ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!! 作:グレン×グレン
「お、おのれ……なんだこの天敵……っ」
そう言いながら消滅していくアサシン(八十分の一)。
うむ、二世との相性最悪だな。
工房ごと移動していると言ってもいい孔明の宝具。これではどうあがいてもサーヴァントとの戦闘が免れないのが致命的だ。
諜報組織や対人戦では圧倒的とはいえ、単体での戦闘能力はサーヴァントの中でも桁違いに低い部類である百貌のハサン。気配遮断が効果的に発動しない以上、勝ちの目は薄いか。
せめてギルガメッシュとやらから宝具を借りてこれれば話は変わるんだが、そんな事をしてくれる輩ではなさそうだしな。
しかし聖杯戦争の参加者としてもセカンドオーナーとしても俺達という特大のイレギュラーを見逃す事はあり得ない。必然的に監視を付ける試みはする他ない。かと言って他のサーヴァントの監視を外すのも困難。
と、いうわけで戦力の逐次投入という愚策を行う他ないというわけだ。出てきた側から仕留められているから、情報を共有するのも困難という致命的状況だしな。
そろそろ自棄を起こすなり腹をくくるなりして一斉投入を仕掛けてこないかと不安になるが、まあその前にもう一段界は進めておきたいな。
「さて、それではあと一時間ちょっとでケイネス師との会談だ。それまでに何か説明し忘れたりした事はないかね?」
と、もう食後の運動的な感覚になったのか、平然とそう聞いてくる二世。
しかしまあ、とりあえず問題はいくつかあるが―
「あ、じゃあ質問があるんだけど」
「ふむ、何かあったかね?」
立花が手を上げるが、その表情がちょっと曇っている。
「……間桐のマスターが不調だっていうけどさ、あれ、そんなレベルでもないんじゃない?」
「おい、なんでそんな具体的に知ってる」
立花、お前どうした?
「やめておいた方がいい」
と、エミヤがそうはっきりと言い切った。
なんだ? いったい何があった?
「大方、倒れこんでいる間桐のマスターとでも会ったのだろう?」
「はい。帰りに路地裏でうずくまっている方を見かけたのですが……」
と、マシュが更に補足説明する。
「大方見過ごせず介抱して、ついでに家まで送り、とどめに窓にいた子供を見つけてしまったといったところか」
そして、それを遮る様にエミヤがそう聞いてきた。
「あら、よく分かったわね」
「分かるともさ。その辺りについては二世と共に情報共有をしているからな」
クロにそう答えながら、エミヤは間桐邸のある方向に視線を向ける。
そして、はっきりと言い切った。
「遠坂時臣とやらも度し難いな。魔術師とは業が深い生き物なのは分かっているが、よくもまああの男から凛や桜のようなものが生まれるのか」
そして、視線を立花達に向ける。
「最初に言っておくぞ。これを打開するのは現状では不可能だ。聞いて後悔しても私は責任を取らないからな」
そう前置きをして、エミヤと二世は説明を開始した。
遠坂時臣。この男は魔術師としては間違いなく敬意を向けられるべき存在だ。
アインツベルンや間桐に比べれば代がが浅く、当人の資質も平凡。はっきり言えば、魔術刻印を除いた魔術師としての才能で言えば、決して才児などとは言えないものだった。
しかし、遠坂時臣はそれを並の魔術師を遥かに超える努力で補ってきた傑物である。
如何なる時も優雅たれという格言がある遠坂家だが、彼ほどそれを体現した者もそうはいない。
優雅に浮かんでいると思われる白鳥が、水面下では激しく足を動かしているように、彼は努力を行い、そしてそれを賢しげに見せたりしない。
成果が十必要ならば、二十の努力を行う。理屈で言えば簡単だが、誰もが出来る事ではない。それを彼はやってのけた。
その努力によって積み重ねられた厚みは余裕を生む。うっかり癖を持つ遠坂であるからこそ、余裕は必要だった。
今回の聖杯戦争で言えば、サーヴァント二騎という盤石の態勢で挑んだ事がそうなのだろう。普通に考えれば勝算が倍に跳ね上がる所業なうえ、監督役との連携をとるという反則の所業だ。普通なら勝てる。
そして努力によって高められた実力も断じて低くない。ロードであるケイネスとまともに渡り合えるだけの技量を、才にかける身でありながら得てきた実力は伊達ではないのだ。
更に、その精神性も魔術師としては褒め称えられるべきだろう。
殆どの魔術師は根源到達を目標としながらも、その実半ば諦めている。
後代に任せればいいやと思い、権力争いや金稼ぎに集中している者も多い中、真剣に根源到達を目指して行動している遠坂時臣は、俗物根性からはかけ離れているだろう。ある意味時計塔の古狸共に爪の垢を煎じて飲めと言いたくなるぐらいの人物ではある。
そして、遠坂時臣は親としてもそこそこ出来ている人物だ。
多くの魔術師は胎盤もしくは種馬として伴侶を見る。他のステータスも気にするだろうが、しかし人間性を考慮しない者は多い。
例えば二世の教え子の中には、女の子の残りがをクンカクンカする奇行を恒常的に行う、あほ極まりない奴がいた。
普通に考えればドンビキ確実。イッセーと別ベクトルで変態である。
この手の手合いは普通はもてない。イッセーの場合モテてるのは、本質を見る機会に恵まれているからだ。あいつラック値高いな。
しかし魔術師達の子女は割りとそいつを狙っている奴が多いそうだ。
それは本質を見ているからではない。そいつが名門の家系でかつイケメンだからだ。
魔術師の業の深さを知らしめるエピソードだ。
そして魔術師は基本的に長子にしか魔術を継承しない。
神秘は独占することで価値を保つからだ。この辺、技術を広める事で発展する科学とは方向性が違う。
根本的に魔術師というのは、魔術刻印と研究成果を託す為に子供を育てる者だ。まさに非人間性の極みだろう。件のその辺体魔術師の家系も、特異な魔術を後継者が発狂してでも強引に受け継がせたりしていたらしい。
だが、そんな中で遠坂時臣は二子を設けたうえで真剣に愛情を注いでいたらしい。
双方ともに魔術の優れた才能を持ってしまい、片方にしか魔術を受け継がせられない事を悩んでいたらしい。
優れた魔術の才能は、魔術の心得がないと所有者に害を生んでしまう。そしてその良く吸えばモルモットとかホルマリン漬けとかだ。
普通の魔術師なら、別に深く気にしない事だろう。度し難い魔術師の性だ。
そういう意味では遠坂時臣は親としても立派だったのだろう。
だが、遠坂時臣は人間としてはそこ迄ではなかった。
根本的に魔術師として最右翼なのが原因なのだろう。魔術を至高と思っているがゆえに、それ以外を深層心理で見下していると言ってもいい。
故に、彼は次女を養子に差し出した。
そこに関しては間桐との盟約があった事もある。
貴族といて生きている遠坂時臣なら、後継者でない子供を大が途絶えかけている家系の跡継ぎにするというのもそこまで酷い話ではない。中世貴族ではよくある話だ。魔術師の価値観と近いから、まあその観点で言えば酷い話ではない。
しかし、ここで遠坂時臣の致命的な欠陥が働いた。
遠坂時臣は誇り高く、それ以外の生き方を理解できない者だ。彼的な凡俗の幸せを否定はしないが、魔術の家に生まれてそちらを優先する神経は理解の外側にあるそうだ。
そして、聖杯戦争を作り出した御三家としての誇りを持つ彼は、無意識に他の御三家にもそれを求めてしまったのだろう。
間桐家は人体改造なども行う為、その次女の魔術特性に関してもそこそこどうにかできると踏んでいたらしい。
だが、最悪な事に間桐家はものの見事に致命的だった。
間桐家のマスターである間桐雁夜は、少々問題のある性格をしているが、根本的に普通人側だった。
魔術師の精神性を毛嫌いしており、魔術の才能もそこまで高いわけではなかった事もあって、家を出ている。
遠坂時臣からしてみればそれは誇り高き魔術師として問題外であり、今更聖杯戦争のマスターになった事に関してマジギレ案件のようだ。
そして、遠坂時臣のような人種は考えもしない。
家出するほどにまで嫌悪させるほどの間桐の魔術がどういうものか。
いや、遠坂時臣なら間桐の魔術すら受け入れた可能性もあるだろう。
それほどまでに彼は魔術師である事を誇っている。故に分からない。
一般人の思考にとって、間桐の魔術がどういうものになっているのかを。
ぶっちゃけ蟲姦で人体改造するのが基本らしい。
質の悪い事に、骨の髄まで魔術師ならば受け容れる可能性はある。ここ迄なら。
ただし、更に質の悪い事が発生する。
間桐臓硯とかいうその魔術師、性根が腐り切っているらしい。
昔は立派な性根を持っていたとかいう情報も出てきているのだが、長生きし過ぎて老害と化したのか、完全な不死を求めるだけの外道となり果てたそうだ。
ゆえに求めるのは有用な魔術を行使できる胎盤。その為の調整のみをその少女に行っていたらしい。
優秀な間桐の魔術
そして始末に負えない事に、産まれた時から骨の髄まで魔術師だった遠坂時臣はそれが当たり前だと思っているし、次女なので教えるわけにはいかないとその辺の情操教育してなかったそうだ。
結果、間桐桜、旧姓遠坂桜は心を病んだ。
元から魔術を行使する才能はあっても魔術師としての才能はなかったのだろう。もし遠坂時臣のような精神性ならば、それなりに誇りをもって行動していたのかもしれない。
まあともかく、そういうわけでこの頃の彼女は酷い事になっていた。
……詳しい情報は分かっていないが、間桐雁夜はそれに異議を唱え、聖杯を取る事を条件に彼女を救う事を要求したらしい。
だがなんというか、その後寿命と引き換えの人体改造とかで色々と迷走したらしい。
結果として時臣絶対ぶっ殺す病人が誕生したわけだ。
なんというか間桐家は恨み節優先な思考回路があるらしい、とはエミヤの弁だ。
なんでも間桐関係者と関わり合いが多いが、ボスがボスだからかある意味歪んでいる奴が多いそうだ。
「言っておくが立花。この問題に関しては現状我々では手が出せん」
残酷な事を二世は言った。
が、これに関しては反論できない。
「確かに、虚数属性なんてどうしようもないもんね」
立花もそれが分かっているから、悔し気だ。
ああ、そうなんだ。
間桐桜の魔術特性は「虚数」。これが使える魔術師は非常に限られる。というより、絶滅危惧種レベルだ。
そういう意味では間桐という魔術体形に送る事は遠坂時臣は渡りに船だろう。人体改造など魔術師なら程度はともかくしているようなもんだし、其の中でも間桐ならまだましな事ができると思い込んだのだろう。
故に、桜という子を助けるには、この時代でその問題を解決できる家を用意しなければならない。
そして、それは少なくとも近平家では不可能だ。
魔術師としていい加減な近平家では、とても保護する事はできないだろう。魔術教会も虚数属性などという貴重なサンプルを見逃すとは思えない。
かと言って、遠坂家にそれ以外のあてがあるかも怪しい。下手に内情を説明し足りしても、それで好転する可能性は低い。
かと言ってカルデアで保護するのも困難だ。レイシフトの適性はレアスキル。余程の事がない限り、そんなご都合主義があるとも思えない。
「酷過ぎます。どうにかならないのですか、所長」
マシュの表情を見るとこっちも胸が痛むが、しかしオルガは首を横に振る。
「……難しいわね。それに不愉快だけど魔術の世界では普通にあり得る事。この時代ならお父様もご存命でしょうけど、流石に動いてくれるとは思えないわ」
「同感だな。ケイネス師を焚き付けるのも困難だろう。多少は同情してくれるかもしれんが、流石にメリットが薄すぎる」
二世までこう言ってしまっては、これは不可能に近い。
「そうだな。間桐から引き離すだけならできるかもしれないが、その後が困難だ。
つまり詰んでいる。故に手を出せない。
「……時間をかければどうにかできるかもしれんが、流石にそこまでする余裕はこちらにはない。正直心苦しいが、手の打ちようがないというわけだ」
と、エミヤもそう告げる。
マジで心苦しそうだが、しかしそれでもどうしようもない。
「不幸中の幸い、間桐臓硯は胎盤としては彼女を丁重に扱っている。彼はそれなりに権威を持っているから、その点についてだけは何とかなるが―」
「いや、それも危険かもしれない」
と、ジークがなんか不安な事を言ってきたんだが。
「俺のいた世界では、間桐は魔術師として完全に没落していたそうだ。なんでも第三次聖杯戦争でダーニックに大聖杯を奪われた事が原因で間桐の長が酷い事になったらしいんだが―」
「それ、マジでやばくない?」
立花が冷や汗を流すのも無理はない。
もしそうなったら、その桜って子の安全を保障する奴がいなくなるのと同じだ。
そして俺達の場合、聖杯そのものをどうにかする事も視野に入れないとけないかもしれないのだ。
下手すると、間桐が終わるぞ。
さて、どうしたものか―
「……質の悪い話になってきたが、今はそれよりもする事がある」
と、二世が声を上げる。
「私事ではあるが、できない可能性が高い事案より、できる可能性が高い事案を優先するのが合理的だ。……どちらにせよ意味ない事柄だが、まあ、情報提供の駄賃と思って割り切ってくれ」
まあ、そうなんだよなぁ……。
……残酷な話だが、この特異点の状況を考えればあれは使えないし……な。
桜の件については、この特異点では本当に難しい状況ではあります。
得意店内で解決するのなら、まず間違いなく後ろ盾になる家が必要不可欠。其れもそこそこの権威が無ければ力づくでどうにかされかねないという致命的な難易度です。