人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

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あらすじ

アラハバキと対峙する天子と藍。
放たれるオーラからわかる、圧倒的な実力に、二人は威圧される。

前日からアラハバキが出てこないように
結界内で孤軍奮闘していた藍は、現在動くことができない。

天子は一人での戦いを強いられることに。

果たして天子はアラハバキの強力無比な攻撃をしのぎ切り、
生き残ることができるのか?


第14話 幻想郷の一番長い日 3

命の危険にさらされた生き物は、

普段とは比べ物にならない集中力を発揮する。

 

天子も例外ではなく、

この戦闘で生き残るため、頭をフル回転させていた。

 

 

……まずは相手と自分の力量差を正確に把握する必要がある。

 

 

相手はアラハバキ。古の神である。

戦闘力は考えるまでもない。圧倒的だ。

 

まともにやりあえば、全く勝負にならないのは明白。

 

 

……しかし相手の攻撃を見て、

微かではあるが勝機があると天子は踏んでいた。

 

 

まず相手の属性は氷結であるのは、間違いない。

 

それに加えて耐衝撃結界のようなものを展開している可能性が高い。

要石の連撃が全く効果がなかったことから、

単に防御力が高い、と考えるのは無理がある。

 

勝機があると考えるポイントはここだ。

 

……実は氷結攻撃、耐衝撃結界のどちらとも、緋想の剣があれば、対応できる。

 

緋想の剣による気質吸収効果、そして、気質の弱点を突く効果、

この2つをうまく活用すれば、勝機は、ある。

 

 

この効果を利用して相手に勝利するには、たった一点。

針の穴に糸を通すような精密さが要求される、

ある一点を狙うしかない。

 

 

……問題は、相手に何か狙っていると悟られたら、

隙を見せてくれなくなるかもしれないこと。

 

そして、敵の攻撃を一発でもまともにもらえば、

そのまま敗北、死につながるということ。

 

 

でも……やるしかない。生き延びるために。

 

 

・・・・・・

 

 

天子「……いくわよ! ―――『不譲土壌の剣』!」

 

 

天子がそう宣言すると、辺りの地面が隆起し、アラハバキに襲い掛かる!

 

 

ズドドッ!!

 

 

アラ「……ムッ」

 

 

効果があった……?

 

若干ではあるがダメージが通った気配。

どうやら単純な物理攻撃は効かなくとも、

大地の気質をまとった攻撃ならば話は別のようだ。

 

 

天子「なら…… ―――『天地開闢プレス』!」

 

 

言うが早いか、

天子は先ほどめくれ上がった地盤から巨大な要石を創りだし、それに掴まる!

 

そしてその要石を天井付近まで打ち上げ、一転アラハバキに向かって急速落下!

 

 

アラ「!!」

 

 

ズドォォン!!

 

 

超大質量の要石の一撃がアラハバキに炸裂!

流石のアラハバキも、これには体勢を崩す!

 

 

天子「……ッ! まだまだ!!」

 

 

天地開闢プレスは、天子の使える技の中でも、一二を争う威力の技だ。

それで体勢を崩すだけというのは、さすがにショックである。

 

……しかし、そんなことを考えている暇はない!

 

 

アラ「チッ……人の子の分際で我に逆らうか……!」

 

 

そう言うとアラハバキは、腕先に霊剣を創りだす。

 

 

アラ「―――『絶妙剣』」

 

 

ズギャァァッ!

 

 

先ほども見せた強力な一振り!

アラハバキは自らに覆いかぶさる巨大な要石を、たったの一撃で粉砕する!

 

そして返す刀で、要石からずり落ちた天子に斬りかかる!

 

 

天子「……ッ!」

 

 

間一髪、天子は回避に成功!

もし直撃していたら、手足の一本や二本吹き飛んでいただろう。

 

このままでは押し切られる!

なんとか隙を作らないと……!

 

 

天子「……なんなのよ、アンタ!いきなり現れて襲ってきて!

私達が何したっていうのよ!」

 

 

天子は相手の情報を引き出すため、会話を仕掛けることにした。

相手が反応してくれれば隙を狙えるかもしれない。

 

 

アラ「……何を今更。我らを遥か昔から封印し続けてきたのは貴様等ではないか」

 

天子「封印……?いったい何のことよ!」

 

アラ「何も知らないのか……。愚かなことだ」

 

アラ「……まぁ、そんなことはどうでもよい。

貴様が知ろうが知るまいが、我が役割を果たすだけよ」

 

天子「役割?アンタの役割って何なのよ!?」

 

アラ「封印結界を完全に破り、我が同胞たちを現世に解き放つ」

アラ「そしてこの腐れ切った国を蹂躙しつくし、我らで支配するのだ。我はその先駆けよ」

 

天子「……ッ!」

 

アラ「貴様は生贄だ。死して我らが戦の餞(はなむけ)となれ」

 

天子「何を勝手なことを……!」

 

 

天子にもようやく話が見えてきた。

どうやら幻想郷にはとんでもない化け物たちが封印されていて、

目の前のコイツはその封印を完全に解こうとしているようだ。

 

先鋒にしてこの戦闘力なのだから、

他の神々の力量も推して知るべしである。

 

……シンが戦っていたオオナムチも、コイツらの一派だったに違いない。

 

 

……しかしそれよりも、今は自分が生き延びることが最優先だ。

幸い会話で分かったことで、こちらに有利なことが一つだけある。

 

 

それは、コイツはこちらを完全に舐め切っているということ。

 

 

そこに付けこむ隙がある。

追い詰められたネズミがどれだけ恐ろしいか、思い知らせてやる。

 

 

天子「何言ってんのよ!

アンタ達みたいな訳の分からない奴らに、好き勝手されてやるもんですか!」

 

アラ「フン……。おとなしく殺されておけばよいものを……」

 

 

天子は逆上したふりをして、更なる油断を誘う。

あの一点、そこさえ狙えれば勝機が見えてくるのだ。

 

 

天子「アンタなんか、ぶっとばしてやるわ!!」

 

 

そう言うと天子は、あえてわかりやすい軌道で相手の方へ駆け寄る。

相手の出方は……

 

 

アラ「フン……雑魚が……」

 

 

動く気配はない。油断しきっている!

ここがチャンスだ!

 

 

天子「これでもくらいなさいっ! ―――『天道是非の剣』!!」

 

 

ズバァッ!

 

 

アラ「!?……なんだと!?」

 

 

アラハバキの足元まで移動した天子は、

緋想の剣に『大地の属性』の気質を籠め、跳躍しながらアラハバキを斬り上げた!

 

物理無効結界で攻撃を無効化できる、と高をくくっていたアラハバキ。

予期せぬ一撃をかわすことができずに、腕先に傷を負う。

 

 

よし……!

 

 

アラ「猪口才な……!」

 

 

そういうと、アラハバキは腕の先に魔力を溜め始める!

 

 

天子「!!!」

 

 

来る!さっきの氷結攻撃!

 

天子は先ほどの斬り上げ攻撃の直後で、未だ空中にいた。

このタイミングでは身をかわすことができない。

 

このままではアラハバキの強烈な『ブフダイン』が直撃し、やられてしまう!

 

 

……しかし、天子が待っていたのは、この一瞬だった!!

 

 

天子「―――『天啓気象の剣』!!」

 

 

天子は集中力を極限まで高め、自身の魔力を込めた緋想の剣を

アラハバキに向かって投げつける!

 

狙いは腕先の傷。先ほどの斬撃で付けた、ほんのわずかな傷……!

 

 

当たって―――!!

 

 

ズドッ!!

 

 

アラ「!!」

 

 

見事命中!緋想の剣がアラハバキに突き刺さる!

 

そして……

 

 

アラ「な、何事だ……!?」

 

 

緋想の剣はアラハバキが『ブフダイン』を放つために集中させた魔力を吸収、

さらに逆の属性、『炎の属性』に変換する!

 

先ほど天子が緋想の剣に込めた魔力は『属性反転』。

これを狙っていた!

 

 

アラ「グオオオオッ!!」

 

 

アラハバキにとっては炎属性は弱点!

自身の強烈な氷結の魔力が、反転して自らの内側へと向かう!!

 

 

天子「ダメ押しよ!喰らいなさいッ! ―――『全人類の緋想天』ッ!!!」

 

 

そう言うと天子は、自身の全魔力を込めた一撃を放つ!

 

狙いは緋想の剣!

 

天子の放出した魔力を緋想の剣に上乗せし、

剣から放たれる『炎の魔力』を増大させる!

 

 

アラ「ヌゥオオオオオオッ!!」

 

 

アラハバキの青い体が、炎の魔力の増大で赤熱、発光する!

 

 

ドガアアァァァン!!!

 

 

アラハバキは高熱に耐えきれず、爆発!

周囲に熱風が吹き荒れる!

 

 

……

 

 

天子「や……やったわ……!」

 

 

魔力を使い切ったことと、緊張が解けたことで、天子は膝をつく。

 

相手が油断していたとはいえ、一人で『伏ろわぬ神々』の一柱を倒したのだ。

大金星と言っていいだろう。

 

天子の顔に安堵の表情が浮かぶ。

 

 

 

……その時

 

 

 

―――『ペトラアイ』

 

 

 

天子「!!!」

 

 

収まりかけた爆炎の中から、一筋の光線が放たれ、天子に直撃する!

 

 

ピキキィッ

 

 

天子「何……からだ……が……」

 

 

なんと、アラハバキはあの爆発でも息絶えていなかった。

 

そしてこの技は相手を『石化』させる技。

 

抵抗する魔力もなく、まともに喰らった天子の体は、

見る間に石へと変わる。

 

 

天子「……」

 

 

意識はあるものの、完全に体は石化してしまった。

もう体を動かすことはおろか、声を出すこともできない……

 

 

……一方で爆炎が収まり、アラハバキが姿を現す。

先ほどまで鉄壁を誇っていたカラダは、見るも無残なありさまだ。

 

今もボロボロと崩れ、先は長くないことは誰が見ても明らかである。

 

 

 

アラ「……ウゴゴ……不覚をとった……」

 

アラ「しかし、我らが悲願は果たされる……

結界の破壊、我が最後のチカラをもって成し遂げようぞ……!」

 

 

アイツ、何かする気だ……

 

しかしそれが分かっていても何もできない。

どうしようもない……

 

 

アラ「さらばだ人の子よ……そして、この国の終わりが始まる……!」

 

 

アラハバキの崩れかけたカラダが光り輝く……!!

 

 

 

 

 

―――『 特 攻 』

 

 

 

 

 

あぁ、これは助からない。

こんなところでお終いなのか……

 

今までわがままばかり言ってすいませんでした……お父様、お母様

 

いつも勉強さぼって遊びに行って悪かったわ……衣玖

 

こんな奴らから守ってくれたのに、ひどいこと言っちゃってゴメン

 

 

……シン

 

 

 

 

 

―――カッ

 

 

 

 

 

アラハバキからは、半径数百メートルにも及ぶ爆風が発生した。

その爆風は洞窟内にとどまらず、

壁、天井を吹き飛ばし、山に大穴を開けるまでに至った。

 

当然結界の要石も消し飛び、裏・博麗大結界は完全消滅した。

 

 

・・・・・・

 

 

―――妖怪の山―――

 

 

??「ようやくかえ。待ちくたびれたぞ。それでは計画通り進めるかの」

 

 

 

―――地底―――

 

 

??「フハハ!随分待ったぞ、この時を!

結界の外で待っているのも飽いてきたところじゃ!」

 

 

・・・・・・

 

 

 

つづく




略称一覧

天子…比那名居天子(ひなないてんし)。幻想郷の天界に住んでいる、自由奔放な天人。たびたび人里に現れては、暇つぶしをしている。根はいい子。実は戦闘力はかなりのもの。

アラ…荒吐(アラハバキ)。封印されていた『伏ろわぬ神々』の一柱。大和朝廷に滅ぼされた古代の神。結界の裂け目から幻想郷に出てきた。千年以上結界内でマガツヒを蓄え続けてきたこともあり、オオナムチには及ばないものの、実力は非常に高い。いわゆるボス補正。

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