東方花憑伝 作:残念美人布教教会関東支部支部長斎藤宰慈
目の前には楓の木々に結び付く紅葉の大群に、真上には星々が輝き煌めく夜の大空。正しく絶景ね。
「偶々立ち寄った山奥にこんな隠れ里があるなんて思わなかったわ。紫、湯加減は大丈夫かしら?」
「はい! 気持ち良くて寝ちゃいそうなくらいです」
「よかったわね。………厚待遇なのは良いのだけれど、良からぬことを考えてなければ最高だったわね」
まったく、私を出し抜こうなんて百年早いわ。まあ、純粋な善意ほど恐ろしいモノは無いから、こんな風に策を弄して利用しようとしてくる方が対処しやすいから、問題ないわ。
それよりも、あのバカは何をやってるのかしら?
温泉に入るついでに潜水訓練とは、鍛練馬鹿にも程度が有ると思うのだけれど。
「七花、鍛練も程々になさい。紫が真似たらあんたの刀を圧し折るわよ!」
「勘弁してくれよ、優香。ああ、今は幽香だっけか? まあいいや。………まあ、温泉や四季折々の風景を楽しむのも嫌いじゃあないけどさ。やっぱり、鍛練とか飯を食うのとかが好きなんだよ。一つ追加で言っておけば、幽香のことも案外嫌いじゃないからな。むしろ好きな方だぞ」
「………………。
まあ、これからご飯くらいなら作ってあげても良いわ。ただし、鍛練も程々にすると約束するなら、だけれど。どうかしら?」
「仕方無いな。まあ、幽香の飯は旨いから鍛練くらい少しは控えても良いけど、この時代で前と同じように作れるのか?」
「問題ないわ。スキマっていうのを習得したお陰で、倉庫代わりの空間が大量に増えたから、ソコに暇潰しで造った料理器具や香辛料、食材とか全て揃えてあるわ。
それと、七花が好きそうな曰く付きの刀剣も有るから、今度貴方に渡すわね」
「ん、期待してるわ。それと、ありがとな」
「構わないわ。貴方はさっさと収集して役目を終えて、早く七実さんの元へ無事に帰ってあげなさい。
最近、この世界に彼女の気が出現したわ。だから、役目を終えて仲直りなさい。いいわね?」
「はいはい。わかってるって」
七花が変わった刀を収集してる理由は、彼の家、御山の宿命を彼の姉、御山七実の代わりにその役目を無理矢理、彼女と代わったというのがコトの真相だけれど、私はその手伝いをたまにすることがあったのよね。
出張先に可笑しな気配が在ったら、原因を突き止めて対処する。そのときの原因が刀なら、七花に連絡して刀を引き渡す。
私としてはあの
彼女を宥めるのに何れだけ時間が掛かったことか、彼はわかっていないのよね。まあ、態々言うつもりはないけれど、そんな風に適当に流されると癪に障るわね。
「ねぇ、七花」
「なん───ぐぼぁ!?」
振り向き様に盥にたっぷりと試験品のお酒を注いで顔目掛けてぶん投げてやったけど、案外面白いわね。
ぐぼぁ。なんて、普段じゃ聞けない七花の奇声を聞けただけで満足よ。
「その液体は、鬼殺しってお酒なのよ。一口呑むだけで鬼がベロンベロンに酔い潰れることからその名前を名付けたわ。まあ、まだ検証してないから七花に試してみようかと思ったのよ、今。感想聞かせてもらえるかしら?」
「………幽香、ソレ」
「そんな手には乗らないわ………よォ!? 紫!!?」
思わず声が裏返るなんて珍しい体験したとか、七花のジト目にゾクッとしたとか、そんなこと今はどうでもいいの。
今問題なのは、紫が鬼殺しで全身の筋肉が弛緩して人様に見せることの出来ない状態になってて、七花がソレを見たってことよ。
「────七花。今すぐに目を抉り奪られるか、今すぐに温泉の底と口付けするか、選びなさい」
「……………」プクプクプク