人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

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あらすじ

シン一行は稗田家から活動許可を得て、
宝探しと称して人里でショッピングにいそしんでいた。
天子もそれに同行していたが、どうやらあまりの刺激の少なさに不満な様子。
それでもシン一行に対しては興味があるため、毎日来る、と言い残して去っていった。


第4話 人修羅一行 命蓮寺にお邪魔する

鳥のさえずりが聞こえる……

 

シン「朝か……」

 

シンは一息つくと布団から抜け出し、いつもの服へと着替える。

 

シン「こうやって規則正しい生活を送るのはいつぶりかな……」

 

幻想郷にやってきてから1週間が過ぎた。

その間に人里の店に色々と顔を出してみたのだが、

どの店も愛想がよく、非常に好意的だった。

 

本来店というのはそのようなものかもしれないが、

東京受胎前のシンが知っている店は、そうでもなかったように思える。

どこか懐かしいような新鮮なような気持を味わいながら、

充実した日々を過ごしていた。

 

シン「人里のこともようやくわかってきたな。

さすがに1週間じゃすべて見て回ることはできないけども」

 

どうやらこの人里という場所は、シンが知る戦国時代や江戸時代に近い文化のようだ。

幻想郷全体がどうかはわからないが、人里に限ってはその見立てで正しいだろう。

街並みも人々の服装も、昔よく見ていた時代劇とそっくりだった。

 

シン「さぁ、今日は何をしようか……ピクシーとガラクタ君は起きてるかな?」

 

ガラガラッ

 

そう考えていたところ、寝室の障子が開き二人が入ってきた。

 

ガラ「シン君おはよう!今日はどこに行こうか!?」

ピク「おはよ~。もう起きてたのね~」

シン「ああ、おはよう。二人とも朝から元気だね」

ガラ「あ、シン君はもう出発準備万端なんだね。どこ行こうか?」

シン「まだ着替え終わったばかりで考えてないよ」

ピク「アタシは今日は変わったところに行きたいわ。買い物はもう飽きちゃった」

 

いくらピクシーが買い物好きとはいえ、

流石に1週間も買い物三昧では飽きてしまったようだ。

とはいっても人里でやることも他には思いつかない。

一体どうしたものか……

 

そんなことを考えていると、聞き覚えのある声と共に部屋に少女が入ってきた。

 

天子「それならいいところがあるわよ」

 

シン「……あれ?来てたの?」

ガラ「あ、天子さん。おはようございます」

ピク「ちょっとアンタ!何勝手に入ってきてるわけ!?」

天子「固いこと言わないの。そんなことよりやることないんでしょ?」

 

ピクシー、ガラクタ君と話をしていたら、いきなり天子が乱入してきた。

幻想郷に来た初日、シンたちと一緒に行動をすると言って帰っていったのだが、

あれから本当に毎日遊びに来ている。

……他にすることがないのだろうか……?

 

シンがそんなことを考えている間に天子は話を続ける。

 

天子「アンタ達、命蓮寺って知ってる?」

シン「名前くらいは聞いたことがありますね。人里の外れにあるとか」

天子「だったら話が早いわ。そこの寅丸星って奴がお宝持ってるらしいわよ」

 

お宝、というワードにガラクタ集めマネカタが反応する。

 

ガラ「お宝!?」

天子「そ。しかもそれ、お宝が集まってくるご利益があるらしいわ」

ガラ「お宝を呼ぶお宝……!?そんな夢のようなお宝があるの!?」

天子「あるのよ。それが」

ガラ「シ、シン君っ!!これは大変なことを聞いちゃったよ!

一目そのお宝を見ないことには、ボクたちボルテクス界に帰れないよ!!

一緒に見に行こう!すぐ行こう!」

 

あまりの興奮で、声のボリュームが大きくなるガラクタ集めマネカタ。

シンの肩をブンブンゆすりながら説得する。

半分寝ぼけていたシンは、これで完全に目が覚めてしまった。

 

シン「わかったわかった。わかったから落ち着いて」

ピク「アンタ、なんか企んでんじゃないでしょうね?」

天子「なんにも。強いて言うならあそこの住職があんた達をどう見るか知りたいのよ」

 

ピクシーは何故か天子とあまり仲良くない。

別にケンカするほどではないが、もう少し笑顔で接してやってもいいのに。

 

シン「……わかった。ガラクタ君もノリノリだし命蓮寺に行ってみよう」

ピク「いいの~?シン?なんか気に食わないんだけど……」

シン「いいっていいって。どのみちピクシーだって買い物に飽きてたんでしょ?」

ピク「うっ……まぁそうだけど」

天子「それじゃ私が案内するからついてきなさい。準備はできてるんでしょ?」

シン「ああ。それじゃよろしく頼むね」

ガラ「よ~し!テンション上がってきたぞ~!!」

ピク「なんなのよもう……気に入らないわ……」

シン「まあまあ。気楽に行こうよ」

ピク「シンがそういう態度だからアイツが……

……ハァ。もういいわ。行きましょ」

 

何やらピクシーが不機嫌だが、新しい景色を見て、新しい交流を持てば、

きっと気分もよくなるだろう。

 

しかし命蓮寺というからにはお寺なのだろうが、一体どんなところなのだろうか?

小さいころに近所の神社で遊んでいたのを思い出す。

 

……世界中の神々と触れ合ってきた今なら、

お寺がどういうところかもわかるかもしれない。

天子が言う『住職』に色々と話を聞いてみたい気持が湧いてくるというものだ。

 

天子「命蓮寺は人里の外れにあるから、ここから1時間ってとこかしらね。

昼になる前には着くでしょ」

ガラ「よ~し!気合入れていくぞ~!」

 

人修羅移動中……

 

ガラ「着いたっ!命蓮寺!すっごく大きいね~!」

ピク「ホントね~。人里のどんな建物よりも大きいわ」

天子「ま、ここと同じくらい大きい建物なんて幻想郷にはそうそうないわ」

シン「ちなみに比那名居さん?

ボクたちがここに来るって先方に伝わってたりは……」

天子「しないわよ」

シン「だよねぇ……」

 

やはり天子は飛び込みでお宝を見せてもらうつもりだったようだ。

というよりむしろ、天子自身はお宝に興味がなさそうである。

わざわざ自分たちをここまで連れてきたのは、興味本位なのだろう。

まったく、悪魔並みに自由な性格をしている。

 

シン「それじゃ誰かに事情を話して……あ、あそこに誰かいるね」

 

参道の奥で掃き掃除をしている女の子がいる。

こんな広い敷地を一人で掃除するなんて見上げたものだ。

あの子にこちらの事情を話せば取り次いでくれるかもしれない、

そう思いシンは少女に近づく。

 

シン「あのー、すみません。ちょっといいですか?」

??「ん?お客さんですかー? おはよーございます !」

シン「お、おはようございます」

 

なんとまあ元気のいい女の子だ。

あまりの声の大きさに面食らってしまった。

 

シン「ええと、お嬢さん。命蓮寺の人ですか?」

??「はい!私は幽谷響子(かそだに きょうこ)って言います!

山彦の妖怪なんですよ!何のご用ですかー?」

シン「ボクたち幻想郷で宝探しをしてるんですが、

ここの寅丸さんって方のお宝を見せてほしいと思いまして……」

 

シンの何気ない一言で、

響子の満面の笑顔が一気に曇る。

 

響子「お宝を!?ムムッ!泥棒さんですか!?」

 

先ほどの朗らかな態度から一変、警戒態勢に入られてしまった。

どうも聞き方が悪かったらしい。なんとか雰囲気をよくしなければ……

 

シン「あ―……泥棒じゃないですよ。

ボクたちは珍しいものは好きですが、奪おうとかそういうのはないんで」

響子「嘘をついても無駄ですよ!泥棒はみんなそういうんですから!」

ガラ「本当だよ~。大事なものなら貰わなくても、見るだけで満足だからね」

響子「そう言ってスキをついて盗んでいくんでしょう!そんな手には乗りませんよ!」

 

どうやらこの子は思い込みが激しい性格のようだ。

取り付く島もなし。である。

 

ガラ「うーん、どうしよう……警戒されちゃった」

シン「ごめんね。何とかできないかな……」

ピク「あーあ……こうなると会話ってうまくいかないのよねぇ……」

 

本当にどうしようか?

このまま無理矢理押し通れば角が立つし、

ガラクタ君があそこまで楽しみにしていたお宝をあきらめるわけにもいかない。

 

天子に頼むのは……ダメだ。ニヤニヤしている。

あの表情はこの状況を楽しんでいる表情だ。ちくしょうめ。

 

ここはひとつ……

 

シン「わかりました!このままでは信じてもらうのは難しそうですね。」

シン「そこで提案です。一つ勝負をしてみませんか?」

響子「勝負?」

ガラ・天子「勝負?」

ピク「へえ」

 

予想外のシンの提案に、皆が首をかしげる。

 

シン「ええ。負ければボクたちはこのまま帰ります。

その代わりボクが勝ったら、偉い人に取り次いでもらえませんか?」

響子「ムムム……」

シン「別にすぐにお宝を見せてくれというわけじゃありませんし、

この勝負、受けてもらえないでしょうか?」

響子「……勝負の内容を聞くまではお答えできませんっ!」

シン「確かに当然ですね。勝負の内容ですが……」

ガラ「(ドキドキ)」

天子「(ワクワク)」

 

ガラクタ集めマネカタは少し不安な表情で、

天子はニヤニヤしながら会話を聞いている。

二人ともシンが何を仕掛けるのか、興味津々だ。

 

シン「……大声対決で」

ガラ「……大声?」

天子「……対決?」

響子「お、大声対決ですか?」

シン「ハイ。どっちが大きな声を出せるかで勝負しましょう。平和的でいいでしょう?」

響子「……わかりました!その勝負受けましょうっ!」

 

響子は予想外の勝負内容に一瞬面食らったが、

これ幸いと、自信たっぷりに勝負を受けた。

 

何故なら彼女は山彦の妖怪。

声の大きさでは幻想郷で右に出るものはいない。

 

響子「(フフフ!私が声の大きさで負けるはずありません!

墓穴を掘りましたね、泥棒さん!)」

 

ガラ「……シン君大声に自信あるのかなあ?こんな勝負もちかけるなんて」

天子「なんだかよくわかんないけど、面白そうでいいじゃない」

ピク「ふぅん。大声……ね」

 

ギャラリーの3人の傍で、シンと響子は少し間を開けて向き合った。

 

シン「ではどちらからいきましょう?ボクは先攻後攻どちらでも構いませんよ?」

響子「それでは私から!聞いて驚くがいい!ですよ!」

 

威勢よくそう言うと、響子が息を吸い込む。

……すごい肺活量だ。

息を吸い込んでいるだけなのに、空気が流れているのがわかる。

 

響子「 ヤッッッッッホーーーーーーーーーーーーー!!!! 」

 

ガラ「うあっ……!」

ピク「キャッ……!」

天子「すごっ……!」

 

あまりの声の大きさに、一同揃って耳をふさぐ。

空気が震え、景色までもがブレているようだ。これはすごい。

声の衝撃だけで低級の悪魔なら討伐できるだろう。

 

響子「へへーん!どんなもんです!」

シン「……たしかにすごい大声ですね。正直驚きました」

響子「ありがと……じゃなかった!諦めておとなしく降参しなさい!泥棒さん!」

シン「……いえ、ボクたちもこのまま帰るわけにはいきません」

ガラ「シン君、頑張れー!」

天子「やれやれー!」

シン「では……いきますよ!」

 

そう言うとシンも辺りの空気を吸い込み、それに魔力を乗せて放つ!

 

ーーー『雄叫び』!

 

響子「っっ!!!??」

天子「ッ……!なんて声なの……!」

ガラ「やっぱりすごいね~。シン君の『雄叫び』は」

響子「ぬぐぐ……なんなのこの声……!」

 

シンの『雄叫び』は、ただの大声ではない。

これを聞いたものは威圧され、体が本来のチカラを発揮できなくなる魔力が乗っている。

その性質もあり、声の大きさ以上に意識に衝撃を与えることができる。

 

天子「アンタこんなことするんなら先に言ってよ!なんだかチカラも抜けるし……」

シン「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと魔力乗せすぎたかな?」

ピク「シンのスキル、天界での決戦用にチューニングしてあったものね」

シン「うっかりしてたよ。もっと抑えないとなぁ……」

 

真正面でシンの『雄叫び』を受けた響子は尻もちをついていたが、

なんとか立ち上がると、上ずった声で話し始める。

 

響子「た、確かに今のはすごかったですが、声の大きさでは私の勝ちでしたよ!」

シン「さて、どうでしょうかね……」

ガラ「うーん、残念だけど確かに響子さんの方が大きい声だったなあ……」

シン「……(そろそろかな)」

??「何事ですか!?響子!」

 

本堂の方から女性が一人、焦った様子で走ってきた。

グラデーションのかかった髪に、奇抜な服装と、随分特徴的だ。

 

響子「あっ!聖様!」

聖「一体何が起こったのです!?あなたがあんな大声を出すなんて!

それにこの方たちは一体……?」

響子「それがですね、聖様……かくかくしかじかで……」

 

響子は聖と呼ばれた女性に事の顛末を話している。

 

ピク「うまくいったわね」

シン「ああ」

天子「あ―……そういうことね。やるじゃない、アンタ」

ガラ「?」

 

響子とシンの規格外の大声は、幻想郷全体に響き渡るほどの勢いで、

かなりの広範囲に届いていた。

当然命蓮寺にいる残りのメンバーにもその声は聞こえるはずだ。

さらにシンの『雄叫び』には、チカラが抜けるような魔力がこもっている。

 

となれば軽く非常事態。

命蓮寺の偉い人が出てきてくれるだろうとシンは踏んでいた。

 

聖「……なるほど。そういうことでしたか」

響子「はい!聖様!泥棒を追っ払っちゃってください!」

聖「響子ちゃん、早とちりはいけませんよ。

貴女の話を聞く限り、泥棒というわけではなさそうです」

響子「ええっ!?そうなんですか!?」

 

どうやら誤解は解けたようだ。これでようやく話ができる。

 

シン「えー……驚かせてしまってすみません。」

聖「……こちらこそ幽谷が失礼いたしました。私は住職の聖と言います。

改めて命蓮寺を訪れた理由をお聞かせくださいますか?」

シン「ハイ。実は……」

 

人修羅説明中……

 

聖「つまりあなた方は異世界から宝探しのために幻想郷へ来た、と」

ガラ「ハイ!そうです!」

聖「そして命蓮寺には寅丸の持つ宝塔を見るためにやってきた、と」

天子「そうよ」

聖「……」

シン「やっぱり信じてもらえないですかね……?」

 

聖は数秒目を閉じ、何かを考えたのちに口を開いた。

 

聖「正直言って荒唐無稽な話だとは思います。

しかし貴方の珍しい服装や、先ほどの声に乗った魔力の質を考えると、

……信じざるを得ませんね」

 

聖「それよりも何よりも、

何か知りたい、新しい経験をしたい、という気持ちは尊いものです。

無碍にはできません」

 

ガラ「え!?じゃあもしかして……!」

聖「ええ、寅丸に話をつけますので、どうぞ見ていって下さい」

ガラ「やったー!!ありがとうございます!」

シン「……ありがとうございます」

 

いきなり訪ねたうえ、不穏なチカラまで見せた。

それなのにここまで受け入れてくれるとは。

シンはこの女性の懐の深さに感心する。

 

聖「それでは案内いたしますので、私たちについてきてください」

響子「ついてきてくださいっ!」

シン「ええ、よろしくお願いします」

 

人修羅移動中……

 

お堂に着くと、客間に通された。

どうやら聖さんは寅丸さんとやらに頼んで、宝塔を持ってきてくれるらしい。

それまではここで待機しているように、との事だ。

 

響子「さっきはスイマセンでした……」

ピク「いいのよ。気にしないで」

響子「でもせっかくのお客さんを泥棒扱いしちゃうなんて……」

天子「いきなりやって来てお宝みせてじゃ普通は疑うわよ」

響子「どうにも私、一つのことに集中すると他のことが見えなくなっちゃうんです……」

ピク「そのくらい普通の事よ。ホラ、あれ見てみなさい」

 

ガラ「お宝……お宝……ウフフ……」

 

ガラクタ集めマネカタは完全に上の空だ

 

ピク「ね?あそこまでひどくないでしょう?だから大丈夫よ」

響子「ええ、まぁ……」

 

罪悪感を感じている響子をみんなでフォローしていると、

廊下の奥から足音が聞こえてきた。

 

聖「皆さん、お待たせいたしました」

シン「いえ、とんでもないです。そちらの方は……」

聖「ええ、こちらが毘沙門天代理、寅丸星です」

 

これまた特徴的な格好をした女性だ。

寅丸、というだけに、トラ柄のスカートを履いている。

髪もトラ柄のメッシュが入って、徹底している。

地毛だろうか?それとも染めているのだろうか?

シンがそんな失礼なことを考えていると、寅丸が口を開く。

 

寅丸「皆さん初めまして。寅丸です。ようこそ命蓮寺へ」

シン「初めまして、寅丸さん。ボクは間薙シンです」

ピク「アタシはピクシーよ。よろしくね」

天子「私のことは知ってるわよね?」

寅丸「ええ。天人の比那名居天子でしょう?何故この方たちと行動しているのですか?」

天子「私にも色々あるのよ。別にそんなこといいじゃない」

寅丸「?……まあ構いませんが……」

 

ガラ「初めまして寅丸さん!!ボクはガラクタ集めマネカタです!!」

寅丸「おあっ、は、初めまして」

ガラ「早速ですが!右手のそれ!それはもしや……!?」

寅丸「すごい食いつきですね……お察しの通り、こちらが宝塔になります」

ガラ「これが激レアお宝……!!ありがたや~」

寅丸「ちょ、ちょっと!拝まないで!恥ずかしいですから!」

 

ガラクタ君が嬉しさのあまり寅丸さんを拝みだした。

初対面でこれとは、流石ガラクタ君。

ここまで喜んでもらえるなんて、連れてきたかいがあるというものだ。

いきなりの行動に寅丸さんは顔を赤くして、あたふたしている。

 

シン「ハハハ。ガラクタ君は本当に楽しみにしてたもんね」

ガラ「ホントだよ!

やー、でもすごいね!この溢れるお宝オーラ!幻想郷に来てよかった~」

 

楽しみにしていたお宝、その実物を目の前にして

ガラクタ集めマネカタは煌天の悪魔のように感情が高ぶっていた。

 

天子「お宝オーラって何なのよ……」

ピク「彼テンション上がりすぎて、何言ってるかわからないわね」

 

ガラ「ところで寅丸さん!その宝塔ってどんなものなんですか?」

寅丸「……ん?え?」

ガラ「お宝を呼ぶお宝ってことは天子さんから聞いてるんですけど、

実際どんなパワーがあるんですか?」

 

寅丸「あー、うー。

お宝が集まるというのは間違いではありません。

しかし正確には、この宝塔と私の『財宝が集まる程度の能力』が両方あって

、そのような事が起きるのです」

 

寅丸「と言いますか、

どんなものかよくわからないのに、そんなに盛り上がっていたのですか?」

 

ガラ「え?だってすごい大切なんですよね?それ」

寅丸「ええ……まあ。毘沙門天様からの授かりものなので、それはもう大切です」

ガラ「ビシャモンテンさんの持ち物なんて、

やっぱりすごいじゃないですか!そりゃ盛り上がりますよ!」

寅丸「ええ……答えになってないような……(毘沙門天『さん』?)」

 

寅丸さんは納得がいっていないというか、釈然としない様子だ。

それを見てピクシーが一言。

 

ピク「誰かにとって大切なら、それは私達にとっても大事なものってこと」

 

寅丸「はぁ……わかるような、わからないような……」

ガラ「ありがたや~」

寅丸「だから拝まないで!恥ずかしいです!」

 

場がしっちゃかめっちゃかになって話が進まない。

暇そうにしていた天子が、やれやれ、といった感じで声をかける。

 

天子「ハイハイ、漫才はその辺にしときなさい。

それで結局、その宝塔はどんな役に立つのよ」

寅丸「……コホン。この宝塔の能力は大きく2つですね。」

 

ガラクタ集めマネカタに拝まれて顔を赤くしていた寅丸だったが、

気を取り直して説明を始めた。

 

寅丸「ひとつは今の話にも出た、お宝に関してですね。

なんと、この宝塔から出た光線が地面に当たると、当たった部分が宝石に変化するんです」

ガラ「な、なんだってーーー!!!」

寅丸「さらに!もうひとつは、その光線が武器にもなるってことですね!

光線が当たった相手は、法の光で焼かれるのです!」

ガラ「光線!?それってレーザー!?ヒューッ!」

 

シン「なんだろう?このテンション……」

ピク「寅丸さんって案外ノリがいいみたいね……」

天子「なんか疲れるわね……」

 

シン「いや、でも実際すごいな。破魔属性の光線を打ち放題なんて」

ガラ「レーザービームだよ!男のロマンを感じるなぁ……」

 

随分と盛り上がるガラクタ集めマネカタを見ながら、シンは考える。

 

どうやらガラクタ君は満足してくれたようだ。

門前払いを喰らいそうになったときは、どうなることかと心配したが

無事に事が運んで何より。

 

しかしビシャモンテンが法具を授けるなんて、彼女はそれほど優秀な人なのだろうか。

 

シンが思いを巡らせていると、寅丸の横に座っていた聖に呼びかけられた。

 

聖「どうですか?シンさんも満足いただけたでしょうか?」

シン「え?ええ。とても興味深いものを見せていただきました。ありがとうございます」

聖「それは良かった。

……ところでシンさんはデビルサマナーでいらっしゃるとか」

シン「……ええ。そうですよ」

 

自分に話があるようだが、なんの用だろうか?

シンがそう考えている中、聖は話を続ける。

 

聖「そんなシンさんにお尋ねしたいことがありまして……

お聞きしてもよろしいでしょうか?」

シン「訪ねたいこと……?答えられる範囲でなら、お答えしますよ」

聖「ありがとうございます。お聞きしたいことというのは、

人間と妖怪の関係についてなんです」

 

シン「人間と妖怪の関係……ですか?」

 

聖「はい。ここ幻想郷では、人間と妖怪が適度な距離感をもってお互いに接しています。

人間は妖怪を畏れ、妖怪は人間を過度に襲わない。

そうやってお互いに必要以上に干渉しあうことを避け、うまくやってこれています」

 

シン「不思議な世界ですよね」

聖「他の世界から来たシンさんはそう感じますよね。

……この仕組みを聞いて、それ以外に何か感じることはありますか?」

 

どうやら聖さんは、

よその世界の住人である、こちらの考えを聞きたいようだ。

大したことは言えないのに、とは思うが、特に拒む理由もない。

 

シン「……うまく回っているならいいんじゃないか、とは思います。ですが……」

聖「ですが?」

シン「ここ、命蓮寺にお邪魔するまで、ボクたちは人里で1週間ほど暮らしていました。

その中で色々な方と話す機会があったんですが、

家族を妖怪に襲われた人が驚くほど多かった」

聖「……」

シン「半ばあきらめている人、怒っている人、恨んでいる人。

どの人も辛そうにしていました」

聖「……」

シン「あまりよそ者のボクがとやかく言えることじゃないと思います。

それでもやっぱりそういうのを見るのは辛いですし、

何にもしてやれないのはもどかしいですね」

 

聖「シンさんはお優しいんですね」

シン「……そんなんじゃありません。

誰かの人生が台無しになるのを見るのは、もうたくさんってだけです」

 

シンの脳裏に、ボルテクス界で変わってしまった友人たちの顔が浮かぶ。

 

聖「もうたくさん……そうですか。

辛いことを思い出させてしまったのなら申し訳ありません」

 

シン「ああ、すいません!暗い雰囲気にしちゃって!あまり気にしないで下さい。

それで、ボクに聞きたいことってそのことですか?」

 

聖「そうですね……今のシンさんの話と関係あることです。

幻想郷の大半は先ほどの話に出た仕組みでうまく回っております。

しかし、お話しいただいたように、一定数の襲われる人間がいる一方で、

『妖怪だ』というだけで、理不尽に人間から復讐される妖怪もいるのです」

 

シン「憎しみの連鎖ですね」

 

聖「その通りです。憎しみを持った人間たちは、危害を加えた妖怪に復讐しようとします。

しかし大抵の人間では危害を加えるような強い妖怪には敵わない。

そこで『同じ妖怪だ』というだけの理由で、

穏やかに暮らしているチカラの弱い妖怪に暴力をふるうのです」

 

シン「それは……どうしようもないですね」

 

聖「確かに誰かを責めることができない以上、根本的な解決は望めません。

しかし……私はそんな理不尽を受けた妖怪を救いたい。

その思いで命蓮寺では人間だけでなく、妖怪も門下生として受け入れているのです」

 

シン「……」

聖「そこで改めてシンさんにお尋ねします。

今の話を聞いて、シンさんならどうするでしょうか?」

シン「……難しい質問ですね」

聖「申し訳ありません。

悪魔と共に戦うデビルサマナーであるシンさんなら、

何か考えがあるのではと思いまして……」

 

人と妖怪の在り方について。

それは相容れぬ他人とのかかわり方。

シンもボルテクス界で似たような問題と向き合っていた。

啓かれたコトワリ、その世界の在り方。

 

どのコトワリも正しいと思えなかったが、では何が正しいかと問われれば、答えは出ない。

……自分にコトワリが啓けなかったのは、そのせいだろう。

 

少し昔に思いを馳せながら、シンは問いに答える。

 

シン「ボクなら……できるなら、ですが、その妖怪を仲魔にします」

聖「仲間に……

ということは、虐げられる妖怪を放っておくことはなさらないんですね」

シン「いえ。危害を加えた妖怪、暴力を受けた妖怪の2体とも仲魔にします」

聖「え……?」

 

シン「危害を与えた妖怪には、

傷つけた相手への謝罪をさせてから、人のためになる仕事をさせます。

そして、暴力を受けた妖怪は、本人が望むなら一人で戦えるチカラをつけさせます」

 

聖「……」

 

シン「結局はそうでもさせないと、誰も納得することができないでしょうから」

 

聖「……やはり貴方は素晴らしい方ですね。ただ、一つ聞かせてください。

危害を与える妖怪というのは、

人に仇為すことが存在の根幹になっている者が多いのです。

シンさんのやり方では、そういった妖怪の在り方を変えてしまうことになりませんか?」

 

シン「……そうなってしまうことはわかりますが

……それでもボクは悲しんでいる人に前を向いてもらう方を選びます。

その代わりと言っては何ですが、

そういった荒々しいヤツには暴れる場所を提供しますよ。

なんならボクが相手になってもいい。

そうやって納得してもらう落としどころを見つけます。

言葉を話せる以上、お互いの気持ちを伝え合うことはできますから」

 

聖は正直驚いていた。

 

なんと広く深い懐だろうか。

見た目はまだまだ少年と言ってもいいほどなのに、

その強い意志を感じる態度、考えには、底を感じさせない深みがある。

自然と“王”という言葉が脳裏をよぎり、

自分がちっぽけな存在と感じ、情けなくなる。

 

聖「そう……ですか。私には到底そこまでのことはできそうにありません……

私よりもよほどシンさんの方が住職に向いていますね……」

 

シン「?……何を言ってるんですか。聖さん。

ボクのやり方では多くの人間、妖怪を救うことはできません。

ボクが守れるのは、所詮自分の手が届く範囲までです」

 

シン「聖さんは心が傷ついた人たちに、

命蓮寺という場所をいつでも開放しているんですよね?

そういう場所があるってわかっているだけで、救われる人は多いと思いますよ」

 

聖「……ありがとうございます。なんだかいろいろと教えてもらっちゃいましたね」

シン「とんでもないです。命蓮寺が幻想郷に無くてはならないところだってわかったので、こっちとしてもよかったですよ」

 

聖との話が終わりかけたあたりで、ピクシーが痺れを切らして近づいてきた。

 

ピク「ねー、シン。話終わった?」

シン「ああ、うん。聖さん、他に何か気になることはありますか?」

聖「ええ。大丈夫です。貴重なお話をありがとうございました」

シン「とんでもないです」

 

寅丸「お話の最中すみません。シンさん、ちょっといいですか?」

 

話が終わったところを見計らって、

横で話を聞いていたらしい寅丸さんが話しかけてきた。

 

シン「?ボクは大丈夫ですが、一体なんでしょうか?」

 

寅丸「途中から話を聞かせていただいたのですが、

シンさんは大変すばらしい方とお見受けしました。

そこで提案なのですが、命蓮寺に入門してみませんか?」

 

シン「……え?入門?」

 

寅丸「はい!シンさんの人妖共に気遣う姿勢は、命蓮寺の思想と相性ばっちりです!

他の門下生への手本ともなりますので、是非入門してほしいんですよ!」

響子「あ、それいいですね。一緒に暮らしましょう!聖様もそう思いますよね?」

聖「ええ、もちろんです。

シンさんと一緒に修行できれば新しい境地にたどり着けそうな気がしますわ」

 

シン「あー、ええと……」

 

いきなりの申し出に面食らってしまったシンは、こっそりとピクシーに話しかける。

 

シン「ねぇ、ピクシー、ここってビシャモンテンを祀ってるお寺なんだよね?

マズくない?(ボソボソ)」

ピク「そう言ってたわね。

別にいいんじゃないの?変に気を遣わなくても好きにすれば(ヒソヒソ)」

シン「いや、でもなあ……

仲魔の門下生になるとか、ビシャモンテンへの接し方わかんなくなっちゃいそうでさあ……(ボソボソ)」

ピク「シンの悩むポイントは本当に謎よねぇ。

重要なことはさらっと決めちゃうくせに(ヒソヒソ)」

 

聖「どうでしょう?一緒に修行してみませんか?」

シン「ええと、その、申し出は嬉しいんですが、お断りさせていただこうかな、と……」

聖「……そうですか……残念ですが仕方ありませんね。

シンさんと一緒になら、

今よりも多くの悩める人妖に道を示してあげられそうでしたのに……」

 

シン「とんでもないですよ。

聖さんのような美しくて包容力がある住職さんがいるんなら、

ボクがいてもいなくても変わりませんよ」

 

ピク・天子「ちょ」

 

聖「……いやですわ、シンさん。私はそんなに立派な女じゃありませんよ」

シン「そんなことありません。

聖さんと一緒にいられる人は幸せ者です。こんなに素晴らしい方はそうそういませんよ」

聖「……え?あの、ええと……」

 

聖が動揺していることなど気にせず、シンは思ったことをどんどん口に出していた。

それを見かねたピクシーが話に割り込む。

 

ピク「シン」

シン「ん?どうしたのピク……」

ピク「外行くわよ」

シン「え?一体どうし……」

ピク「外行くわよ」

シン「……ハイ」

 

非常に冷たい目をしたピクシーは、シンを引っ張って外に出て行ってしまった。

 

天子「ねえ、アイツっていつもああなの?」

ガラ「これは素晴らしい……!このディティール!芸術だ……!(宝塔をいじりながら)」

天子「……アンタに聞いた私がバカだったわ」

 

ーーーーーー説教ーーーーーーー

 

ピク「アンタねぇ!いつになったらその癖なおるの!?」

シン「ちょ、ピクシー、何で怒って……」

ピク「『マハジオダイン』!!」

シン「痛い!ピクシーやめて!痺れる!」

ピク「女をすぐに口説くのをやめなさいって言ってるの!」

シン「何言ってんの!?そんなことした覚えは……」

ピク「『マハジオダイン』!」

シン「あいたっ!いたたた!やめて!」

ピク「その性格と実力と顔面で、あんなセリフ言われたら、

大体の女は落ちるに決まってるでしょうが!」

シン「ボクが惚れられるとかないって!正直に思ったことを言っただけで……」

ピク「『メギドラオン』!!」

シン「ギャー!死ぬ!今ボク封印されてるから!その攻撃死んじゃうやつだから!」

ピク「歯を食いしばりなさい……」

シン「まだやるの!?やめてって!!ギャー!!」

 

ーーーーーーー説教は続いている……ーーーーーーーー

 

寅丸「聖、残念でしたね……彼が入門してくれたら頼もしい同士が増えたというのに」

聖「……」

寅丸「聖?」

聖「え?ええ……そう、ですね。……とても残念、です」

寅丸「もしかして聖……」

聖「……どうかしましたか?」

寅丸「フフフ、何でもありませんよ♪シンさんとっても魅力的ですからね♪」

聖「!?な、何を言っているのですか!?星!!」

寅丸「聖は長生きしてるのに、こういったことには免疫がないんですよねぇ。

そこがまた良い所なんですけども」

響子「聖様かわいいです!」

聖「響子まで……全く、からかわないで下さいよ……」

 

顔を赤くして慌てる聖を、寅丸と響子がからかっている。

ほほえましい光景だが、それを見て天子はため息をついていた。

 

天子「あちゃー……アイツ自覚なしでこんなことしてんのね……恐れ入るわ」

天子「話がややこしくなる前にお暇しようかしらね。ほら、行くわよ!」

ガラ「見れば見るほど素晴らしい……!あ、ちょっと天子さん、やめて!引っ張らないで!」

天子「それじゃお邪魔したわね」

ガラ「あ、寅丸さん!宝塔みせてくれてありがとうございましたー!」

 

天子にズルズルと引っ張られながら笑顔でお礼を言うガラクタ集めマネカタ、

という面白い絵面が出来上がった。

 

寅丸「ちょっと!大丈夫ですか!?」

ガラ「大丈夫ですよー。今日はありがとうございましたー」

響子「今日はありがとうございましたー」

聖「またいらしてくださいねー!いつでも歓迎しますから」

ガラ「はーい。響子ちゃんも聖さんもありがとうございましたー」

 

・・・・・・

 

天子「お仕置きは終わった?」

ピク「ええ。何度言っても直らないんだから、こうするしかないわ」

ガラ「わー!!シン君どうしたの!?真っ黒だよ!?」

シン「ボクにも……よくわからない……」

天子「あ~あ……こんなになって……ま、自業自得よね」

シン「ボクが何をしたっていうんだ……ピクシーの鬼……」

ピク「ん?今なんて言ったの?シン。もう一度言ってごらんなさい」

 

絶対零度のように冷たい目と言葉で反応したピクシーに、シンは反論を諦める。

 

シン「……なんでもないです」

天子「もうその辺にしときなさいよ。挨拶も済ませてきたし、帰るわよ」

ピク「アンタまた勝手に……ま、今回はいいわ。帰りましょ」

ガラ「やー、今日はいいもの見れたなー!満足満足!」

シン「良かったね……ガラクタ君……」

 

……

 

寅丸「……行ってしまいましたね」

聖「ええ……また会いたいものです」

響子「とってもいい人たちでしたね!また会いたいな~」

 

命蓮寺の3人が余韻に浸っていると、どこからか気配もなく来客が現れた。

 

??「お邪魔しますよ」

響子「!?今度は誰です!?」

藍「急な訪問で申し訳ない。私は八雲紫の式、八雲藍(やくもらん)。

知っているとは思いますが」

寅丸「もちろんです。……今日は何をしにこちらへ?」

藍「本日お邪魔したのは『結界』についての話をしたいからです。

いいですか?聖さん」

 

聖「結界……わかりました。話を聞きましょう」

響子「……結界?」

聖「すいませんが、星と響子ちゃんは席を外してくれないでしょうか?」

寅丸「……?わかりました。行きますよ、響子」

響子「はい!」

 

つづく




略称一覧

シン…間薙シン(人修羅)
ピク…ピクシー
ガラ…ガラクタ集めマネカタ

天子…比那名居天子(ひなないてんし)。幻想郷の天界に住んでいる、自由奔放な天人。
たびたび人里に現れては、暇つぶしをしている。根はいい子。

聖…聖白蓮(ひじりびゃくれん)。命蓮寺の女住職。生まれは千年以上前だが、長いこと封印されていて、目覚めたのは最近。妖怪と人間の懸け橋として日々精進するやさしい女性。色々あって魔導をたしなんでいるため、見た目に反してかなりの戦闘力。

寅丸…寅丸星(とらまるしょう)。トラの妖怪だが、見た目はお姉さん。命蓮寺の毘沙門天代理。生きるご本尊。槍術と宝塔のレーザーで戦闘力は高い。しっかりしているようでうっかりしているところもあり、その人柄は多くの人に愛されている。

響子…幽谷響子(かそだに きょうこ)。命蓮寺門下生のひとり。山彦の妖怪であり、一度聞いた声ならほぼ完全再現できる。見た目は子供、頭脳も子供。いい子ではあるがおっちょこちょいなところも。参道の掃除が日課。

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