ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!! 作:グレン×グレン
いいお知らせと悪い知らせができた。
悪い知らせは、マリー王妃が脱落した。
街の人々を逃がすために殿を務めたからだ。邪龍の群れとジャンヌ・オルタ含めたサーヴァント複数を同時に相手をすれば、おそらくもう無理だろう。
アマデウスも流石に答えたのか、少し一人になっているらしい。
だが、いい知らせもきちんとある。
ジークフリートの呪いが解呪された。それも、サーヴァントが三騎も味方になってくれた。
なんか癖のある人物がいるようだが、そこはこの際スルーする。
「……それで、そろそろ反撃を行うんだったな」
『はい。そちらは大丈夫でしょうか? ……大丈夫ですか?』
思わず二度聞くぐらいに俺の惨状がひどい。
具体的に体中がズタボロである。
サーヴァントだからさっさと回復するが、それにしてもちょっと無茶しすぎたか。
「何分、神格の使用は負担が大きくてな。しかしとりあえず対ドラゴン装備は間に合った」
対幻想種用の装備を大量に用意した。あと、ガトリングガンの弾丸の応用で対竜用の鏃をかなり確保することに成功した。止めに油も大量に。
オルガにもサポートを頼んだが、その負担が大きいのか今は休んでいる。
「さて、それでマシュはほかに聞きたいことがあるんじゃないのか? 提示報告なら、ロマニを経由すれば十分だろう」
『……すごいですね、兵夜さんは』
まあ、これでも対人交渉に主眼を置いていたからな。
『アマデウスさんの話がとても気になりまして、それで少し誰かに相談してみようと思いました』
なんでも、別行動をしている最中にアマデウスがなかなかの話を聞いていた。
アマデウスは人間は汚いものだといった。美しいものしか愛せないのではなく、美しいものだって愛せると。
アマデウスは言った。人間は好きなものを自分で選べると。
アマデウスは言った。人間は何かを好きになる義務があり、それが責任だと。
アマデウスは言った。輝くような悪人も、吐き気を催す聖人もいると。
アマデウスは言った。世界によってつくられ、世界を拡張し成長させる。それが人間になるということだと。
「ふむ、さすがは歴史に名を残した音楽家。なかなか独自の持論を持ってるな」
『兵夜さんは、そういう生き方をしているんですか?』
「さてな。俺は今や悪魔で神だし。あとついでに龍属性も」
おかげで対竜装備の開発には激痛が伴った。
だが、含蓄のある言葉だ。
「正直よくわからんところもあるが、わかるところについてはオレなりの解釈を伝えよう」
そう、俺の行動原理は、極論するとたった一つに集約される。
大親友に、胸を張れる自分でいること。
ただそれだけだ。そう、ただそれだけ。
俺があの激戦を潜り抜けたのは、それを守ろうとしただけに過ぎない。
そうでなければ、俺はとっくの昔に滅びていただろう。もしくは、今の自分が見たら嘆くほどに落ちぶれていたか。
『そんなに立派な方なんですね』
「いや、実は女の敵だ」
バッサリと、俺ははっきり言った。
「実はその野郎はドスケベでな、学生時代は覗きの常習犯でよく女子に追い回されていた。……よく退学処分や補導にならなかったと感心しているさ」
俺、そっちのフォローはしてこなかったつもりなんだけど。
『え? でも彼に胸を張るためにあなたはそれだけの人物になれたと―』
「つまり、それがアマデウスの言いたかったことの一つだよ」
吐き気の催す聖人もいれば、輝くような悪人もいる。
人の側面は一つじゃない。ヴラド三世がサーヴァントとして二種類……あるいはそれ以上の形で具現化するように。そもそも一部の英霊に複数のクラスの適性があるように。
「駄目なところもあればいいところもある。人っていうのはそういうものだ。俺はあいつのダメなところはどうしようもないって思っているが、いいところは本心から素晴らしい輝きだと思っている」
『難しいんですね、人間というのは』
「ああ、人が一生かけても理解できないものだ」
だが、だからこそ素晴らしい。
人間は汚いものだというのは、確かにその通りだ。
「七つの大罪って言葉は知ってるか?」
『はい。キリスト教が定めた七つの悪徳のことですよね?』
そう。七つの死にいたる罪。罪の源となるもの。
すなわち、傲慢、暴食、色欲、怠惰、憤怒、嫉妬、強欲。
「そういうのがわざわざ定義されるってのは、すなわち人がそういうのを抱きやすい生き物だからだ」
人とは楽に生きたい生き物だ。
科学の発展は物事を効率的にするためだが、裏を返せば効率的とは楽に生きることとニアイコールだ。
そして、人は科学をいまさら手放せない。中にはそうしない人々もいるが、それはごく一部だ。
「清廉潔白な存在が尊ばれるのは、それを行うことが困難だからだ。悪人が大量に発生するのは、そっちの方が楽だからだ。その時点で、人間が汚いっていうのは真実の側面を持っている」
どっかのゲームでこんな言葉があった。
正しいことは痛いのだ。
ゆえに、当たり前のことという正しいことは、本来やりづらいものなのだ。
「その一点をもって、立花は傑物だ。当たり前のことを当たり前にできる、それはすなわち褒め称えられるべきことだからな」
『私は、当たり前のことはできて当然のことだと思っていました』
「平時はな。だが、それが自分の身が危険な時やつらく苦しい時までできるかといえばまた別だ」
誰だって自分の身が一番かわいい。それが本能だ。
そんな中、誰かに手を差し伸べられるものが褒め称えられるのは、それを行うことが困難であることの裏返しだ。
「だから、キミが死にかけていた時に訳も分からないのに助けようとした立花は素晴らしい人物だ。この俺の妹だということが信じられなくなるぐらいに、すごい奴だ」
『それに対しては、アマデウスさんも言ってました。人間的なことについてなら、彼女は理想的な先輩だからと』
「なるほど、やはりあの男は一味違う」
人間観察には優れているようだ。確かにあいつは聖人でも悪人でもない。
人間、なんだろう。
「マシュ。これから君が特異点で出会う人間は、立花みたいに立派な奴ばかりじゃない。英霊のようなすごい奴でもない。そういう、人間の醜さを直視することになるだろう」
残念なことに、人間は悪に傾きやすい生き物だ。これは自然の摂理だ。
すべての生き物は、それが本当にそうかは置いておいて効率的に行きたがる生き物だ。
ゆえに人間は悪の誘惑に抗いがたい。あるべき責任を追わないことも悪なのだから、すなわち悪はたいてい楽なのだ。
そんな中、自分がやるべきことをまっすぐ立ち向かえている立花たちカルデアの生き残りは、正しい人間だ。
だが、そんな者たちばかりじゃない。そうじゃないものが大多数だ。
そして一番楽な特異点でこのありさまなら、きっとこれからの特異点はもっと過酷な環境だろう。
そんな中、正しくあろうとする者たちばかりじゃないはずだ。
だが―
「それでもマシュ。そんな中でも正しく生きれるものはきっといる」
そう、立花のように。
「それを、忘れないでほしい」
『よくわかりません。わかりませんが……』
マシュにはまだ難しい話だったか。
『ですが、気に留めておくようにします』
うん、いまはそれでいい。
いざとなれば俺がフォローすればいいからな。
だから、頑張って生きていこう。マシュ・キリエライト。
そして、決戦は始まった。
すでに立花たちは別方向から激戦を始めているはずだ。
そして、俺たちもまた戦闘を開始している。
すでに雑魚の骸骨兵はごっそり減らした。あとはワイバーンだけだ。
「槍兵隊は翼竜の動きを止めることに集中しなさい!! 弓兵は狙撃に集中! 一体ずつ確実に仕留めるのです!!」
「騎兵部隊は骸骨兵をかく乱しろ!! その後、騎士たちで削っていくのです!!」
元帥が、兵士たちに的確に指示を与える。
幸い、骸骨兵たちもワイバーンも割と本能的な動きだ。
装備の面で対抗が可能になった今、あとは確実に一体ずつ仕留めればいい。
「ロマニ! 立花とマシュは?」
『いまファヴニールと交戦中! 龍殺しの英雄二人がいるからね! だいぶうまく戦ってるよ!!』
よし、そっちはあいつらに任せるとしようか。
そして、向こうにサーヴァントが集中しているからかこちらも結構快進撃だ。
「撃て!! ここがフランスを守れるかどうかの瀬戸際だ!! 全砲弾を打ち切るつもりで撃ちまくれ!!」
放たれる砲弾は骸骨兵を駆逐する。
性格に狙いをつけて放たれる矢が、槍兵によって動きを止められたワイバーンを貫く。
異教とはいえ神々の加護が与えられた装備が、聖杯によって生み出されし怪物たちを屠っていく。
「恐れることなど決してない!! 人間であるならば、ここでその命を捨てるのだ!! そう、恐れることなど何もない―」
その視線が、一瞬だけ立花たちのいる方向へと向かい、そして元帥は声を張り上げた。
「―聖女がついている!!」
『『『『『『『『『『ぉおおおおおおおお!!!』』』』』』』』』』
ああ、これなら大丈夫だ。ワイバーンと骸骨兵はどうとでもなる。
俺たちが相手をするべき相手は……。
「殺してやる……殺してやるぞ……!! 誰もかれも、この弓によって死ぬがいい!!」
「来たよ来たよサーヴァントが」
はあ、やっぱり一人ぐらい送り込んでくるだろうとは思っていた。
しかも、寄りにもよって俺を倒しやすいサーヴァントじゃねえか。
これは、少しばかり厄介と考えるべきだろう。
だがしかし、俺たちも負けるわけにはいかない。
人理を救うために、そして何より立花が生きる未来を創るために―
「さて、お兄ちゃんは大変なんだ! 狂った弓兵ごときに負けるわけにはいかないな!!」
―気合を入れるとしますかね!!
兵夜、神代の英霊と激突。
原作オルレアンでは不遇の極みだったアタランテも、主人公と真っ向勝負という出番に恵まれたね! 褒めていいのだよ?
それはともかくマシュを不安視する兵夜。実際不安ではあります。
七つの特異点は、人の輝いているが基本というかふつうでした。これが原因でマシュの人間に対するハードルが無自覚に上がっている節があると、個人的に思っております。本当の意味で汚い人間に出会う機会が、運がいいのか悪いのか極端に少ない。
アマデウスの言葉を借りるのであれば、輝くような悪人と出会う機会は多かったですが、逆に正しい意味で聖人でなくても吐き気を催す存在があまりいないのがネックです。いわばロンドンをみたジークに近い精神状態ではないかと思っております。
幕間の物語の都合で大丈夫だと思っていたロマンもあれですし、もしかしたらマジでマシュ・オルタとかがありそうで怖い。今後のイベントとかは条件が一気に未来に進むみたいですし、そういうことがないとはどうしても言い切れない。
兵夜はマシュの事情についてはほとんど把握していませんが、しかし一種の世間知らずというか対人経験値が低いことは勘付いていますので、一応釘を刺しておきました。