人修羅とガラクタ集めマネカタが行く 幻想郷紀行   作:tamino

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あらすじ

オオナムチを倒した瞬間を天子に見られてしまい、傷心のシン。
ピクシーのフォローにより、気を取り直しすことができた。

ひとまず次の活動のためにも、稗田家で活動資金をいただくことに。
談話の結果、阿求からの不信の目は解けることとなった。


第9話 比那名居天子 単独調査

先日開かれた八雲藍主催の首脳会合。

 

そこから帰ってきた衣玖は、

丸一日掛けてまとめた情報を、先ほど竜宮へ報告したところだった。

 

永江「……ふぅ。ようやく一段落ですね……」

 

久々の大仕事を終えて、一息つく衣玖。

元来ものぐさな性格ではあるが、今回は流石にそうも言っていられない。

 

首尾を報告した時の、あんなに深刻な表情の龍神様は初めて見た。

それほどの事態ということなのだろう。

 

自分の住む天界にまで被害が及ぶかは不明だが、

八雲藍の話や、龍神様のあの様子を見る限り、

幻想郷全域が危険と言ってもおかしくはなさそうだ。

 

永江「総領娘様の様子もあの日以来おかしいし、全くどうなってしまうのでしょうか……」

 

天子は先日友人の外来人に会いに行ったきり、落ち込んでしまっている。

 

幻想郷では珍しく、わがままではあるが根がいい子である。

今の状況はとても心配だ。

やはり何か無理を言って、嫌われてしまったのだろうか……

 

永江「余りこれ以上心労をかけたくはないんですが……やむを得ないですよねぇ……」

 

そう言うと衣玖は深いため息をつく。

 

いくら天子が部屋にこもってふさぎ込んでいるとはいえ、

この緊急事態を伝えないわけにはいくまい。

 

泣きっ面に蜂というか、寝耳に水というか、

とにかくいい知らせとはとらえてもらえないだろう。

 

報告に行こうとするものの足が重い……現実逃避の一つでもしたくなる。

 

永江「ああ……早く雲海の中で日がな一日のんびりする生活に戻りたい……」

 

あーだこーだ言いつつも、衣玖は比那名居家、天子の部屋の前に到着していた。

さて……あのわがまま娘にどう切り出すべきか……

 

永江「総領娘様ー。いらっしゃいますか?いたらお返事を」

 

返事はない

 

永江「総領娘様?……開けますよー」

 

ガララッ……

 

しかしそこには天子の姿はなかった。

 

永江「あれ……?いない……?」

 

普段であればふらっといなくなるのは日常茶飯事なのだが、

昨日からずっと部屋にこもっていたので、今日もいるものだと思っていた。

 

もう気分が変わって、機嫌もよくなったのだろうか?

 

……いや、何か変だ。部屋の様子がどうもおかしい

……なんだろう?……この違和感。

 

今の天子の部屋はいつもの部屋と比べて何か違和感を感じる。

その正体を探るため、部屋をじっくりと見渡す。

 

永江「……ん?……これは」

 

そう言うと衣玖は机に積まれた本を手に取る。

『古事記』『日本書紀』『神話学入門』『神道の世界』『古代日本の神々』『竹内文書』……

 

永江「勉強嫌いの総領娘様がなぜこんな本を……」

 

普段はホコリが積っている勉強机の上には、日本の歴史書が山と積まれていた。

落ち込んで部屋にこもっていると思っていたのだが、何かしていたのだろうか?

 

さらによくよく見ると、あったのはそれだけではなかった。

『北欧神話の不思議』『回教の成り立ち』『基督教:信仰についての事』『世界の土着信仰』『ラーマーヤナ』『ポポル・ヴフ』……

 

永江「日本だけではない……世界の神話についての本もたくさんありますね」

 

天子は勉強が嫌いだが、頭が悪いわけではない。

というよりもむしろ逆で、頭はかなりいい。

麒麟児と言ってもよいほどだ。

 

勉強が嫌いなのも、

自分で調べればすぐにわかることを延々と聞かされるのが嫌、

という理由からだ。

 

その天子がここまで自分から知識を求めているとは、よほどのことがあったに違いない。

天子の友達という外来人、一体何者なのだろうか?

そして何があって天子はこんな調べ物を必死でしていたのだろうか?

 

永江「……考えてもわかりませんね」

 

今は自分にできることはない。

というか色々起こりすぎて面倒になってきた。

 

天子が帰ってきたらそれとなく聞いてみよう。

そう考えると衣玖は自分の家に帰るのだった。

 

・・・・・・

 

衣玖の心配をよそに、天子は部屋から出て目的地へと向かっていた

 

天子「……」

 

天子はあの日、シン達と別れた洞窟へと向かっている。

そう、あの日の洞窟へと……

 

・・・・・・

 

……あれは二日前。一昨日の出来事だ……

 

天子「ふんふ~ん。あいつ等一体何企んでるのかしらね~。」

 

さっきは不自然に家に帰らされたが、

それで「はいそーですか」と引き下がるはずがない。

 

無理矢理遠ざけるような真似をされれば、逆に燃えてくるというものだ。

 

イタズラっぽい顔をしながら、天子はシンと別れた場所に向かっていた。

 

天子「到着、っと。……流石にもういないか」

 

……問い詰めてやろうと考えていたのだが、

ある程度時間もたっている事もあり、解散した場所にはもういないようだ。

 

天子「さて……と。どこに行ったのか探ってみるとしましょうかね」

 

そういうと天子は緋想の剣を取り出す。

 

天界の宝剣である緋想の剣は、

物の気質を捉え、それを吸収する能力を持つ。

 

厳密にいえばもっと色々なことができるのだが、

疲れるので普段はこのチカラしか使わない。

 

天子「あいつ等の気質の残滓は……と。あったあった」

 

天子は気を緋想の剣に集中させると、シン達の気質を探り、進んで行った方向を特定する。

 

本来ここまで緋想の剣を使いこなすのは、千年単位での修業が必要だ。

しかし天子は持ち前の才気と勘で、緋想の剣の100%の性能を引き出すことができる。

 

伊達に人間のまま天人になった一族の跡取りではないということだ。

 

……何はともあれ、これでシン達を追いかけることができる。

会ったらどんな顔するのか見てやるのが楽しみだ。

 

少女移動中……

 

天子「……何よ、こんな辛気臭い場所に何の用があるってのよ……」

 

シン達の気質を辿ると、森の中の洞窟へと、さらにその中へと続いていた。

 

何とも悪い予感がする。

この洞窟からはそう言った類の気質が感じられる。

しかし、そんなことでひるむわけにもいかない。天子は奥へ進むことにした。

 

天子「うえ~……ジメジメしてるわ……やっぱりこなきゃよかったかしら……」

 

天子は早くも洞窟に入ったことを後悔していた。

 

大体洞窟なんて文明的な人間が入る場所ではないのだ。

蝙蝠やゴキちゃんに用があるわけでもないのに……

 

シンにあったらまずはひっぱたいてやる。そう考えていた時だった。

 

バチィィン!!!!ゴロゴロゴロ……

 

洞窟の奥から激しい光と共に、雷が落ちる音が聞こえた。

 

天子「な!?何が起こったの!?」

 

天子は驚き、奥へ向かう足が止まる。

洞窟の中で雷?ありえない。

 

衣玖や神霊廟の亡霊が雷を落とせるのは知っているが、

今回はそのどちらも関与してない……はず。

 

第一今の雷の大きさは異常だ。まだ鼓膜が痛い。

 

天子「と、とにかく早く事態の確認をしないと……」

 

本能が奥へ行くな、と危険信号を発している。

しかしその程度で怖気づくわけにもいかない。

そんなことしたら比那名居の名が廃るというものだ。

 

足元に注意しつつ、奥へ向かう速度を速める。

 

ドゴォォン!!

 

また音が聞こえる。今度は爆発音。

 

余程のことでは怯まない太い神経を持つ天子でも、

さすがに緊張で口の中が乾いてきた。

 

何かが戦っているのは間違いない。それも圧倒的なチカラを持った何かが……

これをやってるのは……やっぱりシンなのだろうか?

 

ズオッ!!

 

天子「!?……マズい!」

 

恐ろしい魔力の暴風!これは前兆!もっと強烈なのが来る!!

 

ガガガガガガッッ!!!

 

洞窟の奥から壁を削り取りながら、魔力の衝撃波が飛んできた!

 

天子はそれを察して防御態勢をとっていたため、

軽く吹き飛ばされたものの、大きなケガをせずに済んだ。

 

天子「ッ……!冗談じゃないわよ……」

 

爆弾でも爆発したのか?いや、今のはそんなもんじゃない。

本格的に全身で危険を感じるが、

尚更何が起こっているのか確かめないといけない。

 

心を奮い立たせ、奥へと歩を進める。

 

・・・・・・

 

天子「……ここは……!」

 

洞窟とは思えないほどの、広大な空間が目の前に現れた。

至る所に新しくできたばかりの破壊跡。

もしかしなくても先ほどの衝撃波でできた空間だろう。

 

その破壊の中心に人影?が見える。

 

天子「あれは……シン、と誰?何?」

 

薄暗くてよく見えないが、シン一行と思しきシルエット以外に、

もう一人と巨大な蛇のような生物が見える。

 

何が起こっているか確認するため、目を凝らしていた天子。

しかしその目に飛び込んできたのは、非日常的かつ暴力的すぎるシーンだった。

 

シン「……!」

天子「……?何かしゃべって……」

 

シンは右足を振り上げ、蛇の化け物へと蹴りかかる……いや、違う!

振り上げた右足からは無数の光線が放たれ、血しぶきが舞う。

 

天子「……!!」

 

あまりにショッキングな光景に天子の動きが止まる。

 

さらに今の光線の光でちらっと見えたが、シンの姿がおかしかった。

後頭部から延びるツノに全身を覆うイレズミ……

 

血しぶきはシン達を赤く染めながら、徐々に広がり池を作った。

その池の中心で、血まみれで、人面の蛇の死骸を足元に談笑するシン達……

 

笑顔で、天子と過ごしたいつもの調子で、

まるでこの殺伐とした光景が日常であるかのように。

 

その様子はまるで地獄を支配する悪魔のようだ……

 

天子「ちょっと……何なのよ……コレ……?」

 

あまりの光景に、考える暇もなく言葉が口からあふれる。

 

シン「!?」

ピク「まさか、その声!?」

ガラ「天子さん!?」

 

天子「何よコレ……?いったい何がどうなってるの……?」

 

ピク「アンタ、帰ったはずじゃ……」

シン「天子……これは……その……」

 

天子「イヤッ!近寄らないでっ!!」

シン「……!!」

天子「化け物……アンタたちみんな化け物よっ!!」

シン「……ッ!」

 

もう自分が何を話しているのかもわからなかった。

 

どうしてこんなことに?

ただ私はシンが何をしようとしてるか知りたかっただけなのに!

私が見たかったのはこんな景色じゃない!

 

考えがまとまらないまま、気が付けば泣きながら逃げ出していた。

ああ、なんて無様なんだろう……

 

・・・・・・

 

それから家に戻ると、そのまま布団に入り泣いた。

別に生き物の死体を見るのなんて初めてじゃない。

小さい頃は鶏を絞めたこともある。

 

そうじゃない。うまく説明できないけど、そういうことじゃないんだ。

 

……とても怖かった。

わかってると思ってた奴のこと、全然わかってなかったなんて……

 

頭の中を色んな思いがグルグルと回る。

そうしているうちに、意識が遠くなっていく……

 

・・・・・・

 

天子「……」

 

気づけば朝になっていた。どうやらいつのまにか寝てしまっていたらしい。

 

天子「……ああ、もう……私としたことが……」

 

一晩泣いて、ぐっすり寝て、頭も随分すっきりした。

 

……昨日は随分取り乱してしまったが、

今なら冷静にものを考えられそうだ。

 

自分が泣くほど驚くような光景を見たからって、

それで逃げてしまうなんて、心が弱すぎる。

 

沸き上げる後悔を拭い、

天子は心機一転、何が起こったのか整理することにした。

 

とはいったものの……

 

天子「……うーん。あまりにもな事態すぎて、考えがまとまらないわ……」

 

まずは何から考えたものか……重要なことは何だろうか。

ひとつづつ整理していこう。

 

まずはシンのことだ。

 

それまでの人がいい態度が嘘で、昨日見た凶暴な面が本当の姿、

というのが最悪のパターン。

 

しかしその線は薄いだろう。

シンはともかくガラクタ集めやピクシーは隠し事をするタイプではない。

今までのコントじみたやり取りも本気でやってたとみるのが筋だ。

 

それに、あまり思い出したくないが、

昨日あの場所で見たシンはいつものシンに思えた。

 

……姿形はどうあれ、である。

 

それに、天子をだますためだけに一週間も芝居をしていた、と考えるのは無理がある。

 

 

……ということは、シンがあの時天子を無理矢理家に帰したのは、

こちらを気遣っての事だろう。

 

そしてその気遣いは、あの蛇の化け物との戦いに関係している。

 

天子「……とすると、うーん。あの妖怪が何かってことよね……」

 

シンについては、あの姿は何かとか、一緒にいた古代人は誰かとか、

色々あるが、ひとまず保留だ。

 

戦っていた人面の巨大蛇。あれが何かを突き止めるのが先だろう。

 

天子「……うーん、幻想郷にあんな妖怪いたかしら……?」

 

アレはいったい何だったんだろう?

妖怪……にしては、チカラが大きすぎる。

 

少なくとも天子の知る中でアレと張り合えそうな者は、片手に収まるほどしかいない。

 

いや、この見積も実際の戦闘を見ずに出したものだ。

もしかすると、実力はそれよりも上かもしれない。

 

……とりあえず、妖怪よりも上のチカラを持っていることは確定だ。

 

 

天子「……少し、調べてみないとね」

 

そう言うと天子は自分の部屋から出て、書庫に向かう。

 

あれだけ強力な存在なら、何かの書物に載っているかもしれない。

そう思い、片っ端から日本神話に関する書物をかき集め、自室へと運ぶ。

 

天子「そうだ。ついでにシンの仲間についても調べようかしら」

 

日本神話だけではなく、世界中の神話、伝承、民話……

 

とにかく片っ端から伝説上の生物、神々が書かれた書物を運び出す。

確かピクシーは南蛮の妖精だったはず。

そう思いながら南蛮の書物を多めにピックアップする。

 

天子「さて、勉強なんて久しぶりだけど……さっさと見つけましょ」

 

天子は集めた数十冊の本に、片っ端から目を通していく。

1ページ1ページ重要そうな単語を拾いながら、パラパラとページをめくる。

 

速読くらいお手の物だが、何分資料が膨大だ。

目当ての情報を探し当てるまでどれだけかかるか……

 

 

少女調査中……

 

まだまだ調査中……

 

日が変わっても調査中……

 

 

天子「……ふぅ。ようやく目星がついたわね。」

 

姿形くらいしか情報がないので、

大分絞り込むのに時間がかかってしまったが、間違いない。

 

あの人面蛇は……オオナムチ。大国主命の数ある姿の一つだ。

 

妖怪以上のチカラがあるとは踏んでいたが、それどころではなかった。

まさかかつて日本統一を成し遂げたほどの神だったとは……

 

天子「信じられないけど、間違いないわ……なんで幻想郷にあんな化け物が……」

 

幻想郷にも龍神様を筆頭に、八雲紫、地獄の閻魔、守屋の2柱と、強力な存在はいる。

 

しかし大国主命とあらば別格だ。

日本でも指折りの実力と信仰を持つ神。主神クラスである。

正直言ってあんな存在が暴れたら、誰も止められなかっただろう……

 

あまりの事態の大きさに、改めて驚かされる。

色々と疑問はあるが、問題なのはオオナムチが現れた理由だ。

 

その理由によってシンの見方を変えないといけない。

 

天子「……やっぱり行くしかないか」

 

書籍で調べられることは調べたし、あとは足で調べるだけ。

今回の出来事にケリをつけるためにも、天子は例の洞窟へ出向くことにした……

 

・・・・・・

 

色々と考えながら飛んでいるうちに、いつの間にか例の洞窟までたどり着いていた。

 

天子「あの時は取り乱しちゃったけど、今度は大丈夫。

絶対に何か手がかりをつかんでやるんだから……!」

 

そう言うと、天子はシンとオオナムチが激闘を繰り広げた洞窟に入っていくのだった……

 

つづく




略称一覧

天子…比那名居天子(ひなないてんし)。幻想郷の天界に住んでいる、自由奔放な天人。
たびたび人里に現れては、暇つぶしをしている。根はいい子。

永江…永江衣玖(ながえいく)。龍神のお告げを人々に伝えるのが役目。ちなみに伝える情報の取捨選択は彼女がする。仕事中はまじめだが、そうでないときはものぐさ。オンオフ切り替えがしっかりしている。何故か天子のお目付け役として任命されている。

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