魔法科?うるさいそんな事より都牟刈だ!!   作:益荒男

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 ピックアップでふじのんを引いたお陰でやる気がすんごい出た勢いで過去最長の話を書いた益荒男。投稿もうすぐ詐欺をした弁明に「おりゃあ悪くねえ!急にらっきょ復刻してきた運営って奴が悪いんだ!」と述べる


 調子乗ってたら一万字を超えてました。小分けしようとは思ったのですが、おそらく皆さん方が待ち望んだシーンだと思いますのでこのまま投稿します。

 次回?うん、まあ、がんばるよ(セイバーウォーズ復刻の通知を見ながら)




Q.知らぬ間に進路が確定し、ヤバい目に遭うこと間違いナシとなった場合の対処を答えなさい A.笑えばいいと思うよ

「東京に出てみないか」

 

「・・・は?」

 

 

 初めての真打の儀を終えてから、既に一年の時が過ぎ、俺は中学三年となっていた。今は夏休みを終え、二学期に入ったばかりの頃で、皆一生懸命勉学に励んでいる。それもそうだろう。何たって今我々は受験生。誰もが望む高校に入学するため、一時だろうと無駄にできないのだ。かく言う俺こと、刀鍛治師の政狩刀弥も同じであり、日々勉強に明け暮れている。いや、勿論鍛錬の時間は一秒たりとも削っていないが、基本それ以外の時間は勉強だ。爺やと新しく加わった父さんのしごきを耐え、母さんのスパルタ魔術教室の後に受験勉強というのは、なかなか苦しいものではあるが。それは全て自分の為になるのだから文句なんてない。うん、ナイッタラナイ。真打が終わってから一気に難度が跳ね上がった気がするけど、まぁ大丈夫!死んでないし!たまに一日中全身尋常じゃないほど痛かったりする日もあるけど!だから、大丈夫、なんだ・・・!

 そんな自分なりには充実した毎日を送っていたある日の放課後、いきなり校内放送で呼び出され、帰宅を邪魔されたことに少し腹を立てつつ職員室に来た俺を、いつもは気だるげな担任教師が真剣な表情で迎えたと同時にこう言い放ったのだ。

 

 

「政狩、東京に出てみないか?」

 

「先生、何が言いたいのか分かりません」

 

 

 何で二回言った?そして何故いきなり東京?話が全く見えてこないんですが。

 

 

「あぁ、すまない。ちゃんと順を追って説明する。まず政狩、お前は魔法科高校進学カリキュラムを受けた。なら志望校は併願の場合、国公立は必ず魔法科高校から選ぶことになる。これは分かっているよな?」

 

 

 質問というよりは、確認のようなニュアンスで聞いてきた。それはまぁ、自分だって受験生ですし。そんなことくらい知ってて当然・・・

 

 ん?

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「そう、なんですか?」

 

「なんだ、知らなかったのか。あ、そう言えばお前は特例でもう一年の二学期から受けていたんだったな。なら仕方ないか。てか、そりゃそうだろう。カリキュラムに使う設備は演算媒体やら特殊装甲演習場やら馬鹿にならないほど金を喰うんだ。魔法科高校に行くつもりがない奴に設備を使わせるなんて勿体なさすぎるだろう。まぁ、適性があるって分かってカリキュラムを受けて、一般校に行きたい奴なんてそういないだろうし。いるとしても、そりゃ相当の馬鹿だ」

 

 

 いえ、いるんですけど。目の前にその相当な馬鹿がいるんですけど。

 

 

「話を続けるぞ。実は魔法科高校には既に推薦制度があるんだ。中学の魔法の知識、演習、模擬戦の成績を高校に送って、めぼしい生徒には受験での優遇や免除が行われる」

 

 

 え?何?つまり、俺は絶対に魔法科高校に逝かねえとダメってこと?あれ、そういや父さんが高校卒業したら当主の座譲るって宣言したのって、確かカリキュラムの説明を読んだ時じゃ・・・あっ(察し

 

 

「でだ。その推薦候補に、お前が選ばれた。それも最優先度でだ」

 

(これ俺オワタわ)

 

 

 もうどうしようも無いほどに手遅れだと、自分はようやく気づいた。そう理解した瞬間、全思考は停止し、目からハイライトが消え、完全に諦めモードに入ってしまった。こうなったのは司波深雪の時以来だな。ハッ、笑えよ神様。

 

 

「推薦してきたのは、ん?どうした政狩?何というか、暗黒オーラ的なものが出てきているんだが?」

 

「イエ、キニシナイデクダサイ」

 

「そ、そうか、分かった。推薦してくれたのは、東京の八王子にある第一高校。ここは魔法知識より魔法実技が優先される場所でな。入試の成績割合も実技の方がかなり配点が高い。だが、もしこの推薦を受けるなら、実技テストを免除しペーパーテストのみを行うことにするらしい。それも、実技テストは()()()()が与えられて、だ。総代候補からは自動的に外されることになるけどな。」

 

 

 それは誰でも簡単に分かるくらいの破格の条件だった。ここまでしてくれるということは、それ程までに自分を買っているということなのだろう。

 

 

「物凄い好待遇ですね」

 

「俺も最初はめちゃくちゃ驚いたが、今じゃそうでもないって思うよ。よくよく考えれば、保有想子(サイオン)量も魔法演算領域もランクはB越え、模擬戦は授業内では全勝、魔法のバリエーションも多いし発動速度も校内トップどころか全国レベルで見ても高ランクだ。しかもどこかの魔法師の家系でもない一般家庭の生まれときた。普通にこれぐらいで頷ける人材だよ」

 

 

 彼らは知らないが、刀弥の模擬戦の内容も今回の推薦の大きな要因となっていた。模擬戦とは言ってしまえば、魔法の早打ち勝負だ。どっちが先に魔法式を起動し、相手を戦闘不能に追い込めるか。大抵は一回の攻防で終わる。さらに未だ中学生の身では使える魔法も少ない為、同じ単純行程の魔法をどっちが先に当てるかという、ランクありきの泥試合が殆どだった。だが、高ランクであることからの教師の無茶ぶりに応えて、既に多くの魔法式の展開が可能になっていた刀弥。「そんなのつまらないだろ」と様々な魔法を実践で試し、新しい戦術を次々考えていった。只のお遊びと実習の暇潰しだけのつもりだったというのは、刀弥本人のみが知る事実である。

 

 

「一高は魔法大学への進学率が魔法科高校の中でもトップだ。しかも、今年度は十師族の七草(さえぐさ)のお嬢様と十文字(じゅうもんじ)の御曹司がいて、九校戦では二連覇を果たした。間違い無くお前にとっていい刺激になる」

 

 

 そう言う担任教師の顔からは、喜びの色が読み取れる。何時もは気だるげな感じだが、生徒とはいつも正面から向き合ってくれている、いい教師なのだ。司波が転校したときも気にするな声を掛けてくる程に。ついでに普通に顔も整っているので、女子生徒からの人気は教師で一番らしい。

 

 

「とりあえず、今ここで決めろって訳じゃないから、この書類を持ち帰って親と相談しろ。お前の進路だ、お前が決めればいいさ」

 

 

 そう言って爽やかな笑顔を向ける担任教師に「じゃあ一般校から選ばせて下さい」と言いたくなるのをこらえながら、俺は職員室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 ・・・どーしてこーなった

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「・・・はぁ」

 

 

 只今俺は教室で絶賛後悔&自己嫌悪中でございます。いや、もうほんと、どーしてこーなった。校長の話に頷いたのがいけなかったのか?いやでもあの時はカリキュラムの概要を言われただけで他は何もしらなかったし。なら・・・

 

 

「・・・はぁ」

 

 

 もうやめよう。今更どうこう言ったって何も変わらない。今向き合うべき問題は、

 

 

「第一高校からの推薦」

 

 

 そう、あの一高である。魔法科主人公である司波兄妹が入学し、物語のメインステージとなり「いやこの高校だけ治安悪すぎだろ」と言われるあの魔法科第一高校である。ここに入学すれば、完全に物語に巻き込まれることが決まり、あのお兄様とブラコンシスターに会うことになる。最悪、全ての事件に首を突っ込むことになるだろう。まぁ、くっそ面倒くさいことになるわけだ。しかも、既に司波深雪とは面識がある。向こうがトラウマになっていなければ、もしかしたらあっちから話しかけてくるかもしれない。最初は謝罪しか受け取る気はないが。そして一番嫌なのは、世界最強お兄様こと司波達也に目をつけられることである。アニメでラストのあれはもう笑いしか出なかったのを覚えているよ。さて、どうしたものかねぇ。

 

 いや、推薦受けなかったらいいだけか。

 

 すんごい簡単なことだよ。一高に入学受けたらこうなるというだけで、なら別の高校に行けばいいだけだ。不登校になるというのは余りにも無責任だろうし。責任放棄、ダメ絶対。それに受験にわざと落ちるというのも気に入らない。ここまでやって来たんだ。それ相応の結果を得ないと納得もいかないんだよ。てか、恐らく父さんは魔法科高校を卒業しないと当主の座は譲ってくれないだろうし。

 ともかく、俺は(前から決まっていたけど)魔法科高校に行かなければならなくなった訳だ。さてどーしましょ。推薦蹴るならどこの高校にしようかな。順当にいくなら、ここから一番近い第四高校に入学するか?あれがあるのは静岡あたりだからちょっと遠いけど、半日もあれば余裕で帰れる。でも日帰り出来ないのが面倒だな。いや、それはどこ行っても同じか。あ~ダルい、昔の俺を殴りて~!こっちに来てからこんな後悔ばっかだなド畜生!

 

 

「政狩君?一人で頭抱えてどうしたの?」

 

 

 んあ?俺がOHANASIしてから大人しくなった大山じゃないですか。ご機嫌取りのつもりか、自分からパシられようとしていた頃が懐かしいな。今では世間話くらいならする仲である。

 

 

「別に、こっちの話」

 

「そう?あ、それよりも政狩君、一高からの推薦がきたんだよね!おめでとう!」

 

 

 ん?何でコイツがそれをしってんだ?まだ誰にも話してないし、これから話す気もなかったんだけど?

 

 

「さっき職員室の話を聞いたって、他の女子が話しているのを聞いたんだ。多分、今日の間には学校中に話が広がると思うよ」

 

 

 え、マジか。あの話聞かれてたのかよ。ちょっと自分への気遣いが全くないように感じられるのですが。てか行く気ないのにそんな噂を流されても困る・・・わけでもないけども。

 

 

「受けるつもりないんだけど」

 

「え!?何で!!?」

 

「ウルサい。だって遠いし、他に行きたいところがあるし(ほんとのこと言うのもあれだし、こんなところでいいだろ)」

 

「あ、そーなんだ。なら仕方ないか。でも確かに、あそこって九校戦とかのの成績はいいけど、一科生とニ科生の確執が大きいって聞くし、政狩君はそういう雰囲気は嫌いそうだしね」

 

 

 コイツ色々詳しいな。いや、当たり前だよな。受験する学校について何も知りませんはただの阿呆か。俺のことだよ阿呆は。仕方ない、あまり他人に頼ることはしたくないけど大山に聞いてみるか。

 

 

「大山、四高についてなんか知ってることない?」

 

「えっ、四高?うーん、僕はそこ受けるつもりはなかったから詳しくは調べてないんだよね。あ、でもあそこは多工程魔法を推奨してて、受験は魔法知識の配分が大きいってのは聞いたことがあるよ。でも、やってることは一校の方が分野が広いし、九校戦の戦績はほとんど最下位なんだよね。一校だけ定員も他より倍だし、これなら正直一高に行った方がいいと思う。政狩君は四高を受けるつもりなの?」

 

「いや、聞いてみただけ」

 

 

 ふーん、あまり大山の評価はよろしくないようだ。けど生徒数は少ない、か。騒がしいのは嫌だし、何より場所が近い。日帰りは無理でも、長い休日なら沢山時間がとれるな。候補の一つに入れとくか。他のところも一通りは調べておかねえとなー。

 

 そのまま大山と別れたあと、俺は帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 ふう、このなっがい通学路とももうすぐおさらばだな。あばよ信濃堺駅、これまで楽しかったぜ。いやあんまりいい思い出もないな、うん。山道を登りきり家の扉を開ける。

 

 

「ただいま」

 

「刀弥、帰ったか。すまん、鍛錬の前にちょっといいか?」

 

 

 顔を覗かせ、挨拶を返した父さんはそんなことを聞きながら、居間に手招きする。特に断る理由もなかったので、制服の着替えも後回しにして、父さんの前にあぐらをかいて座った。それを見た父さんは一度息を吐いてから、まるでこれから刀鍛冶に挑むかの如く真剣な顔で俺にこう告げたのだ。

 

 

「刀弥、東京に出てみないか?」

 

 

 ループって怖くね?

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 旧山梨と静岡の境にあるほとんど人の手がつけられていないように見える山の中のさらに奥。血族以外の人間には誰も知られていない四葉の里。そこの本邸では今、二人の美しき女性が晩の食卓を共にしていた。

 一人は司波深雪。時期四葉家当主の最有力候補であるまだ十五歳であり、そうとは思えないほど完成された美貌をもつ少女である。

 そしてもう一人は四葉真夜。現四葉の当主であり、深雪の叔母にあたる妙齢の女性である。魔法師の間で「夜の支配者」と恐れられている彼女の姿は、実年齢からは考えられない若々しさを持っており、どこか深雪に似た面影のする紛れもない美女である。

 二人は徹底的にたたき込まれたことを匂わせる気品溢れる作法で、皿に盛られた料理を口に運んでいく。これだけ見れば絵になる光景なのだが、そこには温かみなど一切感じられない凍えきった食卓だった。そんなことは知らないといった風に、真夜の方から深雪に言葉をかけた。

 

 

「深雪さん、勉強は捗っていますか?」

 

「・・・はい」

 

 

 問いかけに対し、深雪は力無い返事を返すだけだった。熱も感情すらもこもっていない、機械的に返した、そんな返事。このやり取りだけで、彼らの関係の一端が捉えられた気がした。

 

 

「なら良かった。あなた達には前に言った通り、第一高校に入学してもらいます。《あれ》も深雪さんも、それ自体に心配はいらないでしょうが、やるならより上を目指して欲しいですしね」

 

「はい」

 

 

 深雪の心の内を知らずか、いや、知っていてやっているのだろう。先程からずっと、真夜の口元には笑みが浮かんでいる。反応を楽しんでいるのか、只彼女に無関心なのかはわからないが、当の本人からすれば気分の良いものではない。真夜の言葉には一応耳を傾けながら適当に相づちだけを返し、深雪は早々に夕食を食べ終えた。もうこんな場所には居たくないと立ち上がり、扉をつかんだ時、向こうから呼び止められる。

 

 

「深雪さん、あなたはいつまで夢を見ているつもりですか」

 

 

 深雪は最後の質問には応えず「失礼します」とだけ返し部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「深雪さんに学校へ行かせたのは得策ではなかったようです。それにしても、『政狩刀弥』ですか。余計なことをしてくれましたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室に戻り、そのままベットへと倒れ込む。服がしわになってしまうと分かっていても、今はこうしていたい気分だった。あの人のことは、はっきり言って好きになれない。何を考えているのかが全くわからず、何よりも兄のことを()()呼ばわり。一部を除く四葉全体にも言えることだが、敬愛する兄の扱いに自分は我慢ならない。兄の事情は知っている。あちらの言い分も理解はしている。それでも許せないのだ。何故兄がこんな目に合わなければならないのか、と。

 天井へ向けていた顔を、現実から目をそらすかのように横へ動かす。すると、棚の上に置かれた一つの写真が目に映る。万弁の笑みを浮かべる二年前の自分と、腕を組まれるのが恥ずかしいのか頬をほんの少し赤く染めながらそっぽを向く彼。

 

 そして思い出す、彼との日々

 

 

(ああ、まただ。何度も何度も、ほんとはいけないことなのに)

 

 

 あの時は、本当に楽しかった。

 

 ぶっきらぼうで、不器用で、少し天然で、でも優しさを持っている。

 

 

(最初は、教科書を貸してもらったんだ。一度も話したこともない私にテスト前で気を張っている中、不躾なお願いを彼はなにも言わずに聞いてくれた。たったそれだけのことだとしても、私にとっては何よりも嬉しかった)

 

 

 いつも何か考え事をしていて、あまり周りが見えていないこともあって危なっかしい。私がちゃんと見ておかないと、なんて思ったりもした。

 

 

(彼から話すことは少なかったけど、私の話にはしっかり応えてくれた。家での鬱憤を吐き出すように話し続ける私を、しっかりと受け止めてくれた。それが私の只の思い込みだとしても、それでも私は確かに救われた)

 

 

 そんな彼と過ごした、たった三カ月。それが私のこれまでの人生で、一番幸せだった記憶であり

 

 

 

『その首、切り落とすぞ』

 

 

 

「ッ!」

 

 

 一番つらい思い出だった。

 

 

 彼の最後の言葉を思い出し、縮こまって自分の肩を抱き寄せる。震える体を押さえつけ恐怖を鎮めようとするが、脳裏にこびり付いたそれは簡単に消えはしない。

 

 刀弥が深雪にぶつけた殺気は、彼女にとって極大のトラウマとなっていた。いくら裏の世界に関わる四葉の家の娘だとはいえ、当時の深雪は他とそう変わらない中学一年の少女でしかなかったのだ。本物の殺気を受けたことすらなかったし、何より不味かったのは触れたのは相手の逆鱗だったことだ。精神年齢が三桁を迎えた人間の純粋な殺気を少女である深雪が耐えるというのはあまりにも酷な話だ。今もただ時間に委ね、恐怖が少しずつ薄れていくのを待つしかなかった。

 

 永遠に続くのではないかという恐怖の時間は、時計の針が半分周りきるまで続いた。だがこれでもましになったものなのだ。最初は一日中ベットにうずくまった時だってあった。体をベットから起こし、棚の上の写真に手を伸ばす。一度引きながらも、数巡の末ようやく持ち上げる。自分の臆病さに嫌気が差し、思わず自嘲するように笑みを浮かべる。

 先の恐怖がある。恐らくこれを無くしてしまったら、自分は彼のことを忘れようとするだろう。自分の意志なんて関係ない。本能がこの恐怖を消そうとする。本当に嫌な記憶ならそうするべきなのだろう。けどそうじゃない。彼と過ごした日々は自分にとっての救いなのだ。自分も普通でいられる、普通に笑えることの証明のために。

 

 

 『いつまで夢を見ているつもりですか』

 

 

 そこで思い出したのが、先の夕食で叔母が自分にかけた言葉。

 

 夢、そう夢だ。

 

 現実よりも心地良く、最後は恐怖と悲しみに染まる幻。突き落とされると分かっていても、浸っていたいと感じてしまう胡蝶の夢。私はずっと夢を見ている。いつか、この呪縛(四葉)から解放される時が来るのではと。けど、もう止めるべき時ではないだろうか。この美しくも忌まわしい過去を忘れ、四葉として生きることを受け入れる。そうするべきではないのだろうか。

 頭の中で、様々な思いが行き来を繰り返しぐちゃぐちゃになる。混乱が頂点に達しようとしたそのとき

 

 

「深雪、俺だ。少し話したいことがあるんだが、今、大丈夫か?」

 

 

 部屋の扉がノックされる音と共に、深雪の兄であり物語の主人公、司波達也の声が届いた。

 

 

「お、お兄様!?キャッ!」

 

 

 急に声をかけられた驚きで、手に持っていた写真を落としてしまう。ガラスで作られていたそれは、落ちた衝撃によって大きな音をたてて割れてしまう。その音が部屋の外にまで聞こえたのだろう。血相を変えた達也が、深雪の返事を聞く前に部屋に入った。

 

 

「深雪!どうした!?」

 

「い、いえ。驚いてしまって、写真を落としてしまっただけです」

 

「そうか、ならいい。すまなかった。怪我はないかい?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「取りあえず、ガラスはすぐに始末しよう。床に傷はないみたいだから、面倒なことにはならないだろう」

 

 

 そう言って達也は、砕け散ったガラスに手をかざす。すると、魔法が起動しガラスが素粒子レベルにまで『分解』され、跡形もなく消え去った。

 

 司波達也は二つの魔法しか満足に扱えない。一つは先程見せた『分解』、物質ならその構成要素の限界まで分解した状態に上書きし、情報体ならその構成自体を分解する魔法。もう一つは『再成』、最大24時間前まで対象の個別情報体(エイドス)の履歴を読み取りフルコピー、上書きする魔法。この常識はずれもはなただしい魔法を扱う代償に、達也は感情の大部分を白紙化されている。ただ一つ、『兄弟愛』という感情を残して。

 

 魔法によりガラスを消した後、埋もれていた写真を拾い上げるとそれを見る。深雪がしまったという風に「あっ」と声を出すが時すでに遅し。ここでさっき言ったことを思い出して欲しい。達也には、ほぼほぼ兄弟愛以外の感情が無いに等しいため、妹である深雪にはとても過保護になる。そんな彼がこの写真を見たら、する事など一つであった。

 

 

「深雪、これは?」

 

「ええと、その、これは、私がまだ学校に通っていたときのもので・・・」

 

「深雪?」

 

 

 少しずつ声が小さくなるのを聞いて、やはり()()()()()()を聞かれるのは恥ずかしいのか、と思っていたら、深雪の様子がおかしいことに気がつく。まるで写真について話すことを恥ずかしがっているのではなく、怯えているように。

 

 

「・・・お兄様、少しだけ、こちらの話を聞いて下さいませんか?」

 

 

 それから深雪は、達也に全てを打ち明けた。

 

 

 それはまるで、全てを諦めた罪人が己の罪を告白するかのようだった。彼との馴れ初めから過ごした日々、そして最後の話と別れ。本来楽しい思い出だったはずの話をするときも、自分にそれは許されないとでも言うように、無表情に語って言った。

 

 

「政狩君は最後に、『邪魔をするな』と言って、それから一度も話すこともなく夏休みを迎え、沖縄での出来事を機に私は学校を去りました」

 

「・・・深雪」

 

「本当、笑い物ですよね。自分と彼を勝手に重ねて、彼の誇りを傷つけて、自分が欲しかったものを自分で手放すなんて」

 

「深雪!」

 

 

 達也は一度強く深雪の名を呼び、話を無理やりに中断させる。これ以上は深雪の精神が保たないと感じたからだ。達也は後悔する。この話をする深雪は、あまりに痛々し過ぎた。

 

 

「もういい、今日は疲れだたろう。風呂はもう済ませたのか?」

 

「い、いえ。お兄様?」

 

「深雪、確かに非の多くお前にあるのかもしれない。けど全部じゃない。間違い無く向こうにも非がある。お互いに言葉が足りなかったんだ」

 

「そう、なのでしょうか」

 

「ああ。たとえ深雪の独りよがりだったとしても、話を聞く限り彼はそれを受け入れていた。ならお互いのことをもっと知っているべきだったんだ。勿論、話せないことだってあるだろう。()()なんて特にな。向こうにだってあるはずだ。でも、こんなことになってしまうくらいなら、向こうももっと踏み込んでも良かっただろうに」

 

 

 たとえ不本意だったとしても人と関わることになったのであれば、後に問題にならない為にその人のことはある程度知っておかなければならない。これには相手の素性は勿論のこと、性格なども含まれる。文字として見ればされた方が理不尽に感じるかもしれないが、これは普段じゃ誰もが当たり前に行っていることである。なので普通の場合はそこまで面倒なことにはならない。

 なら何故こうなったか、それが刀弥に足りなかったものだ。刀弥にとって、深雪は『原作キャラ』だという先入観が強く入る人間だった。刀弥の素性から考えればそれは当たり前のことなのだが、そのままにしておくのが問題なのだ。つまり、

 

『今はこうでも後で勝手に離れていく、それは物語的に決まったことだ。ならほっといても大丈夫。』

 

 刀弥はこう感じ、深雪のことを微塵も知ろうとしなかったし、自分のことを深雪に話そうともしなかった。

 

 

「でも私が、彼の誇りを貶したのは、事実です」

 

「なら謝ればいい。もし会えた時にしっかりと謝れたのなら、彼だって許してくれるだろう。それとも、政狩刀弥という男は心の狭い人間なのか?」

 

「ち、違います!政狩君は、少しぶっきらぼうなところはありますけど、とても優しい人です!」

 

「なら大丈夫だろう。安心しろ、俺はいつまでも深雪の味方だ」

 

 

 深雪の反応を見て、安心したという風に溜め息を吐く。しかしこの反論の強さ。やはり深雪は彼のことを()()()()()()思っているのだろうか。そんなことを思った達也は、しばらく迷った末に思い切って聞いてみることにした。それがある引き金になってしまうとも知らずに。

 

 

「深雪は、その『政狩』のことが好きなのか?」

 

「・・・え?」

 

 

 私が、政狩君を・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・そっか

 

 

「そう、なのかも、しれませんね」

 

「・・・そうか」

 

(政狩刀弥、注意する必要性があるな)

 

 

 それっきり話は一度止まってしまうが、達也にも用事があったことを思い出した深雪が彼に尋ねることで、沈黙が破られた。今日達也は、自らが研究員として勤めるフォア・リーブス・テクノロジー(通称FLT)会議にでていて、そのせいで遅れてしまった深雪のCADの調整が完了したので渡しに来ていた。

 

 

「ありがとうございます、お兄様」

 

「かまわないよ、たいしたことはしていない。試運転といきたいところだが、今日はもう遅いし明日にしよう」

 

「はい。お兄様はこれから夕食ですか?」

 

「いや、もうそれは済ませてある。これから部屋に戻って研究の続きをするつもりだ」

 

「そうですか。私はもう少ししたらお風呂の方へ入ろうと思います。では、また後で」

 

「ああ。また困ったことがあったらいつでも言ってくれ。さっきも言ったが、俺はいつでもお前の味方だ」

 

 

 

 

 

 

  

 達也が部屋を去った後、深雪はしばらくその場から動かなかったまま2、3分たつと、テーブルの上に移された彼との写真を見つめる。その目に前までの恐れは見えず、別の感情が見え隠れしていた。

 

 

「・・・好き」

 

「私は、政狩君のことが、好き」

 

 

 何でこんな簡単なことに気付かなかったのだろう

 

 

 そうだ、私は

 

 

 彼が、政狩刀弥君のことが

 

 

 好きで好きで

 

 

 好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好--------

 

 

 好きで好きで堪らないのだ

 

 

 だから怖かった

 

 

 嫌われるのが怖かった

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 彼のことが好きで、でも彼に嫌われたと認めてしまうのが怖くて

 

 

 だからずっと震えていたんだ

 

 

 でも認めよう

 

 

 私は罪を犯した

 

 

 だからこの思いは認められない

 

 

 実ることはない

 

 

 でも、もし

 

 

 もし彼に許されるなら

 

 

 そんな時がきたら

 

 

 この思いを、受け取ってもらえますか

 

 

「政狩・・・刀弥君」

 

 




 いかがでしたでしょうか。

 トラウマとなった殺気の恐怖を嫌われることへの恐怖とすり替え受け入れる、これぞ人の本能の為せる技、という風に納得してください。

 今回初描写のキャラが多かったので、ガバガバなところ多いかもしれません。ご指摘は感想でお願いします。

 次回は閑話を挟む予定。主に政狩家の日常風景を描く予定。あと近々活動報告にてアンケートをとる予定。そちらのチェックもお願いします。それでは今回はこのへんで。ばいなーら

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