ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!! 作:グレン×グレン
「……うわっちゃぁ。二人ほどはぐれになっちゃったよ。これは上に怒られるかな?」
闇の中、魔術師はそう額に手を当てて自分の失敗を悟ってしまう。
だがしかし、魔術王には手加減をしてもらわないと困るというものだ。こんなものは想定できるわけがない。
彼女の、来歴から結晶化したがゆえに想定しづらい宝具。しかもそれを別のサーヴァントが運用する。
こんなものは想定できるわけがない。自分だからこそ訳が分かるが、他の者なら状況を理解する事すらできないだろう。というより、自分ですらよく分かっていない。
「……見た感じ、宝具のコピー能力かNA? 贋作者者の逸話のある英雄なら手にできそうだけど、それが何であの魔女と関わってるのかNA?」
疑問符を巡らせるが、しかしそれは分からない。
さっさと捕まえて情報を解析するのが一番だとは思うが、しかしそれも今は難しい。
自分は戦闘を得手とする者ではない。本質的に制作者であり、サポートタイプだ。
ある意味だからこそ選ばれたのだ。この愉快痛快で、前代未聞の聖杯戦争に。あの神喰いに対抗する戦力として、自分のようなものを嫌うはずの人理焼却者が選ぶしかないと判断するほどに。
しかしまあ、彼にとっても自分の存在はイレギュラーだろう。
奴は規格外の化け物だ。そして、自分はイレギュラーだ。
どちらが勝つのかは分からないが、きっと楽しい戦いになるだろう。
「じゃあ、先ずはこれを使ってと。あとカウンターシステムはこれだったかなぁ~っと」
焼却犯から切り札を貰っているが、然しそれは極めて低レベルな代物でしかない。この大聖杯を運用しながら出なければ、目立った成果は出せないだろう。
ようはテストなのだ。自分が戦力として使えるかどうか。そしてあの
精々遊ばせてもらうとしよう。サーヴァントとして、ちゃんと言うことはきちんと守ったうえで遊ぶ気だ。
とは言え、どうやらカルデアもこの特異点に気づいたらしい。間違いなく出てくるだろう。
……よし。こうしよう。
徹底的に精神的に、宮白兵夜にダメージを与える事から始めよう。
なにせこちらは愉快犯の魔術師だ。相手の精神を抉り取る事にかけてはトップクラスという自負がある。
そして、あの男の弱みはよく理解している。
なんだかんだで身内に甘い。優先順位こそ決定しているが、しかしなら一番上も呼べばいいだけだ。
第一特異点で行われた細工と、この世全ての悪があれば、それ位はできる。
「じゃあ、負けた借りは返さないとね♪」
それまでは自由に動かしておこうと判断し、そのイレギュラーは嗤った。
異聞第四次聖杯戦争、ここに開幕。
さて、いつもの事だがレイシフトは成功だな。
「さて、出てきたは良いけどどこから動けばいいかしら」
冬木の街を見渡しながら、オルガはそう言って困り顔になった。
一応俺達も強化されてる。その証拠に、オルガの右手には令呪が浮かんでいる。
俺とオルガは双方向で命を相互で補完し合っている状態。それゆえにできた反則手段で、オルガは俺のマスターということになっている。
ちなみに、立花との念話に関しても問題ない。その辺りに関してはラージホークに格納していたアーチャー製の礼装で解決した。
「それにしても平和な町ですね。とても特異点Fのような、大災害が起きるとは思えません」
マシュがどこか笑みを浮かべながらそういう。
まあ、魔術的な観点を飛ばせば、冬木は平々凡々とした地方都市だからな。
日本という国は世界でも有数の平和で治安がいい国だ。そうマシュが思うのも、当然といえば当然だ。
だが、魔術師の殺し合いというのはこっそり隠れて行われるもの。
この裏で、既に血で血を洗う殺し合いが勃発していたとしてもおかしくない。
俺はともかく、一般人側で生活していた立花もその辺は緩いからな。その辺は分からないかもしれないな。
「気をつけなさい、マシュ。魔術師というのはアサシンのように世間の目を盗んで行動を起こす者よ」
「そうね。基本的に陰気なのが魔術師よね」
オルガに対してクロがそう茶化すが、しかし言われた対象のマシュはちょっと恥じ入った。
「す、すいません。少々油断をしていました」
「気にしなくていい。お互いまだまだ素人が多いんだ。皆でフォローすればいいだけだろう」
「フォロー取られた!? ジーク酷い!?」
立花がマスターとしての立場をサーヴァントに取られて絶叫する。
うん、緊張感がないな。
ここは年長者として、一言告げるべきか?
「はいはいお気楽モードはそこまで。一応言っとくが、聖杯戦争中の現場なんて、魔術師や聖堂教会がピリピリしてるんだから、もう少し気をつけろよな?」
マジで気を付けないとまずいからな。
なにせ俺達はイレギュラー。下手に運営スタッフに勘付かれれば、真っ先に排除の対象になりかねない。
なにせ俺達、外見は英雄になんて見えないからな。しかも、サーヴァントのクラスがイレギュラーだったり重複してたりで厄介だ。気づかれたらややこしい事になるのは確実。
どうもカルデアとの通信も悪いのか、ロマニやアザゼルからの通信も届かない。
もうちょっと緊張感を持って行動するべきなんだが―
「―その通りだ。良い事を言ったな、そこの少じょ……少年」
「―だが君も油断してるぞ? まずレイシフトとやらを行う前に指摘しておくべき事柄だ」
―その言葉に、俺達は一斉に振り返った。
そこにいたのは赤い服を着た二人のサーヴァント。
一人は黒い肌に白い髪の、どっかクロに雰囲気が似てる男。もう一人は、どっかで見たことがあるような、黒い長髪の男。
……ヤバイ、どっちもサーヴァントだ。
「お、お兄ちゃんヤバイ!! その二人、特異点で戦ったサーヴァント!!」
え、マジか立花。
チッ! ってことは人理焼却の犯人が召喚したのか―
臨戦態勢に入る俺達だが、しかしそれより早く黒髪の方が手で制した。
「待て。確かに私の方は特異点の記憶があるが、ここで君達と事を構える気はない」
なに?
「我々としてもこの聖杯戦争で無用な被害者を出すのには思うところがあってね。今ははぐれサーヴァント同士、共闘をしていたところだったのだよ」
白髪の方もそう言ってくるが、しかし信用していいものかどうか。
「……どうする? マスターの負担もある、あまりサーヴァントと契約するべきではないが―」
ジークの意見ももっともだ。オルガはマスター適正などがないので、一蓮托生の俺以外との契約はできない。立花も魔術師としてはへっぽこなので、カルデアのサポートが十全じゃないこの状況下でいくつものサーヴァントの運用は―
「なら、強引に代価を払うしかないな」
おい、何のつもりだ黒毛。
なんかしでかしそうなので警戒するが、黒髪は眉間にしわを寄せながらため息をついた。
「ミス・アニムスフィア。君ほどの魔術師が相手のテリトリーの入っている事に気づかないのは情けない。私が知っている君なら、今頃勘付いているはずなのだがね」
「え? ……しまった!?」
どうしたオルガ!
「この辺り一帯、魔術結界が張られているわ!! あなた何かしたの!?」
なんだと?
レイシフトのタイミングで、既に相手の魔術工房に入ってしまったのか?
ついていないのにもほどがあるだろうが。幸先悪いにも限度がある。
だが、黒髪の方は首を横に振った。
「いや違う。私は疑似サーヴァントだがその能力でね。移動式の魔術工房のようなものだとでも思ってくれればいい。……アーチャー、右だ」
「承知した」
その言葉とともに、白髪の方の手に黒鍵という代行者の装備が生まれる。
武器精製能力か、俺と同じ格納能力持ちか?
俺が警戒するなら、その男は何もないところにそれを投げて―
「―ガッ!?」
そして、ナイフを投げようとしていたサーヴァントの眉間に突き立った。
あれはアサシン!? しかもハサン・サッバーハの系譜か!
「貴様、どうやって……」
「気配遮断スキルを見破ったかについては、先ほど展開した奇門遁甲によるものだ」
と、黒髪はさらりと告げた。
「態々消耗覚悟で展開してたのは当然だ。貴様らがいる事は知っていたからな」
知っていた?
俺達が疑問に思う中、黒髪は葉巻を一回吸うと、紫煙と共にペラペラしゃべってくれる。
「お前達が百人近い数に分裂していて、アーチャーにやられたと見せかけて共同戦線のサポート役をやっている事は最初から知っている。ならばレイシフトなどという派手な事態を感知する位はすぐに読める」
「だから接触を図ったのさ。……ここでカルデアの者達が殺されるのは避けたかったのでね」
その言葉ともに、白髪の方が矢を放ってアサシンに止めを刺す。
っていうかちょっと待て。今黒髪の方はなんて言った?
分裂能力? 百人近く?
俺は心当たりが多すぎた。
「……百貌のハサンか!?」
「え? それってお兄ちゃんが呼びたがってたアサシンの?」
ああ、その通りだ立花。
ええい。またしても奴が敵なのか。ついてないな。
高ランクの気配遮断スキルを保有するアサシンが百人近く。工房に籠もりでもしない限り、ターゲットにされて逃げ切るのは不可能に近い。
しかも聖杯戦争で勢力同士がチームを組むとか面倒極まりない。確か、遠坂と教会が手を組んでいたとか聞いていたからその辺りか。
またしても奴が敵とは、これは動きづらいと考えるべきだな。
「安心したまえ、私と契約すれば、そちらのマスターに常時ついて奇門遁甲でカバーする事を約束しよう。次いでにいうと、こちらのアーチャーは冬木の出身だから土地勘がある」
いやまて。黒人一歩手前の色黒のこいつが日本出身だと?
いや、どっちにしても敵が百貌のハサンだというなら、行動がしにくいことは確実だ。このままだと行動が難しい。
と、言う事は―
「さて。あまり時間がないので手早く済ませたい。……共闘するかね?」
黒髪の方が、厭味ったらしい笑みを浮かべてきた。
この野郎。この状況下で断る事のデメリットがでかすぎる事を知ってて言ってるな。
「……立花。断りようがない。最低でも助けられた借りは返すべきだ」
「お兄ちゃんが言うなら、まあ大丈夫かな?」
いや立花。大丈夫かどうかはお兄ちゃん分からない。
とは言え、態々俺達を助けてまでやりたいことがあるのは確実だ。警戒は必須だが共闘の余地はあるのだろう。
「……仕方がないわ。オルガマリー・アニムスフィアの名において共闘を許可します。ただし、真名と能力はきちんと名乗ること」
確かに、共闘するのなら最低限の情報共有は必要だな。
流石はアニムスフィア。オルガ凄い。
「無論だ。それ位のことはさせてもらう」
そして、その赤ずくめどもはついに名乗った。
「諸葛亮孔明の疑似サーヴァント。ロード・エルメロイ二世。二世ときちんとつけてもらいたい」
「アーチャーのサーヴァント。エミヤだ」
……一人は超大物だった。
まあ、明言してないけどこの作品を読むような輩は当然正体に気が付くかと思いますな。