九番目の少年   作:はたけのなすび

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では。


act-16

 

 

 

 

 暗闇から灯りの下へと歩み出た白髪の少年は、極めて穏やかな表情で辺りを見渡した。

 その瞬間、僅かな時間だが“赤”のサーヴァントたちの動きが硬直した。マスターとの繋がりが揺らいだのだ。

 繋がりはすぐに確かになったが、大英雄である“赤”のランサーやライダーすら膝を付きかけるほどの衝撃が走ったのである。

 広間の空気は一層重苦しいものになるが、彼はその中を悠然と進むとルーラーと向き合った。

 信じがたいものを見るような厳しい視線を注いでいるルーラー、彼の登場に戸惑いを隠せない”赤”のライダーとアーチャー、そして油断なく身構える”黒”のアーチャーとキャスターを、彼は凪いだ顔で見た。

 彼の顔に表情が現れたのは、ダーニックの亡骸とデミ・サーヴァントの少年に視線を向けたときである。怒りと驚きが張り付いたダーニックの死に顔、サーヴァント化が解けた姿のまま気を失っているノインを見たときだけ、彼は顔を奇妙に歪めた。

 

「貴方は―――――」

 

 だがそれはほんの一瞬のことで、すぐに消え失せる。

 ルーラーはまだ驚きで目を見開いていた。ルーラーとしての特権の一つ、スキル・『真名看破』を持つ彼女には、眼の前のこの少年がどういう存在か見抜くことができる。

 だが、見抜いたその真実に彼女は驚愕していた。

 

「初めまして、今回のルーラー。私が”赤”のマスター、シロウ・コトミネです」

「十七人目の―――サーヴァントだと……!?」

 

 ”黒”のアーチャー、ケイローンですら驚いていた。この少年はマスターと名乗った。だが、彼から立ち上る気配はサーヴァントのものだ。

 ノインのようなデミ・サーヴァントの気配ではない。この少年神父は、紛れもない英霊だった。

 

「いえ。十七人目、という言い方は正確ではありませんよ、ケイローン。私は厳密に言えば、一人目のサーヴァントです。それに――――」

 

 つ、と神父の眼がノインに向く。そこの少年をサーヴァントに加えるのか、と言いたげだった。

 ルーラーはその視線を避けるようにノインの前に立ち、旗の穂先を真っ直ぐに向けた。

 

「何が目的なのです。―――――ルーラー、()()()()()()

 

 ルーラーは彼のクラスと真名を明かす。

 真名よりも、サーヴァントたちは彼のクラスに驚いた。聖杯大戦のルーラーは既にジャンヌ・ダルクがいる。であるならば、彼の存在はあり得ないはずなのだ。

 

「一人目……なるほど。貴方は第三次聖杯戦争のルーラーというわけですね」

「その通りです。そして今、私は“赤”のマスターでもあります」

 

 厳しい調子の“黒”のアーチャーの言葉にもシロウは穏やかな表情を崩さなかった。

 崩さないままシロウはルーラーを見やる。

 

「私が何を考えているのか、と言いましたね。それにはお答えしましょう。―――――我が望みとは、つまり全人類の救済だよ、ジャンヌ・ダルク」

「何を……言っているのですか」

 

 銀の穂先が揺れた。

 夢物語のような願いを、一点の曇りもなく告げる彼にルーラーは動揺する。

 だがそれも一瞬のこと。彼女は毅然としてシロウを睨み据えた。

 

「そのために聖杯を欲すると?」

「ええ」

 

 すべての人類を救済する。そのために聖杯が必要なのだと、シロウは告げた。

 狂人の世迷い言だと切って捨てられない、鋼よりも硬い意志と真っ直ぐな想いがそこにはある。

 

「ならば神父、我らのマスターはどうしたのだ?」

 

 射殺しそうな眼で“赤”のアーチャーが問い、答える前にシロウの横に黒衣の女帝が現れた。

 

「貴様らの元マスターならば、生きてこの庭園の何処かにはおるさ。人の形は保たせている故な」

「……そうか」

 

 アーチャーは呟くと同時に、シロウとアサシンの心臓へ向けて二本の矢を放つ。だがそれは、アサシンの展開した魚鱗の盾と、“赤”のランサーによって防がれた。

 

「ランサー!お前はこいつをマスターだと認めるのか?」

 

 腹立たしげに叫んだライダーに、矢を掴んだランサーは頭を振った。

 

「オレとてマスター替えを認めた訳ではない。だが問い質すべき事実を聞かぬまま首を獲るのは早計だろう」

 

 冷静なその言い方に、激情を冷まされたかのようにライダーとアーチャーは引いた。

 だが彼らの視線は未だ厳しく、シロウとアサシンに注がれている。それをものともせず、シロウはルーラーと“黒”のアーチャー、キャスターを見た。

 

「さて。―――――貴方がたにはここで滅んでいただきます。特に“黒”のアーチャー。貴方はランサーとダーニックが斃れた今、“黒”の支柱となりうる存在でしょう。それにルーラー、貴女は必ず我が望みを阻もうとする。故に見逃せません」

 

 そこまでを言い切り、シロウは“黒”のキャスターを見やった。

 

「ですが、アヴィケブロン。私としては貴方に降伏を勧めたい。いえ……というより、こちらと手を組まないかという勧誘ですね」

「おや、僕にかい?」

「ええ。私の予想が確かならば、貴方の望みと私の望みは重なり合う事なく達成されます。逆にそちらの側にい続けたとしても、貴方は()()()()()を得て、己が望みに手が届くと思いますか?」

 

 “黒”のキャスターの動きが止まった。

 仮面に覆われた彼の顔が、ダーニックと、そしてノインの方を向いた。

 

「キャスター、まさか……」

 

 “黒”のアーチャーはキャスターを見る。ゴーレム使いは肩を竦めた。彼はただ軽く前へ歩み、シロウへ手を差し出した。

 

「君の提案を受け入れよう。“赤”のマスター」

 

 シロウは微笑み、キャスターはその手を取って“黒”のアーチャーを見た。

 

「そういう事だ。僕はこちら側に付く。僕の願望は、そちらのやり方では残念ながら達成できそうにないようだからな」

「―――――では、君は我々の敵になったということだな」

 

 冷たい声と共にアーチャーの矢がキャスターへ向けて放たれるが、それは“赤”のアサシンの魔術によって逸らされ、庭園の天井を破壊するに留まった。

 恐らくいくら撃とうが同じことだ。アサシンの魔術だけでなく、ランサーの槍もシロウを守るように構えられている。

 “黒”のアーチャーもルーラーも、再契約が成されるのを見ることしかできない。

 ロシェ・フレイン・ユグドミレニアとの契約をあっさりと破棄し、シロウとの契約を果たしたキャスターは彼らに向き直った。

 

「キャスター、早速ですが彼らを包囲して下さい。それと―――――あのデミ・サーヴァントは貴方が利用して構いません」

「了解した」

 

 言うが速いか、キャスターは指を振るう。壁の一部を用いて起動したゴーレムが瞬時に立ち上がり、ノインの前に立っているルーラーへ向けて拳を振るった。

 

「ッ!?」

 

 彼女は咄嗟に危なげなく跳んで躱す。しかし、それで生じた隙に別のゴーレムがノインを掴み上げた。

 

「ノイン!」

 

 “黒”のアーチャーがゴーレムへ向けて矢を放つが、新たなゴーレムが立ち上がり身を呈してその矢を防ぐ。

 ノインを荷物のように掴んだままゴーレムは場から高速で立ち去り、後を追おうとしたルーラーたちの前には何十体ものゴーレムによる壁と“赤”のアサシンの展開した大量の魔術式が立ち塞がった。

 

「先程も言いましたように―――――貴方がたにはここで滅んでいただきます。アーチャーとライダーは……」

 

 言いかけ、シロウは苦々しい顔をしている彼らに気づく。“黒”を助けることもしないが、さりとてシロウに進んで協力するつもりはないと彼らの眼が言っていた。

 

「ランサー、貴方はどうです?」

「ここで討つべき敵ではある。だが神父、それは敵わん」

 

 “黒”のアーチャーとルーラーを見ることなく、ランサーは広間の奥を見ている。

 

 赤雷が広間へと飛び込んで来たのは、正にそのときだった。

 大剣を持った金髪の少女―――――“赤”のセイバーはただ一太刀でゴーレムを両断。“赤”のランサーの槍による一撃を防ぐと、不敵に笑った。

 

「セイバー、貴様、我らを裏切る気か!」

「ハッ、どの口がほざきやがるこの毒婦が!オレのマスターの命を狙った時点で、手前らはまとめてオレの敵なんだよ!」

 

 セイバー、モードレッドは再び赤雷を迸らせる。それに合わせるかのように、彼女の背後から煙幕がいくつも投げ入れられ、広間に煙を撒き散らした。

 

「ええい、鬱陶しい!」

 

 女帝の腕の一振りで煙幕は払われるが、その頃にはルーラー、アーチャー、そしてセイバーの姿は掻き消えていた。

 

「……僕が行こう。何れにしろ、宝具を起動させねばならないからな」

 

 真っ先に動いたのは“黒”のキャスターである。

 彼はダーニックの側に無造作に転がっているノインの令呪である書物を拾う。そのままゴーレムに自らを担がせると、その場から姿を消した。

 だが彼は、白兵戦能力の最も低いキャスターである。

 

「おい、キャスター単騎を行かせてよかったのかよ」

「言って止まるものではありません。彼の望みは彼の祈りから来るもの。それを証明するために動いたのでしょう」

 

 ライダーの問い掛けに謎掛けのような口調でシロウは答え、キャスターの去った方向に一瞥をくれる。そして、眼を背けると床に転がる一つの遺体に歩み寄った。

 ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアと、かつて呼ばれていた男は、物言わぬ骸となっていた。

 心臓があったところには風穴が開き、驚愕と憤怒が奇妙なまでに若々しい顔に張り付いて、凄まじい形相を作っている。

 彼の傍らには令呪の刻まれた彼自身の手首と、刃に血の付いた短剣が転がっていた。

 持ち主が死んだ故か令呪は消え失せ、短剣も魔力の粒子へ還った。

 

「……」

 

 シロウは無言でダーニックの瞼を閉じると、立ち上がった。

 

「“黒”のランサーにならともかく、デミ・サーヴァントに叛逆されるとは愚かなマスターよな。そ奴、第三次でお前を出し抜いた者であろうに」

 

 アサシンの皮肉気な言い方に、シロウは苦笑する。

 確かにこれは彼にとって予想外でもあったのだ。デミ・サーヴァントが叛逆したことも、ダーニックがここで殺されたことも。どちらも同じほど予想に反していた。

 それでも予想外を成したデミ・サーヴァントの少年は、キャスターの願いが叶えば生命を落とすだろう。だから、シロウは彼から無理矢理にでも思考を逸した。

 殺気を収める気のないライダーとアーチャー、感情が全く読み取れない無表情のランサーへ、彼は超然とした笑みを浮かべてみせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――はてさて。

 

 城へ戻ったものの、一体どうしようかと“黒”のライダーは思考していた。

 バーサーカーと共に城の守りを受け持てという話だったが、竜牙兵などは既にいない。全戦力を庭園へ集結させたのだろう。

 それなら自分も庭園に行きたいと言ったのだが、令呪をちらつかせるマスターからの許可が降りなかった。

 仕方無し、ライダーは“赤”のバーサーカーによって破壊されてしまった城塞の確認に行くと、これはもうひどい有様だった。

 ホムンクルスたちを下敷きにして、岩壁が倒れている。城の壁面は巨大な槌で殴られたように一部抉られていたり、融けている部分まであった。

 瓦礫を退かしたり引いたりして、ライダーは彼らを引っ張り出しては別のホムンクルスに渡す。

 もう息の絶えてしまったホムンクルスも、まだ息のあるホムンクルスも皆ライダーは、仲間の所へ連れて行った。

 彼らは感情の薄い顔のまま、礼を言っては仲間を連れて行く。その顔を見ていると、やっぱり彼らにはジークと同じ面影があるなあとライダーは思う。

 既にライダーも魔力をホムンクルスから吸い取っている。そんな自分が彼らの救命など今更な話だが、かと言って見捨てられる訳もない。

 地下の魔力供給槽とてこれでは無事かは分からないなぁ、とライダーは顔を顰めた。

 

『ライダー、どこに居てもいいわ。今すぐに地下に来なさい』

 

 そんなときに入ったのは、マスターのセレニケからの念話である。

 

「へ?ちょ、マスター?」

 

 何がどうして、と聞く暇もなく念話は断ち切られる。

 嫌な感じがすると思いつつ、城塞地下へライダーは駆け付ける。

 するとそこには、マスターたちとホムンクルスたちとが睨み合っていた。マスターたちの先頭にはフィオレ、ホムンクルスたちを庇うようにして立つのはジークと斧槍を持った少女型のホムンクルスだった。

 ライダーは彼らのちょうど狭間に駆け込んでしまったのだ。

 

「あー、誰か教えてくれると有り難いんだけどさ、これどういう状況なのかなぁ?」 

 

 努めて能天気な声を出す。流石にライダーとて状況が不味いことは分かっていた。

 

「……ホムンクルスたちが自由になりたいんだとさ」

 

 答えたのは“黒”のバーサーカーを連れているカウレスだった。

 ゴルドは苦虫を噛み潰したような顔をしていて、フィオレの表情は硬い。カウレスとバーサーカーは困惑し、ロシェは鬱陶しげで、セレニケは―――――不気味なことに―――――微笑んでいた。

 自分のマスターが獲物を前にしたときと同じ顔していることにライダーは嫌な予感しかしない。

 前にセレニケがあの顔を見せたのは、ノインを拷問にかけようとするときだったから尚更だ。

 

「馬鹿げている!お前……お前はライダーとデミ・アーチャーの助けた魔力供給用のホムンクルスだろうが!それに貴様は……戦闘用ホムンクルスだろう!持ち場に戻らんか!」

「……戻った所で、事態は既に俺たちの手を離れている。このままでは無為に死ぬだけだ。ならば、少しでも同胞を生き延びさせたいのだ。ユグドミレニアの魔術師」

 

 ゴルドと向き合っているジークは一歩も引かない。その後ろではホムンクルスたちが、供給槽から仲間たちを引っ張り出していた。

 

「生き延びて、それでどうするのです、ホムンクルス。貴方がたには寿命など残されていない。それに、私たちはまだ聖杯大戦を諦めた訳ではありません」

 

 フィオレは冷静に言い、背中に彼女の礼装である接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)を展開した。

 

「そうだよ。特に君、先生が求めてたホムンクルスだろ?」

 

 ジークを指差したあと、ロシェは呪文を唱えた。廊下からゴーレムたちの駆動音が聞こえ始め、ホムンクルスたちの顔が凍った。

 

「君が逃げたせいでセイバーが死んで、こっちは大わらわだったんだよ。まぁ、ゴーレムの素体候補は君とあのデミで二つあったからマシだったけどさ」

 

 あっけらかんと告げるロシェに、ジークの顔が始めて歪んだ。自分だけでなくノインも素体の候補だということを彼は今まで知らなかった。

 そして、自分が逃げれば必然素体は一つに絞られたはずだ。その意味が分かって、ジークは青褪めた。

 

「でもあっちはダーニックが使うっていうんだから、困ってたんだよ。でも君が戻ったって言うんならちょうど良い。逃がす訳にはいかないよ」

「……ちょっと待ってくれ、キャスターのマスター。今なんて言ったんだい?」

 

 流石にライダーにも今の言葉は聞き過ごせなかった。今の言い方では、ダーニックがノインを使い潰すつもりにしか聞こえない。

 ロシェは首を傾げて告げた。

 

「知らなかったのかい?ダーニックはあのデミをここで使い潰すんだろ。だから令呪だって持って行ったんだし」

 

 君が宝具であいつを庭園に連れて行ったんだから知っていると思っていたのに、とロシェは言った。

 あまりのことに、ライダーは立ち尽くす。

 ライダーは無論そんなことは知らない。ノインだって知らないだろう。

 それに、ノインにその気がなくとも、令呪を使われたらどうなるのか、サーヴァントであるライダーには分かってしまう。

 

「そん……な……」

 

 ライダーは愕然と呟く。その様子を彼のマスターはただ一人、満足げに見ていた。

 こうしてライダーを絶望させるために、彼女はここまで何もして来なかった。要するに、彼女なりに耐えていたのだ。

 セイバーの心臓を与えられたホムンクルスは忌々しいが、彼と同じようにライダーと親しくしていた上にセレニケの拷問を受けても平気な顔をしているデミ・サーヴァントは、彼女にとっては更に憎かったのだ。

 自分の手で友人を死地に追いやってしまったと悔いる英霊の苦悩は、セレニケにはただの喜びでしかない。

 フィオレ、カウレスには彼らの会話の意味のすべては分からない。ただ同族とは言え血腥いセレニケの笑みは、姉弟にとっても不吉に見えた。

 しかし、それとホムンクルスを自由にすることとは話が別だ。

 地下室にぴりぴりとした緊張が走ったときだ。

 

『ライダー!聞こえていますか!』

「わひゃっ!?」

 

 唐突に頭が割れそうな勢いの念話が響き、ライダーは耳を押さえた。同じように、フィオレも耳に手を当ててる。

 

「る、ルーラー?」

『ああ、良かった!繋がりました!……良いですか、前置き抜きで言います。よく聞いてください』

 

 裁定者は自分自身を落ち着かせるように言葉を切り、端的に告げた。

 

『“黒”のランサーとダーニックは倒れました。そして……もう一人のルーラーが現れたことで聖杯大戦の構図が崩れています。……更に、“黒”のキャスターは貴女がたを裏切り、宝具でそちらを攻撃するつもりです』

 

 そんな馬鹿な話がと、言い返せない迫力でルーラーは続ける。

 

『それに、キャスターはノイン君を宝具に使うつもりで連れて行きました。貴女の宝具で追えるのであれば、追ってください!キャスターの所在は私が伝えます!』

「……分かった!」

 

 ともあれ、ライダーは最後の部分を聞いた途端に前半の流れを瞬時に忘れた。

 まだノインは助けられるのだ。

 フィオレもアーチャーから念話を受けたらしく、顔を蒼白にしていた。

 

「……全員、一旦ここを退避します。ホムンクルスたちも逃げなさい。ライダー、あなたは行ってください。Aランクの対軍宝具を発動させる訳には行きません」

「了解!」

 

 ライダーは踵を返して走り出す。マスターの方には全く視線をやらなかった。

 中庭に飛び出し、彼はヒポグリフを召喚した。疲弊したままの連続召喚にヒポグリフが唸るが、ライダーはその背中に飛び乗った。

 

「……お願いだよ、頑張ってくれ!これが済んだら、好きなだけ休んでいいからさ!」

 

 ライダーが首を叩くと、ヒポグリフがようやく前を向いて、地を蹴った。翼持つ幻獣が空に舞い上がり、ライダーの桃色の髪が夜風に靡いた。

 ルーラーに教えられた場所へ、夜闇を切って飛ぶ流星のように幻獣は駆けていった。

 

 

 

 

 




ロシェに悪意はない。一切。
自分と尊敬する師の願いにただ忠実なだけ。

そして多分ヒポグリフが一番働かされている。

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