ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!! 作:グレン×グレン
で、その駄賃とやらだ。
二世曰く、蝙蝠のように動くのには限度がある。
ランサー陣営とほぼ同盟状態で、一応敵対関係にあるセイバー陣営と不可侵を結んでしまった。
このままだといずれ破綻する事は確実。と、いうわけで―
『単刀直入に言います。万能の願望機をめぐる魔術師とサーヴァントによる戦争などまったくの虚構。全てはアーチボルト家の不倶戴天の敵、民主主義派のトランベリオ一派による陰謀なのです!!』
『な、んだ、と……ぉ!?』
……出まかせをまたでっち上げたよ。
「時計塔の派閥争いの泥沼っぷりは知ってるけど、一地方の魔術儀式でそこまでできるか?」
「むしろ、この頃の遠坂家は性格的にも貴族主義派な気がするんだけど……」
俺とオルガはそう言って、ため息をついた。
「大人って面倒くさいことが多いのねぇ」
「みたいだな。俺もよくわからないことが多いが」
と、クロとジークが何ともいえない表情になっている。
っていうか、どう誤魔化す気なんだ、オイ。
『冷静に考えていただきたい。万能の願望機を奪い合うなどという大仰な魔術儀式、それを時計塔から遠く離れた場所で開催するあげく、時計塔からの参加枠が一つしかないなど、おかしいとは思いませんか?』
『う、うむ。だからこそリスクもろくにない遊興だろうと見越して参加したのだが』
まあ、この辺に関しては撒き餌だろう。御三家の優秀さを褒めるべきか。
実際願望機は本命ではないからな。それに時計塔の重鎮達から重視されたら、まず間違いなく正体がばれて奪取すらありうる。故に何とかごまかす必要があるわけだ。
「つっても時計塔の陰謀を絡ませる余地あるの?」
「なに。あの手の手合いは割と誤魔化し易いから安心したまえ」
と、エミヤが立花に断言したとおりに話は進んでいく。
『だ、だがこれだけの魔術儀式となればそれ相応の手間がかかる。それに、少なくとも過去数回は聖杯戦争は実際に起こっていたはずだ!! それも英霊の召喚を虚構で用意するなど、手間がかかるなどという話ではないぞ!?』
『そこが肝なのです。実際に過去三度、聖杯戦争は起きていたからこそ、ロードの目をも誤魔化せると踏んだトランベリオが、台無しになった聖杯戦争に困り果てている御三家を買収したのですよ』
……すごい展開になってきたぞ?
『そも、この聖杯は召喚された後に敗退したサーヴァントを無色の魔力に変え、それをアインツベルンが持ち込んだ小聖杯で方向性を与える事で願いを叶える事が出来る……という副産物を餌にマスターをおびき寄せ、全ての英霊を贄にして根源への扉を開く為に創られた魔術儀式です。これに関してはかのシュバインオーグ卿が立ち会ったものなので、確かに第三次聖杯戦争までは起きました』
よし。ここはタイミングがいいから、俺自ら詐欺に引っかからないコツを教えておこう。
「全員覚えておけ。嘘の中に真実をある程度混ぜるのが詐欺のコツだ」
此処に関しては嘘偽りがないから困る。
『ですが、第三次聖杯戦争の際にアインツベルンが愚行を行った結果、聖杯は使い物にならなくなっているのです』
『愚行だと?』
『はい。アインツベルンは連敗に業を煮やし、悪神の召喚を試みました。これに関しては無謀極まりなく、実際召喚されたのはその悪神扱いする事で「自分達は悪くない」という言い訳を欲した辺境の村の狂気の被害者であるただの青年が呼び出され、当然のごとく勝ち目のない戦いに敗北しました。……が』
なんだろう。話術が上手すぎて俺迄のめりこみ始めてきたぞ?
『悪であれという願いを注ぎ込まれるだけの存在だったその青年は、元々何もなさなかったがゆえに無色の魔力の塊になっても「悪であれ」という願いを向けられたのです。その為願望機には「悪であれ」という願いが前提条件となっており、この地の聖杯はどのような願いも誰にとっても得しない形で叶える「負の願望機」となり果てました』
『愚かな。自分達の作り出した物の限界を超えようとした結果自滅するとは。かのアインツベルンともあろうものが情けない』
ロード・エルメロイは嘆くが、しかし更に残念な事実がある。
そもそも気づいていない連中が多すぎるのだ。元凶のアインツベルンとお膝元の遠坂は気づけと言いたい。間桐の耄碌ジジイが優秀だとしか思えなかった。
で、これがどうやって時計塔の争いになるんだ?
『これに目を付けたのがトランベリオ。研究『功績』ではなく実戦『武勲』を求めているケイネス卿にうってつけの絶妙な塩梅に偽装を行い、時計塔からロード・エルメロイがいない空白の期間を作り暗躍。そしてあわよくば世界に大災害を引き起こした大罪人として、貴方を封印指定にさせようとする悪辣な計略なのです!!』
『ありうる!! あのトランベリオならありうる!!』
「信じました! 完全に信じ込んでいます!!」
「あのオジサン、詐欺に引っかかりやすいタイプじゃないかしら?」
マシュが声を荒げ、クロの呆れた声が届く。
これはあれだな、酷いな、うん。
『しかもアインツベルンは失態をロードの首で回復しようと、魔術師を殺す事だけに魔術の才能を傾けた、悪辣非道な魔術使いを雇い入れ、最高峰のサーヴァントを投入しました。遠坂に至っては教会とのコネクションを総動員し、魔術師を嫌う教会との連携すら組む始末! 挙句の果てに間桐は、この機を利用して忌み嫌う相手を苦しめる為だけに口八丁で騙して参加させるという腐敗ぶりなのです!!』
『御三家めぇ!! そこまで零落したか!!』
「……流石に手心を加えてほしいのだが」
「まあ、この失態は弁明しづらいわね」
エミヤとオルガが手で目元を覆ってしまったよ。
『しかし、なぜそれを最初に言ってくれなかったのかね?』
『先も言いましたが、レイシフトはあまりにピーキーな代物。我々は御身が罠にはめられるという事実のみを利用してこの時代に飛びましたが、抑止力の発動を避けつつ御身を助ける為に情報を開示するには、その証拠をこの時代で獲得する必要がありました』
『ど、どうやってかね?』
『我々カルデアはサーヴァントを召喚するシステムを持っております。それによって召喚されたサーヴァントの宝具をもってして、この地の霊脈を少しずつ破壊していったのです。賢明な遠坂は致命的な事態になる前に降参して全てを白状しました』
「……霊脈壊したのってそのため?」
「いや、アドリブだ」
立花が上げた評価をエミヤが修正する。
いや、このアドリブを適格に利用してリアリティを高めた二世を褒めるべきか?
霊脈ぶっ壊したのは事実だから、この辺に関しても真実味が出てくるというものだ。
『先ほども言いましたが、アインツベルンや遠坂は更なる報酬をトランベリオからもぎ取る為にあなたの首を狙っております。いかな御身といえど、魔術師同士の試合と誤認した状態で卑劣な不意打ちをうければその身に危険が及びます。どうかここはご自愛して、トランベリオの陰謀を砕くことに終始なさってください』
……まあ、実際二世のいた世界線では死んでるからな、ケイネス卿。
しかも散々な死に方でアーチボルトは没落。そういう意味では確かに「やめとけ」と言いたくなるだろう。
ま、とはいえこれが効果があるかどうかといえば―
『なんということだ……私は、あの愚者共に踊らされていたと……』
―いや、効果は確かにあるんだが。
『とは言え、キャスターを倒したお手並みは実に見事でした。ソラウ嬢も改めて貴方に惚れ直したのではないかと』
『そ、そうかね?』
精神的フォローも忘れない。たった一人の孔明である。
『はい、私は女性関係には詳しいのです』
「そうなの?」
「時計塔で抱かれたい男トップランカーの座に輝いたことはあるな」
「結構気難しそうだけど、もてるのね、彼」
なんで俺は、立花とクロにこんなことを説明しなけりゃいけないんだろう。
『あれはそう、今まで興味がなかった男の頼れる一面を見て、ギャップ萌えで好悪の感情が反転した……という感じでしょう』
『なんという……! いや、その前提は何という!?』
二世酷い。あとケイネス卿、それは孔明の罠だ。
『ま、まあいい。結果は素晴らしいものなのだからな!!』
気を取り直してかなり嬉しそうなケイネス卿。
ああ、これはべた惚れらしい。生粋の魔術師でここまで女絡みでべた惚れっていうのも珍しいな。
だがしかし。俺達は聞き逃していなかった。そう、この会話から見える残酷な真実を。
「……好きの反対は無関心とは、よく言ったものだな」
エミヤがぽつりと漏らした言葉に、俺達の多くは目元を覆った。
「戦国時代とか、政略結婚も意外とお互いの相性を見極めてたりしてたらしいんだけどな」
「まあ、魔術師同士の政略結婚だもの。片方がべた惚れなだけでも奇跡でしょう」
憐れみを込めた俺の言葉に、オルガが残酷な言葉を継げる。
まあ、後継者でない魔術師の子供など、先代側からしてみれば都合がいい駒でしかないということなのだろう。そう言う意味では同情する。
『ともあれそういうことです。一刻を争う状況ですので、どうか急ぎロンドンへと帰国なさってください。この聖杯戦争でアーチボルト家は致命的な没落を引き起こし、アーチボルト家は多額の負債を背負うことになるのです!! 我らが家門はおろか、貴族主義の存亡すらかかわっております!!』
『小癪なトランベリオめ!! 眼にもの見せてくれるわ!! ソラウ、急ぎ身支度を!!』
ここに、ケイネス陣営の離脱が決定した。
エルメロイの家柄に汚泥が付着する可能性は一気に激減。これで時計塔の政治バランスは大きく変わるだろう。
だが、ランサーどうする?
『新たなる戦場は海のかなたですか。主よ、このディルムッドもぜひお供させていただきます!! 新たなる主に忠誠を誓うことこそ我が望み。主の赴く戦場こそが私の槍の振るいどころです!!』
なんかノリノリなんだが。
二世。どうする?
『おお、それは心強い。サーヴァントまで同行するとなれば、きっと
「伝家の宝刀が抜かれたわね」
「必殺の一撃ね」
もはや半目のクロとオルガの言葉が響く。
ケイネス卿が婚約者であるソラウ嬢にべた惚れなのはもう聞いている。割とこれまでの会話でも「婚約者大好き!!」がにじみ出ていた。色恋沙汰には俺も一家言があるからよく分かる。
だがソラウ嬢そのものはその辺どうでもいい感じらしい。まさに二世が言っていた通りに「興味がない」ってわけだ。
そしてそんなところに超イケメンで魅了スキル持ちのディルムッド・オディナ。はい、誰もが分かる計算式です。
確実に。確実に。間違いなく確実に。ディルムッド・オディナは人生の破滅の歴史を繰り返そうとしていた。
そういう意味で言うのなら、ランサーにとってはついていくことが致命傷になりかねないだろう。トラウマ確定だ、これは。
だがしかし。そんな事はケイネス卿だって薄々分かっているだろう。
だから―
『ランサーよ。四画全ての礼呪をもってして命令する。貴様はこの冬木にてライネスの名代とともに聖杯戦争を継続し勝利せよ!!』
―はい、こうなりました。
「……全令呪を一気に使うか。ダーニックにも並ぶ決断だな」
「多分だけど、そのダーニックって人は一緒にされたくないと思うわよ?」
感心するジークにクロがツッコミを入れる。
それはともかく、念話越しでややこしくなっていた。
『な、なぜですか主よ!?』
『愚か者。いかに戯れで参陣した戦とはいえ、このケイネス・エルメロイ・アーチボルトが呼び出したサーヴァントが戦を中途退場などエルメロイの沽券に係わる』
よくもまあ口から即座に本音を隠した出まかせを言えるものだ。
腐っても魔術教会の政争を潜り抜けたわけではないということか。即興演説の一つや二つはこなせるわけだな。
『貴様はこの聖杯戦争に勝利するために呼び出された存在。ならばその役目を全うせよ!!』
『流石はロード・エルメロイ!! 我らアーチボルト家の誇りの在り方を心得ていらっしゃる!!』
さらに勢いよく持ち上げて言ったな、うん。
『フン。諸君らには置き土産に我がサーヴァントを託す。ライネスの名代というのであれば、我らエルメロイをたばかった御三家共の鼻を明かし、ついでに害悪しかまき散らさん聖杯とやらもどうにかして見せよ』
「前衛戦力確保成功。これで俺たちの戦力はサーヴァント七騎。普通に考えれば勝ち確定だな」
「ええ。英雄応ギルガメッシュの火力はサーヴァント五騎分。相性のいいランスロットと連携すれば、勝機は十分にあるわ」
俺とオルガがもう次に意識を向けたその時だった。
『……時に、一つ聞きたいことがある』
……ん?
『貴様は私が書斎に恋文を残していたといったな?』
『はい。それが何か?』
そう言えば、二世はそんなこと言ってたな。
で、それが?
『この私がそのような失態をするとはとても思えん。……思うに、その書斎は主が終ぞ帰らなかったのではないかね?』
………。
「正直、少し馬鹿にしていたけど見直したわ」
オルガがそう漏らす中、念話は少しだけ沈黙が響いていた。
『……御慧眼、感服するばかりです』
『ふむ、その一点においてだけは、心から礼を言っておこう』
その言葉に、二世は何を思ったのか。
『もったいなきお言葉です。偉大なるエルメロイ、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』
感慨深いその言葉が、すべてを語っている。
『御身の才能は時計塔の誇る至宝です。どうか、これからはご自愛召さるようお願い申し上げます』
その言葉は、たぶん二世にとっての文句のつけようのない報酬だったのだろう。
とまあ、ここは原作通りケイネス陣営は無傷どころか最低限の成果を上げて退場。
そして中盤の山場、英雄応ギルガメッシュ戦へのカウントダウンが始まります。