力を専門家の到着までの繋ぎとして運用する方針で、コネ重視の将来を模索していた。
だが、トラブルが自分からやってきて、挙句の果てに極めて強力と来ては、そんなことは言ってられない。サーヴァントのマスターになったのならなおさらだ。
幸運なことに、俺の場合は師と相棒が優れた技術者だった。
だから、徹底的に体を改造するという手段が取れた。其れだけだ。
「人からは良く正気を疑われる精神性ゆえかもしれないが、しかしそれだけだよ」
「確かに、並の魔術師でもできないような境地ね……」
オルガははっきりと呆れるが、しかしまあそういうことだ。
「なんだかんだで、お前がカルデアを引っ張ったから俺達は人理焼却に対抗できる。……だから落ち込むな」
うん、実際頼りになる人物だしな。
「ほら、晩飯食べに行くぞ? ……不味くても文句言うなよ? この時代の戦闘糧食だなんて……あれだし」
「そうね。もてなしの食事に文句をつけるのはアムニスフィアの品位にもとるわ」
よし、少しは元気が出てきたようで何よりだ。