人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

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略称一覧

シン…間薙シン(人修羅)
ピク…ピクシー
ガラ…ガラクタ集めマネカタ

八雲…妖怪の賢者・八雲紫
甲賀…龍神・コウガサブロウ

ネタバレになっちゃうので、
次回から略称はあとがきの方に載せることにします。

極力読んでいる中で誰かわかるようにはしていきますが、
混乱しそうだったらそちらを見てね。


第1章 前兆
第1話 人修羅一行 幻想郷におじゃまする


どことも知れぬ結界の中……

そこでは人型の気迫あふれる猛々しい悪魔と、

美少女とも妙齢の女性ともとれる、妖艶な魅力にあふれた妖怪が話をしていた。

 

八雲「……私は反対です」

甲賀「お前の言いたいことはわかるがな、そうも言っていられんのだ」

八雲「………あまりにも危険です。私ではアレを抑えられません」

八雲「失礼かもしれませんが……たとえ龍神様でも……」

甲賀「わかっている。私でも……いや……

この世界のどんな存在でも彼には太刀打ちできまい」

八雲「……私にはアレのチカラの底が見えませんが、それほどですか……」

甲賀「そうだとも。……しかし、賭けてみる価値はある」

八雲「私にはアレの背後に何がいるのかわかりませんが、

ここで関係を持つのは危険すぎます」

甲賀「どのみちこのままでは幻想郷は壊滅するだろう。背に腹は代えられぬ」

甲賀「その結果、何が起ころうとも……わかるな?」

八雲「……わかりました。毒饅頭とわかっていても……そういうことですね?」

甲賀「そういうことだ。……これで話はまとまったな。それでは頼んだぞ……」

八雲「仰せの通りに。龍神様」

 

ここは幻想郷。現代に忘れ去られた者たちが住む世界。

今この幻想郷はとてつもない危機にさらされている。

 

まだ一部のものしか知らないその危機に対して、

龍神・コウガサブロウと妖怪の賢者・八雲紫は有効な手を打てずにいた……

 

偶然か、それとも運命か……そこに現れた1匹の悪魔とその仲魔。

彼はこの幻想郷に何をもたらすのだろうか?

 

すべては彼の意志の導きにて……

 

 

・・・・・・

 

 

ガラ「いやー、悪いねシン君!またお宝探しに付き合ってもらっちゃって!」

シン「気にしないでよ。ボクだって暇してたんだし」

ピクシー「そうよー、ガラクタ君。

私達仲魔一同も誘ってもらうの結構楽しみにしてるんだから」

ガラ「そう言ってもらえると嬉しいな。それじゃ出発しようか!」

シン「出発ってどこに行くのさ?まだ目的地を聞いてないよ。」

ガラ「あっ、そうだったね!今から行くところはね、幻想郷ってところなんだ!」

ピク「ゲンソウキョウ?聞いたことないわね。」

シン「ボクも初耳だな。一体どんなところなの?」

ガラ「なんでもね!ボクらの居たボルテクス界にはない珍しいものでいっぱいらしいよ!!」

シン「ふーん、それはちょっと気になるね」

ガラ「でしょ!?それじゃ早速出発しよう!!」

ピクシー「おー!!」

 

かなり奇抜な組み合わせのこの3人。

 

その中でもとにかく目を引くのは、

全身が発光するイレズミのような模様で覆われた若者である。

【混沌王】・【人修羅】・様々な二つ名を持つ彼は「間薙シン」という悪魔だ。

もともと人間だった彼は、筆舌に尽くしがたい生き地獄を生き抜いてきた。

先日大きな決戦を終えた身であり、現在自由を謳歌している。

 

そしてシンのお供である悪魔・妖精「ピクシー」。

シンが悪魔へと変じてから、姿形を変えながらも

常に一緒になって旅をしてきた一番の仲魔だ。

可愛らしい小柄な体躯とは裏腹に、シンの仲魔の中でも相当な実力を持っている。

 

独特な帽子で顔の上半分を隠している彼は、「ガラクタ集めマネカタ」と呼ばれている。

その名の通りガラクタ集めが趣味であり、お気楽な性格をしている。

シンとはかなり昔からの知り合いであり、持ちつ持たれつな関係。

今回どこからか幻想郷のうわさを聞きつけ、シン達に同行を求めることにしたようだ。

 

シン「それじゃアマラ経絡へ通路を作るから、そこを通っていこう。足元に気を付けてね」

 

そう言ってシンが手をかざすと、異空間への入り口が現れた。

3人はまだ見ぬ景色に胸を躍らせながら通路の奥へと進んでいった。

 

・・・・・・

 

シン「よーし、到着到着」

ガラ「おー!ここが幻想郷!」

ピク「へー、すっごい量のマガツヒが漂ってるわ。

悪魔にとっては理想郷みたいなところね~」

シン「そうだね。確かに空気が濃い」

ガラ「そうなの?そんなことよりもお宝のにおいがプンプンするよ!」

シン「相変わらずブレないね。キミは」

ピク「それじゃ早速お宝探しに行きましょ。レッツゴー!」

ガラ「おー!」

 

元いた世界では考えられなかった、溢れんばかりの緑の中を進む。

特に行き先が決まっているわけではないが、進んでいけばどこかへ出るだろう。

とても楽観的だが、これまでそのやり方で何とかなっていた。

3人は気の向くまま、半ば散歩のような形でこの世界を回ることにした。

 

しかし…

 

ガラ「いやー、ぜんっぜん見つからないね!お宝!」

シン「やっぱり闇雲に歩き回ってるだけじゃなぁ……

誰か捕まえて情報を聞き出さないと。」

ピクシー「あ、私きれいな石拾ったわよ」

ガラ「ホントだ!いいなー」

シン「……キミたちがそれでいいなら構わないんだけどね」

ガラ「まあまあ、まだ来たばかりなんだし、気楽に行こうよ」

シン「……それもそうだね」

 

???「ごきげんよう、そこを行く皆さん」

 

気楽な散策を続ける3人の前に、異空間から女性型の悪魔が現れた。

優雅でいてスキのない立ち居振る舞い。なかなかの実力を持っているのが分かる。

 

シン「……!……誰だ」

八雲「幻想郷へようこそ、『人修羅』さん」

シン「……(ボクのことを知っているのか?)」

八雲「フフ……そんなに警戒しないで。」

ピク「あれ?この人誰?シンの知り合い?」

シン「いや、初対面だよ。……キサマは誰だ?何が目的だ?」

八雲「……私は八雲紫。この幻想郷では“妖怪の賢者”と呼ばれています」

シン「……妖怪の賢者」

八雲「ええ。ありていに言えば、幻想郷の管理人のようなことをしています」

シン「……その管理人がボクに何の用だ?」

八雲「貴方はこの世界に来たばかりで全く情報がない。違いますか?」

シン「……ああ。それがどうした?何が望みだ?」

 

幾多の戦いの経験から、シンは会話しながらも様々な分析を進めていた。

 

なんだ?こいつは。いきなり何もない空間から現れた。

 

自分も仲魔を呼び出す時や、アイテムを使う時は、異空間を利用する。

最近は異空間を通って別の場所に行けるようにもなった。

 

この悪魔にも同じことができるというのか?

だとしたら厄介だ。

低くない実力を持っているとみてよいだろう。

 

悪魔との交渉を星の数ほど行ってきたシンは、チカラ任せな相手より

こういう手合いの方が厄介なことは重々承知している。

 

八雲「私が色々とレクチャーしてあげましょう☆」

シン「……は?」

 

色々な交渉パターンを考えていたシンだったが、この提案は想定外だった。

何かを要求されると踏んでいたのだが、そういうことではないらしい。

 

八雲「幻想郷について何も知らずに来たんでしょう?

だってさっきから当てもなく2時間もうろうろしていたものね」

シン「……いや、まあその……」

八雲「その間に襲い掛かってきた妖怪を何匹も倒してたわよね」

シン「……そりゃあ、いきなり襲い掛かられれば当然だろう」

八雲「この世界にはこの世界のルールがあるわ。

あの妖怪たちが襲ってきた理由が、

『自分たちの縄張りに入られたから』だったとしたら?」

シン「……」

八雲「彼らは警告していたのに、

貴方たちはそれを無視して縄張りの奥に侵入してしまった……

そこで襲い掛かってきた彼らをを返り討ちにするのは

果たして『当然の事』なのかしら?」

シン「……気づかない警告など意味がないだろう」

八雲「それを判断するのはあなたの常識。世界も違えば常識も変わるわ」

 

流石に管理人というだけあって、らしいことを言う。

いきなり現れて好き放題言われるのには納得いかないが、

言われてみれば確かにその通りである。

 

いきなり襲われたのは事実だが、相手が何を考えていたかは全くわからない。

相手の事情も知らずにチカラで押さえつけることは、シンも望むところではない。

第一こっちの目的は『宝探し』なのだ。争いなどこちらから願い下げである。

 

八雲「……フフ、冗談よ☆」

シン「……は?」

八雲「さっきの話は冗談。あの妖怪たちは人間と見れば襲い掛かるだけの連中よ。

あなたがあの妖怪たちを始末したことは別に問題ないわ」

シン「……そうか」

八雲「でもわかったでしょう?

全く知らない土地で自分の常識は絶対正しいと考えるのは、いい結果を生みません」

シン「……確かに貴女の言うことは正しい」

八雲「だから私が貴方たちに幻想郷とはどういった場所か、どのようなルールがあるのか、

レクチャーするわね☆」

シン「……ええ、よろしくお願いします」

 

どうやら敵意を持たれているわけではないらしい。

あちらから幻想郷のイロハを教えてくれるというのだ。ありがたい話ではないか。

それに先ほどの話はシンが「人間」として生きていくのには必要な考え方だ。

「人間」の在り方を忘れて純粋な「悪魔」になること。

それがシンの唯一恐れることにして、

生きていく上で常に意識しなければならない問題なのだ。

 

ピク「ね~シン、難しい話終わった?」

ガラ「ボクたちも話に混ざっていいかな?」

八雲「あら、ちょうどいいわね。私は八雲紫。

今シン君に幻想郷がどんなところか教えてあげようとしていたのよ~」

ピク「え!なにそれ!私も聞く~!」

ガラ「ボクもすっごい気になる!教えてください!ええと……ヤクモさん?」

八雲「紫でいいわよ~☆」

シン「それじゃよろしくお願いします。紫さん」

 

少女説明中……

 

八雲「……といったところかしらね」

シン「なるほど。よくわかりました。ありがとうございます」

ピク「聞いた?ねえシン!妖精もいるんだって!楽しみ~!」

ガラ「天界……地底……冥界……これはお宝のにおいがプンプンするよ!」

八雲「あらあら、気に入っていただけたようで何よりだわ」

シン「正直そこまで変わった世界だとは思いませんでした。

色々教えていただいてありがとうございます」

八雲「いいのよ。こちらにも必要な事だったもの。

これから話すことを理解してもらうためにね」

 

シン「……といいますと?」

八雲「話を聞いていて分かったと思うけど、

この世界はとても絶妙なバランスによって成り立っているわ」

シン「妖怪と人間の共存……でしたか」

八雲「ええ、そうよ。

妖怪は人間の畏れがなければ生きられず、

人間は妖怪を畏れながらも、それを受け入れて生きる」

八雲「そんな場所にあなたのような強力な悪魔がいると、その関係が崩れかねません」

シン「つまりボクの存在はここでは受け入れられないということですか?」

八雲「そういうことではないわ。幻想郷はすべてを受け入れます。……ただし」

シン「ただし?」

八雲「それは私という抑制が効く中での話……

貴方たちの持っているチカラは……強すぎるのよ」

 

シン「……それではどうすればいいですか?」

八雲「私が貴方のチカラの大半を封印します。

今のチカラの……そうね、5分の1ほどしか出せなくなってしまうでしょう。

そうすれば大きく幻想郷に影響を与えることはなくなるわ」

八雲「もちろんこんなお願いを聞いてくれるからには、命の危険には晒させないわ。

仮にそんな事態に陥るようなら、助けに向かいます」

 

八雲「そして条件がもう一つ。貴方、他の悪魔を呼び出せるわね?」

シン「ええ。仲魔になっている悪魔だけですが」

八雲「その仲間なんだけど、

召喚する悪魔の強さは、チカラを封印された貴方と同じくらいまでにしてちょうだい」

シン「……」

 

なかなかにヘヴィな申し出だ。

出せるチカラが5分の1になり、召喚できる仲魔にも制限がかかる。

しかしそれでも大きな問題はないだろう。

封印というのはよくわからないが、仲魔召喚に関してはこちらの任意のようであるし。

……第一ここには戦闘をしに来たわけではない。

YHVHに殴り込みに行った時とは事情が違う。

 

シン「……わかりました。その通りにしていただいて結構です」

八雲「……あら、意外ね。こんな滅茶苦茶な条件をあっさり呑んでくれるなんて」

シン「ボクたちは戦いに来たのではないですから、大丈夫ですよ。それにもしもの時は紫さんが守ってくれるんでしょう?」

八雲「……ええ」

シン「だったら何も問題ありません。二人もそれでいいよね?」

ピク「シンが弱くなっちゃうってことでしょ?昔に戻ったみたいで懐かしいわ~」

ガラ「シン君が大丈夫っていうなら大丈夫だよー」

シン「というわけです。やっちゃってください」

八雲「……わかりました。それでは目を閉じて……」

 

シンが目を閉じると、紫の何かを念ずる声が聞こえてきた。

それと同時に体の奥底から湧き出るエネルギーが、か細くなっていくのを感じる。

なるほど、これが封印なのか。そう考えていると、紫から声がかかった。

 

八雲「……はい、これで封印はおしまい。なにか体におかしなところはある?」

シン「……いいえ。普通に動くのには何の問題もありません」

八雲「よかったわ~。失敗しちゃったらどうしようかと思ったの☆」

シン「えぇ……」

 

八雲「あ、それと最後に。

人修羅さん、貴方はここ幻想郷では『デビルサマナー』として過ごして頂戴」

シン「デビルサマナー……?」

八雲「あら?知らないのね。

デビルサマナーっていうのはね、悪魔を使役する人間の事よ。

時に悪魔に指示を出し、時に自分でも悪魔と戦う。そんな人たちよ」

 

デビルサマナー……どこかで聞いたような話だったが、

今の説明で思い出した。

確かライドウがそんな仕事をしてると言っていたはずだ。

 

シン「それならいつもボクがやってることとと同じですね」

八雲「そ。だから今のあなたにピッタリ。

……ただその奇抜な格好は何とかしたほうがいいわね。

いくら特殊な職業と言っても、ちょっと刺激的すぎるわ~」

シン「そんなものですか。では……これでいいですか?」

 

そう言うとシンは、どこにしまっていたのか上着を取り出し、それに着替えた。

体の独特な模様と、首から後ろに突き出ていたツノも、

上着を着るとともに消えていった。

 

八雲「あら、準備がいいわね。

……さて、これで私が言いたいことはお終い。付き合ってくれてありがとう」

シン「いえいえ、こちらこそ色々教えてくれてありがとうございました」

 

深々とお辞儀をするシンに対して、紫は優しい微笑みを向ける。

 

八雲「それではこの道を進むといいわ。人里に出ることができる。

そこの商店なんかには気に入るものもあるんじゃないかしら?」

ガラ「!!

そんなこと聞いちゃ居ても立っても居られないよ!シン君!先に行ってるね!」

ピク「あ、まって!私も行く!ホラ!シンも行くわよ!」

シン「こらこら、あんまり引っ張らないでよ」

 

風のように去っていく3名を見送る紫。

完全に姿が見えなくなってからその場に膝をつく。

 

八雲「……ハァ、ハァ……まさかこれほどとはね……」

 

先ほどまでは余裕の表情でいたものの、紫はその実かなり無理をしていた。

まさかあそこまで封印にかかる負担が大きいとは思わなかったのだ。

 

紫の封印術は、相手のチカラが源泉から湧き出る流れを、

ほんのちょっと歪めてしまうというものである。

完全な封印とはいかないが、その性質上敵の強さ、属性を問わず効果がある。

 

しかもチカラづくでの封印ではなく、積み上げられた膨大な計算と繊細な技術による封印。

つまり『てこの原理』のようなもので、術者のチカラはほんの少ししか消費されない。

 

……しかし、その『ほんの少し』。ほんの少しに相当するチカラを使っただけで、

紫はほとんどすべてのエネルギーを持っていかれてしまった。

 

つまりこの事実は、人修羅を完全に封印する労力からしたら、

紫の持つ全エネルギーは『ほんの少し』だということを意味している。

本当は仲間召喚についても制限の術をかけるつもりだったが、

そんな余裕は残っていなかった。

 

八雲「私では抑えきれないのはわかっていたけど、

こんなにとんでもないチカラを持っているなんて……」

八雲「龍神様……本当にこれでよかったのでしょうか……?」

 

紫は今でも龍神・コウガサブロウの判断に疑問を持つ。

いくら自分たちのチカラだけでどうにもならない問題があるからと言って、

それよりも遥かにどうにもならない者を呼び寄せるのは得策なのか?

 

さらに紫はシンの印象について考える。

 

実際に会ってみるまでは遠くから観察するだけだった。

それでも格上ということはわかったが、対峙してみてその恐ろしさが身に染みた。

 

最初に声をかけた時、シンは紫のことを警戒していた。

『敵意』でも『威嚇』でもない、ただの『警戒』……

 

唯のそれだけで紫は、シンが別次元の強さを持っていることを悟ったのだ。

戦えば勝負にすらならない。

いや、それどころか、羽虫を払うように、あしらわれる程の差があるということを。

 

しかしそのチカラの大きさに不相応なことに、

実際に話してみたところ非常に聞き分けもよく、素直な態度だった。

まるで外の世界でいう高校生かそこらの反応だ。

それが逆に不気味だ。

 

八雲「ともあれサイはもう投げられてしまった……

一体これからどうなっていくのか……まさに神のみぞ知る、ね」

 

つづく


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