人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行 作:tamino
アラハバキによって粉々に破壊された裏・博麗大結界。
その中に先行して侵入していた龍神・コウガサブロウは、
天魔雄(あまのさく)との戦いに、敗れてしまう。
結界から出てきた天魔雄に対するは、人修羅・間薙シン。
大戦力の二人が今、対峙する。
シン「オオオォォッ!!」
オー「―――『ランダマイザ』」
キィンッ!!
シン「―――『死亡遊戯』ッ!!」
バキィィィンッ!!
「グギャアァァァッ!!」
甲賀「なんだ……これは……!!」
コウガサブロウの目の前で繰り広げられるは、信じられない光景。
ツチグモやヌエといった、名の知れた大妖怪が、紙切れのように吹き飛ばされていく。
平然とそのような強者を召還する天魔雄(あまのさく)も化け物だが、
その強敵達をダース単位で消し飛ばしていく人修羅も大概だ。
天魔雄「確かに強いが……我が手下は無数にいるぞ!!」
シャリンッ!!
天魔雄が手に持つ錫杖を鳴らすと、地面から次から次へと増援が現れる。
オオオオゥッ!!
オー「キリがないな、これでは……オイ、どうするんだ?」
シン「決まってるだろう!」
オー「お、策があるのか?」
シン「増えるより早く潰す!!」
オー「あー、そういう……貴様らしいな……」
シン「だからしっかりアシストしろっ!!
―――『ベノンザッパー』ッ!!」
ザシュウウンッ!!
「ギャオオオッ!!」
シンは作り出した魔力の剣を振り回しながら、
目の前の敵を無差別に吹き飛ばす。
その剣に触れた者は例外なく真っ二つにされ、
その抜き打ちの余波を喰らったものは、毒に侵され動けなくなる。
オー「わかっているよ―――『タルカジャ』」
シン「オオッ!―――『デスバウンド』ッ!!」
ズオオオゥッ!!
「グアアアッ!!」
甲賀「な……なんてチカラだ……!!」
止むことなき怒涛の連撃。
戦闘が始まって数分は経つが、全くそのペースは落ちることがない。
オー「―――『スクカジャ』」
シン「―――『ヒートウェイブ』ッ!!」
天魔雄の荒神召喚は、恐ろしいペースで行われている。
しかし、驚くべきことに、
その出現ペースよりも、殲滅ペースの方が上回っている!!
天魔雄「クソッ……!!化け物め……!!」
オー「ククッ……後悔しても遅いぞ」
シン「そうだ、貴様は許さない!!
―――『アイアンクロウ』ッ!!」
「ギャアアアッ!!」
天魔雄「ええいっ!!止まらんかっ!!
―――『マハザンダイン』ッ!!」
ビュオオゥッ!!
シン「……ッ!!」
オー「……ヌッ!!」
天魔雄の強力な攻撃に、シンとオーディンの二人はのけぞる!!
天魔雄「……フハハッ!!どうやら風の気質が苦手なようだなっ!!
―――『マハガルダイン』ッ!!」
ギュオオッ!!
オー「グッ……!!どうする、マガタマを変えるか!?」
シン「……ッ!!……馬鹿を言うな、オーディン」
オー「何……?このままでは相性が悪いだろう」
シン「……わざとそうしているんだ」
オー「……意図が掴めんのだが」
シン「どんなに有利な条件でも、
俺達には勝てないということを教えてやらないといけない」
オー「……」
シン「全力で、有利な条件で、なお勝てない。
そういった絶望を味合わせてやらないといけない」
オー「……狂っているな……」
シン「言ってもわからん連中には、本能に叩き込むしかない」
オーディンは体の芯が冷えるのを感じる。
怒ってはいるが、人修羅は冷静に、苛烈な判断を下した。
武力の誇示と、敵対勢力に対しての見せしめ。
これを最も効率よく行うために、不利な戦闘を行おうとしている。
相手を屈服させるために命を懸けようというのだ。
狂っているとしか言いようがないが、
その姿こそまさに『混沌王』の称号を受けるにふさわしい。
オー「……本当に貴様が敵でなくてよかったよ……
それで、どうするのだ?今の隙に敵の数も戻ってしまったようだぞ」
シン「そんなこと決まっている」
オー「どうするのだ?」
シン「全部消し飛ばす」
オー「……また無茶を」
シン「できる。だから準備しろ」
オー「やれやれ……少し時間を稼げ」
シン「わかっている」
天魔雄「何をコソコソと話している?
その間に私の軍勢は元通りだ!お前の体力も限界が近いだろう!!」
シン「……ごちゃごちゃとうるさい奴め」
天魔雄「諦めて死ね!!―――『真空刃』ッ!!」
ビュバァッ!
シン「……グッ!!」
天魔雄「フハハッ!苦しそうだぞ!?このまま死ねいっ!!」
シン「……死ねと口にするのは弱者の証拠だ」
天魔雄「何?」
シン「―――『吸血』」
「グオオォッ……」
「アアアッ……」
シンが右手をかざすと、周囲の悪魔から流れる血液が集まる!
先ほどの猛攻で、傷だらけになって倒れている、まだ息のある悪魔達。
吸血により血液を見る間に吸い取られ、次々と絶命していく。
天魔雄「な、何だそれはっ!?」
シン「死ねと言う言葉が出るのはつまり、相手に恐怖を感じている証拠だ」
天魔雄「……聞き捨てならんな。私がお前を恐れていると?」
シン「貴様は敵を恐れている。
その程度の存在が……王であっていいはずがない」
天魔雄「戯言をッ!!そういうセリフは私に勝ってから言えいッ!!」
シャリンッ!
「グアアアッ!!」
「ギャオオオゥッ!」
天魔雄「この猛攻で終いだっ!―――『殺風激』ィッ!!」
ズバババッ!!
ギュオオウッ!!
天魔雄とその配下による一斉攻撃!
シン「グアアッ!!」
シンはその攻撃をモロに受け、体勢を崩す!
流石のシンでも『食いしばり』が発動するほどの猛攻だ!!
しかし……
オー「これでようやく整うぞっ!―――『タルカジャ』!」
シンと天魔雄が戦っていた裏で、オーディンがかけ続けていた補助魔法。
その最後の仕上げが完了した!
シン「……よくやった、オーディン―――『宝玉』!」
シンはポケットから宝玉を取り出し、自らの体力を回復する!
そして……
シン「―――オオオオオッ!!」
シンの魔力が膨れ上がる!!
天魔雄「な、なんだッ!?」
シン「消し飛べぇっ!!」
――― 『地母の晩餐』 !!!
ゴゴゴゴゴ……
ズガガガアアアァアッッ!!!!
「ギャッ……!!」
「グオッ……!!」
天魔雄「バ、バカなあぁっ……!!」
辺り一面に広がる悪魔の軍勢。
それよりも広範囲で巻き起こる大破壊。
地面から吹きあがる魔力の奔流は、目の前の一切合切を吹き飛ばす!!
天魔雄「ああアァァぁッ……」
つい先ほどまで悪魔で埋め尽くされていた空間は、
ちぎれとんだ悪魔の残骸で埋め尽くされている。
この恐ろしい一撃で、完全に決着はついた。
・・・・・・
甲賀「人修羅とは……これほどかっ……!」
オー「いつみても壮観だな」
シン「……ふぅ」
オー「よくやったぞ。封印されているにしては上出来だ」
シン「少し熱くなりすぎたか」
オー「ククッ……自覚はあったか」
シン「許せないものは許さない」
オー「それでこそ『混沌王』だよ」
シン「その呼び方は好きじゃないと言っているだろう」
オー「そう在るべき者なのだから、そう呼ぶしかあるまい」
シン「……まぁいい。よくやってくれたな。いいアシストだった」
オー「次は存分に暴れさせろよ?……ではな」
別れの言葉とともに、オーディンは消えていった。
シン「……さて」
甲賀「……」
オーディンを見送った人修羅は、くるりと振り返り、
倒れているコウガサブロウへ視線を落とす。
コウガサブロウが従っていた、
当時の葛葉ライドウも、規格外のチカラを持っていた。
しかしそれでも、これほど狂ったチカラではなかった。
その破壊の化身とも言える存在が、屍の山を背にしてこちらを向いている。
……恐怖を感じるのは、いつぶりだろうか……
シン「……意識はあるか?」
甲賀「……ああ」
目の前の悪魔からは、戦闘前に発していた怒気は感じられない。
シン「お前には言いたいことがあると言ったが、覚えているか?」
甲賀「……ああ」
シン「お前は自分を幻想郷の管理者と言ったな?」
甲賀「……そうだ」
シン「今後ろで切れ端になっているアイツと、戦っていたのもそのためか?」
甲賀「……そうだ」
シン「……まずは状況を聞かせろ」
甲賀「……わかった」
コウガサブロウは話し始めた。
幻想郷ができた経緯。
封印されていた神々。
人修羅を呼んだ理由。
現在の危機的状況。
一つ一つ確実に、隠すことなく説明する。
シン「……成程な」
甲賀「このままでは……すべて壊されてしまう……」
シン「それでお前は単独で戦っていたんだな」
甲賀「そうだ……奴らに対抗できるほどのチカラを持っているのは、
俺しかいないんだ……」
正確には他の管理者達でも、アシストとして共闘できるくらいの実力はある。
しかし最前線で戦えるかと言えば、それはさすがに厳しいのだ。
シン「……」
甲賀「な、なんだ……?」
人修羅は押し黙ってしまった。
一体どうしたというのだ……
シン「お前が俺をこの世界に呼んだのは何のためだ……?」
甲賀「……それは……」
シン「さっさと俺に話をすればよかった」
人修羅は、咎めるような目でこちらを見てくる。
甲賀「……!?」
シン「俺がお前に言いたかったことは、それだ」
甲賀「……」
シン「管理者と言うくらいなら、しっかり管理しろ。
それができないなら、どんな手を使っても守れ」
甲賀「……し、しかし……」
シン「俺が言えたことではないけどな……」
甲賀「しかし……危険度もわからない相手に、手の内を見せるなど……
それは最後の手段と思っていたのだ……」
シン「だったら自力で守って見せろ」
甲賀「……」
シン「死ぬ気で守れ。それでいて死ぬな。死んだらすべてが終わる」
甲賀「……無茶を言う」
シン「それしかないんだよ。
そのチャンスがあるだけ、幸せだと思え」
甲賀「……そうか……すまなかったな」
どうやら人修羅には思うところがあるようだ。
しかし人修羅側から協力を申し出てくれるなど、思ってもみなかった。
シン「まあいい……それで、敵の親玉は今どこにいる?」
甲賀「今……奴は地獄にいる」
シン「地獄……」
甲賀「地獄と言っても、幻想郷の一部である地獄だ」
シン「……わかった。では俺はそこに行く。行き方だけ教えろ」
甲賀「俺も着いていかなくていいのか?」
シン「お前はお前にできることをしろ。
敵はその親玉だけではないだろう?」
甲賀「そうだな……すまないが……頼む」
シン「お前のためでも、この世界のためでもない。礼は要らない」
そう言うと人修羅は洞窟の外へと駆けて行った。
幻想郷の裏で行われた戦いはひとまず幕を下ろした。
しかしまだ終わってはいない。
最終局面へ向け、物語は進んでいく。
つづく
略称一覧
シン…人修羅・間薙シン。譲れないものを踏みにじる相手を前にして、怒りをあらわにしている。
甲賀…龍神・コウガサブロウ。幻想郷の管理者のひとり。数百年前には葛葉ライドウ襲名者の仲魔だったが、封印結界の管理者として諏訪に残る役目を受けた。現在は国家機関ヤタガラスの一員でもある。
天魔雄…魔神・天魔雄(あまのさく)。九天を支配する王にして、荒神を統べる魔神でもある。天逆毎(あまのざこ)から生まれた存在。天逆毎を越える身体能力、魔力に加え、無数の配下を召還することもできる。伏ろわぬ神々(まつろわぬかみがみ)の中でも、一二を争う実力を持つ。
オー…魔神・オーディン。北欧神話で最もチカラを持つ神。主神。その名は『怒れる王』を意味する。片目と引き換えに強力な魔術を取得するなど、並々ならぬ知識欲を持つ。今回は真・女神転生4Finalのビジュアルで登場。