敵船をどうにか撒き、一段落ついた所、夜の帳が降り始めた頃であった
アルバートはあれから、甲板にて潮の乗った風に吹かれて俯いていた
「......」
あれほどの醜態を見せた自分が、誰よりも許せなかった、自信は海の藻屑と共に消し飛び、脱け殻のようにそこに居た。
一人の男が、脱け殻のような男に近付く。
「此処に居ましたか。」
そう言って近付くブランは、料理を持ってきた模様
「...何だ?」
「夕食の時間ですよ、アルバートの分です。」
ブランの返ってきた答えに、アルバートは自分に対してまた落胆、溜め息をついて
「...要らん。」
「そうは言っても、食事しないと何も出来ませんよ?」
その言葉に、アルバートは血相を変えた。
「...あれほど惨めな姿を晒して...!負けて帰ってきた敗残兵の飯が有るか!!無駄に食糧を消費させるだけだ!!!」
猛烈な勢いで捲し立てるアルバート
一際大きな波、船上、船内を少し揺らしながらも掻き分ける、その数秒ほどの沈黙をブランが破る。
「...此処では有るんだよ、平等にな。」
そう、穏やかに伝えるブラン、アルバートは呟く。
「...悪いな...だが今はそう言う気分じゃない...」
「分かりました、後で取りに来ますよー。」
そう言ってブランは船内へ
「...何故、彼をこの船へ?」
ブランが通り過ぎた船長室には、先の戦闘での斬られた後ろ髪の具合が気に入らなかったのか、船内の揺れの中で器用に切り揃えるシューヴァと、食事中のランバートが居た。
「戦闘では斬り込みはおろか、捨て駒にも成り得ません。」
淡々と諭すようにシューヴァが話すが、ランバートは料理を堪能しており、聞いてる素振りも見えず。
埒が明かないと察したか、シューヴァは溜め息をつく。
「...私には、貴方が彼を乗せる理由が分かりません...」
そんな男を乗せた船長の船は、三日月に見守られながら順調に夜の航路を続けていた。
夜、一応の食事は摂り、割り当てられた部屋の中でアルバートは、徐に鞘から剣を抜き取る。
「...」
懐から、天然の砥石を取り出し、軽く見つめて、丁寧に研磨する。
「...やれやれ...昨日と殆ど変わってないな。」
刀身の状態から研磨の必要性は薄く見えるが、アルバートは丹念に磨く。
やがてシューヴァが自室に向かう際、アルバートの部屋を通りがかる、丁寧に剣を磨く姿を一瞥し、口には出さず、心中呟く。
「...役立たずの癖に、剣の扱いだけは一人前なんだな...」
アルバートが呟くその一言に、シューヴァは足を止めて口を手で軽く押さえる。
「...」
アルバートは、思念を読む術など使っていなければそもそも読む術など持ち合わせていない。
声にも出していないし、それはただの偶然だった。
偶然、心中呟いた言葉と一致した。
「どうかしたか?シューヴァ」
何気ないランバートの一言に、シューヴァは振り向き
「...何でもありません。」
とだけ言えば、シューヴァは踵を返して何事も無かったかのような素振りで自室に戻る。
「...」
首を傾げて、ランバートも部屋に戻る
「...こんな御主人についてきて良かったのか?...この船に乗ってる誰かに乗り換えた方が、お前の身のためだぞ?」
刀身を磨き終えて、出来を見つつそう呟く。
「.........」
剣を見つめる事、十数秒
「...お前ほどの変わり者は、初めてかもな。」
そう、剣に語りかけて鞘に納め、眠りにつこうと横になる
「...今なら、例え悪夢でさえ今よりマシと思えるかも知れん...」
独り言の後、眠りにつくアルバート、閉じるその前まで、その眼に光は灯らなかった。