ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!! 作:グレン×グレン
とりあえず、二世がケイネスとかいうロード・エルメロイに「末席のライネスの名代」と適当ぶっこいて「キャスターについて話せるから、明日会談を行いたい」と言って話をつけて解散となった。
で、俺達は終夜営業の飯屋で飯を食いながら、詳しく話を聞いている。
時計塔のロードが一人にして神童のまま成功街道を進んだエリートオブエリート。ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。サーヴァントはフィニアンサイクルの悲劇の英雄、ディルムッド・オディナ。
なんでも実戦武功を求めており、魔術的には辺境の日本で、時計塔の固定枠が一つしかない事から「評判倒れ」と認識し、一族殆ど「舐めプで優勝確定だろ、プゲラwww」と意気揚々と出陣したらしい。
実際、この第四次聖杯戦争に参加したマスターの中で、「魔術師」として勝てるのは誰一人としていない、ある意味で最高レベルのマスターだ。時計塔においても最高峰の神童であり、真正面からの性能なら、アサシンが相手でも八十分の一なら勝ち目があるというポテンシャル。とどめに魔力パスを婚約者に分割譲渡する事で、よほどの事がない限り自分は全力で戦えるという反則一歩手前の所業。
これが魔術師同士の決闘に近い戦いなら、エミヤが知る第五次のマスターでも勝てるのは二人ぐらいとかいう反則レベルのスペックだった。2人もいるとか多いとか思ったのは内緒だ。
しかし、最悪な事にこの聖杯戦争、イレギュラーだらけ。
唯一の正統派魔術師である遠坂時臣は監督役とグル。アサシンのマスターは代行者であり、対魔術師戦にも相応の心得がある。セイバーのマスターは「魔術師殺し」の異名を持つ、全ての才能を「魔術師を型にはめて殺す」事に捧げたと言ってもいい天敵で、前にも言ったが正攻法くそくらえがモットー。と、半分のマスターがそもそもまともに戦ってくれないこと確実。
ライダーのマスターについては「勝てないのが分かってるのでサーヴァントの後方支援に徹するつもりだが、現実はライダーの宝具に同乗しているのでまあどっちにしても無理」とのことだ。バーサーカーのマスターはアーチャーのマスターに拘りまくっていて、戦えば確実に勝てるが戦う事はほぼなし。キャスターのマスターはそもそも魔術の心得すらないので、勝っても何の自慢にもならない。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。……ついてないにもほどがあるだろう。
「リスクなど大してない評判だおれの子供だまし。だからこそ、まだ持っていない武功のハクとしてはもってこいだろう。アーチボルト家はそう判断して、勝って当然の雑事と切って捨てていたよ。……それが婚約者及びサーヴァントも含めて無残な最期を遂げ、泣きっ面にハチで魔術刻印すら大破するという結果で、アーチボルト家は徹底的に没落したのさ」
「……すまない。爺さんが本当に済まない」
苦笑交じりの二世の説明に、エミヤが頭を抱えてうめいていた。
「ごめん。聞いてて頭痛くなってきた」
クロも頭を抱えていた。あの、その魔術師殺しとかいうの、お知り合い?
「時計塔のロードが考えて実現した方法を独自に編み出すとは、やはり彼も魔術師として優秀だったんだなぁ」
「ジークさん。お知り合いに優秀な方がいたんですか?」
「一応言っておくが、実現したのは相棒だが俺もアイディア自体は思いついて実行したぞ」
ジークとマシュで会話が弾む中、俺もまた意見を言う。
俺だって思いついたからな。技術的な面は
それに比べれば婚約者に肩代わりさせる程度などたかが知れている。ロードも落ちた者だ。
……と言いたいが、神代の天才魔術師と比べるのは流石に酷いな。落ち着け俺。
「話を戻すが、この戦い、趣味で開発して時計塔でも賞賛されまくっている魔術礼装を大量に持ち込むは、ハイアットホテルの最上階を丸ごと貸し切って、魔術的に要塞にするわ、とどめにサーヴァントの魔力パス分割など、これが魔術師同士の儀礼的な勝負なら、他の全勢力を敵に回しても勝てそうなレベルの大人げなさでケイネス卿は勝負に挑んだ」
「第五次の化け物揃いのサーヴァント達でも苦戦しただろう。サーヴァントの能力も含めて、まともにやり合って勝てるのはバーサーカー陣営ぐらいだろうな。あとはキャスターか。あのマスターは初見殺しの極みでサーヴァントですら苦戦する化け物だからな」
二世によって語られる滅茶苦茶なレベルの準備態勢に、エミヤが素直に関心するやら呆れるやら。
まあ、確かにこれが魔術師同士の「試合」なら、勝負は確実に決まっていただろう。それぐらい、大きく差がある。負ける方が難しい。
ただし、そうはいかなかった。
さっきも言ったが、今回の聖杯戦争でまともに勝負する気の奴がゼロに近い。
更に、最初に用意した本命のサーヴァントの触媒は、時計塔のずさんな管理でウェイバーとやらの手に渡り、その前に色々とけなされてイラついていたウェイバーはそれを盗んで聖杯戦争に参加するという躓き。
それでもめげずにディルムッド・オディナを召喚して参加するが、またまたいうがまともに勝負する気の奴がゼロに近かった。
工房はホテルごと爆破解体されるわ、魔術刻印と魔術回路と肉体はズタズタにされるわ、とどめに婚約者ごと酷い殺され方をするわと散々な目に合う。
優勝できないどころか死亡、挙句の果てに魔術刻印すら破壊され、アーチボルト家は大混乱。その隙に逃げ出したり持ち逃げしたりした連中が出た所為で見事に没落。二世が立て直しを図るまでに、ものすごいレベルの借金を背負うなど、権威は地に落ちた。
「二世。うちの養父が本当に申し訳ない」
「私も色んな意味で謝るわ。いや、本当にごめんなさい」
「ふむ、エミヤはともかくクロが何で謝るのかが分からないが……まあ、私があの触媒を奪ってなければ、もっとまともな結果に落ち着いていたと思うのでそこまで気にするな」
いやどうだろう。
なんというか、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトってのはどうも色々と隙が大きいところがあるからな。
上記のマスターのトンデモ……イレギュラー……アレッぷりからして、多分どう転んでもそのケイネス卿は酷い目にあった気がする。
おそらく俺達の世界の聖杯戦争に関わっていたとしても、あまりいい目には合わなかっただろう。……マスター主力のサーヴァントサポートが基本のあの聖杯戦争は参考にならないとは思うが。
「そ、それでロード・エルメロイ二世。これからどうするのかしら? こっちとしてもサークルの設置が上手くいかなくて、大変なのだけれど」
オルガの意見ももっともだ。
はっきり言って、遠坂の霊地管理はかなり上手い。その所為で、サークルの設置が全然できない。
これではカルデアからの支援が受けられないだろう。これは中々面倒だぞ?
「そこは私に任せてくれ。これでも遠坂の霊地管理を手伝ったことがあってね。比較的修復がたやすく、然し時間がかかるように要石を破壊しておこう」
エミヤがさらりと、ものすごく見覚えのある短剣をどこからともなく取り出しながら自信満々に言い切った。
「大丈夫なの?」
「安心してくれ。遠坂家のうっかりについて、私は二世より慣れている。そのうっかりを適格についてサークル設置を本日中に成功させてやろう」
立花の自信満々に答えるエミヤだが、お前はどんな経験があるんだよ。
「……この土地の管理者は間違いなく激怒案件だと思うのだけれど」
オルガが微妙に引くのも分かる。
霊地の管理者としては激怒案件だ。しかもかなり屈辱的な壊し方するっぽいんだが。
「もっと徹底的にやってもいいぞ。その次の代には良い課題になるだろう」
「現当主の娘は私の恩人なのでね。たとえ無意味でも、余計な被害は最小限に抑えたい。貴方と同じだよ、二世」
「……そこを突かれると何も言えんな」
二世とエミヤの間で、またよく分からん会話が出てくるな。
まあ、協力体制に嘘はないし、彼らの協力がなければ色々と面倒になっていただろうから、俺は文句はないんだが。
「ああ、それなら俺もやっておきたいことがある。オルガと一緒に別行動でいいか?」
「……読めたわ。物資補給ね」
いい加減相方歴が長くなってきたオルガがすぐに察してくれる。だけどため息はつかないでほしい。ガッデム。
まあな。西暦二千年前後の特異点なんてそうはない。
このチャンスを逃さず、菓子類酒類医薬品類をかき集める。
金に関しては俺が持っている貴金属類を換金済みだ。問題ない。
とにもかくにもこのチャンスは貴重だからな。特異点解決はエルメロイ二世の手腕があればかなり有利だし、昼間は物資補給に専念したい。
「……そちらも大変だな。まあ、クロとジークには別の件で頼みたいことがあるのでそちらを了承してくれるのなら構わない」
なんだ? まだなんかあるのか?
「何かしら? っていうか、一応私達のマスターは立花なんだけど」
「内容次第でOK出すよー」
ちょっと文句を言いたげなクロを手で制しながら、立花が話を進める。
そして、二世は眉間にしわを寄せると苛立たしげな表情を浮かべる。
「この聖杯戦争、最大のダークホースなのがキャスターだった」
そうして語る内容は、こういうのになれてないマシュと立花が食欲をなくすのに十分だった。オルガもものすごく傷ついた。
今回のキャスターのサーヴァント。オルレアンでやり合ったキャスターのサーヴァントであるジル元帥だ。
しかもマスターも問題。追跡調査などで判明したことだが、先祖に魔術に関わった者がいただけの連続殺人鬼。どうも残っていた文献を参考に儀式殺人を行い、たまたまサーヴァントを召喚してしまったらしい。
そもそも冬木の聖杯は、七人のサーヴァントが揃わなかった場合、冬木市内にいる適正持ちをマスターに選ぶ機能がある。
今回は儀式殺人と噛み合った結果、そうなってしまったというわけだ。
これがまあものの見事に暴走したらしい。
「キャスターのサーヴァントはセイバーのことをジャンヌ・ダルクと誤認したそうで、セイバーを「正気」に戻すべき儀式的殺人を敢行したらしい。最終的に奴は大海魔を召喚し、運営スタッフが大規模な隠ぺい工作をする必要になったほどの大騒ぎをぶちかましてくれたよ。……思い出したらまた吐き気が」
相当スプラッタだったらしいな。まあ、キャスター状態の元帥なら納得だが。
しかもその殺人鬼も、当時警察が事件と認識していないことすらやってのけたらしい。相当スペックが高い。そこに魔術師のサポートまで加わったら……手が付けられないわけだ。
「霊脈が安定するかケイネス卿の協力が得られるかすればその時点で叩き潰すが、それまでの犠牲を無視するのも寝ざめが悪い。君達二人には奴が放った海魔の始末を頼む」
「それ、子供にやらせること? ま、別にいいけど」
「俺も同感だ。罪もない人達が犠牲になるのは心苦しい。マスターは?」
「そういうことなら文句なし! っていうか、私達も協力した方がいいかな?」
「いや、君達にはケイネス卿との会談までの準備を行ってほしい。……ライネスの名を貶めるわけにもいかないからな。それなりのドレスコードをしておかなければ」
なるほどな。五割ぐらい一般市民の立花だと、その辺の礼儀作法が致命的だろう。マシュもそういうのは慣れてない。
しかし逆に、人柄的にはこの中でも最高峰だ。マシュも戦闘態勢に入ってなければデミサーヴァントだとは思われないだろうし、上手くスルーすることができれば行ける。
「それなら私が動きましょうか? これでもロードの家系の一人だもの、それなりに立ち回れる自信はあるわよ」
「いや、レディはぜひ露払いを頼みたい。先にキャスターの魔術工房の場所を伝えるので、こちらが突入すると同時に逃げ道を塞いでくれ」
なるほど、確かにそれは重要だろう。
キャスターの魔術工房に突入して、結局いませんでしたじゃ話にならないからな。その辺の監視役は必要か。
「因みにパスは繋げておくが、冷静さをきちんと保っておいてくれ。あとで一発ぐらいなら殴られてやるから、頼むから落ち着いてくれ」
……嫌な予感がする。
そんでもって俺達が向かった先は、下水道だった。
より厳密にいえば、雨水を流したりする排水路。そこがキャスターの工房らしい。
「……ずさん極まりない。だが、一周回って一流の魔術師なら「魔術師がこんな悪手撃つわけがない」と無視しそうな方法だ」
「他の参加者が気づかなかったというのも納得ね。魔術的な隠匿がずさんすぎて、逆に気づけないわ」
俺もオルガも一周回って感心した。
魔術的な隠ぺいは致命的なぐらいない。調べた限り、魔術的なトラップもろくにない。海魔が番犬のようにいるようなもんだ。
だが立地に関しては優秀だ。流石は元帥と褒めるべきか。
「さて、そろそろ会談が始まる頃だな。できれば急いでほしいが」
ジークは剣を構えて突入準備は万全だ。
『会談、始まりそうよ』
念のため狙撃ポジションに待機してたクロがそう言ったので、俺達はレイラインを繋いで会話を盗聴する事にする。
『……昨晩電話で問い合わせた。ライネスの名代などと根も葉もない嘘をよくもついてくれたな』
速攻でばれてるぞ二世。
完全に臨戦態勢なのが声でも分かる。この調子だと、ランサーの方も戦闘準備が万端何だろうな。
一応立花にはサーヴァントが二人もついているわけだが、キャスターである二世はサーヴァント戦では不利だろうし、マシュもまだまだ力に振り回されているところがある。
ちょっとでも刺激を間違えれば、敵のホームで三騎士とぶつかることになるわけだ。どうすんだ一体。
それにあの後聞かされたが、ランサー・セイバー・ライダーは可能な限り脱落を防ぐ方針のはずだ。
キャスターの元帥とアーチャーのギルガメッシュは意思の疎通すら困難なのでほぼ却下。アサシンである百貌のハサンもアーチャーと組んでるのでほぼ無理。
バーサーカーであるなんと驚くべきランスロットはグレーゾーン。なんでもバーサーカーはセイバーに襲い掛かりたがっているため共闘が難しく、マスターの方も色んな意味で崖っぷちで、交渉が難しい可能性があるそうだ。間桐の当主が無茶苦茶な改造をしていたり、遠坂時臣に恨み節があったりでまともな精神状態じゃないとのこと。
そういえばエミヤがなんか微妙な顔をしていたな。なんかあるのか?
まあ、それに関しては後回しにするとして、どうしたものか。
『そのうえで会談を受け入れるということは、キャスターの件を理解してくださったようで何よりです』
『その通りだ。なぜ聖堂教会の動向を事前に知ることができたのか、そこが気になってね』
……確か、今日の昼に監督役からキャスターの討伐が指示されたんだったな。合図は来てた。
神秘の秘匿的にも人道的にも完全にアウトな行動をしているキャスターを優先的に討伐。成功報酬として、教会が確保している預託令呪を、討伐に尽力したマスターに一人一画。
令呪はサーヴァントの首輪として使えるだけでなく、ブースターとしても使える。マスターの役割とはすなわち魔力供給と現代に対するオブザーバー、そして令呪によるブースターが役割といってもいい。マスター同士での戦闘は横やりの可能性もあるから、できる限り避けるべきだ。
その実、二世曰く「ほっとくわけにもいかないがアーチャーが全く乗り気でなく、アサシンを使うと前提が崩れるので何とか他の勢力でキツネ狩りに持っていきたい」というからめ手だそうだ。……聖堂教会の代行者共も魔術師って連中の基本も、まあ、極論すると人でなしが素質の一つだからそれはまあスルーするしかないんだが、魔術師は本当に度し難い。
まあ、魔術師の悲願ともいえる根源到達と、仮にも聖杯と名のつけられた存在の悪用を防ぐという大義名分の前には多少の一般人の犠牲は目をつむる問題だろうな。あいつ等、基本的に俺より性根が腐ってるからなぁ。
「それに比べると、オルガの親父さんは驚くべき善人だな。……時計塔のロードにまでなった魔術師が、よりにもよって人類存続の為に科学迄取り入れた一大プロジェクトをぶちかますんだからな」
俺は素直に感心する他ない。
時計塔のロードという魔術至上主義に陥りかねない存在が、科学と魔術の融合を積極的に使用するという時点で驚きだ。
それに魔術師という生き物は、人類があと一年で滅びるなんてことになっても「残り時間で意地でも根源に到達してやる!!」という結論になるだろう。人類存続の為に全リソースを分の悪い賭けに費やすなんて発想にはなりにくい。
そういう意味でも、オルガの親父さんは立派な人だったんだなぁ。
俺は心からそう褒めるが、何故かオルガは視線を逸らした。
「……そんなに立派なものじゃないわよ」
「そうか? 人類存続の為に積極的に行動するなんて、魔術師だと至りにくい考えだろうに」
人間性の立派さは魔術師のステータスとしてはあれだが、それでも褒められるべきことではあると思うんだが。
だが、何故かオルガは視線を逸らしたままだ。
「そんなことないのよ。あの人は、やっぱり根本的には魔術師だったもの」
……これは、あまり深入りしない方がいい展開だな。
少なくとも、今の俺達の関係で話す内容じゃないんだろう。そこまで踏み込めるような関係じゃないってことだ。
とりあえず、今回は気にしないでおくことにした方がよさそうだな。
俺はそう判断して、会談の方に意識を向ける。
俺が別の事に考えを向けていた時には、既に二世がカルデアのシステムやレイシフトについて説明していた。
『なるほど。それだけのことをすることで、時間遡行を行うことに成功したわけか。編み出したものは辣腕だが、然し凄腕だな』
「……まあ、その通りよ。カルデアこそ人類が新たに生み出した星の開拓だもの。これこそアニムスフィアの―」
そこまで言いかけて、オルガは突然言葉を切った。
まるで、言うべきことが何もなくなったかのように、固まっている。
「……あれ?」
顔色が青く、汗もかいている。
なんだ? 精神攻撃の類でも受けたか?
「オルガ? おい、どうし―」
俺が声を掛けようとしたその時だった。
衝撃が、俺達に襲い掛かった。
……まあ、この流れなら訓練された読者は当然何の衝撃が襲い掛かるかは明白であるといわざるを得ない!!