白百合の姫たる君へ   作:夢見草

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祝オリジンズ発売

ということで急いで書き上げました。

メインの合間に前から漠然と考えていたモノを書きなぐった感じです。

剪定事象世界におけるオリ主とマリーそして彼女の関係者たちの話となります

なんで頭を空っぽにして読んでください。キャラ崩壊と矛盾だらけだと思います。

主人公とマリーのイメージは

Roby Fayer - Ready to Fight

構想は

アサシンクリードユニティCGIトレーラー(アルノがエリスを助けるやつ)から

是非 Woodkid - THE GOLDEN AGE を聞きながら戦闘シーンを見てほしいです。



The story-tale that never spoken

闇に生き、光に奉仕する者。そは我らなり

ーーニッコロ・ディ・ベルナルド・ディ・マキャベリ

 

***

 

Laa shay’a waqi`un Mutlaq bale kouloun mumkin.

 

彼らの声が、頭に響く。

 

“汝の刃を罪なき者から遠ざけるべし”

 

“ありふれた風景に溶け込め”

 

“教団の名誉を汚すことなかれ”

 

彼らにとって何よりも大事な三つの信条が。

 

彼らはあらゆる時代、あらゆる文化に潜んでいた。弱者への多大なる献身者として。そして人類の“自由意志”を守護せんがための砦として。彼らは気が遠くなるほどの遥か昔から、人類のための闘争を全うしてきた。全ては、その信条の指し示すままに。彼らに刻まれたその教訓は、どんな敵をも打ち滅ぼし、幾多の救済を行ってきた。

 

――真実などなく、許されぬことなどない

 

そうして、まどろみの奥、その奥底に揺蕩うナニカの記憶に、俺は意識を埋没させた――

 

***

 

今やパリに正義などはなく、有るのは純然たるカオスだけ。革命以前の秩序は失われ、嘗て善であったものは今や打ち倒すべき悪となった。王制の衰退、周辺諸国との均衡の崩壊、新勢力の台頭。そう、"革命"だ。今迄虐げられてきたものたち、抑圧されてきたものたちが目を覚まし、新たな時代を作らんとする大きなうねりたる"波"となりて全てを飲み込んで行かんとする。

 

始まりは大砲の音と共に。人々はフォークを、包丁を、鋤を、鍬を、或いは剣を手に持ち、新たなる新世界の引き金を引く。道という道では血が流れ、まるでゴミクズのように誰かの命が失われる。

 

誰かはそれを"病気"だと称したか。この闘争の果に待つ"自由"という理想を追い求め、ただがむしゃらに進みゆくその様を。そのための犠牲は勘定に入れる事なく、またそれを嘆くこともない。本来確固たる理性を保って日々を生きている人間と、ただ生存本能のみに従って行動する獣と、一体いかほどの差があろうか。確かに、今のフランスは病んでいる。いずれ国家が衰退し、破滅を迎える一歩手前まで、この病が治ることは無いのかもしれない。

 

***

 

「アナタ、お名前はなんというのかしら?」

「レオポルド・ル・シブレ。気軽にレオとお呼びください」

「まぁ、レオと言うのね。なんて素敵な名前でしょう!ええ、ええ!確かに獅子のような人だわ!!」

 

その光景を、今でも覚えている。始まりはなんて事のない些細なきっかけで。それがまさか、こんな運命を描く事になりようとは、その時は思いもしなかった。

 

「ありがとうございます、姫様。身に余る光栄です」

「あら、姫様なんてそんなに畏まらないで。マリーと気軽に呼んでくれて良いのよ?」

「いえ、しかし姫様」

「マリー」

「え?」

「だって悲しいもの。姫様なんて余りにも他人行儀で無機質すぎるわ。これから貴方は私に仕える事になるのでしょう?」

「しかし............」

「それに、私達はまだ子供なのよ?なら、お友達になりませんでして?............ダメかしら?」

 

不思議な人だった。高貴な身分の生まれ。そうであれと天から祝福されて生を受けた人。ただの下級騎士出身でしかなかった自分と、あろうことか友達になろうなんて口にする人。

 

どんな賞賛の言葉でさえ、彼女の美しさを表現することは叶わない。この世に存在するどんな財宝だって、彼女の前ではその輝きが霞んでしまう。

 

そんな人が、気づけば俺の手を握って、少しだけ高い俺を上目に見つめながら、その瞳を輝かせていた。そして、その向かられた輝きに、俺は抗えなかったんだ。

 

「............分かりました、マリー。これから、よろしくね」

「ええ!!此方こそ、レオ!!」

 

それが、俺たちの始まりの記憶。大きな大きな父の手に引かれて紹介された、新たなご主人様。純真で奔放で、けれども気高く、そして高貴であった彼女との。

 

「ねぇレオ。貴方踊りは得意?」

「踊り、ですか?」

「もう、また口調が戻ってるわ」

「ああごめん。ついついクセでさ。それで、踊りだったっけ?」

「そう」

「出来なくはないと思う。でもマリーとは踊れないよ。釣り合わない」

「あら、そんな事ないわ。貴方はとっても素敵よ?それに、踊りは釣り合う釣り合わないなんかじゃないわ。楽しい時を、一緒に共有できるかなの」

「つまり?」

「一緒に踊りましょう?」

「分かった。エスコートしますよ」

「ええ、宜しくね」

 

彼女はお姫様として。俺は彼女に仕えながら護衛となる騎士として。お互いの道は随分と違っていたが、そんな環境だったからだろうか。一緒にいる時間は、あり得ない程に溢れていた。

 

大方は、俺がマリーに翻弄されることが多かったけど、それもどこか楽しくて、毎日の一瞬、1秒の時間すら愛おしかった。その関係をどうかと、首を傾げる大人達は多くいたが、何故か彼女の母であるマリア様は、そんな自分達の関係を良いものだと笑っていた。

 

夫であるフランツ様を誰よりも愛し、支えながら、当時あの宮殿の誰よりも強く、そして鮮烈に生きていた。一言で言ってしまえば、心地いいくらいの女傑だった。そしてそんな彼女のマリーもまた、才能に溢れ、才能に愛された姫だった。開かれる舞踏会ではとてもその年齢とは思わせない優雅さをもって、授けられる悉くの英才教育は担当者を唸らせる程に聡明に。枯れゆく花に心を痛め、何よりも弱き者に光を与える。そんな彼女の少女期は、暖かさと優しさに満ち溢れていた。

 

「素晴らしいわ。なんて素敵な演奏でしょう。そうは思わない?レオ」

「うん。けどさ、悪魔を賛美する曲ってのはどうなんだ?アマデウス」

「細かい事を気にしちゃあいけないさ。生憎と、これは僕の性みたいな者だからね」

「はぁ、これだから天才は」

「おっと。同じく天才であるレオにそう言われるとなんだか複雑な気分だね」

「む....」

「あら、仲がよろしい事。私、少し妬けちゃうわ」

「何に?」

「全く君って奴は」

「............お前にだけは言われたくないぞ」

 

様々な出会いがあり、多くの人達と関わってきた。姫様であるマリーは、そういった機会に大変恵まれていた。

 

その中でもやはり、アマデウスとの出会いは大切だろう。音楽の神に愛された天才であり、音楽に関してはどこまでも真摯で聖人なのに、なんでか人間としてはクズな分類。生まれた時からそう宿命づけられていた俺やマリーと違い、心の赴くままに音楽を生み出し続けて、その実たった一人だけに捧げた人。あの出会いが無ければそれこそ、今とはまた随分と違う人生だったのかもしれない。そして、決して忘れる事のできない、運命(Fate)のあの夜。

 

「私、今度フランスに行く事になったわ」

「聞いたよ。フランス王制の太子。ルイ=オーギュスト様の元に嫁ぐんだろう?」

「ええ。レオは勿論だけど、貴方も知っていたのね。アマデウス」

「ボクも風の便りを耳にしただけだ。側近のレオほど、詳しくは知らないよ」

「貴方達はどう思う?」

「私はーーいや、俺は反対だ。今フランスは平和で、強大な国ではあるが、その栄光がいつまで続くかは分からない。ちょっとしたきっかけさえあれば、あっという間に崩壊してしまうような危うさがある」

「僕もレオと同じ意見だな。けど、これは僕達が決めていい事じゃない。マリアはハプスブルク家のお姫様だ。これは、ある意味必然でもある。けれどね、一番大事なのはマリア、君の心だよ」

 

星がキラキラと輝くある日の夜の事だった。かねてより噂されていた、マリーの嫁ぎ先。高貴な身分に生きる人間が、決して逃れる事のできないもの。たまたま都合があった俺とアマデウスの二人が集まった先には、いつもの彼女とはまた少し違う、真剣な、何かを決意したような顔の彼女がいた。

 

「私はね、貴方達が大好きよ。私を護ってくれるレオも、私を愛してくれたアマデウスも。でも、それと同じくらい、私は皆のことが好きだわ。彼らが居なければ、今の私は存在していない。だってそうでしょう?民なくして王妃は王妃と呼ばれないのだから。なら、私はそんな大切な人々を守れるようになりたいの」

 

クリスタルパールの艶やかな髪を揺らしながら、サファイアブルーの瞳を強く輝かせそう口にする彼女の横顔は遠く、どこか彼方を見つめていた。それは誰よりも気高く、何人たりとも彼女の輝きを損なわせることはできない。

 

皆を愛し、民を守るために王妃になると決意した白百合の人。最も美しき慈愛の女性。であるなら、俺たちが口にすることなんて最初から決まっていたようなものだ。

 

だってそれが彼女の夢ーー理想なのだから。使える騎士として、何よりも友達として、その華奢な背中を支え押してあげるだけだ。

 

「うん、それが一番君らしいよ。僕は一緒に行けないけど、僕は僕なりに、君を見守っている。だから頼んだぜ?レオ」

「ああ、約束する。絶対に、マリーは俺が護ってみせる。どんな陰謀、どんな刺客からだって。マリーがその夢を本物にして、実現させた後も、必ず護ってみせる」

「ありがとう............アマデウス、レオ。私、貴方達と友達でいて本当に良かった」

「おっと泣いちゃぁいけないよマリア。その涙は、彼の地で待っているルイ皇太子の為にとっておかないと」

「もう、変わらないのね。アマデウスは」

「勿論だとも。マリアは、僕の初恋の人だからね」

 

それはどこか微笑ましく、けれども少しだけの寂しさを伴ったハグだった。その光景を傍で静かに見届けながら、俺は必ず彼女の理想を実現させてみせると、再び強く誓ったんだ。

 

「なあデオン。お前本当はどっちなんだ?」

「さぁ?私がどちらなのか。君の想像に任せるとするよ」

「その変身、かの黄金の国にて人を化かすとかいう"キツネ"とかいうものにそっくりだな」

「レオだって、それこそ私にひけをとらない程の変装術を持っているじゃないか。それこそ彼の国の"タヌキ"とかいう存在そのものなんじゃないかい?」

「あら御機嫌ようお二人とも。一体何の話をしていらっしゃるのかしら?」

「「いえ、何でも有りませんよ。王妃様」」

 

そうして、マリーはルイ皇太子と結婚して王妃となり、俺は彼女お抱えの騎士としてフランスへと移住した。フランスの象徴、民の偶像たる王妃マリー・アントワネットを様々な邪悪、卑下た手から守る盾にして刃となりて。彼女と、彼女の愛する夫。そして国民を守る為にあり続けた。

 

 

ーーその傍で、人類に仇なす巨悪たる存在ーー遥か以前より在り続けるテンプル騎士を抹消する者ーー人が生説的に宿る自由意思を守護し、力なき声の代弁・代行者たる役割を担う者ーーアサシンとして

 

***

 

フランス、パリ 1793年10月16日

パリ8区 革命広場付近

 

目標:

処刑場に乱入し、王妃マリーアントワネットの身柄を確保せよ

 

サブ目標:

・目的地まで敵に発見されない

・処刑執行人シャルル=アンリ・サンソンの無力化

 

 

全市民の怒声と熱気が異様なまでの雰囲気を醸し出すフランスはパリの街中。宮殿から続く荘厳で格式のあるこの美しい街は今や、どこを見ても人に溢れていた。

 

ーー第三身分。当時のパリにおいてその大多数を占めていた人々達。身に纏う服はボロボロで、中には最早服という体裁を保っていない、ボロ雑巾とすら呼べるであろう格好をしていて、そのどれもが埃と煤に汚れ、くすんでいる。彼等に統一性はまるで無く、ただ共通しているのは、先を見据えるその両眼が何か強いもので満たされていることだった。嘗て第一、第二身分の存在にその全てを虐げられてきたもの達。そんな彼等は今、革命という名の自由を求める闘争の主役として全パリの市街中に溢れているのだ。

 

そんな中で、一人彼らとは趣の違う人物がいた。仕立ての良さを感じさせる濡羽色の、頭から膝下までをゆったり覆うどこかローブにも似た服を見に纏い、その素顔を目深にかぶったフードで覆い隠された人物。腰には鞣した革であつらえられたのであろうベルトにどこかこの当時最もポピュラーであったサーベルに似たーー僅かに刀身が曲線を描き、その刃に波のように走る波紋が美しい、かの極東にてカタナと呼ばれたーー剣が収められており、更に背中側の腰部分に備え付けられたホルスターには合計八つの銃身を筒のように一つにまとめた銃がどんよりとした曇り空から微かに溢れる光を鈍く反射させている。しかし、何よりも特筆すべきなのは、素顔を隠す為に覆われたフードだ。その先端は少し尖ってお

り丁度眉間ギリギリの所までを綺麗に隠す。その姿は、正に大空をその翼にて舞う優雅にして獰猛なハンター、鷹を想起させた。

 

そんな彼はその存在を周りの市民に一体化させながら一人、ポツンと立ち尽くすまま手に握る懐中時計を見つめていた。

 

カチカチ、カチカチ

 

機械式時計独特の駆動音を奏でながら、震えるように秒を進める秒針が丁度一周し、最高到達点たる12の数字に重なった時それにつられて動く分針と共に、彼は時計を自分の懐に仕舞い込むと、ゆらりと幽鬼のように走り出した。

 

行き交う人々で溢れ返すパリの通りをまるで苦もなくスルリスルリといなしながら綺麗なフォームで走り行くその男は、時に進行上邪魔になる人を少々強引に押しのけ、また時にはその存在を取り囲む周りの市民に紛れさせて慎重に進みながら、グングンと目的地に近づいて行く。裏路地から裏路地へサブストリートからサブストリートを抜けて大通りたるメインストリートーーシャンゼリゼ通りを抜けようと飛び込んだその時、彼が目にしたのは団子のようになって押し寄せる市民の波と、それを押しとどめようと徒党を組んで銃を突きつける、青と白そして赤を交えたフランスを象徴するトリコロールカラーの兵服に身を包んだスイス衛兵という光景だった。

 

彼等はどうにかして市民を抑え込もうとするが、最早暴徒にも近い彼等を押し留めることなど叶うはずもなく、やがて誰かが、手にする銃の引き金を引き、強引に踏み入り始めた。これでは、市民に紛れることもできない。暴徒とかしたその間をすり抜けるように通れば、流れ弾に当たらないとも限らない。そこで彼は、流れる人々を押しのけて通りを囲む建物へと向かう。

 

建物にある窓枠や備え付けられてベランダなどの突起物を足掛かりとし、彼はまるで苦もなくスルリスルリと建物を登ってゆくとあっという間に屋根の上へと上り詰めた。

 

「さてと」

 

辺りをちらりと一瞥し、脳内に叩き込まれたパリ市街の全貌を思い浮かべながら、次己がどちらの方角へと進むべきかを思考する。その長さ、大凡1秒。一息をつく暇もない刹那の時で判断を下した彼は、再び屋根の上を疾走する。高さ大凡五メートル程もある壁を蜘蛛のように登り、地面を蹴り穿って幅大凡十メートルの建物と建物を優に飛び越え、ありとあらゆる障害物を苦もなく踏破して行く。その姿は同じ人の身でありながら次元が違う。事実、彼にとってはこんなの平坦な道を駆けているのとなんら変わりはない。その絶技の名をフリーランニング、あるいはパルクールと呼ぶ。現代ではエクストリームスポーツの一種にも数えられる技で、かつ古くから伝わる教団の業だ。

 

そうして恐るべき速さを持って目的地付近の建物屋根上へと到達した彼は、あれだけ激しく動いたにもかかわらず全く息を乱さないまま眼前に広がる光景を俯瞰した。

 

革命広場。パリの中心部、チェイルリー公園とシャンゼリゼ通り通りに挟まれば場所に位置するこの広場は嘗てアンジュ=ジャック・ガブリエルによって設計され、ルイ十五世の騎馬像が設置されていた為に"ルイ十五世広場"とも呼ばれていた、フランスの名誉と栄光輝く象徴たる場所であったが、今やその面影はどこにもない。

 

威厳に満ち溢れた雄姿を晒すルイ十五世の騎馬像は今やなく、変わりにそびえ立つのは木と重厚な鉄とか織りなす死の象徴"断頭台"だ。罪深きものに慈悲を、苦しむ事なく即殺させるこの悪魔の器具は、今日最早珍しいものではなく、ほぼ毎日何処かしらで誰か第一、第二身分を含む罪人の首を刎ね落としている。

 

広場は、騒然としていた。何処もかしこも人人人人で溢れ、通りを満たしていた熱気や怒声とは比べるべくも無い、正に狂気が支配していた。

 

『殺せ!殺せ!殺せ!』

『無能な王妃に神の報いを!!』

『神罰を受けるがいい!!』

『この売国奴め!!』

『革命万歳!!』

 

聞こえてくる怨嗟はドロリとしたタールのように。秩序などありはしなく、市民が口にするのは、革命への賛美と、今まで自分たちを支配していたものへの憎しみの声。一体これの何処が、人による基本的人権を尊重すべき自由への道なのか。下手な獣の方がまだマシに見えるだろう。いや、そうじゃ無い。皆浮かれているのだ。革命という名の熱に。

 

彼は無表情のまま静かにその光景を眺めた後、フードに覆い隠された両眼を一度軽く瞑ると、やがてゆっくりと開いた。

 

ーー刹那、世界は一変する。

 

色という色が抜け落ちて行き、ある色のみがひかり満たして行く。灰色と青と赤と、そして一際輝かしい光を放つ黄金。それは鷹の目(イーグルビジョン)と呼ばれる、彼らアサシンのごく少数のみが有する特殊な目だった。

 

鷹の目が写すは罪なき無辜たる市民の青。己に害をなさんとす邪悪な者たちの赤。そして彼ら闇に潜む暗殺者たる標的を表す山吹色。

 

ーー流石に一般兵は数が多い。ざっと30人弱位か。そして、中にはテンプル騎士の息がかかった者達、ね

 

全てを見透さんとする眼を以って冷静に状況を俯瞰する彼は、その情報を少しづつ整理しながら視線を断頭台へと写す。そこには、二つの金色と、彼にとっては懐かしい王家の象徴たる白百合の花を思わせるオーラを放つ人がいた。

 

ーー居た

 

トクン、と刻む心臓の鼓動が微かに跳ねた。久方ぶりに目にするその姿は、遠目であっても気高く、この世のどんな物よりも美しく、尊かった。しかし、彼の鋭きその眼は、同時にそんな存在が何処か疲れ切ったような、弱っているかのような気色を感じ取っていた。

 

ーーよし

 

淀みなく、全身に力を巡らす。長年彼女を守護する騎士として、そして邪悪の化身たるテンプル騎士を倒すアサシンとして鍛え上げた鋼の如き身体は、全くの衰えすら匂わせず、その時を今か今かと待っている。その全身を巡る古き教団の血が、かの者達を抹殺しろと疼いている。

 

そうして彼は再び駆け出す。

 

高さ十五メートルはあろうかという建物の間と間。幅にして五メートルあるか無いかのその隙間を、彼は八双飛びの要領で足場に飛び移りながら伝い降り、威力を減衰させながら地面へと着地する。そのまま彼は広場を満たす民衆の群れを押しのけながら、一直線にギロチンへと向かっていった。

 

***

 

「御免なさいね......靴.....汚してしまったら」

 

それが王妃が私に向けた言葉だった。なんて事はない。処刑執行される為に断頭台へと立たされた王妃が、ついうっかりと私の足を踏んでしまった。その時、王妃はその端正で美しい顔を物憂鬱げに曇らせ、一介の処刑執行人たる私に向けて謝罪したのだ。その時胸に宿った感情は、一体何だったのだろう。その姿は嘗ての頃とは比べるべくもなく、愛していた市民からは口にするのも憚れるほどの罵詈雑言を浴びせられながらもなお、王妃の気高さと輝きは失われること無く、この沈んだ空模様を打ち消しすらしていた。

 

これが、王妃なのか。王権の象徴として、弱者を虐げ、悠々と贅沢な暮らしを続けたとされ憎まれる者の本当の姿なのか。

 

私がいいもしれない謎の感情に翻弄されているその時だった。傍に立つ死刑監督役の将校が、何かを発見して檄を飛ばしたのは。

 

***

 

「そこのフード男、止まれ!!」

 

断頭台へと突き進んで行く彼のとこを見守る市民を監視するスイス衛兵が咎める。が、衛兵が威嚇のためのサーベルを腰から引き抜いたその時、走る彼の腕がその首へと迸り、刹那の内に絶命させる。

 

「己ぇ!!」

「不届きものめ!!」

 

それに気づいた仲間達が同じように駆け寄ってくる。そして、その先頭にいたガタイのいい衛兵がサーベルを袈裟懸けに振り下ろす。その太刀を、彼は先程殺した兵の遺体でやり過ごし、そのまま死体を盾に体を半歩横へズラしてその衛兵の喉元を掻き切る。更に新たな死体をその後ろから迫る槍持ちの衛兵へと押し付け、衝突するようにして止まった槍持ち衛兵の今度は胸元へ、その左腕を突き立てた。

 

「が.....」

 

僅かに押し出される息が溢れ、その瞳から生者の輝きが急速に失われる。その様を彼は何の感慨も無しに見つめながら胸に押し付けた左腕を引き抜くと、殺人という恐怖におののいてまるでモーゼの大海のように開いて行く道をゆったりと歩き始めた。くるりと拳をひねりアサシンブレードと呼ばれる彼らを象徴する暗器の機構を作動させて血に濡れる刃をしまう。

 

「アサシンだ!!!捕まえろ!!!」

 

その様を見た将校が声を荒げる。その様を見ながら彼は腰にあつらえてあるベルトからカタナを右手で引き抜くと、それをクルクルと回しながら刃を振り払った。

 

乱入者たる彼を討たんと迫り来る三人のスイス衛兵。その内の一人が、荒声を上げながら刃を振り下ろす。右斜め上から袈裟懸けにおちる軌道を描くその刃。しかし彼にとって、その太刀筋はあまりにも温く、そして致命的な迄に煩い。上半身を微かにひねり、迫り来る刃に握るカタナを合わせてサーベルを弾き落し、紙一重で回避した彼はそのままカタナを握る右肘で相手の顎を穿つ。そのままその横から突きを放たんと体を絞るもう二人目の衛兵の首を神速の突きで串刺し、更に奥から切り込まんと飛び込んでくる三人目の衛兵をやり過ごしてその体を両手で支点にしクルリと身を投げ出して半回転。入れ替わるようにし背後を取りその慣性で返したカタナの恐ろしく鋭利な刃で搔き斬り、ついでとばかりに一人目が照準を定めんと向ける銃をその一連の動作の流れで蹴り飛ばした。

 

「ま、待ってくれ。降参だ。い、命だけは」

 

瞬く間に五人の同僚を殺され、されに己の武装を完全無力化されたその衛兵は、両腕を伸ばしながらすっかり青褪めた表情で許しを請う。その姿を横目に彼はカタナを仕舞うと、クルリと身を翻して再び断頭台へと駆け出した。

 

それはまるで、完成された芸術の如き、全くの無駄を削ぎ落とした戦闘だった。相手の攻撃をいなし、僅かな体運びのみでスキを作り出し、致命の一撃を繰り出す。最早この男を止めることの出来る者は、この場に誰一人としていなかった。

 

「ちぃぃ。使えん無能どもめ!サンソン!奴の首を落とせ!!」

 

将校がヒステリックに喚き散らし、サンソンと呼ばれた白髪の男が剣を抜く。一連の動作から、その男もまた、相当な実力者であることが伺える。しかし、そんなサンソンの存在は彼の眼中にありはしなかった。

 

断頭台の階段をはね飛ぶように駆け上がりながら、彼は先程仕舞ったアサシンブレードを出現させ、その切っ先を迫る彼へと向けた。

 

ガキンッ

 

更に組み込まれた機構が作動し、ブレードを固定していた台から小型の弓が展開される。

 

パシュンッ

 

そして、彼が腕を微かに外側にひねりこむことでトリガーが作動し、極微かな反動と作動音を以ってアサシンブレードが飛翔(、、)した。ファントムブレード。古くから伝承するアサシンブレードに近代改修を加え新たな機能を追加させた、アサシンの切り札中の切り札。

 

「なっ!!」

 

その光景に眼を見開きながら、サンソンは慌てて飛翔し迫るブレードを受け止めようと太刀をもってくるも不意を突かれたソレでは遅すぎる。ブレードは鋭い風切り音とともにとすんと彼の左胸へと突き刺さった。

 

「ぐっ!!」

 

鋭く走る痛み。だがそれだけ。致命傷となるには浅すぎる。まだ戦闘は可能、医者の心得あるサンソンはそう判断して体制を立て直そうとしーー

 

ファントムブレードに仕込まれた毒が、彼の体の自由を奪った。

 

ーー麻痺毒!!

 

恨めしげにブレードを引き抜くも、彼は既に動けなくなり、力なく階段から転げ落ちていった。

 

「こ、このアサシンめ!!」

 

一人残された将校が、慌てふためきながら剣を引き抜かんと手を伸ばす。が、その時にはもう、その命は晩鐘の音色に魅入られていたのだ。

 

跳ね上がるように階段を駆け、両足で地面を蹴り穿って大きく飛び上がった彼は、そのままなだれ込むように将校へと飛びかかり、残った右手にあるアサシンブレードを高らかに首元へ深く突き刺した。

 

「ご........ぐ.......」

「眠れ、安らかに」

 

ポツリと、彼が呟く。その声色は穏やかで優しく、そして何よりも、慈悲に満ちた者だった。両眼を閉じられ、ただ首元からだらりと血を流す、かつて将校だったものの胸元には、十字架をあしらったテンプルクロスが光っていた。

 

「レ.........オ...........?」

 

声が聞こえる。もう聴き慣れてしまった、気高く透き通る彼女の声が。ゆっくりとブレードを引き抜きながらゆるりと立ち上がった彼ーーレオポルド・ル・シブレは眼深に被った鷹のフードを払いながら穏やかに笑った。

 

「はい。貴方の騎士、レオポルド・ル・シブレはここに」

「どう.........して......?」

「どうして?忘れてしまったんですか我が王妃。"君は、俺が必ず護る"って」

「!!」

「動かないで下さいね。今拘束を解きますから」

 

整った顔を驚愕に染める囚われの王妃ーーマリーアントワネットの立ち尽くす場所へゆっくりと歩み寄り、レオはカタナを引き抜くと、何のためらいもなくその刃を王妃へ向かって振り下ろす。しゃんと一分の狂いなく、その刃は彼女を拘束していたロープだけを断ち切った。

 

「レオ、貴方は一体......」

「マリー。実は一つ、君に謝らないといけない事があるんだ。それはねーー」

 

『警備を固めろ!!!』

『アサシンを一歩も逃すな!!!』

『サンソン様の手当てを!!!』

 

ポツリポツリと、雨が降りだす。

 

怒声とともに断頭台の周りを取り囲む衛兵達。それらからレオはマリーを庇うように庇護しながら、抜き放つままのカタナを向け、後ろに立つマリーへあの頃の少年じみた無邪気な笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

「俺は、アサシンなんだ」

 

***

 

「――パイ、先輩」

 

聞きなれたその声で、眠っていた意識が覚醒する。どうやら深く眠り込んでいたようだ。ユラユラと優しい手つきで体をゆすられながら、俺――藤丸立香はゆっくりと目を開けた。

 

「おはよう、マシュ」

「はい。おはようございます、先輩」

「あらリツカ、起きたのね?」

 

にこりと朗らかに笑うマシュの声に、いつもは聞かないハズの、珍しい声を聴いた。

 

「あれ?マリー?」

「ええ。おはようリツカ。調子はよくて?」

「ああ、うん。おかげさまで」

 

特徴的な大きな赤い帽子をかぶり、すらりと華奢ながら無駄のない体を少しタイトな赤いドレスに身を包み、良かったわと花が咲いたように笑う彼女の名前は、マリーアントワネット。かの有名なフランス最期の王妃だ。

 

「どうして――」

「偶々気が向いたの。なんだか、リツカに会わないといけない気がして――あら?どうしたのかしら?貴方、泣いているわよ?」

「えっ」

 

言われて、頬を手で拭った。

 

何故だろうか。何も悲しくなんてないはずなのに、そんな彼女の笑顔を見ていると、涙があふれだしてきた。

 




この後のレオとマリーは身分を隠し偽りながら、市民による全く新しいフランス、そして彼女が一番目に好きになったアマデウスの残した痕跡、そして愛した夫であるルイ16世の事を辿り、見届けながら生涯を送ります。

レオとマリーの関係は、上手く表現できているかどうかはわかりませんが現実で言うところの友達以上恋人未満かなと。彼らがこの後結ばれることはありませんし、恋に堕ちることもなく、レオは護るという約束のためにその身を彼女に捧げます。マリーには、やはりアマデウスとルイ16世がお似合いだと思うので。

ただ、市民を愛し、彼らのためにひたすらあったマリーが、愛する夫と子供たちを奪われて、自身もありもしない誹謗中傷を投げられて処刑されるというのは、なんだかやるせないというか。あまりにも報われなさすぎじゃないかとふと思ったのがきっかけです。大体、FGOリリース当初のオルレアンクリア位の頃ですかね。

が、何分私日本史B選択者だったんで世界史の知識はAと一般知識くらいだけ。フランス革命も、バスティーユ襲撃とナポレオンの遠征位しか詳しく説明できない有様。wikiとかで調べてたら、結構深いんですね。

アルノがおそらくわざと捉えられたであろうエリスを助けに堂々と襲撃し、華麗に敵を暗殺するあのトレイラー、発表された当初はとても興奮したのを覚えています。

さて、書きたいことはいろいろあるんですが、何分長くなりそうなのでこの辺りで。

このような駄文を読んでいただき、本当にありがとうございます。

では、私は早速オリジンズを......
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