「zzz」
「こら、起きろ。」
何かが顔面を叩く、分厚く重い無機質な感触、痛みはないがその感触に堪らず目を覚ます。
「......ふあぁ...」
黒で統一した服とスリムズボンにコートにブーツ、多少白めの肌に右目を隠す銀髪、多少つり上がった緋眼、その全ての要素から気だるげなオーラを滲ませる。
「こう騒がしい所で良く寝てられるな、アルバート」
と、声が聞こえる程に意識は完全に覚醒し、欠伸を1つ。
そこは所謂酒場で、若い女性が忙しなく、無駄なく動き、好きなように注文する客へ料理や酒を運ぶ、マスターはガタイが良く、黒い眼帯で右目を隠しているが、その右目を斬られたような傷跡が伺える。
そして、無骨だが簡素と言う訳でもない内装、華奢ではないがかなり丈夫なテーブルとイスが幾つか、見上げれば明かりとしては当たり前のシャンデリア。
40人は入れそうな広さの酒場は今やほぼ満席となっている。
「...別に聞き慣れた喧騒なら何て事無いだろ?ランバート」
「まっ、そりゃそうだな。」
至る所から騒がしい客の声、そしてすっかり酒場に染み付き馴染んだアルコールの匂い、その中で平気と眠りについていたアルバート。
真面目な類いならお手上げとも言いそうだが、ノースリーブにズボン、頭のバンダナを青で揃え、ダークブラウンの髪、同じくブラウンの、細く鋭い眼から、掴み所の無い性格が醸し出す特有のオーラを放つランバート、もといエーリッヒ・ランバートは違った。
「俺が起こしたから良いような物だな♪」
「......」
寧ろ意趣返しをしてくる辺り、質も悪い。
「それにしても、どうして酒場に来たんだ?下戸だろ?」
「酒は無理でも情報なら幾らでも仕入れられるさ。」
と言えば、アルバートの居るテーブルに本を置き、ランバートは彷徨き始める。
足はバタつかせず、摺り足で、膝も少し曲げ、踵を気持ち上げて、足の指で地面を掴むように歩く、特徴的な歩法で。
アルバートはランバートの歩法を見ていた。
(見てください、と言わんばかりの歩法だな...慣れた奴が居たらどうするんだか...まぁ、知らねーけど。)
ランバートは、その酒場を適当に彷徨きながら其処らで酒飲んでる人達の話を聞く。
「このところ、そろそろ何か起きそうだな」
「そうですね...以前は比較的戦争も小規模でしたが...」
「戦争が始まってそろそろ丸10年、情勢が動かなくなってから1年と少々」
「まぁ、何が起きてもそろそろ可笑しくない所だな」
と、聞こえてくる話は嵐の前の静けさを気にする声が多い。
話を軽く纏めつつ世界観を掘り下げよう。
此所、アレクラスト大陸には、2つの大国がある。
1つは、外交に明るく、様々な人や物が行き交う国、国が培った自慢の魔法を駆使した魔導技術により大陸を二分するほどの国力を誇る魔導大国「メーアブリーゼ」
もう1つは、徹底された内政と、豊富な資源を蓄えた国、高い技術力も有し、強大な軍事力を持つ軍事大国「ブレンネンエールデ」
元々は「ヴァイスシュヴァルツ」という、1つの大国が統一していた。
だが、長きに渡る統治は限界を迎える。
きっかけは帝の一言
「これより、アルテミス、及び、アルテミスに連なる神の信仰を禁じる」
この国は大きく分けてアポロンとアルテミスの二神を崇拝していた。
自然の摂理の一端を崇拝するのは自然な事で、この愚帝はそれを否定すると言う、あるまじき行為に出た。
案の定その愚帝は暗殺され、アルテミスを崇拝する民はヴァイスシュヴァルツを乗っ取った。
一大クーデターは、神を巡って10年も人を戦わせた。