人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

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あらすじ


シン一行の拠点である宿屋で目を覚ます天子。

シンはアラハバキの自爆攻撃から、
間一髪、天子と藍を守ることに成功していた。

セイテンタイセイの語る真実を受けて、
二人はそれぞれ行動を開始する。


第24話 怒れる王

セイテンタイセイと天子は、筋斗雲に乗り、シンの元へと駆ける。

 

しばしできる空白の時間。

 

天子はセイテンタイセイに疑問を投げかける。

 

 

 

天子「ねぇ、セイテンタイセイ様」

 

セイ「ん?なんじゃ?」

 

天子「……なんでアナタはシンの仲間をやってるの?」

 

 

セイ「ム?さっきも言ったじゃろう?

あやつは儂よりも強い。だから従っておる。

あと『様』はやめてくれ。何ともむず痒いんでの」

 

 

天子「ええと……セイテンタイセイさん。

私が聞きたいのは、そういうことじゃないの」

 

 

セイ「ホウ」

 

 

天子「いくら強い奴だからって、嫌いな奴だったら一緒にいたくないわ。

いくら相手の方が実力があるからって、それだけで従うなんて真っ平ごめんよ。

 

だから聞きたいの。なんでアナタはシンに着いていくことにしたの?」

 

 

セイ「……フム。嬢ちゃんが聞きたいのは、もっと深い所か」

 

天子「ええ……気が合うから?それとも何か縁があったから?」

 

セイ「そうじゃのう……一言で言い表せるものでもないが……」

 

天子「……」

 

セイ「……あやつは儂ら悪魔の『希望』なんじゃよ」

 

天子「希望……?」

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

シン「……来るか」

 

 

 

天子が目を覚ますよりもずっと前、

タイミングとしては天子と藍を洞窟の外に送り出したところ。

 

シンの目の前にある空間の歪みは、

禍々しい魔力を吐き出しながら、かなりのペースで亀裂を広げていた。

 

 

 

シン「!!」

 

 

 

パリイィィィンッ!!

 

 

 

亀裂はこれ以上魔力の迸り(ほとばしり)を止められなくなるほど広がり、

ついに破裂。地獄の窯が開く。

 

それと同時に……

 

 

 

ゴウッ!!

 

 

 

なにかが割れた空間の中から吹き飛んでくる!!

 

 

 

バキィッ!!

 

 

……ドサッ

 

 

 

その何かはシンの横をかすめ、すぐ後ろにある壁に激突。

地面に横たわる。

 

 

 

シン「……何……いや、誰だ?」

 

 

 

その物体は人型をしているが、人間ではない。悪魔だ。

 

深緑の体に、左右半身を包む金色の鎧。

肩で分離した両腕。その先の両手には、切れ味鋭い双剣が握られている。

 

 

幻想郷の管理者が一人。

 

龍神・『コウガサブロウ』

 

 

結界内から吹き飛んできた彼は、全身傷だらけ。満身創痍であった。

 

 

その様子を見たシンは、コウガサブロウに近づき、問いかける。

 

 

 

シン「……貴様は何者だ?」

 

甲賀「……ウッ……グ……まさかここまで……チカラの差が……」

 

シン「オイ、聞いているのか?」

 

甲賀「……!? 貴様は……人修羅……!? 何故ここに……!!」

 

シン「こちらの事は知っているのか……?

……とにかく俺の質問に答えろ。貴様は何者だ?」

 

甲賀「……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

何のために龍神・コウガサブロウは結界内に侵入していたか。

 

それは、裏・博麗大結界の消滅は避けられないとの予測から、

先手を打って敵の首謀者を叩くため。

 

結界が破れ、中に潜む『伏ろわぬ神々(まつろわぬかみがみ)』が

何の対策もしていない状態で幻想郷に溢れたとしよう。

 

そうなれば、最悪の事態が現実となることは必至。

 

幻想郷のあらゆるものは命を奪われ、

多様性豊かなこの地は、伏ろわぬ神々の日本侵略拠点となり替わってしまう。

 

 

それだけは絶対に避けねばならない。

 

 

そのために、せめて相手の頭を潰しておけば、

潰せないまでも、最悪すぐに動けない状態にでもできれば、

 

指揮系統を混乱させることができ、

幻想郷の住人が避難する時間くらいは稼げるはず。

 

 

龍神・コウガサブロウは、相打ち覚悟で、

首謀者を討つために結界に単独潜入していた。

 

 

 

……数百年前、自らの主人と認める葛葉ライドウと共に、

コウガサブロウはこの地に幾多の神を封印した。

 

当時の彼の実力は、封印された神々のうち、最も強力な一柱の実力にも勝っていた。

 

なればこそ、現在においても、

勝利、そこまでいかなくても善戦はできるものと考えていたのだ。

 

 

……しかしその見立ては、大きく、大きく違っていた。

 

 

その最も強力な一柱は、復讐の心と、復権という野望をもって、

想像以上に大きな戦力を整えていた。

 

結界内に、他の虐げられていた神々を多数招集した。

アマラ経絡から少しずつ、そして継続的に、マガツヒを取り込み続けた。

 

その結果、その最強ともいえる神は、

コウガサブロウの持つチカラでは手に負えない存在へと変貌していた。

 

 

貪欲にチカラを求める者と、現状の維持を目標に据えた者の差は

数百年の時を経て、信じられないほど広がっていた。

 

 

今の彼のチカラは、最強の神に届くどころか、

その配下の神にすら及ばなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

シン「……オイ、何を黙っている。質問に答えろ」

 

 

 

たった今まで、結界内で戦っており、外まで吹き飛ばされた。

 

その先にはなぜか、自分たちが招き入れた規格外、人修羅が立っていた。

 

しかも何故か彼は怒っているように見える。

 

自分が万全でも敵わないであろう相手が、こちらに気迫を向けている。

 

 

返答を違えれば、命はない。

 

 

 

甲賀「……俺は……コウガサブロウ……この世界の管理人の一人だ」

 

シン「……そうか。では貴様は何をしていた?」

 

甲賀「……俺は今、結界内で戦っていた……そして吹き飛ばされてきた……」

 

シン「……」

 

 

 

……人修羅からの返事がない。プレッシャーも弱まらない。

 

返答をしくじったか……?

 

 

 

シン「……まあいい。貴様には言いたいことがあるが、とりあえずは……」

 

 

 

そういうと人修羅は、空間の裂け目に目を向ける。

 

 

 

甲賀「……!! 当然……追ってくるか……!!」

 

 

 

人修羅とコウガサブロウの視線の先。

 

空中にできた空間の裂け目から、一体の悪魔がふわりと舞い降りる。

 

 

修験者を思わせる衣装に、非常に強い魔力を放つ、鈴のついた錫杖(しゃくじょう)。

頭にはそびえる烏帽子。非常に高い鼻。

 

そのカラダから放たれる魔力、威圧感は、高位の魔王と遜色ないものだ。

 

 

 

甲賀「……天魔雄(あまのさく)!!」

 

シン「……」

 

天魔雄「……まだ生きていたか。死にぞこないめ」

 

甲賀「あいにくと……負けてやるわけにはいかん……」

 

天魔雄「?? 何を言ってる? たった今負けたではないか」

 

甲賀「まだ……死んでいない……!!」

 

天魔雄「ではすぐに死ね」

 

 

 

ゴゥッ!!

 

 

 

目の前の魔神はコウガサブロウに手のひらを向ける。

 

そしてそこから空気の大砲とも呼べる、圧縮空気弾を発射する!!

 

 

 

甲賀「……ッ!!」

 

 

 

満身創痍で倒れるコウガサブロウに、この攻撃をかわすチカラなど残っていない。

 

 

 

コウガサブロウが最期を覚悟した、その時。

 

 

 

パァンッ!

 

 

 

甲賀「……!?」

 

 

 

コウガサブロウの目の前には、

空気弾を弾く人修羅の姿があった。

 

 

 

シン「貴様には言いたいことがあると言ったろう。まだ死ぬな」

 

天魔雄「……なんだ? お前は」

 

シン「おい、そこの……コウガサブロウと言ったか?」

 

 

 

目の前の人修羅は、天魔雄から目を離さず、こちらに話しかける。

 

 

 

シン「コイツは何者だ?」

 

甲賀「……すまない、助かった」

 

シン「そんなことはいい。早く答えろ」

 

甲賀「……奴の名は天魔雄(あまのさく)。

九天を支配する王にして、荒神を統べる魔神だ……」

 

シン「魔神か」

 

甲賀「……単純な能力だけでも脅威だが、

無数の配下を召還するという性質も厄介な魔神……」

 

シン「そうか」

 

 

 

事もなげに返答する人修羅。

とんでもない強敵だということは伝わったと思うが、

それがどうしたと言わんばかりの態度。

 

 

しかしその、そっけない態度とは裏腹に、

先ほどからの怒りは継続しているようだ。

 

一体何を怒っているのだろうか……

 

 

 

天魔雄「こちらを無視して雑談とは、舐められたものだな。答えろ、何者だ」

 

シン「俺は……人修羅だ」

 

天魔雄「……人修羅? 聞いたことがないな」

 

シン「さっきアラハバキが『特攻』を発動した。アイツは貴様の仲魔か?」

 

甲賀「……??」

 

 

 

人修羅は何故か、今は関係ないと思われるアラハバキを話に出した。

 

 

 

シン「あの爆発は貴様の差し金か?」

 

天魔雄「何故お前如きに、わざわざ教えてやらねばならぬのだ?身の程を知れ」

 

シン「……その様子だと、無関係ではないようだな」

 

天魔雄「フン。だったらどうしたのだ?

今から死ぬお前がそれを知ってどうする?」

 

 

 

ドンッドンッ

 

 

 

天魔雄が錫杖を使い、地面を突く。

 

すると魔力が周囲の地面に円形に広がり、そこから無数の悪魔が出現する!!

 

 

 

ズズ……ズズズ……

 

 

 

甲賀「……!!」

 

 

 

ツチグモ、ヌエ、カクエン、ライジュウ、ウブ……

 

 

 

地霊や妖獣に属する悪魔が、次々と湧いて出る。

 

視界を埋め尽くすほど広がった魔力の円。

その至る所から出現する悪魔の数は、少なくとも百は越えているだろう。

 

それでいて一体一体のチカラは弱くはない。むしろ強い。

 

コウガサブロウは、この配下の群れを叩きつつの天魔雄との戦いで、

実力及ばず敗北を喫してしまった。

 

 

 

シン「……面倒だな」

 

天魔雄「これが王と言う存在よ。

自らが手を下さずとも、確実な栄光を掴むことができるのだ」

 

シン「……」

 

天魔雄「お前が何者かなど、興味はない。

路傍の石が如く、無価値に、無意味に、死ぬことになる」

 

シン「……貴様は王だと言ったな」

 

天魔雄「? そうだ。私こそが九天を支配する王よ」

 

シン「貴様の言う……『王』とは何だ」

 

天魔雄「そんなもの決まっているだろう。

圧倒的なチカラを持ち、弱き者を支配する存在よ」

 

シン「……支配……貴様にとって弱者とは何だ」

 

天魔雄「なんだ、面倒な奴だな……

私を更なる高みへと押し上げる。そのための礎になる存在よ」

 

シン「……」

 

天魔雄「わかったらさっさと死ね。貴様もまた弱者よ」

 

 

 

天魔雄が錫杖の鈴を鳴らすと、

召喚された悪魔たちが一斉にシンへと跳びかかる!

 

 

 

シン「―――『竜巻』」

 

 

 

ビュオオオゥッ!!

 

 

 

シンは前方に手をかざし、二つの大規模な竜巻を発生させる!!

 

シンに跳びかかった悪魔達は、それをかわし切れずに巻き込まれ、絶命する。

 

 

 

天魔雄「何ィ?」

 

 

 

天魔雄の見立てでは、目の前の悪魔は大した実力ではないように見えた。

 

今の配下の攻撃で始末できる程度だと見積もっていた。

 

しかし予想に反して、彼の攻撃は思いのほか強力だった。

 

 

 

シン「貴様のような奴がいるから……

 

チカラ弱き者を平気で弄ぶような奴がいるから……!!」

 

 

 

ズオッ!!

 

 

 

甲賀・天魔雄「!!??」

 

 

 

人修羅から、強烈な怒気が発せられる!!

 

 

 

天魔雄「な、何だと……!?」

 

 

甲賀「息……が……!!」

 

 

 

八雲紫は、人修羅には封印を施したと言っていたはず!

 

それだというのに、目の前の悪魔から放たれる怒気は、

こちらの意識を刈り取るほど、強大で、強烈だ!!

 

封印は解かれてしまったのか!?

 

 

 

それとも……

 

 

 

もしや『封印されている状態で』コレなのかっ!?

 

 

 

シン「召喚―――『オーディン』!!」

 

 

 

バシィッ!!

 

 

 

稲光とともに、

金色の鎧を纏い、巨大な槍を手にした悪魔が姿を現す!!

 

 

 

オー「どうした?シンよ」

 

シン「オーディン、チカラを貸せ。奴らを討つ」

 

オー「ホウ……貴様、怒っているのか」

 

シン「アイツは、自らを王だと言った。

弱者を踏みつけにするのが王だと言った。

許せるはずがないだろう」

 

オー「クックック……一般的な王などそんなものだが……

貴様としては、それは許せんよなぁ……」

 

シン「そういう事だ。俺は今から暴れる。お前は俺をサポートしろ」

 

 

 

そう言うとシンは、マガタマ『ガイア』を取り出し、体内へ取り込む。

 

 

このマガタマは物理攻撃に特化したもの。

 

衝撃、破魔、呪殺に対して弱くなる、という見過ごせないデメリットと引き換えに、

圧倒的なチカラの向上、物理攻撃に対する耐性を得ることができる。

 

数あるマガタマの中でも、このマガタマほど攻撃に狂ったものはない。

 

 

 

オー「ほう……『ガイア』か。

よほど腹に据えかねているようだな」

 

シン「……目の前の悪魔は全員俺の獲物だ。手を出すなよ」

 

オー「クックック……怖い怖い……

『怒れる王』の呼び名を譲ってやろうか?」

 

シン「……喧しい(やかましい)」

 

オー「ククッ……この私がアシストをしてやるんだ。無様な姿は見せるなよ?」

 

シン「……当然。

奴らには、俺の友達に手を出したらどうなるか、

思い知らせてやらないといけないんでな……!!」

 

 

 

無数の配下を従える王に対するは、

二人の怒れる王。

 

 

幻想郷の歴史上、最も激しい戦いが始まる。

 

 

 

つづく




略称一覧


シン…人修羅・間薙シン。譲れないものを踏みにじる相手を前にして、怒りをあらわにしている。

甲賀…龍神・コウガサブロウ。幻想郷の管理者のひとり。数百年前には葛葉ライドウ襲名者の仲魔だったが、封印結界の管理者として諏訪に残る役目を受けた。現在は国家機関ヤタガラスの一員でもある。

天魔雄…魔神・天魔雄(あまのさく)。九天を支配する王にして、荒神を統べる魔神でもある。天逆毎(あまのざこ)から生まれた存在。天逆毎を越える身体能力、魔力に加え、無数の配下を召還することもできる。伏ろわぬ神々(まつろわぬかみがみ)の中でも、一二を争う実力を持つ。

オー…魔神・オーディン。北欧神話で最もチカラを持つ神。主神。その名は『怒れる王』を意味する。片目と引き換えに強力な魔術を取得するなど、並々ならぬ知識欲を持つ。今回は真・女神転生4Finalのビジュアルで登場。

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