人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

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何年振りかになってしまいましたが、大変お待たせいたしました……!
前回は3人称視点でしたが、今回はお燐視点となります。統一感なくてすいません!



あらすじ

地底の顔役、古明地さとりは、謎の訪問者、藤原行景(ふじわらのゆきかげ)と交渉した。

彼の持つ能力は『動の気質を静の気質へと変換すること』。その能力を使って魔界経由で幻想郷から脱出を図ろうというのが目標。
しかしそのためには八雲紫の監視を潜り抜けて、博麗大結界をすり抜けるという必要が出てくる。

そのために地底の勢力に助力を願うというのが彼の持ちかけた話だったのだが、肝心の地底への見返りというのは……?


第28話 矯めつ眇めつ 2

「……ねぇ、お燐。私たちが地底に潜ってから、思えばずいぶんと長い時間が過ぎたわ」

 

「えと……はい、そうですね」

 

 

 なんでそんなことをいきなり聞くんだろう?

 今の今までさとり様は、藤原行景(ふじわらの ゆきかげ)とかいう男の話をしていたはず。それがなんで、いきなり昔話を?

 

 

「それはね、お燐。これからする話に関係してくるからよ。

……私たちが地底に移り住んだ理由。それは貴女も承知しているわよね?」

 

「はい、当然じゃないですか。私たちは人間から疎まれる妖怪……いわゆる『厄介者』だからですよね」

 

「……そう。だからこそ、私たちは単独で妖怪としての在り様を振るうことはできない。あまりにも人間に都合が悪いから。人間にとって危険だから」

 

「……はい」

 

「でも……お燐、貴女はそれで満足なのかしら?」

 

「……さとり様?」

 

「私はね、お燐。本当は太陽の下で自由に生きたいの。

地面の下で、立派な屋敷を建てて、それで満足できるかしら? できるはずがない。

あんなに高いところに、高価なガラスを使って天窓まで作って……そんなもので本当は満足できるはずがない」

 

「それは……でも……」

 

 

 さとり様の言いたいことはよく分かる。痛いほど。

 それは地底の妖怪の誰もが胸に秘めていることなのだ。

 

 なぜ、妖怪としての在り様まで抑え込んで、土竜のように薄暗い空間で生活しなければならないのか。

 地底の旧市街だって、望んで建てたわけではない。昔は地獄だった一角から地獄の機能を奪われ、形だけとなった成れの果てなのだ。

 いくら賑やかな化粧を施しても、役割のない空虚なものなのだ。

 

 

 本当は、本当は……人間から恐れられ、畏れられ、我は此処に在りと叫びたいのだ。

 

 さとり様はこんな薄暗いところに引き籠っていないで、さとり妖怪として人間から恐れられ、崇められるべきなんだ。

 

 鬼の皆さんだってそうだ。妖怪の山のてっぺんで胡坐をかいて肉と酒をかっくらい、挑む人間を返り討ちにする強者であるべきなんだ。

 

 私だって、私だって……今みたいに空き巣狙いのようにコソコソしながら死体を漁ることなどしないで、葬式に乱入しては死体を奪っていきたいたいのだ。

 

 

 でも……

 

 

「そう、そうよ。でも、私たちは、負けた。負けたのよ」

 

 

 そう。なんでこんなみじめなところでコソコソ暮らさなければいけないのか。

 それはすべて、私たちが敗者だから。

 

 人間に、博麗の巫女に、八雲紫に。

 時代の流れに、歴史に、何よりも畏れが世界から喪われることを止められなかった自分たち自身に……

 

 

 負けた。負けてしまったんだ。

 

 

「敗者に生存は許されない。それでも私は、同胞が消滅するのは耐えられなかった」

 

「……はい。だからさとり様は地底を治めることにしたんですよね」

 

「ええ。だけど……忘れていたわ。私たちは負け犬。強かったからこそ負けてしまった、惨めな負け犬だった。

ねぇお燐。自分たちが敗者だったことも忘れ、へらへらと日々を過ごす私たちは……なんなんでしょうね?」

 

 

 心を読めない私でもわかる。

 さとり様の苦々しい表情、怒りと悲しみがないまぜになったような表情は、なによりも自分のことが許せないという心の声を代弁するものだった。

 

 でも、その考えは……

 

 

「わ、私にもその気持ちはわかります……ですが!」

 

「わかっているわ。私たちは八雲紫に監視されている。反乱分子になったらもっとも厄介な勢力として。まるで外の世界にある動物園のように、ね」

 

「だったら、なんでそんな話……」

 

 

 そうだ。そんな考えを持っても、どうすることもできないんだ。

 

 私たちは八雲紫に監視されている。反乱を起こしてもうまくいくかはわからない。

 それにもし反乱が上手くいったとして、どうしようもない。地底の妖怪が幻想郷で好き勝手したら、まず間違いなく人間の数が激減し、幻想郷という箱庭が崩壊する。

 

 つまり、もう既に『詰んでいる』んだ。

 私たちの妖怪としての在り方を発揮するには、幻想郷では受け皿が小さすぎるんだ。

 

 だからこそ、どうしようもない……

 

 

「その通りよ、お燐。だから私たちは、妖怪としての本質を忘れ、眠るような日々をただただ過ごしてきた。

何故なら、そうするしかなかったから。理由は貴女が考えた通り」

 

「……はい」

 

「そこをあの男……藤原行景とやらは突いてきたのよ」

 

「ええと……と、言いますと?」

 

「あの男が提示してきた条件というのは

『外の世界からの人間供給』と『地底の妖怪が地上に進行する際の陽動』」

 

「な……!?」

 

 

 そんなバカげた話、信じられるわけ……

 

 

「そう思うのは当然。でもね、お燐、忘れたのかしら?

私は相手の心が読める。あの男の心にウソはなかったし、なんならちゃんとした公算もあったわ」

 

「公算……? 私よりも実力が劣る程度の人間に、そんなことできるはずが……」

 

「科学が発達した外の世界では、個の実力の減衰が激しい。幻想郷の妖怪ならどんな相手でも軽くひねることができるでしょう。

あの男に外で暴れたい、なおかつ従順な性格をした妖怪を何体か提供すれば、かなり自由に振舞うことができるでしょうね。

そしてあの男の家系は、腐っても藤原家。外の世界でそれなりの地位を築いている一族よ。そこを暴力と能力で従え、配下に置けば……」

 

「あっという間に大勢力の完成、ですか……」

 

「そう。そして要らなくなった人間を集める機構を作り、幻想郷に引き渡す、と。

成功するでしょうね。連れていく妖怪をちゃんと見極めれば。

ああ、もちろん心変わりしてもいいように、こちらから提供する妖怪には、『約束を反故にしたら殺す』ように命令しておきます。

もちろんあの男かあてがった妖怪が裏切った時には呪殺できるよう、保険として呪いも掛けてね」

 

「……確かに、できなくは、ない……のかな……?」

 

「そしてあの男の能力があれば、魔界の悪魔の気を昂らせることも可能。

幻想郷と魔界の決壊を緩めておき、魔界脱出の際にその術をかけさせれば、幻想郷に数多くの興奮した悪魔が解き放たれるでしょう。私たちはそこに乗じればいい」

 

「そ、そんな……魔界から悪魔を大量にだなんて……」

 

「ある程度は幻想郷にダメージは出るでしょうね。

でも、それがなんだというの? 私たちが大手を振って太陽の下を歩けるようにするには、おそらくこれしかないでしょう」

 

「……」

 

 

 確かに……確かに本当のことを言えば、地上で好きに振舞いたい。

 でも、今まで築いてきた信頼や秩序を壊してまで、人里を崩壊させる勢いで悪魔なんかを喚び出してまで、そこまでしてもいいんだろうか……?

 

 

「ふふ。お燐は優しいわね。

でも……ここしかないの。計らずも舞い込んだ千載一遇の好機、逃すわけにはいかない。

それにあの男の言葉に嘘がなく、裏で何も企んでいないことは、この私が保証します。心の奥底まで読める、この私が」

 

「まぁ、そこは疑うつもりはありませんけど……いいんでしょうか、本当に」

 

「やらねば私たちはこの先永遠に敗北者。自分が何者か忘れ、のうのうと生を貪る畜生になるわけにはいかないの。

私たちにも強者としての誇りがある。それを示すのは今。そういうことなの」

 

「……わかりました。私はさとり様のペットです。さとり様の意見に反対する気なんて、最初からありません」

 

「いい子ね、お燐。これは私だけでなく、あなた達、ひいては地底の妖怪全員のためでもあるの。

……これから計画の下準備に入るから、お燐も手伝いなさい」

 

「はい」

 

 

 さとり様の言う通りなのかもしれない。

 

 賑やかなのは好きだし、普段楽しく遊んで、たまに来る侵入者を弾幕ごっこで追い払って、気が向いたら墓地や葬式で死体を盗んでくる。そんな今の生活は嫌いではない。

 

 でも、やっぱりそれは妖怪『火車』としての在り方通りじゃない。

 もっと人から畏れを抱かれる存在でありたい。こんなところに隠れ住んでいないで、堂々と地上に居を構えたい。

 

 それを勝ち取るには……戦いしか、ないのかなぁ……

 

 

 

 

 

 それから私は、さとり様とあの男の指示のもと計画の準備を進めていった。

 魔界との結界を緩める工作、外の世界に出たい妖怪の選定、来るべき決起の日に備えた軍備の充実……

 

 本当にこれでいいんだろうか?

 何か見落としていることがあるんじゃないだろうか?

 

 

 頭の片隅に、引っかかるものを感じながら……

 

 

 

 

 

 悪い予感ほどよく当たる。

 この不安は、最悪の形で的中することになってしまったんだ。

 

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