先日、youtubeでとある動画が投稿されたこと、またクリスマスであることもあり思い切って書いてみたエピソードになります。
話の内容はTCとACの間。
前後の整合性が少し崩れますが、そこはお目こぼし下さい。
そして言うまでもなく、あの作品を踏襲したお話になっています。
朝靄が漂う森の中、開けた広場に二人の男が向き合う。
一人は青年。
剥き出しの金の剣を無造作に右手に下げ、どことなく晴れやかになった顔で対峙する少年を見つめる。
一人は少年。
緋色に染まった東方の太刀を抜き、目を瞑り深い呼気を繰り返し集中力を研ぎ澄ませていく。
憎まれるべきだと青年は思う。
だが、少年にとっては既に昇華し終わった憎しみに過ぎない。
謝ることはしない。
謝られたら許すと言わなければいけない。
この一年近くの共同生活の中で終ぞ触れることがなかった話題。
今日、青年は宛もない旅に出る。
今日、少年は長い家出を終わらせる。
次に会うのはいつになるか分からない。
だからこそ、わずかな心残りを晴らして新たな旅立ちを迎えたいのだと思う。
我ながら不器用な男だと青年は自嘲する。
相変わらず煮え切れない自分の弱さに少年は自嘲する。
戦う事が好きなわけではない。
勝敗に拘る質でもない。
それでも白黒はっきりさせたいと思いが込み上げる。
目の前にいる少年に青年は遥か昔の自分を重ねる。
目の前にいる青年はリベールを旅した自分にとって数ある壁の中でも最も大きな存在。
全ては前に歩くために。
全ては前に進むために。
「ふっ……」
「はは……」
どちらともなく笑いが零れる。
敵として相対してきたはずなのに今は相手が思っていることが手に取るように分かる。
ただそれをうまく言葉にして伝えることができないからこそ二人は剣を取る。
「それじゃあこちらから行きます」
少年――リィンは徐に宣言して太刀を構える。
「焔よ。我が剣に集え」
リィンの闘気が焔へと練り直されて太刀に宿る。
「はあああああああっ!」
“焔ノ太刀”を持ってリィンは正面から斬りかかる。
青年――レーヴェは躱す素振りを見せずに右手の剣を前に構え――
「斬っ!」
渾身の一撃が黄金の剣に受け止められ、甲高い音が森に木霊する。
「魂が込められた良い一撃だ」
レーヴェは片手で受け止め、涼し気にその一撃を評価してリィンを弾き飛ばす。
「次はこちらの番だ」
レーヴェは右手の剣を握り締め、リィンがそうしたように正面から斬りかかる。
「はあっ!」
短い呼気を伴って振り下ろされた“破砕剣”の一撃を――
「ぐぅっ――」
――リィンは歯を食いしばって太刀で受け止める。
「ふ……受け止めたか」
上から目線の評価にリィンは顔をしかめて太刀を鞘に納刀する。
「散り行くは群雲、咲き乱れるは桜花――」
「ほう……」
右手で剣を使うのならばと言わんばかりに当てつけの戦技の気配にレーヴェは再び受ける姿勢を取る。
「伍の型《桜花残月》!」
神速の抜刀術から繰り出された四連撃が構えた剣に一息で叩きつけられる。
「っ――」
その衝撃を受け止め切れず、レーヴェは大きく弾き飛ばされて、着地する。
「本気でやらないのならこのまま勝たせてもらうぞ」
「フフ……ならばこちらも全開で行かせてもらおう」
レーヴェは剣を左手に持ち替えて、構えを変える。
「っ――」
右手から左手に剣を持ち替えただけでレーヴェの威圧感が増してリィンは息を呑む。
そして次の瞬間――レーヴェは目の前に現れた。
「っ――」
咄嗟に太刀を盾にしてリィンは後ろに飛び、打ち込まれた剣戟の威力を最小限にして受け流す。
「二の型《疾風》」
着地したリィンはすかさず駆け出し、追い打ちを仕掛けて来たレーヴェと剣を交えて縦横無尽に駆け回る。
無数の剣戟の音が森に間断なく響き渡る。
「シルバーソーンッ!」
何合とも思える剣戟の合間にレーヴェは導力魔法を差し込む。
無数の幻の刃が実体化して、四方八方からリィンに襲い掛かる。
「――四の型《紅葉斬り》」
リィンは目を閉じ、《観の目》を頼りに背後からの幻の刃を躱し、すれ違い様に導力の刃を斬り捨てる。
「二重、三重――九重」
斬の気を維持したまま剣を全方位から降り注ぐ幻の刃を余さず斬り伏せて太刀を鞘に戻す。
そして、目を開き――
「受けて見ろ。剣帝の一撃を」
炎を宿した必殺の一撃をレーヴェが繰り出す。
「っ――三の型《業炎撃》っ!」
咄嗟に繰り出した技と剣帝の一撃が交差し――リィンの刃は手応えなく空を斬る。
「幻影のクラフトッ!?」
「こっちだ」
静かな声は背後から。
「鬼炎斬っ!」
致命的な隙を狙い澄ました一撃がリィンの無防備な背中に――
「鬼気解放」
捉えたと思った一撃は変化したリィンの超反応によって躱される。
「八の型《破甲――」
「二度は喰らわんっ!」
背後に回り込んで繰り出された拳をレーヴェは右手で受け止め、未だに炎を宿している剣を横薙ぎに振る。
「っ――」
リィンは咄嗟に太刀を縦に構えた金の剣を受け止め、二人は剣を鍔競り合い、拳を押し合う。
「オオオオッ!」
「ぎぎぎぎっっ!」
力比べをしながらも、剣に宿る炎と焔は互いを喰らい合う。
「一の型《鳳凰烈波》っ!」
リィンの太刀が一際燃え上がり、大地を踏みしめ螺旋の力を持って鍔迫り合いを押し切る。
「くっ――」
抑え切れないと察したレーヴェは自分から後ろに跳び、剣に竜巻の戦技を乗せて放つ。
「零ストームッ!」
「六の型《緋空斬》っ!」
鳳凰の焔を絡めて放った鎌鼬と竜巻がぶつかり合って相殺される。
リィンは着地するレーヴェを二人に分身して追い駆け――
「双覇十文字――」
「それも既に見切ったっ!」
レーヴェは迷うことなく本物を見極め、突撃して来るリィンの内の一人をカウンターで迎撃する。
並走していたリィンは霧散し、殴り飛ばされたリィンは木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされる。
「っ――」
レーヴェは油断なく地面を転がるリィンを見据え――脇腹を抑えて膝を着いた。
「あの一瞬で反撃をしていたか……随分と手癖が悪くなったな」
「お前達結社にいろいろされたせいだ」
一息で痛みを呑み込みレーヴェは立ち上がり、殴り飛ばされたリィンもまた頬に伝う血を拭いながら立ち上がる。
「正直、お前がここまで育つとはあの時は思っていなかったぞ」
「そっちこそ、封鎖区画で戦った時とは比べものにならないくらいに強いじゃないか」
賞賛の言葉に返って来た答えにレーヴェは顔をしかめる。
あの戦いはいろいろな意味で思い出したくない黒歴史だった。
「ああ、そうだな。あの時の俺は最低だった……
だがこんな気分で戦うのは生まれて初めてだ……だから存分にやらせてもらうっ!」
過去を思って自嘲し、今の戦いにレーヴェは集中する。
「ああ、そうか……そうだな……」
無粋なことを言ってしまったとリィンは反省し、その話題を切り上げて呼吸を大きく吸う。
そして――
「――――ウオオオオオオオオオオッ!」
リィンは雄叫びを上げる。
黒い《鬼の気》がさらに濃い黒に染まり、激流のような闘気がリィンの身体から噴出し、焔のような《聖痕》が広がり腕や顔に浮かび上がる。
「拘束術式解放」
対するレーヴェは静かに呟き、己に掛けられた力の制限を解く。
レーヴェの身体は黄金の光に包まれ、彼の顔や手には幾何学的な術式の文様が浮かび上がる。
「無明を斬り裂く、閃火の一刀――」
「燃え盛る業火であろうとも砕き散らす――」
リィンの太刀に白い焔が宿る。
レーヴェの剣に凍える闘気が宿る。
その余波がリィンの周囲の木々は炭化し崩れ落ち、レーヴェの周囲の木々は氷となって砕け散る。
「七の型《暁》っ!」
「冥皇剣っ!」
対極の一撃がぶつかり合う。
「レオンハルトォォォォォォォォォッ!」
「リィン・シュバルツァアアアアッ!」
*
「番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします……
先程、イストミア大森林西部を震源とした局所的な地震が発生しました……
火災も発生しており、近隣にお住いの住民は十分に御注意ください。ミスティでした……はぁ……」
*
大森林を一直線に線を引くように空白がそこにはあった。
ある場所を中心に東へ行けば、線の先端で炭化した木に背を預けて少年が太刀を杖にして倒れることを拒む。
逆に西へ行けば、線の先端で氷の塊となった木に背中を預け青年が剣を膝を震わせながらも倒れることを拒む。
「まだ……まだだ……」
「ああ、まだだ……」
声が届くはずない距離だと言うのに二人は示し合わせたように言葉を交わす。
背中を預けた木を蹴り二人は駆ける。
「はああああああっ!」
「オオオオオオオッ!」
太刀が、剣が触れる。
人の命を容易く刈り取る必殺の刃を紙一重で振り合う度に、力の余波が周囲の木々を大地を割断して行く。
互いの刃を最大に警戒し、その隙を突いて拳や蹴りが相手の身体を叩き込む。
剣を振るごとに、拳を振るごとに、意識は研ぎ澄まされていく。
憤りを、後ろめたさを、憧憬を、羨望を、あらゆる感情を刃に乗せてぶつけ合い、昇華させる。
その果ての無我の果てに繰り出す技は――
「八葉一閃っ!」
「天剣・次元断っ!」
*
レーヴェが盟主より賜った魔剣《ケルンバイター》が空高く舞い上がる。
リィンが鉄血宰相より賜り、《劫炎》の焔で鍛えられた真紅のゼムリアストーンの太刀が空高く舞い上がる。
二つの剣は回転して陽の光を乱反射させながら地面に突き立つ。
「っ……あ……」
「ぅ……ぁぁ……」
二人は全ての力を使い放たしたと言わんばかりに満身創痍と化していた。
白く染まった髪は元の黒髪に。体中に広がっていた《聖痕》も消え、指一本動かすことさえ億劫な程に全てを出し切った。
金の光は消え、体から術式の文様は消え、足は震え今にも倒れてしまいそうだった。
全てを出し切った。
言葉にできない蟠りを全て出し切り、晴れやかな気持ちさえ感じていた。
もうこのまま倒れても悔いはない。
互いにそう思いながらも、伏せた顔の下で目だけは未だに戦意を失ってはいないことを理解していた。
「っ……」
先に動いたのはレーヴェだった。
足を引き摺り、わずか数アージュの距離を時間を掛け、途方もない労力を費やして握り締めた拳を振り上げる。
「くぅ……っ――」
リィンは近付いて来たレーヴェの気配を察して顔を上げ、その頭を拳が叩く。
それはただ持ち上げて重に任せて落としただけの情けないものだった。
しかし、そんな情けない拳にリィンは上げようとした頭を押さえこまれ、そのまま沈めと言わんばかりに体重が乗せられる。
「ぐ……があっ!」
獣のような咆哮を上げ、力を絞り出すように大地を蹴ってレーヴェの手を跳ね除けて体当たりをする。
「あああっ!」
そのまま拳を乱暴に振り回す。
技も姿勢もなっていた。ただ固く握りしめた拳を振り回した子供のような拳はレーヴェの顔面を捉えた。
「かはっ!」
真っ赤な血を吐き、レーヴェは拳の衝撃を受け止め切れずに大きくよろめく。
「う……はっ――」
リィンもまた振り回した拳に体が泳ぎ、たたらを踏んで転ぶのを耐えて振り返り――目の前にレーヴェの拳が迫る。
「がっ――」
躱す素振りすらできず、顔面を打たれてリィンは仰け反り――寸でのところで踏みとどまる。
「おおおっ!」
そんなリィンにレーヴェはもう一方の拳を突き出す。
その拳を掻い潜り、前のめりになった無防備な脇腹を抉るようにリィンは拳を押し付ける。
「うごっ!」
肺を絞られる悲鳴を口から漏らし蹲る。
だが次の瞬間、レーヴェの手はリィンの喉を掴み、万力のような力で締め上げる。
「かひゅ――」
喉を締め付けられる圧迫感と呼吸困難にリィンは喘ぎ、下から喉を掴むレーヴェの頭を上から掴む。
「――があああっ!」
後ろに倒れ込むように反動を付けてレーヴェの手を無理矢理引き剥がして投げる。
「がは……げほっ……」
リィンは咳き込み呼吸がまだままならないにも関わらず、大の字に倒れたレーヴェに跳びかかる。
マウントを取り、拳を振り上げる。
だが、次の瞬間砂を掛けられて怯んだ所に顎を勝ち上げられる。
「かは……」
レーヴェは圧し掛かるリィンを押し退けて立ち上がり、必死に呼吸を整える。
「っ――ああああっ!」
リィンは歯を食いしばって立ち上がり、握った砂を投げつけてレーヴェに拳を突き出す。
「っ――」
呼吸を整えたレーヴェは無様なリィンの拳を受け止め、彼の突撃の勢いを利用するようにその手を取って背負い投げを――足をもつれさせリィンとレーヴェは絡み合う様に倒れる。
もはやそれは《達人》同士の戦いなどではなかった。
チンピラの喧嘩。
子供の取っ組み合い。
そんな風に形容するしかない無様な殴り合い。
二人は立ち上がったものの、もはや腕を上げる力さえ残っていない。
「がああああっ!」
ならばとリィンは頭からレーヴェに突撃して、彼の額を打つ。
「ぐはっ!」
額から血が噴き出し、苦痛の悲鳴を噛み殺す余裕さえもはや彼にはない。
「――しゃああっ!」
しかし、レーヴェはまだだと言わんばかりに咆え、彼からリィンの額へと頭を打ち付ける。
「えがあああああっ!」
痛みの悲鳴を堪える余裕がないのはリィンも同じ。
額から血を流しながら、倒れそうになる体を覚束ない足で必死に支える。
それまでの激しい取っ組み合いが途切れ、二人は視界を霞ませて睨み合う。
「っ……」
震える重い手を最後の力を振り絞り、レーヴェは指先に《空》の力を灯す。
「お前の――負けだっ!」
そう宣言するレーヴェに対して、リィンもまた全ての力を振り絞って拳を持ち上げる。
「俺の――勝ちだっ!」
拳にか細い焔が灯る。
正真正銘の最後の一滴。
「う……おおおおおおおおっ!」
「か……ああああああああっ!」
二人は示し合わせたかのように同時に踏み出し、身体ごと拳を前に突き出す。
リィンの拳がレーヴェの顔を捉える。
レーヴェの拳がリィンの顔を捉える。
そのまま二人は互いに体を預け合うように固まり、ゆっくりとすれ違う様に前のめりに倒れた。
コメントゲスト
アナウンス
「以上を持ちまして、エレボニア帝国作の「旅立ちの鐘」の上映を終了します。本日は――」
ジュディス
「はっ……私としたことが思わず見入っていたわ……ぐぬぬ……」
フェリ
「…………アイーダさんから聞いていましたけど、超帝国人って本当にいるんですね」
アーロン
「いや、流石にこれは盛っているだろ」
カトル
「映画としては見応えはあったかな?」
リゼット
「ですがこの御二人は実在する人物なのですよね?」
ヴァルター
「ああ、《剣帝》の方は俺の元同僚で、もう一人は俺が少し手解きをしてやった弟子みたいなものだ。よく頑張ってはいるが、どっちもまだまだだな」
ルクレツィア
「ヴァルターはん、見栄を張るのは良くないどすえ」
ジン
「ああ、それに誰がお前の弟子だ」
エレイン
「当時16歳……《G》ランク遊撃士……あれで? え……何それ?」
リーシャ
「懐かしいですね……」
ベルガルド
「あれがゲオルグ・ワイスマンが残した遺産か……教会が警戒するのも無理はないか」
ハーウッド
「くくく、これはオジサンも頑張らないといけないかもな」
シズナ
「どう!? どう!? 私の弟弟子は凄いでしょ!?
ああ、良いな! 私もあんな風に全部を出し切る仕合をしてみたいなぁ!」
フィー
「あれ……? 《騎神》で戦っているより凄い?」
アニエス
「《超帝国人》リィン・シュバルツァーさんですか……」
ヴァン
「ま、帝国の大英雄って言うのは誇張でもないかもしれないな……ってどうした?」
アニエス
「《超共和国人》ヴァン・アークライド……皆さん、どう思いますか?」
ヴァン
「やめろっ!」