アニメ二期三話のサイドストーリーです。無理のあるストーリー展開に、無理のある解釈を加えました。
ニューヨーク、ロックフェラーセンターの高層ビルの一室。スマートフォンを片手に窓から外を眺める壮年の男性の姿があった。眼下に広がるのは宝石のように輝く街明かり。ひときわ目立つのはエンパイアステートビルだ。
「うん、それでいい。すまない、恩に着るよ」
金髪に似合わない
男の背中で、かちゃりと小さな音を立てて扉が開いた。まるで軍服のようなかっちりとした制服に身を包んだ、こちらも壮年の男性が静かに入ってくる。分厚い絨毯はまったく音を立てなかった。
電話の男は室内に向きなおり、執務机越しに新たな男に目で挨拶した。
「ああ、そこは気を付けるよ。……わかった。進めさせてもらう」
男は芝居がかった仕草でスマートフォンをスーツの内ポケットに
「クロウも認めてくれたよ、ナベさん」
「ほう、意外だな。彼はそこまで嫌っていないと思ったが……」
渡辺はそういって首をふる。
「これくらいの障害で諦めるようなら、それまでのことだ、だそうだ。消極的賛成、というところだね」
「ふむ、それも彼らしいか」うなずいて続ける。「いよいよ再来週の
渡辺はまるで「風と共に去りぬ」のように発音した。
「ああ、トゥシーから連絡があった。ちょうど使えそうな出来事があった、ってね」そういって唇の端をゆがめる。
「具体的には?」
「学院に通じる県道わきの斜面が崩れたらしい。クロウに話して復旧工事を、すこし長めに見積もってもらったよ」
「なるほど、それらしく聞こえるな」
渡辺はどこからか取り出した制帽を右手の指先でくるくると回す。
「理由がないとさすがに怪しむだろうからね」
オハラは肩をすくめた。
渡辺は同感だというように帽子を
「しかし、静岡県内の主な施設をすべて確保してくれ、と言われたときには何事かと思ったが……まさかこんなことを考えていたとは」
「念のため、だがね。それが役に立った、ということさ。ワタナベ・マリタイム・グループにとっては造作もないだろう?」
「まあな。ただ、それこそ不自然にならないように
「ああ、キダさんのところか。ありがたいことだ」
オハラはゆっくりと部屋を歩きはじめる。差し渡し十メートル以上ある部屋は、大柄な彼が歩いても狭さを感じさせなかった。
渡辺はオハラを視線で追いながら話す。
「使えるはずだった施設が、たまたま予約で埋まっている。日程は動かせない。運営はなんとかして会場を確保しようとする。そこにペーパーカンパニーを
「前回の予選落ちで諦めてくれれば、必要なかったんだがね。諦めが悪いのは君譲りか、それともタカミンのせいか……」
「オハラの影響が、一番大きいと思うがね」
渡辺は苦笑する。
「まあ、それは誇っていいのだろうな」
オハラも肩をすくめた。
「それで、可能ならもうひと押し、したいんだが」と渡辺。
「ほう、まだできることがあるかね」
「念のため、だ」
「じっくり聞かせてもらおう。その前に……」
オハラは室内を横切りサイドボードに近づく。
「なにか飲むかい?」
「ああ。頼む」
「レッドブレストの二十一年物でいいかな」
「上出来だ」
オハラは酒を用意しながら続けた。
「ナベさんがこちらにいてくれてよかった。よりいっそう計画が
「すこし予定を変えただけだ。オハラには今回、汚れ役を引き受けてもらったからな。おかげで私たちは、物分かりのよい父親を演じることができる」
「まあ、誰かがやらなければならないからね」
オハラは小さなグラスをテーブルに置いて渡辺の向かいに座る。
「……それで、もうひと押し、とは?」
「まあ、そのまえに一杯いこう」
「そうだな」
オハラはグラスを掲げる。
「娘たちの未来のために」
「娘たちの
ふたりの男はにやりと笑った。
◆
「絶対、おかしいわよ!」
ラブライブの予選と学校説明会が翌日に迫った土曜日。部室で津島善子がさけんだ。
中央の机には静岡の地図が広げられている。
「どうして会場が、こんな変なところにあるのよ! 山のなかじゃない!」
「やっぱり空でも飛ばなきゃ、無理ずら」と花丸。
「それは、もう却下されたからね」
松浦果南は小原鞠莉に視線を送る。鞠莉は首を振った。
「ダメっていってるでしょう。ここでパパに頭を下げたら、かわりに学院存続はあきらめろ、っていわれるのがオチだわ」
たしかにそうだろう。果南は善子に向かってさとすように話す。
「どのグループも条件は同じだから、がんばるしかないね」
「はあ、これも私の不幸の星のせいかしら……」
「いいや、私たちは九人いるんだから、そんなことないよ。あえていえば、九人とも不幸ってことかな」
「それってなんの救いにもなってないんですけど」
「すくなくとも善子ちゃんのせいじゃないずら」
肩を落とした善子を花丸がなぐさめた。
でも、と果南は思う。あまりにもいろいろ、ありすぎる気はするよね。偶然にしてはできすぎてるっていうか……。
・
「たっだいまー!」
果南の物思いは高海千歌の威勢のいい声でさえぎられた。
続いて渡辺曜と桜内梨子、黒澤ダイヤとルビィの四人も部室に入ってくる。先に部室に戻っていた四人とは別れて、別の曲を練習していたのだった。
「聞いてよ、果南ちゃん」と曜。「千歌ちゃん、まだあきらめてないんだから」
「へえ、そうなんだ」
果南が見ると千歌は地図の上で指を走らせていた。
机のまわりに集まったメンバーに千歌は説明する。
「だから、ここから……ほら、ここまで、つながってるんだ。もう、これしかないよ!」
「たしかに、直線で移動できるけど……それでも、かなりの距離よ。間にあうかなあ」と梨子。
「農業用モノレール、ですよね。あれってあまり速くないですよね」ルビィが不安そうにいう。
「それに、残りの部分は走らなきゃならないずら……」花丸も心配をにじませる。
「大丈夫だって。昨日の夜、しっかりシュミレーション……あれ? シミュレーション? シレミューション? したんだから!」
そういって千歌は胸を張った。
惜しいね、千歌。二番目があってたよ。
「シミュレーション、ですわ。そんなところで間違えるような人の計画には、乗れませんわ」
ダイヤが首を振る。
「そ、それは関係ないから!」千歌はまわりを見渡す。「どうかな、これなら九人で両方のライブ、出られるよ!」
見かわすメンバーたち。代表して梨子がいった。
「あれだけ話しあって、ふたつにわかれようって決めたのよ」
「もし、五人で予選を越えられないようなら、本選なんてとても無理。同じく四人で学校説明会を盛り上げられなければ、九人でも無理、ってね」鞠莉もそういって首を振る。
千歌の目が果南をとらえた。すがるような視線に果南は口に出していた。
「でも、千歌のいうこともわかる。どうせなら九人で、っていうのもね」
果南が見渡すと、残りの七人も気持ちは同じようだった。
「私たち四人、説明会組で考えてみるよ。もし間にあうって判断したら、明日、会場に行く。それでいいかな?」
果南は鞠莉、善子、花丸に呼びかけた。三人とも微笑んで同意をしめす。
「よし、じゃあそれで」あらためて全員に向けて続けた。「もし、私たちがいなかったら、五人でがんばるんだよ。それに、無理して説明会に戻ってこなくていいから。命あっての
果南の言葉に全員がうなずいた。
「……どうして山のなかになっちゃったんだろう。ラブライブ、人気なのに……」
ルビィがぽつりとつぶやいた。花丸も同意をしめす。
「なんでも、会場にできるような収容人数のある施設が、すべて先約で使えなかったそうですわ」ダイヤが答える。
「確認だけど、車じゃ無理なのよね?」
善子が聞くと。
「道路だとかなり遠回りで、ぎりぎり間にあいそうにないですわ」
ダイヤは肩をすくめた。
「いちおう、バスやタクシーも当たったんだけどね、みんな予約が入ってたんだ。ほかの学校もライブに出るから、かな」
曜がいった。
「ねえ、曜ちゃん、お父さんに頼んだら、なにか船長さんの秘密兵器みたいなの、出てこないの?」と千歌。
それは厳しいんじゃないかな、と果南は思うが、曜はもったいをつけて続けた。
「……実は、なにかないかって聞いたんだけどね」
「おおっ!」
「やっぱり無理、っていわれちゃった」
「がくっ!」
千歌は肩を落とした。
「仕方ないよ。ほら、最後に全員であわせておこうよ、二曲とも」
果南の言葉にメンバー全員がうなずいた。
◆
「トゥシーからの話では、我々の計画は彼女たちには気付かれていないようだ」
ソファに深く腰を沈めたオハラが話す。
「偶然が重なっただけ、だからな」
向かいに座った渡辺はうなずいて続けた。
「タカミンとマッツに話して、リゾート関係者を
「ほう、すばらしいね。これで移動手段は存在しない、ということだね」
「それもあくまでも自然に、だ。……今回、チェリーニはどうしている?」
渡辺は思い出した、というように聞いた。
「彼は待機だ。前回、コンクールの日程を変えてもらうのに、骨を折ってもらったからね。あまり無理をすると危険だ」
「なるほど。了解した」
「それで、君に見せたいものがある。つい先ほどトゥシーから届いたものだ」
オハラは立ち上がるとマホガニーの執務机に近付き、なにか操作した。かすかなモータ音がして壁際にスクリーンが下りてくる。同時に照明がさらに光を落とした。
スクリーンが止まるとそこに映像が映し出された。
「ほう、これは……」
「最終リハーサルだそうだ」
オハラはサイドボードでグラスを用意してソファに戻る。渡辺は映像を見つめたまま、かるく会釈して謝意を示した。
スクリーンでは和風のステージ衣装に身を包んだ
ふたりの顔が微苦笑とでもいうような複雑なものに変化する。
映像が終わり、渡辺はためいきとともにつぶやいた。
「やはり曜が一番、可愛いな……」
「いや、鞠莉だろう」
ふたりが視線を交錯させた。険悪な空気が流れる。
スクリーンが動く音がして照明が明るくなった。ふたりはどちらからともなく視線を外した。
咳払いをしてオハラがいう。
「けしからんね」
「まったくだ。実にけしからんな」渡辺はうなずいた。「あんな衣装を
「うむ、なんとか手を打たなくては」
「それも我々の関与を疑わせずに、だ」
ふたりはグラスを静かに打ち付けてそれぞれ口に運んだ。
「……ところで
渡辺がさりげなくいった。オハラは鼻を鳴らす。
「誰かは知らんが、
「いやいや。あくまでもそういう見方もある、ということだ。
「まったくだ。あくまでも彼女たちと対等に行かなくては、な」
オハラの言葉に渡辺は肩をすくめた。
「ナベさんはそろそろ、
「ああ、明日のいまごろは海の上だ。どこでも仕事ができる、便利な時代になったな」
「CEOと船長、兼業は忙しいだろう?」
「船長は趣味みたいなものだ。ほら、スーツよりも制服のほうが、娘受けもいいからな」
「ああ、なるほど」にやりと笑ってオハラは続ける。「……最後の最後に、娘の頼みに負けて、飛行艇を出すなんてことはしないでくれよ」
渡辺は眉を上げて答えた。
「オハラこそ、なにか理由をつけてヘリでも出そうと思ってないかな」
「いやいや」
オハラは微笑むが目は笑っていなかった。
「……とにかく、ナベさんがいてくれてよかった」
「ああ、私もオハラに会えてよかったよ」
渡辺はグラスを飲み干して立ち上がる。
「それでは、私はこれで。明日の結果を楽しみにしている」
「うん、よい旅を」
渡辺は制帽を掲げて挨拶し部屋を出ていった。
オハラはそれを見送り
◆
翌日、日曜日。
千歌たち五人は予選会場に向かい、果南たち四人は学院でライブの準備を進めた。生徒たちの協力もあって会場の準備は早々に完了した。
「どうするの、鞠莉」
果南は聞く。バスを乗り継いで会場まで行くならそろそろタイムリミットだ。
「どうするもなにも、無理よ、絶対に」
鞠莉は悲痛な表情で首を振る。
「それがね、あながち無理じゃないかもしれないんだ」
果南は自宅から持ってきた一枚の紙を示す。今朝、ポストに入っていたものだ。たぶん、千歌が入れていったんだと思うんだけど……声をかけてくれればいいのに。
「モノラック操作説明書……?」
花丸が読み上げた。
「うん、なんかメーカー向けの特殊なマニュアルみたいなんだけど、リミッターの外し方がのってるんだ」
「リミッターって、もしかして?」と善子。
「そう、エンジンの限界まで速度が出るようになるみたい。たしかにジェットスキーとかにも、そういうのついてるんだよね。規制とかで」
「そうすれば、間にあうずら?」花丸が聞く。
「うーん、わからないけど」
「だ、大丈夫なの……?」ふたたび善子。
「さあ?」
果南は笑う。でも、試してみてもいいんじゃないかな……?
「どうする、鞠莉?」果南は繰り返した。
「……そうね、賭けてみましょうか」
鞠莉の目に輝きが戻る。果南が花丸と善子に視線を送ると、ふたりも大きくうなずいた。
・
四人は学院前のバス停に急いだ。やってきたバスに乗り、さらに終点でバスを乗り換える。なんとか間にあいそうだった。
「だめ、つながらないわ」
千歌に連絡を入れようとした鞠莉がなげいた。
「現地で落ちあうしかないね」
果南は答えた。
会場についたのはAqoursの出場の
楽屋にはすでに誰もいなかった。果南たちは急いで着替えて化粧をすませ、あたりを探すものの、千歌たちは見つからなかった。スタッフも行方を知らないらしい。どこかで待機しているのかも知れなかった。
「どうしよう」
花丸が不安そうにささやいた。
「ステージの上で落ちあうしかないよ」果南はいう。
「ええっ、そんな無茶な」と善子。
「演出だって思ってもらいましょう」
鞠莉が果南にウインクし果南も笑みを返した。
・
予選で披露した「MY舞☆TONIGHT」は大盛況で、果南は予選通過を確信した。
学院への移動も危ういところで間にあった。千歌にマニュアルについて礼をいうと、彼女は「?」という顔をしていたが。
うん、最後には偶然に、味方してもらえたかな。
学校説明会のライブを終えて、果南はそう思った。
いつの間にか、空には虹がかかっていた。
◆
「ナベさんも聞いたかね。……ああ、残念だ」
オハラは大きくため息をついた。
「君には感謝しているよ。……うん、大丈夫だ。それに、ひとついいニュースがある。クロウが本格的に、我々に協力してくれるらしい」
窓の外では朝日が街並みをゆっくりと染めていった。
「本番の映像を見たんだろうな。無理もない」オハラは苦笑して続ける。「次は確実に決めよう。……うん。……それでは、娘たちのために」
オハラは通話を切った。さすがだ、鞠莉、と思う。
それでこそ我が娘だ。しかし……我々の計画は
「ふっ、面白い」
オハラの目がきらりと輝いた。
(続きません)
ネタを思いついたので書いてみました。感想、ご評価等お待ちしております。