ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!! 作:グレン×グレン
ロード・エルメロイ二世。
俺の世界線において超有名な魔術師だ。魔術の世界では知らない方がおかしいレベルの超天才である。
超天才とは言ったが、厳密にいえば魔術師として天才ってわけじゃない。
元々魔術回路も刻印もお粗末で、魔術教会学部長であるロードの座も、あくまで代行だ。当人もそれを自覚しているのか、ロードを受け継ぐ際に「二世」をつけることを条件にしたほど。
で、何が天才なのかというと講師としての手腕だ。
指導能力において他の追随を許さない。教え子はどいつもこいつも大成して、時計塔最高の「王冠」に至るだろうと言われるものすらいる。
そういえば第四次聖杯戦争に参加して、生き残ったという武勇も持っているらしい。
魔術教会の講師の大半が資料閲覧の代償と割り切って適当にやっているいる中、講師として真剣に取り組んでいる事の差もあっただろう。しかしそれを含めても、教育者としては規格外のレベルだと断言できる。
そして、なんでもエミヤとかいうサーヴァントは準教え子に近い立場らしい。
で、この二人は第四次聖杯戦争に関わっていた事があるそうだ。
それらの縁もあり、特異点化したこの冬木にはぐれとして召喚されたのではないかと推測していた。
「ちなみに今のサーヴァントは、監督役の息子が召喚したサーヴァントだ。奴は令呪が浮かんだ事をきっかけに、聖堂教会と懇意でかつ根源到達という教会にとって「無駄なこと」に聖杯を使ってくれる現遠坂家当主に聖杯を使わせる為に聖杯戦争に参加したのだ」
「もっとも、第五次では悪逆を楽しむ非道の極みとして暗躍。
「それは仕方がないさエミヤ。色々と調べてみたが、双方ともに視野が狭い。確固たる信念を持って努力を欠かさなかった高潔な人格ゆえに、そういう手合いが身内にいる事は想定の埒外だったのだろう」
「なるほど。巡り合わせの悪さもあの悪辣さの要因か。まったく、凛にしろ言峰にしろ、なぜあの種から生まれるのかが疑問だな」
すいません赤服コンビ。俺達に分からない会話をしないでくれ。
「あのロード・エルメロイにエミヤ先輩。それはどういった……」
「二世を忘れないでくれ」
マシュの言葉に対する意見がまずそれなのか、二世。
「気にしないでくれ。似たような苦労を分かち合った者同士の愚痴みたいなものだ」
エミヤはそう言うと、周囲を警戒しながら走り続ける。
敏捷がEランクの者もいる中、俺たちは人に気づかれないように走っていた。因みに立花は俺が背負っている。オルガは体が特別製なのでむしろ速い方だから問題ない。
「さて、私は第四次にかかわったといっても、終局の戦いで発生した大火災の被害者というだけでね。養父はがっつりかかわっていたが、あいにく第四次については全く語ってくれなかった」
エミヤがそう言ってため息をついた。
なんか、クロが同情の視線を向けてるんだが。何か心当たりでもあるのか?
「そういうわけで、状況を把握しているのは私だけだ。できる限り指示に従ってくれると嬉しい」
了解だ二世。
で、俺達はどうすればいいんだ?
「そもそも、今第四次聖杯戦争はどういう状況になっているんだ? 俺達はそこから分からない」
「そこは安心してくれ。現段階ではサーヴァントが全員召喚されて冬木に集合したばかりだ。さっきのアサシンの一人が敗退を偽装する為に、アーチャーに殺されただけだよ」
ジークの質問に、二世は即答する。
補足説明としてアーチャーの真名と能力が語られたが、ちょっととんでもないな。
英雄王ギルガメッシュ。古きに神秘が宿る魔術世界において、記録上最古の英雄。これだけでも相当の能力を発揮しそうだ。
加えて英雄たちの宝具の原点を保有し、それを弾丸として弾幕でぶっ放す豪快かつ頭の悪くて隙のない戦法。下手に本気にさせると弱点となる宝具と即座に使用して攻撃。とどめに全サーヴァント中最大火力である乖離剣。
その武器を投げつけるだけの戦闘スタイルと高い単独行動スキルにより、マスターの負担もごく僅か。件の乖離剣さえ使わなければ、桁違いの単独行動と合わさって、魔力の消耗は並のサーヴァントを下回るらしい。
欠点は唯我独尊を地でいくものすごい我儘な性格。世界の全ては俺のものといわんばかりの俺様で、どうも当時の遠坂のマスターも裏切られて殺されたらしい。
まあ、原典でも全盛期はかなりあれな人物だったらしいしな。遠坂のマスターはカタログスペックだけで判断しすぎだろう。
「私も何度かやり合ったことがあるが、よほど現世が気に食わなかったらしく、受肉した事もあったのか、人類の間引きに聖杯を使おうとしていたよ。……ウルクの民なら乗り越えられると豪語していたが、神代はどれだけ厳しい世界だったのやら」
エミヤがため息をつくが、俺はどう判断すればいいんだ?
「人類の間引きをコトミネと組んだサーヴァントが行うか。世界線が違うとこうも大きな変化が生まれるとは、驚きだ」
ジークさんや。お前のところの言峰さんは何をやらかしたんだ。
「それはともかく、今私達はなんで埠頭なんかに向かってるのかしら?」
「簡単だよレディ。このままだと、そこで五騎のサーヴァントが睨み合いを行う大波乱が起こるからさ」
クロの質問に、二世がそう答える。
「しかもその結果が原因で、冬木ハイアットシティホテルがセイバーのマスターに爆破解体される。幸い私の世界線では死亡者はいなかったが、少々無視できる被害ではないからな」
「……爺さん」
二世の説明に、エミヤが目元を手で覆ってため息をついた。あとクロの目も死んでる。
ふむ、お前の祖父が参加していた事はとりあえず分かった。其れもアインツベルンと関わっている事もよく分かった。
そういえばそんな事を聞いた事があるな。イレギュラーの召喚だから少し記憶が混乱してるか、俺?
「一歩間違えればサーヴァントがどれだけ脱落する分からん状況だ。とにかく急ぐが……」
そこで、二世は俺達に視線を向ける。
「余り状況を混乱させたくない。悪いが、別行動を要請したいのだがいいかね?」
ふむ、ではロードの采配とやらを拝見するとするか。
『そもそも、この冬木の聖杯にとっての願望機は、設計段階で盛り込んでなかった想定外の副産物でしかない』
埠頭の倉庫街で、俺達は分散して二世の話を通信で聞いている。
この人、本当に冬木の聖杯戦争についてかなり調べたらしい。分家とは言え遠坂に連なる俺よりも詳しく知っていた。
『本来は七騎の英霊を生贄にし、その英霊が座に帰還する勢いを利用して、世界に穴を開けて根源に至る道を作る事が目的だ。……願望機としての機能はあるが、それはその生贄となる英霊を召喚する魔術師を呼ぶ為の餌にすぎん』
本当に詳しいなこの人。御三家は秘匿していた情報だろうに、どっからそこまで情報を集めたんだ?
『しかし第三次において、御三家の一つであるアインツベルンが勝つ為に反則を敢行。ものの見事に裏目に出て失敗したのだが、その所為で
フィフスが言ってたのはそれの事か。
しかし、アンリマユか。確かどこかの宗教の悪神だったな。
神霊の召喚は大聖杯でも不可能なはずなんだが、アインツベルンは馬鹿なんじゃないだろうか。
『なるほど。俺の世界では他のサーヴァントの真名を把握でき令呪も使えるルーラーを召喚していた。やはりそこが違いだったか』
『どちらにしても反則技か。アインツベルンはやはり度し難い』
ジークの言葉に、エミヤがため息をついた。
『ごめんなさいね。色々とアレな家なのよ、アインツベルンって』
クロ。気持ちは分かるが、お前もアインツベルンだからな?
『質問! そのあんりまゆって何?』
と、そのある意味重要なキーワードに、二世やエミヤと一緒にいる立花が質問する。
『詳しい説明は後だが、とりあえず大聖杯の機能に「全力で大惨事を起こして叶える」という前提条件が付いたと考えてくれればいい。大惨事を生むという過程の末に結果的に願いを叶えるのが、この時代の冬木の大聖杯だ』
『具体的に言うと、「世界一の金持ちになりたい」と願えば願った者より金を持っている者を全員呪い殺して願った者を世界一の金持ちにするといった形だ』
二世及び補足説明のエミヤの言葉に、全員あれな感じになったのは言うまでもない。
そりゃそうだ。ろくでもないというか、どうしようもないというか。
おい本家。なんで60年間もそんなバグに気づかなかった。
『更に情けない話を教えてやろう。このバグ、第四次の段階では間桐が懸念していただけらしい。遠坂に至っては情報継承が断絶し、第五次の段階では本来の目的すら伝わっていなかったようだ』
……いや、分家の俺達でも根源到達の方法だということぐらいは知っているんだが。本家は聞けよ。
うっかりか。本家のうっかりは俺を凌駕するというのか。それはそれでどうなんだオイ。
俺はまだマシと喜ぶべきか。本家は酷過ぎると嘆くべきか。
『お兄ちゃんより酷いうっかりだね』
『先輩、兵夜さん聞いてます』
マシュのツッコミに涙が出そうになった。
マシュ。立花の言葉だけなら「俺以外のお兄ちゃん」でいいわけで来たんだ。無自覚に逃げ道を塞がないでくれ。
『まあいい。マシュは私達の護衛で、エミヤがセイバーの相手だ。クロはエミヤの動きをきちんと見て、それ以外は全周警戒。……特に狙撃に注意するように』
二世の指示に、俺達は頷いた。
……冬木の大聖杯には、緊急用のシステムがある。
最初に呼び出された七騎のサーヴァント全てが一つの勢力になった場合、カウンターウェポンとしてもう七騎が召喚されるというものだ。
ただし、これが発動した場合冬木の令脈は枯れ果てる可能性が大きい。非常事態になるため、御三家も大慌てすることだ。まさに最終手段というわけだな。
ゆえに大量のサーヴァントがチームで行動していると認識されれば、監督役の教会はまず俺達を集中砲火で叩き潰すように促す可能性がある。そうなると、総力戦になって脱落者多数。結果として大聖杯が起動する危険性があった。
故に俺達はこっそり行動して、件のアインツベルンのマスターの狙撃対策。ただしクロだけはエミヤの戦い方を見学するように言われている。
……どうもクロの戦闘能力は、サーヴァントの力を置換して運用しているらしい。特殊な来歴で一種の分身らしく、カルデアに来たのは分身の分身だとか。
で、どうもエミヤがその置換されたサーヴァントらしいので、今後の戦力強化として見ておけということらしい。
俺が視線を立花達の方に向けると、そこにものすごい美人がいた。
姫様に匹敵する美人。髪は白く眼は赤い。どうやらホムンクルスらしい。
確か、二世の話ではアインツベルンの作戦は囮作戦。
……エミヤの補足説明を受けながらだと、どうも当時のセイバーのマスターは相当ひねくれていたらしい。
正統派の英雄を「兵士を死地へと誘う死神」とでも言わんばかりに嫌悪。騎士道や武士道を死者を増やす欺瞞と憎み、卑怯卑劣な戦法で戦う事を徹底していた。
……どうもそれが最終戦にまでもつれ込んだらしいんだが、どうすればそこまで出来たのかが驚きだ。能力だけは高かったんだろうな。
なんでそんなタイプのマスターに、ブリテンの騎士王アーサー王……もとい、アルトリアを選んだのかが分からん。アインツベルンの判断の可能性が高いらしいが、色々とあれじゃないのか?
とにかくそういうわけで、そのマスターはセイバーに何も言わずに囮として利用。セイバーに意識が向いている隙に敵マスターを暗殺することをモットーとしていたらしい。
一言言おう。馬鹿だろ、そいつ。
戦術論や戦略論は人によって違うだろうが、タッグを組う相手との連携や意思疎通は必要な分だけ行うべきだ。折り合いはつけないと何が起こるか分かったもんじゃない。
件の汚染された聖杯を破壊する時にも、何も言わずに令呪で強引に破壊させたらしいし、何考えてんだオイ。
本当によく最終決戦までもつれ込んだものだ。空中分裂して殺し合いになってもおかしくないだろうに。
まあ、というわけで二世はこの時点でそのアインツベルンのマスターが狙撃を行う準備をしていると判断。狙撃戦を得意とする―わりに接近戦でセイバーと戦う気満々なんだが―なエミヤが候補地点を算出して、俺とオルガとジークが警戒する形だ。
同時にアサシンに勘付かれる可能性もあるので、最有力地点の監視には一番場慣れしている俺が待機しているんだが……。
「……二世。百貌を一人確認したんだが、第二候補地点にまた別の輩がいるぞ」
なんか妙なのがいた。
どうも感覚的にはサーヴァントだ。だが、どうにもおかしい。
最低限伝えられていたこの第四次でのサーヴァントのどれとも格好が似ても似つかない。
というより、あいつが腰につけてるの、中折れ式の銃とコンバットナイフだな。明らかに二世の知っているサーヴァントとは別口だぞ?
しかも構えているのはスナイパーライフルだな。其れも魔改造されてるぞ。
『……なるほど。どうやら私たち以外にもはぐれ、もしくはイレギュラーがいるようだな。二人纏めて派手に攻撃してくれ』
「いいのか?」
派手に動くとセイバーにも勘付かれると思うんだが。
『かまわん。どちらにしてもセイバーを撃破するわけにはいかない。第三者の存在を伝えれば、警戒して撤退を選択肢に入れてくれるかもしれない。聖杯の担い手はともかくあの騎士王ならその危険性は分かるだろう』
了解。では的確にかつ派手にいこう。
イレギュラーはとりあえず撤退でいい。アサシンは数十分の二ぐらいならまあ撃破しても問題ないだろう。
と、言うことで
『……全員。これからミサイルを二発発射する。驚いて大声を出すなよ?』
『『え?』』
クロとジークが首を傾げるが、俺は無視してミサイルを発射した。
一つは百貌の一人に直撃コース。もう一つは謎のサーヴァントの近くに当たるコース。
そして、見事に狙い通りに大爆発。
俺は消滅を確認せずに即座に隠れる。
『アイリスフィール・フォン・アインツベルン。どうやら他の勢力がかち合ってしまったらしい。混戦になる前に痛み分けにするのが得策だと思うが、如何に』
そして二世が即座に今回の戦いを水入りにする事を提案する。
さて、初戦も初戦のこの状況下で、大混戦になる事を望むとは思えないが、どうするアインツベルン。
『こちら立花。セイバーの意見を聞いて、アインツベルンの人は撤退したよー』
了解だ、立花。
どうやらサーヴァントと囮役のお姉さんの相性はいいらしい。
なるほど、そのお姉さんとの相性がいいからこそ、最終戦まで持ち込む事が出来たという事か。
問題はマスターの野郎だな。……立花には常に二世とマシュをつけておくべきか。
二世が最初に「自分が常にいる」といった理由は、アサシンだけじゃないな。
おそらくそっちのマスターの方を警戒している。話を聞く限り、正攻法とか堂々とした戦いを避けるどころか嫌っている節があるからな。まず間違いなくマスター狙いに拘るだろう。
その辺のボディガードを率先して引き受けた形か。これはかなり恩を売られたようなものだ。
さて、それじゃあ―
『では、俺達も撤退するのか?』
ジークの意見も分かる。
なにせ俺達も詳細が知られるわけにはいかないからな。中途半端に知られれれば、誤解を招いて大混戦になりかねない。
この聖杯戦争のサーヴァント全てを結託させるわけにはいかない。そうなれば緊急用の予備システムが発動して、余計な混乱が発生する。
だから、急いで離脱して情報収集される事を避けるのも十分な手ではあるんだが、二世の判断は違ったようだ。
『いやまだだ。イレギュラーはあったが、今回の目的はもう一つある。……もう奇門遁甲は解除している、こちらに来れるだろう、ランサー?』
……そういえば、ランサーがセイバーを誘導してここで戦う事になったのが乱戦の初っ端だったらしいな。
で、そこにどんどんサーヴァントが乱入していって七分の五が集うのがこの真の初戦だったらしい。
さて、確認すると、そこにものすごいイケメンの男が現れる。
色違いの槍を一対持っているな。あと泣き黒子がチャームポイントだ。
槍の二つ持ちとかすごいな。俺は聞いた事がないんだが、いったい誰だ?
相当機嫌が悪そうで、しかもこっちを警戒しているな。
まあ、セイバーに挑戦しようとしたところを妨害されて、しかもセイバーを撤退させられたんだ。
いろんな意味で邪魔をしているからな。不機嫌になるのは当然か。
『落ち着かれよ、フィオナ騎士団の一番槍。我々はアーチボルト陣営の敵ではない』
フィオナ騎士団の一番槍。で、槍二本持ちか。
確か、ディルムッド・オディナとかいう女難の権化がそんな立場だったような。
あ、ランサーの方も驚いているな。いきなり真名が知られるなんて驚きだろうから、当然といえば当然か。
『ふむ、どうやらただものではないようだ。ランサーの真名だけでなく、私がマスターであることまで気づくとはね』
魔術で声を飛ばしているな。其れも魔術迷彩も非常に高度に展開している。
そしてアーチボルト。なるほど、先代のロード・エルメロイか。
そういえば、第四次聖杯戦争で敗退したのが二世が任命された理由の一つだったな。
『何処からか声が?』
『落ち着きなさいマシュ。もう場所も分かってるし、倒そうと思ったら倒せるわ』
マシュを落ち着かせるようにクロがそう言う。
……熱源感知の科学的アプローチで俺も場所は分かったが、なんでこの高度な魔術迷彩を科学的アプローチ抜きでわかったんだ。
『よく分かったな。俺は分からなかったんだが』
ジークも同感だったらしい。その言葉に、クロの得意気な様子が通信越しでも分かる。
『これでも私も聖杯の特性があるもの。私は自分の魔力で出来る事なら、過程を飛ばして結果だけ再現できるのよ。……サーヴァントを現代の魔術師がどうにかしようなんて甘いのよ』
……なんだその反則能力。っていうか聖杯ってどういうことだよ。
いや、そんな事より今は話を聞きながら警戒しないとな。
あのアサシンはとりあえず撤退したか。既に場所を移動しているとはいえ、反撃をしてくる可能性は大きい。マジで警戒しておかないとな。
さて、本来のロード・エルメロイ。政争にも慣れてるだろうし、そう簡単にはいかないだろう。
どうなることやら……。