絵里ちがツイキャスをやるお話。
何だか、当初の計画と違う感じになってしまった。

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ツイキャスをやるわ!

「にこに言われてツイッター? を初めてみたものの、結構面白いのね、これ」

 絵里の手の中にあるケータイの液晶には、世界中で馴染みのある青に白の鳥のマーク。『絢瀬絵里』という本名で登録されたアカウントのホーム画面では、現在も目まぐるしくフォロワー数が増えていた。

「この『フォロワー』っていうのが、私に興味を持ってくれた人なのよね? ハラショー。もうすぐ五万人だわ」

 生徒会室で一人呟きながら、絵里はこれからもμ'sの活動を頑張っていくというコメントを入力した。その直後に、百近い返信のコメントが通知欄を埋め尽くした。

「す、凄いわね……。これが、『リプライ』って言うのよね?」

 にこから教わったツイッターの基礎知識をメモした紙を見ながら、絵里は感心する。真面目ねぇ、とにこには呆れられたのだが、μ'sの人気に直結すると言われれば、適当に扱う訳にはいかないのだ。

「それで、私がフォローしている人のコメントをここで見るのね」

 絵里がフォローしているアカウントの多くは、ライバルとなるスクールアイドルのアカウント。練習風景やメニューを記載している事が多く、刺激になるのではと自分から始めた。頼みのにこに、『その辺は自由にやればいいのよ』と投げ出されたのもあったのだが。

「みんな、色々な練習方法を考えてるのね……。海辺に近ければ、砂浜を使ったりもできるのね……。ここからだと、移動時間がロスかしら?」

 画面をスクロールしながら、自然と練習メニューの考案を始める絵里。すると、ふととあるアカウントに見慣れない言葉を見つけた。

「何かしらこれ……。『モイ! キャスやってます! にっこにっこにー!」……? 何かの合言葉かしら?」

 よく見ると、何やらリンク先も一緒に載っている。

「…………」

 気になった以上、放置はできなかった。色々教えてくれた張本人だし、まだ自分が知らないツイッターの隠された機能があるのではという興味が優った。絵里はURLをタップした。ブラウザが起動し、どこかに繋がった。直後、

『おっ、また誰か来ましたね!』

 ケータイから大音量で声が流れた。

「ふぇっ⁉︎」

 驚いた絵里は、ケータイを床に落としてしまう。

『もし良かったら、どなたなのかコメントして下さいねー!』

 床に転がったケータイからは、なおも大音量で声が流れる。

 そういえば、昨晩は亜里沙と二人で動画を観る為に音量を上げていたのだったと思い出す。慌てて拾い上げると、まずは音量を適正に戻す。それから、念の為イヤホンをジャックに接続した。放課後だし書類整理は終わっているのだが、生徒会室で動画なり音楽なりを流すのは決まりが悪い。

 恐る恐るイヤホンを耳に差し込むと、

『コメントとかはしない人なんですかねー? それならそれでいいですけど!』

 ハツラツとした聞き馴染みのある声が、耳に届く。

「コメントって……これかしら?」

 絵里はボタンをタップすると、コメントを入力する。

 『こんにちは、にこ』。

『って、絵里⁉︎』

 『良かった。ちゃんとコメントできたみたいね』。

 『あれ、もしかしてμ'sのメンバーの絵里ちゃん?』『μ'sのキャスにμ'sが来た!』『面白くなりそう!』『奇跡だよ!』

 絵里がコメントを入力した直後、それは新たに入力されたいくつものコメントによって下に流れていった。

『まさか、絵里が来るとは思わなかったわ……』

 『まずかったかしら……。まだ、よく分かってなくて』。

『いや、別にいいわ。絵里、意外と順応早いわね……。アカウント作ったのつい最近でしょ』

 『にこが丁寧に教えてくれたからよ。ありがとう』。

 『にこちゃんが教えてあげたんだ〜!』『流石はスーパーアイドル!』『メンバーの面倒もちゃんと見てるんだね〜』

 再びコメントが連投される。

『ま〜ね〜。μ'sは、このにこにーがいるから成り立ってるようなものですし〜?』

 『それでにこ、これって一体何をするの?』。

『スルーかい……。まあいいけど……』

 何やらぼやきが聞こえた気がしたが、にこは続けて発言する。

『これはツイキャスって言って、ツイッターのアカウントを使って配信ができるサービスよ。こうやって何でもない雑談したり、カメラ機能を使ってダンスを踊ったり、あとはゲームの実況したりもできるわ。簡単に言えば、フォロワーさんと交流を深める為だと思ってくれればいいわ』

 『それって、誰でもできるものなの?』。

『まあ、そうね。やり方は簡単だし誰でもできるわ』

 それを聞いた絵里は、その場で大きく頷いた。

 『ありがとうにこ!』。

『え、いきなり何言っ』

 絵里がブラウザを終了したので、にこの声も途切れる。

 

 

 

 

「さあ、やるわよ!」

 案の定と言うべきか、帰宅した絵里は自室の机に向かうとインストールしたアプリを起動しツイキャスの準備を始めていた。

「このボタンを押せば、始められるのよね……」

 絵里はアプリ内のボタンを、恐る恐るタップする。

 『モイ! 雑談キャス!』と表示され、絵里のアカウントでツイートされる。

 すぐに閲覧の人数が表示され、ドンドン増えていく。

 同時に、コメントも入力される。

 『こんにちはー!』『絵里ちゃんもキャス始めたんですね!』『初見です!』『初めまして!』

 その中に、

 『予想はしてたけど、やっぱりやったか……』。毎日見る顔の自撮りアイコンが。

「あ、にこ。μ'sの活動の報告もできるし、文章だと伝わりにくい部分もあると思ったからちょうどいいかなって」

 『まあ、それはいいんだけどね。あんまり余計な事は言わないようにしなさいよ。不特定多数の人がいるんだし、個人情報とかうっかり口走るんじゃないわよ』。

「にこじゃないんだから、そんな事しないわよ」

 『どういう意味よ!』。

「でもそうね。何を話していいか難しいわね……」

 絵里は話題を考えながら、たまたま手元にあった練習風景を収めた写真を眺めた。

「ふふっ。……………………………………………………」

 

 

 『…………喋れ!』。

 コメントにて、無音のツッコミが飛んだ。

 『悩む時間が長すぎる! 放送事故か!』。

「ご、ごめんなさい。ちょっと撮った写真を見ていたのよ。ほら、これとかよく撮れたと思わない?」

 『分かるか! カメラ使ってないラジオキャスなんだから、手元の写真とかにこ達には見えないわよ!』。

「それもそうね……。でも私、こういう雑談とか、何話していいか分からないのよ……」

 『じゃあ何でキャスやろうと思ったのよ……』。

「何事も、やってみる挑戦心が大事ってμ'sに入って学んだのよ」

 『だったらせめて、何か喋りなさいよ。黙ってたら放送事故よ』。

「それもそうね……。あ、そうだにこ。ちょうど良かったわ」

 『何がよ?』。

「今日の数学の小テスト、赤点だったそうね」

 『え(笑)』『にこちゃんマジですか』『勉強は得意って言ってなかったっけ?』『勉強はやらないと(笑)』

「にこ?」

 『あれー? そうだったかなー?』。

「にこ……。明日の昼休み、部室で勉強よ。小テストだったから良かったものの、定期テストで赤点取ったら活動できなくなるのよ? 分かってるの?」

 『ちょっと、それってまだ有効なの⁉︎』。

「当然よ。私達はスクールアイドル。高校生なんだから。勉強は大事」

 『やっぱりエリーチカは真面目』『レッスン以外も頑張ってるんだなぁ』『勉強は大事だよね』『私もテスト勉強頑張らなきゃ』

「そうね……。ちょうどいい機会だし、穂乃果と凛の勉強もチェックしておいた方がいいわね。海未と真姫が見ているとはいえ、限界はあるだろうし……」

 『何でこんな流れになったのよ……』。

「そういう訳だからにこ、明日の昼休みは部室に来てちょうだい」

 絵里がそこまで言った所で、規定時間の三十分に達しツイキャスは強制終了した。

 

 

 

 

 翌日、

「絵里! アンタはキャス禁止! プライベートな情報漏らし過ぎなのよ!」

 自業自得の部長が、叫んだとか。

「キャスって何ー?」

「面白そうにゃ!」

「アンタらも食いつくな! にこのパーフェクトイメージを、これ以上崩されてたまるかってのよ!」

 

 

「キャスって面白いのね。色々な人の意見が聞けて有意義だったわ。私、またツイキャスやるわ!」

「話を聞け!」



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