人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

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あらすじ

命蓮寺の帰路、強烈な殺気を感じたシンは
半ば無理やり天子を家に返し、気配の元をたどることに。

そこに居たのは強烈な実力を持つ神、オオナムチ。
シンは仲魔のタケミカヅチを召還し、辛くも戦闘に勝利した。

……しかしシンの態度に違和感を感じた天子に後をつけられ、
現場を見られてしまい、ショックを与えてしまう。

シンは異世界でできた友人を失う悲しみを味わうのだった……


第7話 幻想郷 首脳会議

幻想郷が直面している『伏ろわぬ神々』の復活の危機。

その危機に対し、八雲藍は各勢力との協定を結ぶために東奔西走していた。

 

藍「……というわけです。このままでは確実に幻想郷は壊滅してしまう。

皆で協力するためにも、まずは情報共有として会談を開きたいのですが、

参加してくれないでしょうか?」

 

藍は主人である紫のためにも、なんとしても早急に会談を進め、

幻想郷の危機に備えるつもりだった。

 

迫りくる脅威は、各勢力が別々に対応していては到底防げない。

そんなことは誰でもわかる。

 

それに以前から裏・博麗大結界については各勢力の代表者には伝わっている。

 

となれば、必然、この会合にも一致団結して臨んでもらえる。

そのように藍は考えていた。

いくら他人に無関心なものが多いとはいえ、今回はその限りではないだろう。

 

ところが……

 

・・・・・・

 

レミ「脅威が迫っているのはわかる。だが、その会合とやらは遠慮させていただく」

 

覚「私達はもう少し成り行きを見守ります。今日のところはお引き取りを」

 

永琳「私達はそこに行く必要はないわね」

 

神子「フフフ。幻想郷の危機、ですか。本当にそうですかね?」

 

天魔「我らには我らの秩序がある。今回の件に関しては静観させていただこう」

 

諏訪子「……今はそれどころじゃない」

 

・・・・・・

 

驚くほど多くの者たちが、非協力的な態度だった。

 

藍「何故だ……何故事態の重要さがわからない!」

 

余りにも予想と違う現実に、藍は困惑を隠せない。

このまま『伏ろわぬ神々』と事をかまえれば、どの勢力も無事では済まないのだ。

 

どうしてこのような結果となったのか……

藍にはどうしても理由がわからなかった。

 

結局集まったのは、

 

博麗神社から博麗霊夢。その友人、霧雨魔理沙。

白玉楼の西行寺幽々子。

命蓮寺の聖白蓮。

地獄の裁判官である四季映姫。

そして龍神の使い、永江衣玖の6名だけであった。

 

藍「皆様、ようこそお集まりいただきました……

と申しましても、私のチカラが足りず、

小規模な会合になってしまいましたことをまずはお詫びします」

 

四季「貴女が気に病む必要はありません」

西行寺「そうよ~。どうしようもないことだしね~」

 

聖「しかしこんな重大な事態ですのに、皆さんが非協力的というのは解せないですね」

藍「本当に……幻想郷存続の危機だとわかっているはずなのに……」

 

招集が徒労に終わったことに肩を落とす藍。

そこに霊夢が呆れた表情で声をかける。

 

霊夢「藍。アンタすごく頭がいいと思ってたけど、そうでもないのね」

藍「……なに?どういうことだ?」

 

霊夢「貴女から見た幻想郷と、他の奴から見た幻想郷は別物ってことよ」

 

藍「……何を言っている?幻想郷に別物も何もないだろう?」

西行寺「貴女はそのアタマが固いのを治さないとね」

 

藍「幽々子様まで……どういうことでしょうか?」

魔理沙「私もよくわかんないぜ。いったいどういうことなんだ?」

 

どうやら霊夢の言うことを理解できる者はできているようだが、

自分自身には全く見当もつかない……

 

藍が困惑していると、地獄の裁判官である四季映姫が口を開く。

 

四季「八雲紫の式よ、今回の脅威となる者たちはどういう存在でしたか?」

 

藍「それは……時々の権力者たちに虐げられてきた神々です。

その恨みと怒りをもって、復讐のため復活しようとしている」

 

四季「その通り。その認識は正しいでしょう」

魔理沙「だよな。ほっといたら危ないぜ」

 

西行寺「でもそれって、本当に危ないのかしらね~?」

 

藍「……何をおっしゃいます、幽々子様。

少なくとも封印を維持し続けてきた我々に怒りが向かないわけがありません!」

 

幽々子「う~ん……それじゃ言い方を変えましょう。

『伏ろわぬ神々』を敵だと思ってるのは誰かしら?」

 

藍「それは……もしや、幽々子様が言いたいことは……!」

 

まさかそんな……!

 

西行寺「流石にわかったかしらね」

 

霊夢「チカラある者との戦いに負け、もしくは迫害されて封印された……

それって幻想郷の妖怪とおんなじじゃないの」

 

聖「……そういうことでしたか」

 

魔理沙「ええと、つまり、

この会合に来なかった連中は『伏ろわぬ神々』を敵だと思ってないってことか?」

 

四季「そういう考えの者も多い、ということでしょう。

他勢力と協力せずとも、自分たちだけでなんとかする自信がある者もいるようですが」

 

藍「クソッ……!なんてことだ……完全に盲点だった。

少し考えればわかることだったのに……」

 

西行寺「まあ貴女は紫の思い入れをよく知ってるからね~。

客観的に考えられないのも無理ないわ」

 

聖「では、その『伏ろわぬ神々』と

協力しようと考えている方々もいるのかもしれませんね」

 

幽々子「地底の面々なんかはそうかもしれないわね~」

 

魔理沙「ええ!?そ、それってマズいんじゃないか!?

ただでさえ戦力不足なのに、味方にしようとしてた奴らまで敵に回るなんて……!」

 

藍は自分の認識が見当違いだったことに困惑しつつ、

現状の再認識に考えを巡らせていた。

 

『伏ろわぬ神々』の多くは国津神であり、

土着神や権力争いに敗れた集団がこれに当てはまる。

 

幻想郷でこの集団にくみする可能性のある者と言えば、

先ほど話に出た地霊殿に連なる地底の集団、守屋神社の面々だろうか。

 

強力なチカラを持った集団であるだけに、敵に回るとなれば絶望的だ……

 

……さらに他の勢力についても考えを巡らせてみる。

 

永遠亭はどちらかと言えば天津神の勢力に分けられるため、

今回の危機には対応せねばなるまい。

 

それでも会合参加を断ったということは、

こちらに頼らず月の勢力と一計を案じているのかもしれない。

 

紅魔館、神霊廟、妖怪の山については何とも言えないが、

ここに集っている者たちと協力するかどうかは怪しいところだ……

 

西行寺「ま、今日貴女が私たちを集めたのは情報共有が目的なんでしょ?

その話をしてくれない?」

藍「……え、ええ。そうでしたね。……それでは現在の状況をお伝えいたします」

 

妖狐説明中……

 

藍「……と、いうわけです」

 

四季「結界に亀裂が……もうそこまでの事態になっていましたか」

 

西行寺「早晩にでも結界は完全に破壊されそうね。

……ていうより、もう出てきちゃってるのもいるんじゃないの?」

 

藍「それはありえません。この結界は紫様、龍神様、博麗の巫女の合作です。

いくらなんでも、そんな最強ともいえる結界をすり抜けるなど、

できるはずがありません」

 

西行寺「ま、それもそうね。そんなこと出来る神様なんて、一握りよね~」

 

藍「そういうことです。万が一結界内にそんな強力な神がいたら、

それだけで絶望的だ……」

 

魔理沙「それで、実際どうするんだ!?このままだとマズいんだろう?」

永江「それについては龍神様からお達しがあります」

 

沈黙を保っていた龍神の使いである永江衣玖が、満を持して口を開く。

 

永江「実は龍神様も、幻想郷の全勢力が一致団結するのは難しいと考えていました。

そこでまずは、この集まりに参加しなかった勢力と停戦協定を結ぶように、との事です」

 

霊夢「まずは身内から固めていくってことね」

 

永江「ハイ。そして幻想郷内での協定を結ぶのと同時並行で、

結界内の戦力把握に努めるように、ともおっしゃっていました」

 

藍「確かに結界の力が弱まっている今なら、中の状態を調べることもできるか」

聖「彼を知り、己を知れば、百戦危うからずということですね」

 

永江「その通りです。そして最後に……

いざという時には幻想郷を捨て、逃げる準備をしておくように、と……」

 

魔理沙「!?……そんな、龍神様は本当にそんなこといってたのか!?」

西行寺「……そうね。最悪の場合、そうするしかないのかもね」

魔理沙「そんなこと……できるわけないだろ……!

ここには大事なもんがいっぱいあるんだ!」

霊夢「もちろんそんなことにはさせないわ。でしょ?」

 

永江「ええ。龍神様もそれは最後の手段とおっしゃっております。

どんな結末を迎えようと、死だけは選んでほしくない。

そのような思いがあるからこそ、

最悪幻想郷を捨ててでも生きろとおっしゃっているのです」

 

霊夢「……死んでしまったら、終わりだものね」

西行寺「あら~?結構のんびりできるわよ?」

霊夢「それはあんたが特例中の特例だからよ……」

 

龍神からの伝言が一通り済んだのを見計らって、地獄の閻魔が口を開く。

 

四季「……少しいいですか?」

藍「?……なんでしょうか?閻魔様」

四季「私がこの会合に顔を出した目的を伝えておきます。」

西行寺「あら?閻魔様には何か考えがあるのですか?」

 

四季「私の役目は罪人にしかるべき裁きを与えることで、

罪人になる前の者を止めることではありません。それはわかりますね?」

 

藍「ええ。……しかし今回の場合は……」

 

四季「どんな場合でも例外はありません。

『伏ろわぬ神々』は、いにしえの権力争いに敗れただけの事。

この幻想郷では、まだ何の罪も犯していないのです」

 

四季「つまり、私は彼らを止めるため戦いに参加することはできません。

もし彼らが無差別に暴れまわって、被害が出ることがあれば、

その限りではありませんが」

 

藍「そうですか……」

 

魔理沙「閻魔様!このままじゃ幻想郷が危ないんだって!一緒に戦ってくれよ!」

 

四季「それは重々承知ですが……危険な存在だからと言って、

何もしていない者を裁くことはできないのです。

地獄の裁判官として、これは曲げられません」

 

四季「だから私が協力できるのは、何かしらの決着がついてからとなります。

被害が出るのを防ぐために戦うことはできません」

 

藍「……それでは、閻魔様の協力も得られない、ということですか……」

 

四季「いえ、あくまでなにがしかの被害が出た後なら、彼らの罪も確定します。

そうなってからであれば、協力しましょう」

 

聖「そうですね……仕方のないことです……」

 

四季「今の彼らの境遇は、むしろ同情の余地さえあるものも多い、という状態ですから」

 

永江「弱りましたね……ここまで戦力が減ってしまうとは、

流石に龍神様も考えてはいないでしょう」

 

霊夢「もともと幻想郷に住んでる奴なんて、協調性皆無の奴ばかりだもの。

しょうがないわよ」

 

藍「こうなってしまっては、方針を見直すしかないな……

いったん今日の会合は終了とさせていただきます。

また方針が決まり次第、皆様には随時連絡いたします」

 

一区切りついて場の空気が緩くなる。

 

魔理沙「ハァ……前途多難だぜ……」

霊夢「……なかなか厳しいわね」

西行寺「紫はこの事態、どうするのかしら……」

永江「私は早急に龍神様に報告しませんと……」

 

各々が今回の話を聞き、対策をとるために帰路についていく。

その中で白蓮は一人その場で考えていた。

 

聖「……(今回の件、決して単純な話ではありませんね。

私たちに命の危険があるのはわかるのですが……)」

 

聖「(封印されているという彼らは、恨みと怒りで我を失っていることでしょう。

出来る出来ないは関係ない……

悲しみで前が見えなくなった者たちをチカラで抑えるのは、

果たして正しい行いなのか……)」

 

聖「(シンさん、貴方だったらどうするのでしょうか……?

できればもう一度会って……話が聞きたい……)」

 

・・・・・・

 

帰路につきながら、藍も会合について考えていた。

 

課題が山積みとなってしまった今回の会合だが、

正しく現状認識できただけでも価値はあった。

 

また、封印された神々のチカラを知っていれば、

各勢力の意見も変わるかもしれない。

 

龍神様の言う通り戦力分析をしっかり済ませ、

危険度を割り出してから再交渉に向かうのがベターだろう。

 

藍も正しい戦力分析ができていなかった以上、やはり下調べは最優先事項だ。

 

あまりにも火急の事態だったので、焦りが先に来てしまった。

冷静でいられれば、会談でもう少しうまくやれたのでは……

 

藍は後悔の中、舌打ちしつつも、考えをまとめるのだった。

 

・・・・・・

 

マヨヒガへと戻ると、紫へと会合の内容を説明する。

 

藍「……という運びとなりました。思い返せば、

もう少しやりようがあったと思います……申し訳ありません」

 

紫「……そう……少し厳しいわね……」

 

藍「これから私は結界内の戦力把握のために、調査をしようかと思います。

よろしいでしょうか?」

 

紫「……ええ。まずはそうしてくれればいいわ」

藍「承知しました」

紫「……」

 

紫は現在自身のチカラの大半を人修羅の封印へと充てていた。

 

強力すぎる魔力の奔流をコントロールし続けるのは、

荒れ狂う濁流を任意の方向へ受け流し続けるようなものだ。

 

それをシンが幻想郷に来てからずっと続けていた紫は、

満足に動くことができず寝込んでいた。

 

紫「龍神様……私は……私たちは……どうすればよいのでしょうか……」

紫「私たちが作り上げた幻想郷は……このまま消えてしまうのでしょうか……?」

 

藍にはまだ結界に亀裂が入ったことしか伝えていないが、事実はより深刻である。

 

裏・博麗大結界は非常に強力な結界であるが、

それをものともせず、どうやら既に何体か抜け出したようなのだ。

 

その何体かだけで、すでに龍神と紫が対処できる戦力は優に越えている。

最早まともに戦う選択肢はなく、搦手をフルに使って何とかなるかだろう……

 

……最近人修羅がチカラを一部使用したというのも気がかりだ。

一体何のためにチカラを使ったのだろうか……

 

不確定要素が多く、そのすべてが悪い方向に向いているであろう以上、

できるだけ早急に、解決できるところから解決していくしかない。

 

紫はくじけてしまいそうな心を奮い立たせ、次の策を必死で練り上げるのだった。

 

つづく




略称一覧

霊夢…博麗霊夢(はくれいれいむ)。幻想郷を覆う、博麗大結界の管理をしている。通称・博麗の巫女。幻想郷で起こる数々の異変を解決してきた実績があり、各勢力からの信頼は篤い。年齢からは想像できないほど、物事を達観した目で見ている。

魔理沙…霧雨魔理沙(きりさめまりさ)。魔法の森の辺りで暮らしている魔法使い。霊夢とは昔からの知り合いで、仲が良い。明るく前向きな性格。彼女も霊夢と共に異変解決をしてきた経歴を持つ。ただし罪悪感なしに泥棒をしていくので、一部からはお尋ね者扱いされている。

藍…八雲藍(やくもらん)。八雲紫の式にして、幻想郷でも指折りの実力を持つ九尾の狐。頭の回転、計算力にかけては右に出るものはいない。が、予想外の事態に弱いのが玉に瑕。紫が動けない現在、代役として動き回っている。

紫…八雲紫(やくもゆかり)。妖怪の賢者。人修羅の封印にチカラの大半を割いており、寝たきり状態。普段は本心をほとんど表に出さずに好き勝手やっているため、自由奔放、傍若無人といった印象を持たれている。本当は思いやりの深い妖怪なのだが。実力は幻想郷メンバーの中でも頭一つ二つ抜けている。

聖…聖白蓮(ひじりびゃくれん)。命蓮寺の女住職。生まれは千年以上前だが、長いこと封印されていて、目覚めたのは最近。妖怪と人間の懸け橋として日々精進するやさしい女性。色々あって魔導をたしなんでいるため、見た目に反してかなりの戦闘力。

永江…永江衣玖(ながえいく)。龍神のお告げを人々に伝えるのが役目。ちなみに伝える情報の取捨選択は彼女がする。仕事中はまじめだが、そうでないときはものぐさ。オンオフ切り替えがしっかりしている。何故か天子のお目付け役として任命されている。

西行寺…西行寺幽々子(さいぎょうじゆゆこ)。白玉楼の主。幽霊であるが、実態を持っており、ほとんど生者のようなもの。呪殺系の特技が使えるため、無耐性の者は敵ではない。幻想郷のパワーバランスの一翼を担う実力者。性格はおっとりとしており、人当たりもよい。紫ととても仲が良い。

四季…四季映姫・ヤマザナドゥ(しきえいき)。地獄の裁判官。白黒はっきりした性格で、裁判官という職務にこれほど向いている者はいない。人を裁く時には、法というよりも掟、道徳、事実を重視する。メガテン的に言えばカオスサイド。当然実力的にも幻想郷屈指である。頼りにはなるが、友達としては遠慮したいタイプ。

各勢力の代表たち…今回は紹介見送り。またしっかり登場した時に書きますね。

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