人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

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あらすじ

天魔を止めようと、必死に戦闘をする文。
一度は敗れてしまうものの、はたてと協力し、天魔を正気に戻すことに成功する。

天逆毎は封印され、天魔も元に戻った。

これで妖怪の山の異変は無事解決した。

(実は守屋神社でもひと騒動起こっていたのですが、
話のテンポを重視するため、そのお話はいつかおまけで書こうと思います)


第3章 真実
第23話 優しき破壊者


天子「……ここは」

 

 

 

……体が重い

今まで寝ていたのだろうか……

 

天子はゆっくりと、布団から体を起こす。

 

 

 

??「目が覚めたか」

 

天子「……?」

 

 

 

目の前には、見慣れぬ妖怪があぐらをかいている。

 

 

 

天子「ここは……どこ? 私、死んだんじゃ……

もしかして、あの世……?」

 

 

??「……記憶が曖昧なようじゃのぅ。安心せい、お主は生きておる」

 

天子「……そう」

 

 

 

……頭も重い

随分疲れているようだ……

 

 

 

??「最後の一滴まで魔力を使い果たしたのなら、まぁ、無理はないな」

 

天子「……」

 

??「無理に思い出そうとせんでもよい。ゆっくりと意識を覚ましていけ」

 

天子「ええ……わかった……」

 

 

 

どうやら目の前の妖怪は、何があったか知っているらしい。

 

徐々に輪郭を取り戻していく意識の中、

となりに誰かが寝ているのに気が付く。

 

 

 

天子「……?」

 

??「この九尾もお主と一緒に運んできたぞ。あやつに頼まれたからのう」

 

天子「九尾……」

 

 

 

九尾……だんだんと思い出してきた……

この妖怪は、八雲紫の式、九尾の狐、八雲藍。

 

一緒に運ばれてきた……そう、確かあの時……

 

 

 

天子「……あの時、私は石にされて……爆発に……巻き込まれて……」

 

 

 

私はアラハバキと戦い、相打ちになったんじゃなかったっけ……

 

それがなんで……こんなところで寝てるんだろう……?

 

 

 

??「だんだんと意識が戻ってきたようじゃな」

 

 

 

……確かにあの時、自分は石になって、爆発で死んでしまったはず……

 

 

天子が重い頭でゆっくりと記憶をたどっていると、

自分の右手に何かが握られていることに気づく。

 

 

 

天子「……これは……?」

 

 

 

これは……石?

 

 

握っていたものは、手のひらに収まるサイズの、何の変哲もない石だった。

 

 

 

??「それは魔石じゃ。

……といっても、今は魔力を失った、ただの石ころじゃがな」

 

天子「……魔石……?」

 

??「ウム。シンの奴が、自身の魔力を込めてお主に渡したものじゃ。

それのおかげで、今のお主は体力も魔力も回復している」

 

天子「……シン」

 

 

 

シン……そうだ、確かあの時……

 

 

覚醒を始めた頭に、だんだんと記憶が蘇る。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

―――時はさかのぼり、裏・博麗大結界が破壊される直前。

 

アラハバキが命を賭した『特攻』を発動した瞬間……

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

天子「(あぁ……ここまでなのか……)」

 

 

 

天子は、石化し、指一本動かせない体で、最後の時を受け入れる。

 

 

 

天子「(……さよなら、みんな)」

 

 

 

 

 

カッ!!

 

 

 

 

―――ドゴオオォォォン!!!!

 

 

 

 

 

アラハバキの『特攻』が発動。

 

周囲のものは一切合切破壊され、山肌さえも吹き飛ばされた。

 

 

 

「―――!!」

 

 

 

天子の目の前が真っ白になる。

 

 

ああ、これが死ぬってことなのか……

思ったより痛くなかったな……

私は本当の天国に行けるのかなぁ……

死んでまで変わらない毎日は過ごしたくないなぁ……

 

 

天子はこの真っ白い景色が、死後の世界だと認識した。

 

 

 

??「任・務・完・了……」

 

 

 

……しかし、その真っ白い景色は、死後の世界でも、天国でもなかった。

 

 

 

シン「すまないな、アルビオン。蘇らせた後に、何か願いを聞いてやる」

 

アル「オォ……多・幸・多・福……!!」

 

 

 

目の前の白い景色が、徐々に薄れ、透明になっていく。

 

先ほどの爆発で景色は一変したようだが、

間違いなくそこは、天子が激闘を繰り広げた、あの洞窟だった。

 

 

 

天子「(あれ……何が……起こったんだろ……)」

 

 

 

目の前に、一人立っている者が見える。

 

全身を覆う発光するイレズミ、後頭部から延びた鋭利なツノ……

 

あの姿……!!

 

 

 

天子「(……シン!!)」

 

 

 

何故貴方がここに?

 

何故このタイミングで?

 

先ほどの白い壁は?

 

何故私は生きているの?

 

 

 

色々と思いを巡らせていると、

シンは石化した天子に近づき、何かをポケットから取り出し、掲げる。

 

 

 

シン「―――『ディストーン』」

 

 

 

シンが何かを掲げると、その手から光が発生。

天子に吸い込まれていく。

 

するとなんと!

完全に石化した天子の体が、徐々に元の生身に戻っていく!

 

 

 

ドサッ

 

 

 

石化が回復し、地面に倒れそうになる天子を、シンが抱きかかえる。

 

 

 

シン「よかった……間に合ったみたいだな」

 

天子「あんた……なんで……」

 

 

 

チカラを使い果たした天子は、薄れゆく意識の中で、シンの顔を見る。

 

 

 

 

……なんで……そんなに悲しそうな顔をしてるんだろう……?

 

 

 

 

シンは天子をそっと地面に降ろし、

またポケットから何かを取り出す。

 

 

 

シン「……これは『魔石』だ。

これを持っていれば、体力が徐々に回復する。

 

これでゆっくりとカラダと心を休めるんだ」

 

 

 

そう言うと、天子の右手に優しく光る石を握らせる。

 

 

 

―――あったかい……とっても……

 

 

 

天子に魔石を渡したシンは、右手を宙にかざす。

 

 

 

シン「召喚―――『タケミカヅチ』!!『セイテンタイセイ』!!」

 

 

 

バシイィッ!!

 

 

 

稲光と共に、二体の悪魔が出現する。

 

 

 

タケ「オウ、また俺の出番か?」

 

セイ「儂が呼ばれるのも久々じゃのう」

 

シン「二人とも、呼び出して早々ですまないが、頼みたいことがある」

 

タケ「なんだ?言ってみろ」

 

シン「そこに倒れている少女を人里まで送っていって欲しい」

 

セイ「なんだそんなことか。お安い御用じゃ」

 

 

 

シンが連れていって欲しいという少女に、二体の悪魔は目を向ける。

 

 

 

タケ「……この嬢ちゃんは……いいのか?シン」

 

シン「……ああ。

……それと奥にもう一人倒れているから、あの子も一緒に連れていってやってくれ」

 

セイ「儂の筋斗雲ならそれくらい朝飯前じゃが、なんでタケミカヅチも呼んだのじゃ?」

 

シン「人里までの道案内を頼もうと思ってな。

今人里にはピクシーとガラクタ君がいる。

タケミカヅチは最近二人に会ってるから、気配をたどりやすいだろう」

 

タケ「成程な。確かに最近会った悪魔の魔力なら探りやすい」

 

セイ「それだったらシンが案内してくれればいいじゃろうに……というのは野暮か」

 

タケ「……そうだな」

 

シン「……わかってるなら頼んだぞ。こっちはボクが何とかする」

 

 

 

そう言うと、三体の悪魔は、アラハバキが爆発した後の空間へと目を向ける。

 

空間は歪み、結界は破壊され、

その歪みの中から強烈な魔力が迸って(ほとばしって)いる。

 

強力な何かが出てくるのは、時間の問題だ。

 

 

 

タケ「それじゃな、シン。武運を祈るぜ」

 

セイ「こちらは儂らに任せて、思いのまま暴れてやれい」

 

 

 

別れの挨拶を済ませると、天子と藍を筋斗雲に乗せ、

二体の悪魔は洞窟を去っていく。

 

その去り際に、シンは天子に声をかける。

 

 

 

シン「……生きていてくれてありがとう……さようなら」

 

 

 

……なんて寂しそうな「ありがとう」だろう……

 

……なんでそんなに悲しそうなんだろう……

 

 

 

天子はそのまま体力の限界を迎え、気を失った……

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

天子「思い出した……私はシンに助けられて……」

 

 

 

記憶が戻った天子は周りを見渡す。

 

ここはシン達が拠点にしていた宿屋だ。

 

 

 

セイ「記憶が大分蘇ってきたようじゃな」

 

天子「ええ……まだ頭は痛いけど……」

 

セイ「その程度の頭痛で済めば安いもんじゃ。

本来、魔力を使い果たした状態からの回復には、壮絶な跳ね返りがつきものだからのう」

 

天子「そういうものなの……」

 

セイ「そういうもんじゃよ。

シンからもらった魔石が、自然回復力を高めていたからその程度で済んどる」

 

天子「そう……」

 

 

 

天子は、右手に持つ、今はただの石ころとなった魔石をギュッと握る。

 

 

 

藍「……ううん」

 

セイ「おっ、こちらもお目覚めか」

 

藍「……ここは一体……私は何故ここに……」

 

セイ「どうじゃ?記憶はあるか?」

 

藍「……ああ。てっきり私は、爆発に巻き込まれて死んだと思っていたが……」

 

セイ「そこまで把握できているのなら上々。流石は九尾といったとこかのう」

 

藍「……あなたが助けてくれたということなのか?」

 

セイ「儂はお主らを運んだだけじゃよ。

助けたのはシン……人修羅といった方が分かりやすいか?」

 

天子「人修羅……?」

 

藍「それは……聞いたことがないな……」

 

 

 

聞きなれないワードに、二人は首をかしげる。

 

 

 

セイ「フム……二人とも知らんのか。ならば儂から説明してやろう」

 

藍「そうしてくれると助かる……」

 

セイ「お主のご主人が寝込んでいるのにも関係する話じゃからな。

知っといた方がいいじゃろう」

 

 

 

そのセリフを聞くやいなや、

藍は布団から身を乗り出し、目の前の妖怪に問いかける!

 

 

 

藍「ご主人……紫様の事を知っているのか!?」

 

セイ「ああ。儂の千里眼に見えんものはない。把握しておるよ」

 

藍「教えてくれ!何故紫様はあんなにも疲弊しているのだ!?」

 

セイ「まあ落ち着け。

結論から言うとな、お主の主人は、

シン……人修羅のチカラを封印するのに、自身の魔力の大半を割いておる」

 

藍「な……そんなこと私は聞いていない!」

 

セイ「教えたくなかったんじゃろ。

かわいい我が子のようなお主を、危険に巻き込みたくなかったんじゃろうな」

 

藍「そんな……そうだったのか……」

 

 

 

紫が憔悴しきっている真相を知らされた藍は、落ち込んでいる。

 

自分のことを心配してくれている優しさは嬉しいが、

もっと自分を信じて、頼ってほしかった。

 

 

 

藍「いや、しかし……

紫様はこの幻想郷でも一、二を争う大妖怪だぞ!

いくら強力な相手でも、

封印をかける程度でチカラの大半が持っていかれるはずはない!!」

 

セイ「フム……ま、それはこれからする話をすれば、嫌でも納得するじゃろ」

 

天子「これからする話……?」

 

セイ「そう。あやつはこの話をされるのは好きじゃないとは思うが、

儂としては関係するものには知っていて欲しいのでな。

 

……特にお主には」

 

 

 

そういうと、セイテンタイセイは天子に指を向ける。

 

 

 

天子「えっ……?私に……?」

 

セイ「そう。シンが久しぶりに心を許した人間じゃ。

あやつの仲魔としては、お主に真実を知ってもらうのは、重要な事なんじゃよ」

 

天子「私も……知りたい。

シンに何があったのか……あいつが何者なのか……」

 

セイ「ならばよし。

儂らがいる世界は、ボルテクス界といってな……」

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

シンが目覚めたのは、

クラス担当である裕子先生のお見舞いに行った病院。その病室だった。

 

そのカラダには見慣れない模様。後頭部には人間の時には無かったツノ。

 

そして、内から湧き上がる、悪魔のチカラ。

 

 

ごく普通の生活を送っていた高校生、間薙シンは、

東京受胎を経て、悪魔王・ルシファーに目を付けられ、半人半魔の魔人となった。

 

 

 

幸いにして、彼は悪魔の蔓延るトウキョウで戦い抜くチカラを得た。

 

 

 

いや、それは間違いだ。

 

 

 

不幸にも、彼は東京受胎で命を落とさず、悪魔のチカラを手にし、生き延びてしまった。

 

 

 

こう言った方が正しい。

 

 

 

 

……何故なら、心の優しい彼は、何一つ捨てることができなかったから。

 

 

 

 

 

 

……彼の辿ってきた道は、生き地獄と言うのも生温いものだった。

 

 

 

 

友の願いをかなえようと必死に行動した。

 

しかし、いつも間に合わなかった

 

 

 

少しでも友のチカラになろうと、立ちはだかる敵を、傷つきながらも討ち倒した。

 

しかし、こちらを向いてもらうことはできなかった。

 

 

 

あまりにも残酷な世界に傷つけられる友を、助けてやりたかった。

 

しかし、彼の声は届かなかった。

 

 

 

傷つき、歪んだ思想を持ってしまった友に、踏みとどまってほしかった。

 

しかし、何も創り出せない彼には、伝えられる言葉などありはしなかった。

 

 

 

自由な世界を望む恩師に、一筋の希望をかけた。

 

しかし、希望はまがい物で、それを信じた恩師は目の前で霧と消えた。

 

 

 

何かを得ようと死に物狂いで、死の魔人たちを退けた。

 

しかし、得られたものは、何も生みださない更なる破壊のチカラだった。

 

 

 

かつての面影すら無くなった友と、最後の望みをかけて対峙した。

もしかしたら、もしかしたら、また共に歩めるのでは、と。

 

しかし、破壊のチカラしか残っていない彼には、

止めを刺す、という結末しか残されていなかった。

 

 

 

神の化身に対して、世界を元に戻すことを訴えようとした。

 

しかし、破壊の霊となり下がっていた者など相手にされず、永遠の呪いを受けた。

 

 

 

唯一神に対し、呪われた運命を変えようと挑み、幾多の危機を乗り越えながら勝利した。

 

しかし、得るものはなかった。何一つ。彼が望んだものは。何一つ。

 

 

 

 

……傷つき、ボロボロになり、血の涙を流し、彼はつかもうとした。

 

 

 

在りし日の平穏を。

 

 

 

しかしそれはもはや過ぎ去りしもの。

 

二度と目の前に現れることはないもの。

 

 

 

そんなもの所詮はまやかしだった。彼もそれはわかっていた。

 

 

 

しかし、あまりにも優しい彼は、その光景を捨てることなどできなかった。

 

 

 

……間に合わなかった。救えなかった。創れなかった。

 

 

 

誰一人。

 

何一つ。

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

セイ「……かいつまんで話すと、そんなところじゃな」

 

 

天子「……なんなのそれ……そんなのってないよ……」

 

藍「まさかそんな……信じられん……」

 

 

 

何一つ救いがない話。

 

希望はすべて絶望で上書きされ、

その世界を生き続けなければならないというのだ。

 

 

世界丸々一つを使って蟲毒(こどく)を行い生まれた悪魔。

 

それが、人修羅・間薙シン。

 

 

セイ「さて……その事実を知り、納得できたか?九尾よ」

 

藍「……信じられない話だ。いくらなんでも……」

 

セイ「まあ致し方ないか。では信じてもらおうかの」

 

藍「……なんだと?」

 

 

 

セイテンタイセイはそう言うと、自分の髪を引き抜き、息を吹きかける。

 

すると、その髪の毛はみるみるうちに、小さなセイテンタイセイへと変わる。

 

 

 

藍・天子「!?」

 

セイ「儂の名はセイテンタイセイ。孫悟空といった方が聞き覚えがあるか?」

 

藍「せ……斉天大聖……!?」

 

天子「ウソ……」

 

 

 

目の前にいる猿の妖怪が、あまりにも大物だと知り、二人は目を丸くする。

 

 

 

セイ「その反応を見るに、さすがに儂の事は知っているようじゃのう」

 

藍「当然知っている……!

天界で大暴れして、天部の誰もが止められなかった伝説の神仙ではないか……!!」

 

セイ「まあ若いころはヤンチャしていたからのう。

……その儂だが、今やシン、人修羅の仲魔として、行動を共にしておる」

 

藍「なんだと……!?」

 

セイ「さらに言えば、儂の実力ではシンには敵わんぞ?

だからこそ仲魔として付き従っている、ということなのだが」

 

藍「確かに、貴方からはとんでもない魔力を感じる……信じるしかないだろうな……」

 

セイ「賢明じゃ。

これでお主の主人が息も絶え絶えになっているわけがはっきりしたろう?」

 

藍「……」

 

セイ「……そこで一つ提案じゃ。聞いてもらえるな?」

 

藍「……一体なんでしょうか」

 

 

 

唐突なセイテンタイセイの申し出に、藍は身構える。

 

 

 

セイ「お主の主人がシンに施している封印。それを解いてもらいたい。

さすればお主の主人の状態もよくなるぞ?」

 

藍「……それは……私の判断では、結論を出せません」

 

セイ「あの程度の封印なら、シンはいつでも破れるぞ?

それをしなかったのは、あやつが義理堅いからじゃ。

約束はどんなものでも守ろうとするからのう」

 

藍「それでも……私の判断で、首を縦に振ることはできません」

 

セイ「強情じゃのう」

 

藍「申し訳ありません」

 

セイ「……ならば、悪魔的に行こうかのう」

 

藍「ど、どういう事ですか……!?」

 

 

 

セイテンタイセイの不穏な発言に、藍は身構える。

 

 

 

セイ「何、大したことではない。

そもそもシンを封印したのは、あやつのチカラが強すぎて、

お主の主人では制御できんからだろう?」

 

藍「そう……なんでしょうか」

 

セイ「そうじゃとも。なんなら後で確認してみい。

自身の命を縮めてまで、封印を施したのは

この地を守るための苦渋の決断だったのだろう。あっぱれな心意気じゃ」

 

藍「……」

 

セイ「しかし先ほどの話を聞いて、

あやつが理由もなく破壊して回るような存在ではないとわかったはずじゃ」

 

藍「……ええ」

 

セイ「ならば封印を解くことに問題はあるまい」

 

藍「しかし……私では決められない」

 

セイ「もっとお主は自信を持ったらいいと思うんじゃがのう……

しかしまあ、そういう答えを出すと思っていたよ」

 

藍「では……」

 

セイ「しかし儂も、あやつに危険が及ぶ今の状況では、引き下がらん。

そういう事ならば、封印を解かねばならん状況にするまでよ」

 

藍「……!!」

 

 

 

セイテンタイセイから放たれる魔力に、不穏なものが混じる。

 

藍はそれを感じて、さらに身構える。

 

 

 

セイ「九尾よ、儂の提案が呑めんというのならば、

儂はこの世界を隅々まで破壊しつくすぞ」

 

藍・天子「!!?」

 

セイ「出来んと思うか?思わんよなあ。

そうじゃのう……三日もあれば、この地を不毛の大地に変えることができるであろうな」

 

藍「お、おやめください!!そのような事は!!」

 

セイ「儂だってやりたかないよ。しかし、言ったからには、やる。確実に。

これでも要求を呑まんか?」

 

藍「……ッ!!」

 

 

 

セイテンタイセイから放たれる凄まじい気迫は、要求を拒むことなど許さない。

 

選択の余地がないことを理解した藍は、諦めて首を垂れる。

 

 

 

藍「……わかりました。必ず紫様を説得いたします……」

 

セイ「それでよい。わかったならすぐに向かってもらえんか?

シンがちょいと危ないんでのう」

 

藍「……では、行って参ります」

 

セイ「ウム。なるたけ早くするようにな」

 

 

 

藍は急いで布団を片付け、紫の元へと飛んで行った。

 

 

 

天子「……無茶するんですね」

 

セイ「カッカッカ!!

これくらい言ってやらんと、あの責任感の塊のような主従は動かんじゃろうて!」

 

 

 

セイテンタイセイは、先ほどの威圧感が嘘のように、ゲラゲラと笑っている。

 

 

 

セイ「それよりも、無理して敬語を使わんでもよいぞ。

もっと気楽に接してくれて構わん」

 

天子「……ありがとう」

 

 

 

天子はセイテンタイセイの言葉に素直に従う。

 

 

 

セイ「それで……先ほどの話を聞いて、お主はどうする?」

 

天子「私……私は……」

 

 

 

……天子はシンの事を思い返す。

 

 

 

 

オオナムチとの戦いのときに、自分が言ってしまった言葉。

 

「あなた達なんて化け物だ」

 

それがどれだけシンを傷つける言葉だったかが分かった。

 

 

少なくともシンが強大なチカラを身につけた理由は自分のためではない。

 

友を守りたかったから。

 

 

そのために身につけたチカラを見た友人に、化け物だと言われて泣いて逃げられたのだ。

 

……あまりにも残酷ではないか。

 

 

アラハバキの爆発から守ってくれた時に、悲しそうな顔をしていた理由もわかった。

 

 

シンは、自分が私から避けられていると思っているのだろう。

 

当然だ。あんな別れ方をしてしまったんだから……

 

 

それなのに、嫌われているはずの相手だというのに、彼は来てくれた。

 

生きていてくれてありがとう、と言ってくれた。

 

 

あんな危険な場所に、封印された状態で、命を懸けて来てくれた……

 

 

 

 

 

天子「私……シンに一度ひどいこと言っちゃったの……

それを謝らないといけない……!!」

 

セイ「そうか」

 

天子「アイツに、私の本当の気持ちを伝えなきゃいけない……!!」

 

セイ「そうか」

 

天子「お願いよ、セイテンタイセイ様!私をシンのところまで連れて行って!!」

 

 

 

真実を知り、行く道を決めた天子の目には、強い光が宿っている。

 

とてもまっすぐな瞳。

 

 

それを見たセイテンタイセイは、面白そうに笑いながら答える。

 

 

 

セイ「カッカッカ!!

シンの人を見る目は確かだったようじゃのう!!

今シンがいるところは、お主が想像もつかないほどの激戦地じゃ!それでも来るか!?」

 

 

天子「行く!」

 

 

セイ「いい返事じゃ!!

嬢ちゃん!!お主の事は儂がなんとしても守る!!

覚悟を決めてついてこい!!」

 

 

天子「お願いっ!!」

 

 

 

言うが早いか、セイテンタイセイは筋斗雲を呼び出し、天子と共に乗る。

 

そして、空の彼方へと飛んで行った。

 

 

 

空は不気味な暗雲に覆われ、

 

雲が晴れている部分からは、禍々しくギラギラと輝く金色の太陽が見える。

 

 

 

それでも今、天子に迷いはない。

 

どんな場所だろうと関係ない。

 

彼に気持ちを伝えるんだ……!!

 

 

 

つづく




略称一覧


シン…間薙シン・人修羅

天子…比那名居天子(ひなないてんし)。幻想郷の天界に住んでいる、自由奔放な天人。
たびたび人里に現れては、暇つぶしをしている。根はいい子。

藍…八雲藍(やくもらん)。八雲紫の式にして、幻想郷でも指折りの実力を持つ九尾の狐。頭の回転、計算力にかけては右に出るものはいない。が、予想外の事態に弱いのが玉に瑕。紫が動けない現在、代役として動き回っている。

アル…威霊・アルビオン。ドーバー海峡から見える、イギリスの白壁の元になった悪魔。大変なタフネスを誇り、物理攻撃にめっぽう強い。アラハバキの特攻の超威力には耐えられなかったが、無事にシン、天子、藍の事は盾となり守り通した。

タケ…建御雷(タケミカヅチ)。天津神の一柱であり、シンの仲魔。電撃攻撃が得意。出雲の国譲りの功労者。

セイ…破壊神・セイテンタイセイ。孫悟空としても有名。西遊記に登場する。その実力はとんでもないもので、肉体は金剛不壊。筋斗雲や如意棒も持っており、戦闘力はシンの仲魔の中でも随一。

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