ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!!   作:グレン×グレン

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兵夜「案外それが一番大変なんだよなぁ」

 

 それはともかく車で移動しながら、俺達は会話を続けることにする。

 

「これが未来では馬車の代わりに使われているのですね! あなた達は本当に未来から来たのですか」

 

「自動車っていうんだ。覚えておくといい、ジャンヌ・ダルク」

 

 流石に自動車は興味深いか。未知すぎるから怯えるかもと思ったが、そんなことはなくて安心した。

 

 そして聖女っぽくて安心した。

 

 良かった、人質作戦何てして、変態に裸にされたジャンヌ・ダルクの末裔なんていなかったんだ!

 

「それに保存食がこんなに美味しいだなんて! 時代の発展は素晴らしいものです」

 

「それは良いんだけれど食べすぎないでよね。こっちも補充の当てがないんだから」

 

 あと乾パン喰いすぎです。健啖家なんだねジャンヌ。

 

 オルガマリーがツッコミを入れるほどの状況だ。これはまた面倒なことになったといえるだろう。

 

「それで、ジャンヌ? 貴女はサーヴァントでいいんだよね?」

 

 立花が代表して質問すると、ジャンヌは少し躊躇いがちにそれに頷いた。

 

 なんでも、ルーラーとして召喚されたのは良いのだがそのクラススキルの大半を始めとして色々と不具合があるらしい。

 

「どういうこと?」

 

「そうね。おそらくだけど彼女は抑止力として召喚されたのよ。だけど聖杯の影響で本領を発揮できていないということね」

 

 オルガマリーの推測はいい線言っているだろう。

 

 だが、そうだとするのならば人理焼却の黒幕はマジで得体が知れない。

 

 神秘は世界で変動するから単純に比較はできないが、少なく見積もってもオーフィスやグレートレッド、トライヘキサを想定するべきかもしれん。

 

 ……勝てる気がしない。

 

 そんな感想は言っても逆効果なので黙りながら、俺はジャンヌの話を聞いた。

 

 そんな聖杯からの知識もろくにないジャンヌだが、しかし有益な情報を持っていた。

 

 シャルル七世を殺害し、オルレアンで大虐殺を行った魔女がいる。

 

 しかも、そいつはジャンヌ・ダルクとうり二つだったらしい。

 

「どう思いますか、ドクター? これでは同じ時代に同じサーヴァントが二人もいることになりますが」

 

「理論上はおかしなことなど何もないがな」

 

 マシュの疑問に、俺はあっさりと答える。

 

「そうね。サーヴァントは英霊本人ではなく座の英霊のコピー体。理屈の上では何人も召喚できるわ」

 

「クラス適性が七つ以上あれば、理屈の上ではたった一人の英霊で冬木式の聖杯戦争ができるわけだ。俺もエクストラクラスのアヴェンジャーを含めれば七つあるから一人で冬木式の聖杯戦争ができる」

 

 すぐに把握してくれたオルガの説明を補足しながら、俺はすぐに想定する。

 

 ジャンヌ・ダルクの逸話は俺だって触りぐらいは知っている。

 

 百年戦争でフランスを盛り返した聖女にして、悲劇的な結末を辿り火刑に処された魔女。

 

 常識的に考えれば、復讐心の一つぐらい持っていたっておかしくないんだ。

 

 ルーラーの適性があるのと同様に、アヴェンジャーの適性があったとしてもおかしくない。

 

 とはいえ、これでこの特異点での人理崩壊の原因は特定だ。

 

「国王は死ぬわ国家があり得ないぐらい化物に襲われるわ、そんなことになれば国家機能はマヒするな。フランスはこのままだと滅びることになる」

 

『それ非常にまずいね。フランスは歴史で最初に人間の自由と平等を謳った国家だ。それがなくなれば追随する国もなくなり、文明の発展は一気に鈍足化する』

 

「下手をすれば、2015年にもなって中世と同様の生活をすることになるわけね。魔術師としては都合がいいけど、それ以外のすべての人間にとって大打撃だわ」

 

 俺、ロマニ、オルガの順にすぐに大体の事情が理解できた。

 

 これは人理崩壊も当然だ。フランスという国が将来腐敗したからこそ、人間は人民の平等という価値観を獲得することができた。

 

 フランス人に自分はフランス人だという認識を与えた功績を持つジャンヌには悪いが、そういう負の側面もまた人類の歴史の積み重ねなのだ。

 

 それが、台無しになる……!

 

「なんとか、しないとね」

 

 立花がマジ顔で決意を新たにするのも当然だろう。

 

 まったく。一番簡単な特異点でこの影響度か。割とマジで大変だな。

 

 いっそのことフランス革命で起きれば良かったのにとも思う。いや、マジでどうしたもんか。

 

「……あの、さっきから声だけが聞こえるんですが、何かの魔術ですか?」

 

「科学……錬金術の発展形と、魔術の複合です。ちなみに声の主はロマニ・アーキマン。渾名はDr.ロマンと言います」

 

「ロマン……なるほど、夢見がちな人なんですね」

 

 邪気はないのだろうがとても裏を感じさせる感想だ。

 

『なんでだろう。聖女様の言葉なのに褒められてる気がしない!』

 

 ロマン、空気を弛緩させてくれてありがとう。

 

 残念だがお前はそんなキャラだ。俺はそういうキャラには詳しいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……人類の歴史そのものが焼却されている。そしてその原因の一つがこのフランスだなんて」

 

 だいたいの説明を聞いたジャンヌが、半ば呆然とする。

 

 当然だろう。聖杯からの知識がない状況では、この混乱も仕方がない。

 

 しかもその原因の一つがもう一人の自分なんだ。ショックを受けるのは当然ともいえる。

 

 しかも15世紀のフランスにワイバーンの群れを送り込むなどという真似すらやってのけた。

 

 ああ、これは間違いなく精神的にきついだろう。

 

 しかし、龍種の群れをこの神秘の減衰しているはずの時代に大量に送り込む。間違いなく聖杯であり人理焼却の原因だ。

 

「ジャンヌ・ダルク。もし魔女の方のジャンヌをどうにかすることを考えているのなら、共闘してほしい」

 

「それはありがたいことですが、よろしいのですか?」

 

 ジャンヌは気づかわし気に見てくれるが、しかしこれは十中八九人理焼却案件だ。

 

「こちらとしてはぜひ協力してほしいわ。現地に詳しいものの協力は必要だもの。……この一件、魔術師の歴史にも残されてないのだから間違いなく人理焼却の原因だわ」

 

 オルガの言う通りだ。

 

 間違いなく、この緊急事態を解決することが聖杯探索の成功に繋がっている。

 

 ……しかしワイバーンとはいえ龍種の大量召喚か。これは冬木式の聖杯でも困難だろう。

 

 単純な魔力リソースとしては、冬木式の聖杯より強力だろう。

 

「正式なサーヴァントが味方に付いてくれるというのならば、心強いです。ぜひご協力させてください」

 

「……疑似サーヴァントとデミ・サーヴァントなんだけどな」

 

 正式なサーヴァントであるダ・ウィンチちゃんを連れてくるべきだったか。

 

 とはいえサーヴァントクラスが四人もいるのなら大抵の問題は解決できるだろう。

 

 問題は―

 

「でも、魔女扱いされるのは大丈夫?」

 

 立花が先手を打ってそれを聞く。

 

「……もちろん、誤認されるのは悲しいですが、火刑に処されて数日しか経っていない私が現れて虐殺を行ったというのなら、恐れられるのは無理もありません」

 

 確かに、明らかにホラー以外の何物でもない。

 

「……ですが、大丈夫です。イングランドを刺激する心配もない以上、魔女である私を倒すことに集中できますから」

 

「強いのね。流石は歴史に残る聖女だわ」

 

 どこか自嘲気味に、オルガがそう賞賛する。

 

「い、いえ。その、私を聖女と呼ぶのはやめてもらえないでしょうか」

 

 いや、そんな謙遜はしなくていいぞ、ジャンヌ・ダルク。

 

「無理を言うな。君は正真正銘バチカンに認められた聖女だ。少なくとも、正しい人理ではそうなっている」

 

 それを聖女と認識するなと言われても、難しいことだろう。

 

 それに、別に聖女だからといって過度にかしこまる気は欠片もない。

 

「そうだよ。それに、私達もう戦友でしょ?」

 

 と、立花はニコニコしながらジャンヌ・ダルクの手を取った。

 

 ……こいつの物怖じのしなさ、イッセーを感じさせるな。

 

 まさか俺の妹がイッセーに近しいことができるとは。これは、嬉しいというべきか照れくさいというべきか。

 

「まあ、とにもかくにも今は情報収集だな」

 

「そうですね。目的はシンプルですが達成は困難。しばらくは斥候に徹しませんと」

 

『……流石ジャンヌ・ダルクと兵夜君だ。群での戦いに慣れているね』

 

 まあな。

 

「しかし、いくら修復されればなかったことになるとはいえ、このまま人々が被害を受けるのを見過ごすのは忍びないですね……」

 

「うん。見過ごしたくないよ」

 

 マシュと立花はちょっと思うところがあるみたいだ。そして、実際はもっと酷いわけだ。

 

 だが、ここは堪えてくれないと困る。

 

「気持ちはわかるが、しかし無謀だ。間違いなく軍団級の戦力を相手に、無策で挑むわけにはいかないさ」

 

「そうよ。まずは魔女の方のジャンヌ・ダルクがどんなサーヴァントなのかぐらいは調べないと。……ルーラーのサーヴァントなら、広範囲の知覚ができるって聞いたけど」

 

 オルガの視線がジャンヌ・ダルクに向くが、ジャンヌ・ダルクは静かに首を振った。

 

「申し訳ありません。ルーラーとしての感知機能も与えられてないんです。……通常のサーヴァントと同じぐらいの距離でなければ無理そうです」

 

「……向こうのジャンヌが正式なルーラーだったら最悪だね」

 

 立花。気持ちはわかるが今言わないでほしかった。

 

「とにかく明日の朝には大きめの街に行こう。立花とオルガは少し眠っておくといい」

 

「もちろん。でも、ジャンヌは大丈夫?」

 

「私は大丈夫です。一応基本的にはサーヴァントですから」

 

「……睡眠薬でも処方してもらうべきだったかしら。でも、今の私の体に効くかしら……?」

 

 そんなことを言いながら、立花とオルガを俺達は寝かせる。

 

 できればマシュにも寝てほしいが、しかし流石に限度はあるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立花は即座に眠り、オルガも少ししたらすぐに眠ってくれた。

 

 立花は結構平然としているが、オルガは結構疲れているな。まあ、生まれて初めて見た龍種が、寄りにもよって大軍とかトラウマになってもおかしくないか。

 

 運転しながら、俺はマシュとジャンヌの話を聞いていた。

 

 なんでも、ジャンヌはサーヴァントとしての状態がおかしいらしい。

 

 過去も未来もないはずの英霊の記録に接続できない、サーヴァントの新米みたいな者。そう彼女は言った。

 

 だから思われているような戦力として期待できるか怪しいと不安になるが、それに関しては心配ない。

 

 なにせ、マシュだってデミ・サーヴァントだからな。俺も疑似サーヴァントだ。

 

 しかも、マシュは自分に宿っているのがどんなサーヴァントなのかも知らないイレギュラー。俺は俺で世界の神秘のずれか、まだ生きている頃の情報すら引き出せない体たらく。

 

 そういう意味では全員半端もの。恥ずかしがることなどありはしない。

 

「それに、先輩は強いから闘っているのではないと思います。あの人は、当たり前に、当たり前のことをしているんだと思います」

 

「ふむ、確かに一理あるが、それはちょっと違うぞ、マシュ」

 

 ああ、それはちょっと違う。

 

「当たり前に当たり前のことをやる。それは当たり前のようでいて実は意外と難しい。……ああ、俺の妹は強い奴じゃないかもしれないが、すごい奴だ」

 

 俺は、それをよく知っている。

 

 人として当たり前のことを、どんな時でもきちんとできる。

 

 それは、実はすごく大変なことなのだ。

 

「だから、そんなマスターを持てた俺達はマスター運には恵まれている方だ。……敵より、俺達の方が有利だな」

 

「「はい」」

 

 しかし、人理の救済を当たり前のことか。

 

 この子も、意外と大した傑物なのかもしれないな。

 

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