人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

22 / 28
あらすじ

チカラを合わせ、何とか天逆毎(あまのざこ)を再封印することができた3人。
しかし魔理沙は大きなダメージを負ってしまい、妖夢と共に戦線を離脱。

残った霊夢は封印を完成させ、文と天魔の元に援護に行くことにした。


第22話 幻想郷の一番長い日 11

霊夢・魔理沙・妖夢の3人と天逆毎の決着がつく少し前。

 

天魔と文は激闘を繰り広げていた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

天魔「喝ッ!!」

 

 

 

ガサガサッ!

 

 

 

天魔が印を結ぶと、辺りの木々がざわめき、葉が落ちる。

その葉は全て天魔の魔力により、鋭利な刃物と化している!

 

当然それは文に向かって襲い掛かる!

 

 

 

文「今更その程度で驚きはしませんっ!」

 

 

 

ヒュンッ!

 

 

 

風を切る音と共に、文の姿が見えなくなる。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

文は文字通り、目にもとまらぬ速さで空中を駆ける。

 

 

 

文は自身の持つ『風を操る程度の能力』をフル活用し、超高速機動を実現していた。

 

自分の目の前にある空気を、風に乗せ後方に流れさせる。

 

さらにその空気を後方に流し切るのではなく、

自身を押し出す方向へと変換、推進力へと変える。

 

 

つまりは

 

 

「文自身の推進力」

 

引くことの

 

「空気抵抗」

 

足すことの

 

「後方からの空気の推進力」

 

 

その答えは

 

 

―――『幻想郷最速』

 

 

ということだ。

 

 

しかもただ速いだけでなく、

風を流す方向を微調整することで、急旋回も可能。

 

おまけにその際、旋回後の進行方向へ風を流すことで、

慣性を加速のエネルギーに変換している。

 

 

要するに、信じられない話ではあるが、

 

 

「マッハに近い速度からブレーキなしで旋回、さらに曲るたびに加速が掛かる」 

 

 

ということになる。

 

 

 

風のように速い、という比喩ですら、かわいく思えるほどの速度。

 

到底人間の形状をした物体が出せるスピードではない。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

木の葉は文の飛行跡を追いかける。

 

何千、何万枚の木の葉が一斉に文を追いかける様は

まるで巨大な一体の生き物、龍の如し。

 

 

しかし文の速度は常識離れしたもの。

木の葉は追いつけず、見る間に距離が離れる。

 

 

それを見た文は、木の葉の龍に向き直る!

 

 

 

文「―――『烈風扇』!!」

 

 

 

ズババババァッ!!

 

 

パラパラパラ……

 

 

 

文の持つ手扇から強力な真空刃が発生!!

 

鋭利な木の葉でできた龍は、破裂し、元の木の葉に戻っていった。

 

 

 

文「そんな遅い攻撃など、私には届きません!」

 

 

天魔「やるではないか……だが」

 

 

 

天魔は印を組みなおし、魔力を高める!

 

 

 

天魔「喝!!!」

 

 

 

天魔からほとばしる魔力!

 

それと同時に空に雲がかかり、見る間に暗くなっていく!!

 

 

 

天魔「だが、雷よりも速く動くことはできまい」

 

 

文「……!!」

 

 

 

この人はどこまで規格外なんだ……!?

 

 

 

ゴロゴロゴロ……

 

 

 

文「……空にいるのはマズそうですね……!!」

 

 

 

天魔の言う通り、雷のスピードはさすがに超えられない。

 

その気になれば音は置き去りにできるが、雷には追い付かれてしまう。

 

 

スッ……

 

 

文は地面に降り立ち、天魔と対峙する。

 

天魔の事だから、ただ雷を落とすだけでなく、的確に自分を狙ってくるだろう。

 

攻撃をかわすのは、雷が落ちてからではもう手遅れだ。

雷を落とす天魔の一挙手一投足から、次の行動を読むしかない。

 

 

 

天魔「ずっと空を飛んでいるほど阿呆ではないか」

 

文「お褒めの言葉、どうも」

 

 

 

文は天魔の目を見る。

相手の目を見れば、次の行動が予測できるからだ。

 

……それにしても、意志を感じない瞳……全く、腹が立つ。

 

 

 

文「……攻撃は最大の防御―――『疾風扇』!」

 

天魔「……」

 

 

 

バシイッ!

 

 

 

天魔は文の攻撃を片手で受け止める。

 

 

 

天魔「そろそろか……」

 

 

 

天魔は目の前の文から目を離し、空の暗雲を眺める。

 

 

まさか……!

 

 

 

……ポツ……ポツポツ……

 

 

 

文「!!」

 

 

 

……ザザーッ!!

 

 

 

天魔は先ほど発生させた雷雲から、

バケツをひっくり返したような豪雨を降らせる!

 

 

 

文「……クッ!」

 

 

 

……ヒュオオッ

 

 

 

雨に濡れてしまっては、まともに飛ぶことができなくなる。

 

文は体の周りに風のフィールドを展開。

豪雨を受け流し、雨に濡れることを防ぐ。

 

 

しかし、それでも豪雨の中ではいつも通り飛ぶことができない。

 

風を操ろうにも雨の負荷が高すぎて、

能力の繊細な調整をしなければならないからだ。

 

 

……文の機動力はこれにより大幅に削がれた。

 

ならば次に来るものは……!!

 

 

 

天魔「かわせるものならかわしてみせよ」

 

 

文「……マズいっ!!」

 

 

 

 

ゴロゴロゴロ……

 

 

 

次に来るのは当然雷!!

 

ならばやることは一つ!!

 

 

 

ヒュンッ!!

 

 

 

文は高速で天魔に近づく!

 

いくら天魔といえど、雷に打たれてはひとたまりもないだろう。

 

つまり天魔の周辺には雷は落ちてこないということになる。

 

天魔に近づき、近接戦を仕掛けるのは得策とは言えないが、

今取れる選択肢はそれしかない!!

 

 

 

天魔「それしかない、であろうな」

 

文「!!」

 

 

 

天魔は文が動き始めるのとほぼ同時に、文の接近ルートに手のひらをかざしていた。

 

 

マズい!完全に読まれていた!

 

雷はまさかの囮で、こちらが本命!?

 

 

 

天魔「終いにしよう」

 

 

 

ゴウッ!!

 

 

 

天魔の手のひらから濃縮された空気の渦が放たれる!!

 

 

 

バシイッ!

 

 

 

文「……うあっ!!」

 

 

 

危機を察知して無理矢理に方向転換した文だったが、

完全に動きを読まれた攻撃だったこともあり、

かわし切れずに接触、空中に弾き飛ばされた!

 

 

 

天魔「よく粘ったが、ここまでよ」

 

 

 

天魔「喝!!」

 

 

 

ビカッ!!

 

 

 

空を覆う一面の雲から、特大の雷が文に向かって落ちる!!

 

 

 

文「しまっ……!!!」

 

 

 

ドドオォンッ!!

 

 

 

空が激しく光る。

 

 

 

ザザーッ……

 

パラパラ……パラ……

 

 

 

特大の雷が落ちた後、雨は上がり、雲は消え、空は元の晴天に戻った。

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

天魔「これで不穏分子も片付いた」

 

 

 

ひとり呟く天魔。

 

 

 

そこに空から一人の天狗がやって来た。

 

 

 

はたて「て、天魔さま……!!」

 

 

 

現れたのは、烏天狗長の元から駆け付けた、はたてであった。

 

天魔を探して飛んでいると、

いきなり暗雲が出現し、大雨、雷、と、

尋常でない事が起こっているのが見えたため、急いで飛んできたのだ。

 

 

 

天魔「おお……お前は、確か、烏天狗の姫海棠はたて(ひめかいどうはたて)だったな」

 

 

はたて「て、天魔様……先ほどの暗雲は一体……?」

 

天魔「あれか。大したことではない。不穏分子を排除しただけじゃ」

 

はたて「不穏分子って……まさか!!」

 

天魔「お前も知っている射命丸よ。高い実力を持ちながら、儂に歯向かうとはな」

 

はたて「そんな……文……うそでしょ……そんな……」

 

 

 

ズシャッ

 

 

 

はたては大雨で水浸しな地面に崩れ落ちる。

 

天狗の中でも親友といえるほど仲の良かった文が、

たった今死んでしまった。

 

信じたくなんてない。

しかし、天魔の言葉はそれが真実だと確かに伝えていた。

 

 

 

天魔「儂は今から幻想郷全土を縄張りとするために山を出る。お前もついて来い、はたて」

 

はたて「……」

 

天魔「さっさと立たんか」

 

 

はたて「……イヤです」

 

 

天魔「……何?」

 

 

 

はたては抑揚のない声でつぶやく

 

 

 

天魔「……貴様も奴と同じく、儂に逆らうのか?」

 

はたて「……そうじゃないです」

 

天魔「ならば何故断る」

 

はたて「……イヤなんです」

 

 

 

ぽろぽろ……

 

 

はたての目から涙がこぼれる

 

 

 

はたて「もうイヤなんです!天狗同士で戦うのは!!」

 

 

 

感情が抑えきれなくなったはたてが、震えた声で精一杯叫ぶ

 

 

 

はたて「同じ天狗で殺し合いして、文もいなくなって!

 

そこまでして縄張り広げてっ!

 

どうしようって言うんですかっ……!!」

 

 

 

目から溢れる涙もぬぐわず、思いのままを叫ぶ

 

 

 

はたて「最近はみんなおかしくなって!!

 

縄張り広げることしか頭になくって!!

 

こんなのが……

 

こんなのが普通になるなんて私やだよぉ……!!

 

前みたいに楽しく修行したり、新聞書いたりしたい……!!」

 

 

 

天魔「……何故……だと……?」

 

 

 

はたて「こんなの楽しくないっ……!!全然楽しくない……!!

 

お願いだから元に戻ってよぉ……天魔様……!!」

 

 

 

天魔「なぜ……?……縄張りを広げるのは天狗の使命……だから……

 

天狗の使命……なんだそれは……?」

 

 

 

はたて「て、天魔さま……?」

 

 

 

天魔「我らが……妖怪を支配するのが……最善……

 

支配……天狗が支配……?

 

何を……支配する……?」

 

 

 

天魔の様子がおかしい。

 

先ほどまでの機械のような冷徹さは消え、ブツブツと独り言を呟いている。

 

 

 

天魔「何が……支配……縄張り……なぜ……!!

 

……う、ウグッ……

 

……おオオオォォあああああアァァぁッッ!!!!!!」

 

 

 

はたての精一杯の訴えを受け、天魔は錯乱!!

 

内なる膨大な魔力が暴れだす!!

 

 

 

天魔「アアアッッッ!!!!」

 

 

 

ゴロゴロゴロ……

 

 

ビュオオオオウッッ!!!

 

 

メキメキメキィッ!!!

 

 

 

天魔の魔力の暴走に、

 

空は荒れ、風は逆巻き、竜巻が発生し、

 

周囲の木々や岩が引っぺがされて空中を舞う!!

 

 

 

はたて「う……あぁ……」

 

 

 

正に天変地異。この世の終わりかと思われる光景。

 

 

 

天魔「何故だあアアッ!!!オオオオオオッッッ!!」

 

 

 

ゴォウッ!!!

 

 

 

はたて「ひっ……!!」

 

 

 

呆気に取られて動けないはたてに、竜巻に巻き上げられた大岩が迫る!!

 

 

……その時

 

 

 

 

 

―――『烈風扇』!!!

 

 

 

 

 

ドガァンッ!!

 

 

 

放たれた真空刃が、はたてに迫る大岩を打ち砕く!

 

 

 

はたて「……その声!……その術!!……ウソ……!!」

 

 

 

まさか……まさか……!!

 

 

 

文「間一髪だったわね」

 

 

はたて「文ぁっ!!!」

 

 

 

なんと文は生きていた。

 

心の底からの喜びに、はたての目に再度涙が溢れる。

 

 

 

はたて「よかった……!よかったよぅ……!生きてたんだ……!」

 

 

文「そんな簡単に死んでたまるもんですか

 

……それより天魔様は一体どうなってるの?」

 

 

はたて「グスッ……わかんない……

 

……私が泣いちゃって、思ってることを天魔様に言っちゃっただけなんだけど……」

 

 

文「……そう。

 

私もよくわからないけど、はたての言葉が何かのきっかけになったみたいね」

 

 

はたて「……そうなのかな?」

 

 

文「ともあれ、この状況。なんとかしないと二人ともお陀仏ね」

 

 

はたて「ど、どうしよう……このままじゃ……!」

 

 

文「そんなことにはさせないわ。

 

……私が時間を稼ぐから、はたては天魔様を何とかして」

 

 

はたて「ええっ!?そんなっ!!無理だよっ!!」

 

 

文「あなたならできる。

 

私の声は天魔様には届かなかったけど、はたての声は届いたじゃない」

 

 

はたて「何が起こったか自分でもわかんないんだよ!?できっこないよっ!!」

 

 

文「もっと自分を信じなさい。私もはたてを信じてるわよ」

 

 

 

ビュンッ!

 

 

 

はたて「あ、文っ!!」

 

 

 

文ははたてに錯乱した天魔を任せ、荒れ狂う空に身を投げ出す。

 

 

 

文「さて……目の前に広がるは、

 

当たり一面に巻き起こる竜巻、舞い踊る無数の大木や大岩」

 

 

 

終末と見まごう光景を前に、文はニヤリと笑って見せる。

 

 

 

文「……面白い!……本気でいかせてもらいましょう!!」

 

 

 

文のカラダに魔力が迸る(ほとばしる)!!

 

 

 

文「見えるものならとくと見よっ!!我こそが幻想郷最速也!!」

 

 

 

 

―――『無双風神』ッ!!!

 

 

 

 

ヒュガッ!!!

 

 

 

文の姿が消える!

 

それと同時に空の至る所で衝撃波が発生!!

 

吹き飛ばされた木々や岩が、見る間にはじけ飛び、竜巻が次々と消滅していく!!

 

 

 

はたて「す、すごい……!!」

 

 

 

文は空中を亜音速で移動!

 

その超高速の中で、はたてに迫る危険物を吹き飛ばす!

 

目にも止まらぬとはまさにこのこと!!

 

 

 

天魔「オオオォォォアアアアアッ!!!」

 

はたて「でも……でも……!!どうしたらいいのっ!?」

 

 

 

文が頑張ってくれてはいるが、天魔を止めない限りこの地獄は終わらない。

 

必死で考えるも、はたてには、どうしていいかわからない!

 

 

 

……その時

 

 

 

 

ピロリン♪

 

 

 

 

はたて「!?」

 

 

 

何故かはたての持つ携帯型カメラから音が鳴る。

 

それを聞き、急いでカメラを取り出すはたて。

 

 

 

はたて「な、なにこれ……!!」

 

 

 

はたての目に写るのは、天魔の背後から撮られた写真。

 

 

その背中、羽根の付け根に、

どこからか伸びるドス黒い糸のようなものが見える!!

 

 

 

はたて「もしかしてこのせいで天魔様は……!!」

 

 

 

写真に写る黒い糸が元凶だと確信するはたて。

 

 

だが自分の実力では、

 

荒れ狂う空を飛び、天魔の後ろに回り込み、糸を切ることなどできない。

 

 

……方法は一つ。文にこの事を伝え、糸を断ち切ってもらうこと。

 

 

 

意を決し、はたては文に呼びかける!

 

 

 

はたて「文ぁーっ!!!

 

天魔様の羽根の付け根から見えない糸が出てるっ!!

 

それを狙ってぇーっ!!!」

 

 

 

普通であれば、亜音速で移動する文には、声など届くはずもない。

 

 

しかしはたてには確信があった。

 

強い思いを込めた声なら、どんな相手にでも届けることができるという確信が。

 

 

 

―――届いて……私の声!

 

 

 

文「……これは!?」

 

 

 

―――背中、羽根の付け根を狙って

 

 

 

聞こえないはずの、はたての声。

 

しかし、文の耳には確かにはっきりと聞こえた!

 

 

 

文「……届いたわ、あなたの声!」

 

 

 

ビュオッ!!

 

 

 

文は高速を維持しつつ、天魔に背後から接近!

 

その背中に真空刃を放つ!!

 

 

 

バシィッ!!

 

 

 

天魔「グオッ!!……ヌアアアアアッ!!」

 

 

 

天魔は激しい雄叫びを上げ、一層苦しみだす!!

 

 

 

天魔「アアアあぁ……」

 

 

 

そして糸が切れた操り人形の如く、その場に倒れ込んだ。

 

 

 

ヒュオオオオ……

 

 

 

それと同時に荒れ狂っていた天候も元に戻り、再度空は晴れ渡った。

 

 

 

はたて「終わった……の……?」

 

 

文「……やれやれ、台風一過、というところですね」

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

天魔「……ここは……?」

 

 

 

数分の後、天魔に意識が戻る。

 

 

 

はたて「よ、よかった!天魔様、意識戻ったよ!!」

 

 

 

目の前には半泣きの烏天狗、姫海棠はたて(ひめかいどうはたて)の姿がある。

 

 

 

文「だから言ったでしょう。この程度でこの人が死ぬわけないって」

 

 

 

そして空中から、ボロボロの格好をした、烏天狗の射命丸文が下りてくる。

 

 

 

天魔「ふむ……どうやら……二人には迷惑をかけてしまったようだ……」

 

 

はたて「!! 天魔様! 元に戻られたのですか!?」

 

天魔「……ああ。今まで悪い夢の中にいたようだ……」

 

はたて「よかった……!本当によかったっ……!!」

 

 

 

はたては緊張の糸が切れ、またもや涙を流す。

 

 

 

文「大丈夫だ、とも言ったじゃないですか。

 

念写で天魔様から例の糸が消えてるって確認したんでしょう?」

 

 

はたて「うん……うん……!! よかったよぉ……!!」

 

文「やれやれ……」

 

 

 

泣きじゃくるはたてを前にして、文は半ば安心して、半ば呆れている。

 

 

 

天魔「文……よく生きていてくれた……

 

儂は確実にお前を仕留めた気でおったのに……」

 

 

文「これですよ」

 

 

 

そういうと、文は真っ黒になったカメラとフィルムの筒を取り出す。

 

 

 

天魔「……それは?」

 

 

文「記者の命、カメラとフィルムです。

あの時は本当にダメかと思ったんですがね。とっさにこれをバラまいたんですよ。

おかげで雷はそちらに逸れ、落雷の衝撃で私は木の中に吹き飛ばされたんです。

 

……一か八かでしたが、間一髪、賭けに勝ちました」

 

 

天魔「そうだったのか……とにかく生きていてくれて何よりだ……」

 

 

はたて「ぐすっ……ひっく……」

 

 

文「天魔様。乙女を泣かせるとか、男として最低ですよ。

何か私達に言わなくちゃいけないことがあるんじゃないですか?」

 

 

天魔「……ああ」

 

 

 

文の言葉を受け、天魔ははたての肩に手を置く。

 

 

 

天魔「はたてよ、心配かけて本当にすまんかった。この通り、謝る」

 

 

 

そう言うと天魔は、はたてに頭を下げる。

 

封建的な天狗社会で、組織のトップが、いち烏天狗に頭を下げるなど

本来はありえないことである。

 

 

 

はたて「や、やめてくださいっ!天魔様!!畏れ多いです!」

 

 

 

その姿を見て、はたては慌てて泣き止む。

 

 

 

天魔「いや、何も畏れ多いことではない。

儂は組織の長でありながら、恥ずべきことをしてしまった。

 

このまま儂が暴走していれば、天狗は幻想郷の敵となり、

いずれは全滅していたことだろう。

 

それを止めてくれた二人に感謝するのは当然だ」

 

 

はたて「……とても心配しました」

 

天魔「本当に……本当にすまんかった。そして……ありがとう。

お前のおかげで儂は自分を取り戻すことができた」

 

 

 

以前の厳しくも優しい天魔に戻ったのを見て、はたては安心する。

 

それと同時に、ある疑問が浮かぶ。

 

 

 

はたて「そういえば……どうやって、天魔様はご自身を取り戻されたんですか……?

私のおかげということですが、何もできなかったと思うんですけど……」

 

天魔「何もできなかったなど、とんでもない。

あれは、自らの心を声に乗せ、相手の心に映す、言霊術だ」

 

はたて「げんれい……じゅつ…」

 

天魔「そう。天狗の中でも数名しか会得していない、特別な法力。それが言霊術」

 

はたて「ちょ、ちょっと待ってください!!

私そんな高等な術なんて、まだ会得していませんよ!?」

 

天魔「積み上げられたものが、実践で形となるのは、稀にあることだ。

……お前は『念写する程度の能力』を有していたな?」

 

はたて「は……はい。でも何の関係が……」

 

天魔「『念写』の本質は、『目に見えないものを映し出す』行い。

千里眼の術とは似ているようで全く違う。

そして、一番の目に見えないものとは、心」

 

はたて「心……」

 

天魔「左様。言霊術も同様、自らの心を相手の心に映す術。

元々お前には言霊術を会得する素養が十二分に備わっていたのだ」

 

はたて「でも……言霊術の修行なんて、全然したことないのに……」

 

天魔「修行ならしておったのだ。気が付かないうちにな」

 

はたて「ええと……どういうことなんでしょうか?そんなことってあるんですか?」

 

天魔「お前も新聞記者のひとりだったな」

 

はたて「……はい」

 

天魔「では、新聞を作るときに、何を思って作っておる」

 

はたて「ええと……記事を面白くしようってのはもちろんなんですが、

どうやって書いたら、読んだ人が分かってくれるかな、とか、

どういう見た目にすれば読みやすいのかな、とか、

そんなことを考えています」

 

天魔「それはつまり、考え続けておったということだ。

『自分の思いを相手の心にどうやったら届けられるのか』ということをな。

 

言霊術の修行に、これ以上適したものはない」

 

はたて「そうだったんだ……」

 

天魔「お前が一所懸命に新聞を書き続けていたことが、

ひいては天狗の将来を救うことに繋がったのだ。

 

改めて、本当にありがとう」

 

 

 

そういうと再度、天魔ははたてに頭を下げる。

 

 

 

はたて「や、やめてくださいよぅ!やっぱり畏れ多いですからっ!」

 

 

 

はたては恥ずかしがって、おろおろしている。

 

それを見かねて、横で一連の会話を聞いていた文が口を挟む。

 

 

 

文「天魔様、私は?」

 

天魔「ム、なんだ?」

 

文「だから。わ・た・し・は?」

 

天魔「文にも当然、謝罪と感謝の気持ちがある

すまなかった。そして、ありがとう」

 

文「なんかついでっぽくて、はなはだ遺憾ですねぇ……」

 

天魔「そんなことは決してない。

お前が命がけで儂を足止めしてくれていなければ、大変なことになっていた」

 

文「はたてに対する扱いよりも、

私に対する扱いが軽いんじゃないですかぁ……?

こんな可憐な乙女が、命まで張ったっていうのにぃ……?」

 

 

 

文は不満を感じているようだ。

じとーっ、とした目で天魔のことを見ている。

 

 

 

天魔「ムッ……」

 

文「やっぱりこういう時は言葉よりも行動で示してほしいですよねぇ……

そうでしょう?はたて?」

 

はたて「ちょ、ちょっと文!!天魔様、困ってらっしゃるじゃない!」

 

文「操られてたからって、乙女に手を上げるような輩は困らせてやればいいんですよ」

 

はたて「ひぇぇ……アンタよくそんなことが……」

 

 

 

あまりにも無礼な態度に、はたては戦々恐々としている。

 

 

 

文「ということで、天魔様。私の要望を聞いてください」

 

天魔「……わかった。なにが望みだ?」

 

文「色々ありますけど、まずは……そうですね。

私達の修行を専属で見ていただきたいです」

 

はたて「!?」

 

文「それくらい大したことないでしょう?受けてくださいますよね?」

 

天魔「ああ。問題ない。

儂も今回の事で己の未熟さを痛感した故、一から修業をし直そうと思っていた。

お前たちを見ることも大きな修行となるだろう」

 

はたて「い、いい、いいんですかっ!?」

 

 

 

天狗にとって修業とは特別なもの、生きる目的の一つといってもいい。

それを遥かに格上の天魔に毎回見てもらえるなんて、とんでもなく幸福な事なのだ。

 

 

 

天魔「もちろんだ。むしろお前たちの実力にも興味がある。

こちらからも頼みたいところだ」

 

はたて「あ、ありがとうございますっ!!」

 

文「うわぁ……

私達みたいな綺麗な女の子に興味があるって言ってますよ。

ちょっと引きますねぇ……」

 

天魔「そういうつもりではない」

 

文「わかってますよ。ちょっとからかっただけです」

 

はたて「アンタ心臓が鉄かなんかでできてんの……?」

 

文「こういう時じゃないと、こういう態度とれないので、楽しまないと損ですよ

……ではもう一つ」

 

天魔「……なんだ」

 

文「私達の新聞に『天魔愛読』の印を入れさせてください。

あ、『天魔公認』でもいいですよ?」

 

はたて「!?!?」

 

 

 

『天魔愛読』。それすなわち、種族の長の愛読新聞だという証。

封建社会では、いや、封建社会でなくとも、

そんな印が付いていれば、誰しもが興味を持つというもの。

 

新聞記者にとって、これ以上のお墨付きはない。

 

 

 

天魔「ム……それは流石に……公平性に欠ける」

 

文「へ~。天魔様は受けた恩を返せないっていうんですかぁ?

 

自分が起こした不始末で、天狗の将来を潰しかけたんですよね。

それを防いだ私達には感謝はすれど、なにか形にする必要はない、と」

 

天魔「……」

 

文「天魔様はもっと誠実で、尊敬できる方だと思っていたんですがねぇ……

あぁ、残念です……」

 

はたて「あわわわ……」

 

 

 

無礼を通り越して、ケンカを売っているレベルの態度に、

はたては恐れおののいている。

 

 

 

天魔「……わかった。認めよう」

 

はたて「うえぇ!?そんな、大丈夫なんですかっ!?」

 

天魔「よい。ただし条件がある」

 

文「その条件とは?」

 

天魔「本当に儂の愛読新聞にする。これならばウソをつくことにはなるまい」

 

はたて「……へ?」

 

文「まぁ当然ですね」

 

天魔「毎回儂が読んでいることを意識して、新聞を書いてくれれば、それでよい。

良き記事を期待しているぞ」

 

文「私の新聞の記事は、毎回素晴らしいですからね。問題ないでしょう。

よかったですね、はたて」

 

はたて「畏れ多い……畏れ多いわ……」

 

文「全く……チャンスは活かしてなんぼですよ、はたて」

 

はたて「ああもう!飛び上がるくらいうれしいけど、唐突すぎるのよ!!」

 

天魔「言霊術を会得したお前の記事が、どうなっていくのか楽しみだよ」

 

 

 

そう言うと天魔はニッと笑ってみせる。

 

 

 

はたて「は、はひっ!精進します!!」

 

 

 

はたては、物凄い幸福と、物凄い重圧で、

どんな顔をしたらよいかわからないでいる。

 

 

 

文「ム。同じくらい私の記事も楽しみにするといいでしょう。

 

……さて、あまりにも必死で頭から抜けていましたが、

そういえば、霊夢さん達は大丈夫なんでしょうか」

 

 

はたて「そうだった!私も忘れてたわ!!」

 

天魔「霊夢……博麗の巫女か……」

 

文「そうです。天魔様を操っていた黒幕を倒しに行ってくれたんですよ」

 

天魔「そうだったのか……しかし、いや、この感じは……」

 

文「どうしたのですか?何か思うところでも?」

 

天魔「儂を操っていたのは。天狗の始祖、天逆毎(あまのざこ)だ」

 

文「……は?」

 

天魔「この地に永く封印されていた神の一柱だ」

 

文「それはマズくないですか!?

天逆毎だなんて、いくら霊夢さん、魔理沙さん、妖夢さんの3人でも厳しいでしょう!」

 

天魔「儂もそう思うのだが、天逆毎の気配を探ってみると、感じ取ることができない」

 

はたて「え……?もしかしてそれって……」

 

天魔「信じられんが、その3人、天逆毎に勝利したのだろう」

 

文「なんと……」

 

天魔「……大きな借りができてしまったな」

 

文「流石博麗の巫女とその仲間、といったところでしょうか。脱帽ですね」

 

はたて「じゃあ……じゃあこれで、本当に終わったの……?」

 

文「完全勝利ですよ、はたて」

 

天魔「二人とも、ご苦労であったな」

 

はたて「やったーーー!!

本当にどうなることかと思ったけど、よかったーーーっ!!」

 

 

はたては泣き笑いしながら、万歳をする。

これで本当に妖怪の山からは危機が去ったのだ。

 

 

天魔「フフフ……さてと」

 

文「? どこに行かれるのですか?」

 

天魔「儂にはまだやらねばならないことがある。

 

多くの天狗は操られた儂が操っていたのだが、自らの意思で儂に従っていた者もおる。

そ奴らを止めに行かねば」

 

文「成程」

 

天魔「では二人とも、本当に大儀であった!感謝するぞ!」

 

はたて「は、はいっ!こちらこそ、ありがとうございましたっ!」

 

文「ふふっ。さっさと行ってきてください」

 

 

 

飛び立つ天魔を見送る二人。

その空はどこまでも広く、晴れ渡っていた。

 

 

 

つづく




略称一覧


はたて…姫街棠はたて(ひめかいどうはたて)。鴉天狗であり、新聞記者でもある。引きこもりがちなのに新聞が書けるのは、念写能力を持つおかげ。今回の異変では縄張り拡大反対派。実は戦闘のポテンシャルが高いうえ、なんだかんだ修業はまじめにやっているため、なかなかに強い。

文…射命丸文(しゃめいまるあや)。鴉天狗であり、新聞記者でもある。よく人里に下りて無茶な取材をしたり、信ぴょう性の低すぎる記事を書いたりしている。しかしその行動は、天狗というものを世間に周知させ、天狗社会に新たな風を吹かせたい、という願いもあってのこと。まあ9割趣味だが。本編で言っていたように天狗の中でも幻想郷の中でも実力はトップクラス。

天魔…天狗ヒエラルキーのトップに立つ存在。戦闘力をはじめ、外交力、統率力、内政力、ほぼすべての分野で比類なきチカラを持つ。もちろん幻想郷全体から見ても、その実力はパワーバランスの一翼を担うほど。普段は深い洞察力と慎重に事を運ぶ冷静さで天狗社会を支えている。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。