人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

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あらすじ

シンが洞窟で激闘を繰り広げている間、
幻想郷の実力者を集めた会議が開催されていた。

だが、八雲藍の予想とは裏腹に、多くの実力者は非協力的であり、
会合は非常に小規模なものになってしまった。

しかしながら、その会合の中で、各勢力がどういう立ち位置なのか、
現状どこまで危機が迫っているのかを、再認識することには成功。

主である八雲紫への報告を済ませ、次の一手に奔走する藍なのであった。


第8話 人修羅一行 お金をせびりに行く

オオナムチとの戦闘を終えたシン一行は、人里の宿まで帰ってきていた。

もう夜も更けていたので、宿に戻り各々の時間を過ごす。

 

……シンはどうしても眠れず、縁側で月を眺めていた。

 

シン「……」

ピク「……シン、寝れないの?こんなところでボーっとして」

 

気が付くと隣にピクシーが座っていた。

 

シン「……まあね」

ピク「私達悪魔には睡眠は必要ないから、わざわざ寝ることもないんだけどね」

シン「……そうだね」

ピク「……今日のこと、気にしてるの?」

 

流石に長い付き合いだ。

ピクシーには自分が考えていることくらいお見通しなのだろう。

 

シン「……ピクシーに隠し事することはないか」

 

ピク「せっかく仲良くなったのにね……明日はアイツ来るのかしら」

シン「あんな姿を見たんだ……もう会うこともないだろう……」

 

ピク「ねぇ……前から言ってるけど、そんなに辛い思いをするんならさ……

心まで悪魔になっちゃえばいいのに」

 

ここに来る以前から、

ピクシーには何度かこの提案をされたことがある。

 

しかし……

 

シン「それは……できない……しちゃいけない」

シン「あの世界を、あいつらを覚えていられる人間は、ボクだけなんだ……」

 

ピク「……その話、悪魔の私にはよく理解できないのよ……ゴメンね」

 

シン「気にかけてくれているだけで嬉しいさ」

 

ピク「とにかく、本当に辛くなったらボルテクス界に帰りましょ。

もうあの時とは違って逃げてもいいんだから」

 

シン「……」

 

ピク「……この幻想郷にはそんなに思い入れなんてないでしょ。

いざとなったら帰りましょ。

このきれいな月が見れなくなるのはもったないけどね」

 

シン「そう……だな」

 

ピク「そうよ。それでいいの。

……柄にもなくしんみりしちゃったわね!」

 

真剣な顔で話していたピクシーは、ニコッと笑うといつも通りの調子に戻った。

 

ピク「ねえ、シン。明日はどうしましょうか?またやることなくなっちゃったわよ」

シン「……そういえば買い物を一週間もしてたから、手持ちが少なくなってきていたな」

ピク「あら?そんなに買い物したかしら?」

 

シン「普通に生活してたら1か月以上は持ったんだろうけど、

毎日買い物してたらそりゃ足りないさ」

ピク「ふ~ん、そういうものなのね」

 

シン「というわけで、明日は阿求さんからお金を受け取りに行こう」

 

ピク「わかったわ~。

その時に他のお宝の事何か知ってるか聞いてみましょ!」

 

シン「それいいね。その時にまた行先決めようか」

 

ピク「よし!やることも決まったわね!

それじゃ明日に備えて今日はもう寝るわよ!」

 

シン「……そうだね。それじゃお休み、ピクシー」

 

明日やることも決まり、それぞれの部屋で床に就く二人。

一人になったシンはさっきのピクシーの言葉を思い出す。

 

シン「心まで悪魔に、か……」

 

……心まで闇に染まり、完全に悪魔になれば、

人間の心を持っていたころのすべてが薄れてしまうだろう。

 

そうすれば確かに、悲しみ、憎しみ、罪の意識。

そういったことから解放され、楽になるに違いない。

 

しかしシンにはそれが許せない。そんなこと、してはいけない。

 

あの悲劇があったことを誰も覚えていないなんて、

あまりにも救いがないではないか……

 

考えを巡らせているうちに、今日の疲れがドッと出てきた。

 

意識がまどろんでゆく……

 

・・・・・・

 

ガラ「シン君!起きて!朝だよー」

ピク「そろそろ起きなさーい」

 

深い眠りに入っていたのだが、二人の声で目が覚める。

けだるい体をゆっくりと起こし、返事をする。

 

シン「……ん。……ああ、もう朝か……」

 

ガラ「ピクシーから聞いたよ!今日は阿求さんちに行くんだって?」

シン「そうだね。そのつもり」

ピク「もうずいぶん日も昇ったわ。そろそろ出発しましょ」

 

ピクシーの言葉で、もう太陽が大分高い位置にあるのに気が付く。

それだけ疲労がたまっていたということだろう。

 

シン「ああ、随分寝てしまったみたいだな。準備するからちょっと待ってて」

ガラ「はーい」

 

人修羅移動中……

 

ピク「なんかここに来るのも久しぶりね~」

ガラ「なんだ随分昔のような気がするなあ」

シン「そうだね。随分濃い一週間だったから」

 

ガラ「あの時は天子さんに連れられてここに来たなぁ……

あ、そういえば今日は来てないね」

 

シン「……そうだね。何か用事でもできたんじゃないかな」

ガラ「そうかもねー」

 

シン「さ、それじゃ阿求さんにお金を受け取りに行こう。……すいませーん」

 

人修羅入室中……

 

阿求「お久しぶりですね。シンさん」

シン「お久しぶりです。阿求さん。

お時間とっていただいて、ありがとうございます」

阿求「いいんですよ。こちらからお伝えしたいこともありましたし」

 

シン「?……何ですか?」

 

何の連絡なのだろうか、とシンは自分たちの行動を思い返す。

 

昨日のオオナムチの一件は人里とは縁がないことなので別として、

ここ一週間は普通にお店巡りをしていただけだ。

 

何かしでかしたという事はないはずだが……

 

阿求「正直申し上げると……最近まで私は貴方たちのことを疑っていました。

何か別の目的で幻想郷にやってきたのだと」

 

ピク「ま、そうなるわよね」

 

阿求「しかしここ数日の人里での暮らしを鑑みるに、

特別な目的はないと判断することにしました」

 

ガラ「買い物ばっかりしてたからねー」

 

阿求「本当にずっと買い物ばかりしていたうえに、

貴方たちに関わった人間はみな好意的な印象を持っていました」

 

ピク「基本シンは礼儀正しいから、当然と言えば当然よね」

 

阿求「さらにですが、昨日命蓮寺に向かったようですね。

何事かと思いましたが、話を聞くと、宝塔を見せてもらうつもりだったとのこと」

 

シン「ええ。命蓮寺の皆さんには親切にしていただきました」

 

阿求「その行動も幻想郷に来た目的と相違ありません。

……ということで、稗田家は貴方たちを正式に人里に受け入れることと決定しました。

伝えたかったのはそのことです」

 

シン「へえ……」

 

こちらの行動がおおむね把握されていたことも驚きだが、

シン一行をあっさりと受け入れることにした決断にも驚かされる。

 

阿求「別に行動の制限があったわけではないので、何が変わるわけでもないんですけどね」

シン「いえ、その気持ちが嬉しいんです。信じていただいてありがとうございます」

阿求「とんでもない。こちらこそ疑っていたのに、そのように言ってもらえると助かります」

 

シン「そんな話を聞いた後だと切り出しにくいのですが……

今日ここに来たのはお金を受け取りたかったからなんです」

 

阿求「ああ……そういうことでしたか」

ガラ「たくさん買い物したからお金が無くなっちゃいました」

 

阿求「承知しました。

いただいた宝石の鑑定も済んで、正確な金額もはっきりしたので、

残りの換金分を一括で渡してしまいますね」

 

阿求「というかシンさん。あの宝石、どれもこれも上物だったみたいですよ」

シン「そうなんですね。あまり気にしていなかったので、よく知りませんでした」

阿求「宝石商が驚いてましたよ?こんな見事な加工は見たことがない、って」

シン「それはよかった。価値が分かる人が使ってくれるのが一番ですね」

 

阿求「……?」

 

阿求は首をかしげる。

シンは宝石の本当の価値を知っても、

たいして驚いたり嬉しそうにしたりといった反応を示さなかったからだ。

 

阿求「あまり興味がなさそうですね……宝探しに来たっていうのに、不思議な方です」

ガラ「宝石はお宝ってわけじゃないですからね」

ピク「唯の石ならいくらでも手に入るものね~」

 

宝石は宝ではない……?

 

阿求「……宝石は十分貴重なお宝だと思うのですが?」

シン「宝石よりも、ここで買い物して手に入れたものの方が大事なんです」

 

阿求「???……何やらよくわかりませんが、お金をお渡ししちゃいますね。

少しお待ちを」

 

少女準備中……

 

阿求「お待たせしました。こちらが宝石の換金分になります」

ガラ「おお!すごいね!」

ピク「あの宝石、こんなになったの!?」

阿求「ええ。これだけあればどんなに買い物しても1年はもつでしょう」

 

阿求「……ところで皆さん、どのくらいここに滞在するつもりなんですか?」

 

シン「そうですね……どうやら幻想郷は随分広いようですし、

2,3か月はいろいろ見て回ろうと思います」

 

阿求「それなら暫くはこちらに住まわれるんですね」

シン「そのつもりですが……どうしてそんなことを?」

 

阿求「もしよければ、なのですが、

空いた時間にでもシンさんが元いた世界の話を聞かせてくれませんか?」

 

シン「……あまり面白い話はありませんよ?」

 

阿求「そんなことありませんよ!別の世界のお話ってだけでも貴重なんです。

……お暇な時で構いませんので……ダメですか?」

 

シン「……わかりました。話してもいい内容でしたらお話しします。

阿求さんにはお世話になってますしね」

 

阿求「やった!ありがとうございます!」

 

阿求は先ほどまでの当主としての落ち着きある振る舞いから一転、

年相応と言える、元気な笑顔を見せるようになった。

どうやら本来の阿求は、好奇心たっぷりのとても明るい女の子のようだ。

 

そんなふうに喜ばれては、期待に応えないわけにもいかない。

お暇な時とは言わず、今から付き合うことにしよう。

 

……というか実際今は暇なのだ。

 

シン「もし阿求さんの方が忙しくないのなら、今からお付き合いしますよ?

ボクたちは今やりたいことありませんし」

 

阿求「ホントですか!?それじゃお願いします!」

 

阿求は胸の前で手を組み、とてもうれしそうに笑っている。

 

自分たちのことを話すだけでそんなに喜んでもらえるなら、

話甲斐もあるというものだ。

 

ガラ「阿求さん、なんだか随分と調子が変わったね」

ピク「元々こっちの方が素なんじゃない?私達警戒されてたっぽいしね」

 

シン「それではどこから話をしましょうか……」

 

シンは阿求の希望通り、ボルテクス界のことをかいつまんで説明した。

 

とはいっても、こちらの世界にまで殺伐とした話を持ち込むつもりはない。

 

東京受胎や創世の戦い、終の決戦のことなどは伏せ、

悪魔とマネカタが住んでいる世界、とだけ説明しておいた。

 

また、自分が人間としてふるまっている以上、

ボルテクス界には人間もいるということにしておいた。

 

阿求「はー……なんともすごい所から来たんですねぇ……」

シン「まあ、幻想郷と同じようなものですよ」

阿求「どう聞いてもそうは思えないのですが……」

 

思った以上に衝撃的な内容だったため、阿求は目を丸くして驚いている。

 

シンの話した内容は、本人にとっては当たり障りのない内容だったのだが、

幻想郷の住人からしたら、充分刺激が強いものだった。

 

シン「ほら、どっちも妖怪(悪魔)と人間(マネカタ)が共存してるじゃないですか」

阿求「もっと根本的なところで違うような……いやでも、一緒なのかしら……?」

 

ピク「似たようなものよ。あ、でもこっちの方が人間の扱いがいいわよね」

ガラ「ボクらの扱い、ひどいからね」

シン「キミも拷問受けたもんね」

ガラ「あれは辛かったなあ……死ぬかと思ったよ。

ていうかシン君が来てくれなかったら死んでたね」

 

阿求「拷問……やっぱり幻想郷とそちらは違いますよ……」

シン「まあ些細な違いですね。他に気になることはありますか?」

 

阿求はすでに、シンの話すボルテクス界の話でおなか一杯になっていた。

しかし今が絶好のチャンスと思い、気になっていたことを尋ねることにした。

 

阿求「そうですね……シンさん。ここに来られた目的は宝探しということでしたね?」

シン「ええ、その通りです」

 

阿求「先ほどの宝石の話を聞いて、よくわからなかったんですが……

貴方達にとって宝とはどのようなものなんでしょうか?」

 

シン「……?ああ、そうですね。なんといいますか……」

ガラ「お宝は珍しくて見てると楽しくなってくるものです!」

 

阿求「ええと、そうですね……

貴方達はこれだけの量の宝石を持ってるじゃありませんか。

宝石だって十分貴重なもののはずです」

 

阿求「貴方達の言うお宝とは、金銭的なものではないのですか?

いったい何をもってお宝と考えているのですか?」

 

シン「……うーん、難しい質問ですね……

確かに阿求さんの言う通り、お金が目的じゃありません」

 

阿求の予想していた通り、シン達にとってお宝=お金ではないようだ。

しかしそうであるのなら、一層気になる。

一体彼らの言うお宝とは何を指しているのだろうか?

 

阿求「やっぱり……では何が目的なのですか?」

 

ピク「なんていうか、お宝そのものが欲しいんじゃないのよね~」

 

阿求「どういうことですか……?」

 

ガラ「みんなでお宝さがして、それで手に入れて。

そうやって手に入れたお宝を見ているのが

楽しいんだよね~」

 

シン「ああ、確かにそういうことだね。

たまにガラクタ君の店に行って、みんなで手に入れたお宝の話するのは楽しいね」

 

阿求「……」

 

阿求「……成程。……そういうことでしたか。

お話聞かせてくださってありがとうございます」

 

シン「なんだかうまく答えられなくてすみません」

阿求「いえ、よくわかりました。ありがとうございます」

シン「ええと……そうなんですか?解決したようなので良かったですが」

阿求「シンさんたちが信用できる人たちだって分かったので、私は満足です」

シン「……?」

 

何やら今の話で阿求は納得がいったようだ。

シンとしては全然うまく説明できた気がしないのだが、本当に伝わったのだろうか?

 

まあ本人がいいと言っているのだからいいのだろうが。

 

阿求「私のわがままに付き合ってもらっちゃって、ありがとうございました!

大分時間もたっちゃいましたので、今日はここまでということで」

 

シン「はい。こちらこそありがとうございました」

 

阿求「ぜひまたうちに来て、色んな話を聞かせてください!いつでも歓迎しますので!」

 

シン「その程度ならいつでもお話ししますよ。それでは失礼します」

阿求「また会う時を楽しみにしてますね!」

 

阿求はシンを笑顔で見送ると、先ほどの話を思い返す。

 

……シン達の言うお宝とは金銀財宝のような金銭的なものではない。

それは誰もが常に求めているものであり、日常的すぎて気にするほどの事でもないもの。

 

 

……つまりは 『思い出』 なのだろう。

 

 

楽しい思い出、嬉しい思い出、話をするだけでみんなが笑える、そんな出来事。

彼らはそんな体験を求めて旅をしているのだろう。

 

わざわざ『思い出』を求めて異世界にまで旅をするとはどういうことか?

 

普通の生活をしていたら、良い思い出は身の回りにあるはずである。

つまりその私達の言う『普通の生活』は手の届かないものだったということ。

 

……先ほどの話も踏まえると、

送ってきた日々が壮絶なものだったことは想像するに難くない。

 

ただ一つ言えることは、彼らは『普通の生活』を作り出そうとしていること。

そんな者たちに悪意があると考えるのは、無粋だろう。

 

不安に思う必要はなさそうだ。

第一阿求自身も彼を嫌いにはなれない。

 

規格外な彼らがこれから幻想郷で何をしていくのか……

少し楽しみな阿求であった。

 

・・・・・・

 

シン「あっ」

ピク「ん?どしたの?」

シン「お宝情報聞くの忘れた……」

ガラ「あ―……」

 

 

つづく




略称一覧

シン…間薙シン(人修羅)
ピク…ピクシー
ガラ…ガラクタ集めマネカタ

阿求…稗田阿求(ひえだのあきゅう)。人里の顔役である稗田家、その当主。実年齢は10歳ほどだが、自身の能力により、先代の記憶をすべて受け継いでいる。シン一行のことは警戒し、監視をつけていたのだが、今回の談話で警戒の必要なしと判断。

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