人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

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あらすじ

白玉楼で花見をしたいと頼んだシン一行。
白玉楼の主人・西行寺幽々子の計らいで、縁側を貸してもらえることになった。
その代わりに、幽々子を楽しませるため魂魄妖夢と手合わせをすることに。

結果としてシンは敗北するものの、
幽々子と妖夢も交えて、目的の花見を楽しむことができた。

今回の話はその次の日。
つまり
天子が再度洞窟へ向かった日の話である。



第2章 開幕
第12話 幻想郷の一番長い日 1


白玉楼で楽しく花見をしてきたシン一行は、

人里の宿へとへ帰り、それぞれの部屋で床に就いていた。

 

シン「今日は楽しかったな……こんな気分は久しぶりだ……」

 

そんな独り言を言いつつ、眠りへと落ちていく……

 

 

・・・・・・

 

 

??「オイ」

 

シン「……?」

 

??「……ククク……随分楽しんでいるようじゃないか」

 

シン「……お前か」

 

 

シンの目の前に、巨大な悪魔が浮かんでいた。

 

羊のような巻き込んだ角に、青銅色の肌、そして6枚のコウモリの羽。

 

見間違えるはずはない。大魔王ルシファーだ。

 

 

シン「俺の夢の中にまで、何をしに来た?」

 

ルシ「フフフ、随分とご挨拶じゃないか。混沌王よ」

 

シン「……その呼ばれ方は好きじゃない」

 

ルシ「相変わらず嫌われたものだな」

 

シン「……それで?何もなしに来たんじゃないだろう?何の用だ?」

 

ルシ「そう焦るな……今日はいい知らせを持ってきてやったぞ」

 

シン「お前の言ういい知らせが、本当にいい知らせだった試しはないんだが」

 

ルシ「そんなもの捉え方次第だ。些細な問題よ」

 

シン「……」

 

ルシ「貴様がここで出会った少女……比那名居天子とか言ったか」

 

シン「!!……それがどうした」

 

ルシ「ククク……!その反応……まだ未練があるのか?」

 

シン「いい加減にしろ。そろそろ怒るぞ」

 

ルシ「まぁ落ち着け……あの天人だが、このままでは今日死ぬぞ」

 

 

シン「!?」

 

 

ルシ「どうだ?いい知らせだったろう?」

 

シン「クソッ!オイ!それは本当なんだろうな!」

 

ルシ「ククク……悪魔が嘘をつくわけがなかろう……?」

 

シン「言え!何が起こっている!?いや、何がこれから起こる!?」

 

ルシ「さてなぁ……?私は貴様ではないのでな。運命はわからないものよ」

 

シン「持って回る言い方をするな!!知っていることを話せ!!」

 

ルシ「すべては貴様がきっかけとなったことが発端よ。あの天人の運命もな」

 

シン「はっきりとモノを言え!」

 

ルシ「貴様はYHVHを不可侵の存在から、ただの一悪魔に貶めた。

神でも越えられなかった運命というものを、超えてみせた。

だからこそ、手遅れになる前に教えに来てやったのだよ?」

 

シン「そんな昔話はいい!どうすれば助けられる!?」

 

ルシ「今回も貴様が望む未来を作り出せるのか……

それとも定められた絶望の底に沈むのか……

我らはそれを愉しく見守っているぞ……」

 

 

そういってニヤリと笑うと、

ルシファーの体がうっすらと透き通っていく。

 

 

シン「待て!まだ肝心なことを話していない!」

 

ルシ「人の子よ……可能性を見せてくれ……我らの『黒き希望』よ……」

 

 

シンの制止もむなしく、

大魔王ルシファーは闇の中へと溶け込んでいった……

 

 

・・・・・・

 

 

シン「ルシファーーーッ!!」

 

 

シンはそう叫ぶと、眠りから目覚め、布団から飛び起きる。

 

 

シン「ハァ……ハァ……」

 

 

すごい汗だ。余程緊張していたのだろう。

あの大魔王が現れるとロクなことにならない。

 

結局何が起こるのかも話していかなかった。

考えられる方法をすべて試し、全力で動くしかない。

 

シンはすぐさま寝間着から普段着に着替え、

ピクシーとガラクタ集めマネカタを招集した。

 

 

シン「……というわけだ。天子が危ない」

 

ガラ「ええっ!?た、大変だ!天子さんが死んじゃう!」

 

ピク「……」

 

シン「とにかく今は天子がどこにいるのか掴まないと……!

ピクシーは何か考えがあるか?」

 

 

シンの問いに対して、ピクシーは冷静な表情で口を開く。

 

 

ピク「ねぇシン。今から私は大事なことを言うわ。よく聞いて」

 

 

ピクシーの真剣な様子を見て、シンは落ち着きを取り戻す。

 

 

シン「……どうした?」

 

ピク「いい?シン。

あのルシファーが言う事なんだから、

天子の身に危険が迫っているのは本当でしょう。」

 

シン「……ああ」

 

ピク「でもね。あの子は私達をもう恐怖の対象として見ていると思う。

もし助けられたとしても、戦う姿をまた見せることになるでしょう」

 

シン「……」

 

ピク「そんな私達の姿をまた見せたら、

あの子は本当に私達のことを嫌いになるかもしれないわ。

もう二度と顔を見たくないと思うほどにね」

 

ピク「死に物狂いで戦って、助けることができたとしても、

怖がって逃げられるかもしれないわ。

そうなったらシンはまた、心に傷を負うでしょう」

 

シン「……」

 

ピク「だから私は、シンが直接助けに行くのは反対よ。

誰か他の人に頼むのがいいと思うわ」

 

シン「……ありがとう、ピクシー。

でも、時間がどれだけ残されているかもわからない。

ボクは行くよ」

 

ピク「……どうしても?」

 

シン「キミがボクのためを考えてくれているのは、本当にうれしい。

でも、できることをしたいんだ。今までもそうしてきたし、これからも。

正しいと思えることをしたいんだ。

ボクが人間でいたいと思う限り、そこだけは譲れない。」

 

ピク「そう……そうね。」

 

ピク「アナタは昔っから、いつもそうしてきたものね。

いつだって、自分が傷つくことを恐れず

 

……いや、違うわね。

 

傷つくことを恐れながらも、傷つくことが分かっていても、

必死で、大事な人のために戦ってきた」

 

シン「……そんな立派なものじゃない。

結局は……誰も……誰も止められなかった」

 

ピク「結果がすべてじゃないわ。

それに、アナタの心と行動は、私達仲魔を引き寄せたじゃない」

 

シン「……そうだな。

それに今回は、あの時とは違う……まだ、間に合う!」

 

 

ピクシーはシンの目を見る。

曇りなく、まっすぐで強く、心に届く目だ。

 

シンの友人だったチアキ、イサムの守護である、

バアル・アバター、ノアを倒したときと、同じ目だ。

 

あぁ、私はこの人についてきて、本当に良かった……

 

 

ピク「……わかったわ。一緒に天子を探しに行きましょう!」

 

シン「!……ありがとう、ピクシー」

 

 

・・・・・・

 

 

シン「まずは天子の居場所を探る。

それが一番うまくできる仲魔は……」

 

ガラ「探し物だったら決まってるよ!フトミミさんだね!」

 

シン「……そうだな。では……

 

 

ーーーー召喚『フトミミ』!!」

 

 

シンが悪魔の名を呼ぶと、稲光と共に鬼神が現れる。

 

 

フト「……私の出番のようだな、間薙」

 

シン「フトミミ、チカラを貸してくれ」

 

フト「当然。お前たちのことはアマラ深界から見ていた。

お前の覚悟は無駄にはしない」

 

シン「なら頼む」

 

フト「承知した」

 

 

そう言うと、フトミミは右手をこめかみに当て、瞑想を始めた。

 

フトミミには予知能力があり、近い未来だったら吉兆・凶兆を視ることができる。

天子に起こるであろう、不吉な予感もわかるはずだ。

 

数分の後、フトミミは目を開け、話し始めた。

 

 

フト「……間薙。お前はこの世界で一度戦闘しているな?」

 

シン「ああ、オオナムチといったか。そいつを一度倒している」

 

フト「その戦闘を行った場所、この世界の要だったようだ」

 

シン「あの洞窟が……要?」

 

フト「転換点と言ってもいい。

その場所にはどうやら、とてつもない不吉な未来から、この地を守る役目がある」

 

シン「……」

 

フト「その場所に……とんでもない凶兆が視える。

恐らく例の天人は、それに巻き込まれるのではないか?」

 

シン「間違いなさそうか?」

 

フト「この地で他に不吉な地はいくらかある。

鬼の住む地の底……ここからそう遠くない修験の山……そしてここ人の住む里にも……」

 

フト「しかし一番危険だと感じるのは、その洞窟だ。信じてもらいたい」

 

シン「……わかった。よくやってくれたな」

 

フト「私も役に立ててうれしい。このチカラ、いつでも役立ててくれ」

 

 

そう言うと、フトミミは稲光とともに消えてしまった。

 

 

ガラ「やっぱりフトミミさんは頼りになるや!

それじゃ、あの洞窟に向かえばよさそうだね!」

 

シン「そうだな……だが」

 

ピク「シン、どうしたの?」

 

シン「今フトミミが言ったことが気になる。

前二つはよくわからなかったけど、この人里にも何かが起こるみたいだ。」

 

 

シン「だから、二人にはこの人里を守ってもらいたい」

 

 

ガラ「シン君がそういうなら、ボクはそれでいいよ」

 

ピク「……」

 

シン「ピクシー……言いたいことはわかってる。

でもやっぱり、あのオオナムチクラスの悪魔が出現する危険がある以上、

一番信用できるキミにここを任せたいんだ。」

 

シン「それに最も危険な場所には、

仲魔を喚び出せるボクが向かうのが、一番確実なんだ」

 

 

ピク「……はぁ、いいわ、シン。任されてあげる」

 

シン「!……ありがとう」

 

ピク「でも約束して。必ず無事に帰ってきてね」

 

シン「わかった。約束する」

 

ピク「ん。それならいいわ

……それじゃ、いってらっしゃい」

 

シン「ああ、行ってくるよ。

ピクシー!ガラクタ君!こっちのことは任せたよ!」

 

ガラ「いってらっしゃい!シン君!何かあったらボクも頑張るよー!」

 

ピク「それじゃ、また後でね」

 

 

シンは別れの挨拶をするが早いか、走り出していた。

 

それを見送るガラクタ集めマネカタとピクシー。

 

これから何かが起こる、嫌な予感を感じながら……

 

 

・・・・・・

 

 

その頃天子は、要石のある洞窟にちょうど入ったところだった。

 

 

天子「相変わらず辛気臭い場所だわ。

なんでこんなところにあんな化け物が……」

 

 

あの日に見た衝撃的な光景が脳裏をよぎるが、

止まるわけにはいかない。

今度は相手の正体もわかっているし、緋想の剣もある。

 

もし相手に見つかり、戦闘になったとしても、

勝てないまでも、身を守って逃げることくらいはできるはずだ。

 

 

天子「なんとしても、ここに何があるのかを掴んでやるわよ……」

 

 

シン達が何故あんな戦闘をしていたのか?

何故大国主命などという強力すぎる神が、誰にも気づかれずに幻想郷にいたのか?

 

すべてのカギは、この洞窟にある。

 

 

・・・・・・

 

 

天子は洞窟の奥へと進む。

 

一度来たこともあり、スムーズに奥の広間まで来ることができた。

 

 

天子「……?オオナムチの死体が……ない?」

 

 

あの戦闘が起こったのは一昨日のこと。

いくら何でも自然に死体がなくなるはずがない。

 

何者かに食べられるにしても、

こんな洞窟の奥まで山犬や妖怪が来るとは考えづらい。

 

 

天子「なんなのかしら……?」

 

 

天子は疑問を感じながらも、広間中央へと近づいていく。

 

死体がないのにもかかわらず、

乾燥してはいるが、血だまりがまだ残っているのが不気味だ。

 

……と、その時、広間の奥に誰かが倒れているのに気が付く!

 

 

天子「……!……あれは、え?なんで……?」

 

 

倒れていたのは九尾の狐。

八雲紫の式である、八雲藍だった。

 

 

天子「紫の式……!何でこんなところに……!?」

 

 

天子が動揺していると、藍が天子に気が付く。

 

 

藍「クッ……お前……天子……!何故ここに……!」

 

 

明らかに藍の様子はおかしい。

天子は心配になり、藍に向かって駆け寄る!

 

 

天子「ちょっと、大丈夫!?いったい何があったの!?」

 

藍「!!……天子ッ!来るなァッ!! 『ヤツ』に気づかれた!!」

 

天子「ちょ……一体どうしたのよ!」

 

藍「早く離れろッ!!逃げろ―――ッ!!!」

 

 

 

 

 

「 も う 遅 い 」

 

 

 

 

 

地の底に響くかと思う悍ましい声!

 

予想外のことに驚く天子の腰から緋想の剣がするりと離れ、宙を舞う!!

 

 

天子「!?!?」

 

 

ザシュゥゥッッ!!

 

 

宙を浮かぶ緋想の剣は、ひとりでに結界の方へ向かっていき、

素早く、深く、結界を斬りつけた!!

 

 

藍「ダメだ……!!いけない……!!」

 

 

結界にできた深い切り傷。

その傷から、ゆっくりと、一体の悪魔が捻り出る!!

 

 

 

アラ「我が名は荒吐(アラハバキ)。

 

 

この地に封印された『伏ろわぬ神』が一柱。

 

 

さあ、怒りのままに、蹂躙を始めようぞ……!」

 

 

 

 

幻想郷の一番長い日が始まる……

 

 

 

つづく




略称一覧

シン…間薙シン(人修羅)
ピク…ピクシー
ガラ…ガラクタ集めマネカタ

ルシ…大魔王・ルシファー。シンを人間から魔人へと転生させた張本人。悪魔王とも。終の決戦でシンがYHVHを倒したことにより、ルシフェルの姿を取り戻している。コンバート可能。たびたび意味深な助言をシンにしては、疎ましがられている。シンに対しては一目置いており、今の彼の興味はすべてシンへと注がれている。いい迷惑。戦闘力に関しては言わずもがな。

フト…鬼神・フトミミ。ボルテクス界ではマネカタのまとめ役だった。受胎前の世界では少年殺人鬼だったが、現在は前世の業を思い出し、贖罪に努めている。予知能力があり、シンも頼りにしている。ガラクタ集めマネカタとは古くからの知り合いで、かなり仲が良い。高い体力と魔力による耐久性と、豊富な属性技がウリ。

天子…比那名居天子(ひなないてんし)。幻想郷の天界に住んでいる、自由奔放な天人。たびたび人里に現れては、暇つぶしをしている。根はいい子。実は戦闘力はかなりのもの。

藍…八雲藍(やくもらん)。八雲紫の式にして、幻想郷でも指折りの実力を持つ九尾の狐。頭の回転、計算力にかけては右に出るものはいない。が、予想外の事態に弱いのが玉に瑕。紫が動けない現在、代役として動き回っている。

アラ…荒吐(アラハバキ)。封印されていた『伏ろわぬ神々』の一柱。大和朝廷に滅ぼされた古代の神。結界の裂け目から幻想郷に出てきた。千年以上結界内でマガツヒを蓄え続けてきたこともあり、オオナムチには及ばないものの、実力は非常に高い。いわゆるボス補正。

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