闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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第73話

「っ!?」

 

 恐ろしい『何か』の気配を感じ取り、僕は跳ねるように起きた。急いで寝間着を脱いで、装備に身を固める。外ではオラリオ中に犬の遠吠えが響き、猫と鳥が狂ったように鳴きわめいている。それに混じって、人が慌ただしく走る音も聞こえる。

 自室を飛び出すと、僕は真っ先に神様の部屋へと向かった。

 

「神様!」

「ベル君!」

 

 扉を開けようとしたところで、神様が部屋から飛び出してきた。急いでいたのか髪は結わず、髪留めを手に持ったまま。

 

「ベル様!」

「リリ!皆!」

 

 少し遅れて、リリ達が神様の部屋に向かって走ってきた。皆、僕と同じように装備に身を固めていた。

 いったい何が起きているのか、これからどう動くのか。そう話し合おうと口を開きかけたところで──。

 

『起きろ!【ヘスティア・ファミリア】!』

 

 その言葉の後に扉が砕け散り、誰かが本拠(ホーム)の玄関に足を踏み入れる。

 

「ベ、ベート・ローガ……さん」

 

 声の主にして扉を蹴りで粉砕したのは、【ロキ・ファミリア】所属の冒険者、【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガさんだった。

 

「フィンから伝言だ。『扉の修理代は【ロキ・ファミリア(こっち)】で払う。とにかく急いで『ダイダロス通り』に向かってくれ』だとよ」

 

 ベートさんはそれだけ伝えると、玄関を飛び出して『ダイダロス通り』方面に走り出していった。耳をすませば、ティオナさんやティオネさん、アイズさんといった【ロキ・ファミリア】の冒険者達が、他の冒険者に『ダイダロス通り』に向かうよう呼びかけている。もしかしてフィンさん達は、『何か』の気配の位置まで特定したのか!?……いや、今は感嘆している場合じゃない。

 

「神様、行ってきます!」

「気を付けて!」

 

 神様に一声かけると僕達は本拠(ホーム)を飛び出し、『ダイダロス通り』へと向かった。

 

「ベル君!待って!」

「エイナさん!?」

 

 道中で呼ばれたので足を止め、声のした方を向くと、こちらに向かって駆けよってくるエイナさんの姿が。全力で走ってきたのか、足を止めると膝に手を置いて前屈みになり、肩で大きく呼吸を繰り返す。

 

「リリ、皆と先に行ってて!後で追いつくから!」

「はい!皆さん、行きましょう!」

 

 エイナさんの呼吸が整うまで待っている間、リリ達は先に向かわせて僕は残った。

 少し待つと、エイナさんが顔を上げて訊ねる。

 

「上層部からの命令で、オラリオ中の神々を『祈禱の間』に避難させることになったの。ヘスティア様は何処に?」

 

 『祈祷の間』。そこは、ダンジョンから地上へモンスターが進出するのを防ぐため、ギルドの主神であるウラノス様が祈りを捧げる部屋。『ダイダロス通り』に『異端児(ゼノス)』達が進出してしまったあの騒動の時は住民を避難させていたけど、神々のことは何もせず、放置だった。……つまり、あの気配の主は、それだけ危険な存在であるということ。

 

本拠(ホーム)にいます」

「ありがとう」

 

 エイナさんは一礼すると、急いで本拠(ホーム)へ向かって駆けだした。

 

「……っ!」

 

 エイナさんが神様の手を取って本拠(ホーム)から出てきたのを確認した僕は、回れ右をして急ぎ『ダイダロス通り』へと向かった。

 

 

 

 

 『ダイダロス通り』。6つある人造迷宮(クノッソス)の入口の内、北の入口。

 

『……』

 

 最も近くに拠点があるため、誰よりも早く駆けつけた【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦(バーベラ)達が、武器を構えて入口の先を見つめる。

 

『っ!?』

 

 微かな物音に反応して、戦闘娼婦(バーベラ)達の表情が険しくなる。

 時間とともに大きくなるそれは足音と、杖で地面を突く音であった。

 

「……」

 

 姿を現したのは、白い法衣(ローブ)を纏った黒髪の女性。右手に握っているのは、節くれだった古木で作られた杖。耳の形と背丈から、恐らくヒューマンなのだろう。だが、纏う気配は間違いなく人外のもの。モンスターとも、精霊とも、神とも違う、禍々しく悍ましい気配。

 

「……空、太陽……」

 

 戦闘娼婦(バーベラ)達が恐怖に膝を震わせながらも、じりじりと距離を詰めている。黒髪の女性は──カアスはそれを気にも留めず顔を上げ、自らの視界を覆う程の長髪の隙間から空を見上げる。

 

「……グウィン……!」

 

 雲一つない青空と、視界の端から地上を照らす太陽の光を見たカアスは、苛立ちに満ちた声音で古い神の名を呟き、歯軋りをする。

 

「っ!」

 

 戦闘娼婦(バーベラ)達の一人、フリュネ・ジャミールが、斧を振りかざして襲い掛かる。

 フリュネの斧が、女性の頭頂部目掛けて振り下ろされる。グレイという怪物(ほんもの)との遭遇により心が折れ、【ファミリア】の自室に籠っていたとはいえLv.5。彼女の膂力をもってすれば、防御のために翳された杖もろとも両断する……はずだった。

 

「(なっ!?)」

 

 カアスの掲げた杖が、金属同士がぶつかったような音を発した。フリュネの太い腕と重い斧による一撃を、相手は細い腕と杖で防いだ。

 

「ぐぎぎぎ……!」

 

 両手で斧の柄を握りしめ、歯を食いしばり、圧し切ろうと体重をかける。しかし、カアスの細腕は微動だにしない。

 

「ふん」

「ぐげぇっ!?」

 

 カアスが軽く杖で払うと、フリュネは壁に叩きつけられてうめき声を上げる。壁に罅が入り、破片が地面に散らばる。

 

「【ヘル・カイオス】!」

 

 フリュネに視線が集中している隙に詠唱を済ませていたアイシャが、『魔法』を解放した。

 地に叩きつけられた大朴刀より鮫の背びれを彷彿させる巨大な斬撃が放たれ、カアスに襲い掛かる。

 

「ちっ……!」

 

 斬撃は、カアスが掲げた左手によって防がれた。掌には傷一つついておらず、衝撃で後退もせず、微動だにしていなかった。

 表情が傷みに歪んでいる気配もないことを察知したアイシャは、舌打ちをして相手を睨みつける。

 

「はぁ……」

 

 うんざりしたような表情でため息を漏らしたカアスが地面を杖で突くと、地震と共に背後の建物が崩れ落ち、巨大な穴が背後に作り出された。穴は墨汁をなみなみと注いだように暗闇で満たされていて、底が見えない。

 続いて、カアスの肉体も変化し始めた。髪の毛が逆立ち、黄変し、収束して鹿の角のようになる。生肉を捏ね、枯れ枝を折るような音とともに肉体が変色、変形していく。特に左腕の変化は著しく、カアス自身の体躯よりも長大になった。

 

「やれ」

 

 肉体の変形が終わったカアスが一言告げると暗闇が波打ち、黒い水飛沫を上げてダークレイスの大軍が姿を現わした。

 石畳に足をつけたダークレイス達は冒険者達と避難の終わっていない住民を視界に捉えると、嬉しそうに歯をカチカチと鳴らす。

 

『シャアアアッ!』

『うおおおおっ!』

 

 ダークレイスの大軍が雄叫びをあげながら突撃すると、戦闘娼婦(バーベラ)達も武器を構えて迎撃のために突撃する。そこに駆けつけたオラリオ中の冒険者達が加わり、瞬く間にダイダロス通りは乱戦状態となった。

 

『シャアアアッ!』

「きゃああっ!」

「くっ!早く逃げろ!」

 

 ダークレイス達は冒険者達の攻撃など意に介さず、避難中の住民を執拗に狙う。【ガネーシャ・ファミリア】をはじめとした冒険者達は、住民の楯となるべく応戦する。

 

「ぐあああっ!」

 

 どこかで冒険者がダークレイスの凶刃に斬り裂かれ、辺りに鮮血をまき散らす。幸い急所は外れていたため、適切な治療を施せば治る程度の傷ではあった。しかし、この乱戦状態でそのようなことをする余裕などなく、負傷者が増えた分だけ他の冒険者達にかかる負担は増えていく。……そして、これこそがダークレイス達の狙いであった。原理は不明だが不死身であるダークレイスは、自らの損傷を気にせず戦える。

 

「デュナシャンドラ、エレナ、ナドラ」

 

 カアスが呟くと、黒い液体から2体の異形と一人の女性、デュナシャンドラとエレナ、ナドラが宿る大剣を握ったレヴィスが姿を現わした。

 

「行くぞ」

 

 デュナシャンドラ達を連れたカアスは、乱戦状態の中を堂々と進んでいく。

 オラリオ北西。オラリオ中の神々が避難している、『ギルド』へ向かって。

 

 

 

 

 一方、ギルド地下『祈禱の間』。

 

「おいおいおい。なんだよこれ……!」

 

 地上の様子を見るために設置された無数の『鏡』に映る光景に、避難してきた神々のうちの誰かが戦慄する。

 『鏡』の向こう、即ち地上ではダークレイス達が避難中の住民を襲い、冒険者達が庇うように戦っている。

 『最古の物語(オールドテイル)』によれば、火の時代には復活する骸骨(スケルトン)が存在したという。それは一度殺しても復活するけど、祝福された武器を使うか、復活したところをもう一度殺せば完全に死ぬらしい。若しくは、骸骨(スケルトン)を蘇らせる術師を見つけ出して殺し、蘇生そのものを封じるか。ダークレイスはそれをなぞらえるように、殺しても復活して住民と冒険者達を襲っている。違いがあるとすれば、ダークレイス達には復活する回数に制限が無いこと。

 

「こいつは外れだ!」

「こいつもだ!」

 

 そんな状況で闇雲にダークレイスを殺すよりはマシだと判断したのか、ダークレイスが復活する度に冒険者達は周囲の味方に当たり外れの報告を行っている。おそらく、復活する個体は術師ではないから『外れ』、復活しない個体は術師だから『当たり』ということなんだろう。

 

「(だけど、これじゃジリ貧だ。いつか冒険者達の体力が尽きる!)」

 

 ダークレイス達に加えて、エレナが召喚する骸骨(スケルトン)も加わり、数的不利がどんどん広がっていく。幸い、一度殺せば復活こそしていないようだけど、巧みな小盾捌き(パリィ)で攻撃を悉く受け流して反撃するから、倒すのに手間がかかっている。

 デュナシャンドラの周囲に出現した黒い球体が毒気のようなものを発しているのか、冒険者達の顔色が段々悪化している。これは一発小突けば破壊できるけど、再出現の隙を埋めるようにダークレイス達が暴れている。

 大剣を軽々と振り回す紅髪の女性。彼女はエレナとデュナシャンドラのように厄介な攻撃はしていないけど、純粋な暴力(パワー)で冒険者達を蹂躙している。重厚な鎧に身を固めた冒険者が、木の葉のように吹き飛ばされている。

 マヌス。いや、マヌスの皮を被ったカアスは、その杖を触媒に使用する魔術と異形の左腕を用いた打撃を織り交ぜて、冒険者達を蹴散らしている。

 

「(何か、何か手はないのか……?)」

 

 冒険者達の体力が尽き、抵抗する術を失えば、カアス達はボク達がいる『祈禱の間』に乗り込んでくる。ギルドの職員達が机や椅子で簡易のバリケードを設置していたけど、圧倒的な物量で破られるのは想像に難くない。ある神は恐怖に震え、ある神が眷属(こども)達の安否を心配する中、ボクはこの状況を打破する手立てを必死に考えていた。

 

「(っ!?)」

 

 『鏡』のうちの一つ、ちょうどレフィーヤ君が戦っている区画を映していた『鏡』をふと見ると、レフィーヤ君と目が合った。続いて、彼女の視線が一瞬だけ『ダイダロス通り』に、カアス達が姿を現わした辺りを向いた。もしや、あそこに向かおうと伝えたのか?

 なるほど、地上で術師が見つからないなら、あの大穴に潜んでいると考えるのは当然だ。だけど、それは凄まじくリスクが高い。仮にあの大穴の中に術師がいたとして、何も対策を施していないわけがない。地上には出ていないダークレイス達が配置されているか、数の暴力にすり潰されて亡者と化したグレイ君が放置されているか。

 ……それでも。

 

「やるしか、ない」

 

 ここでやらないとオラリオが、世界が滅ぶ。

 

「アルヴィナ!シャラゴア!いるなら出てきてくれ!」

 

 拳を握りしめて覚悟を決めたボクがそう声をかけると、周りの神々の視線が突き刺さる。

 

「呼んだかしら?」

 

 ボクが呼ぶのを待っていたかのように、アルヴィナとシャラゴアがボクの目の前に現れた。

 

「アルトリウスが深淵を歩む時に着けたという指輪は、あるかい?」

「ええ。ちょうど、2つあるわよ」

 

 アルヴィナが口を開けると、舌には2つの指輪が乗せられていた。2つともボクが装備し、そのうちの片方は地上でレフィーヤ君に渡す。

 

「【人の像】は?」

「勿論」

 

 今度はシャラゴアが口を開けると、萎びた瓢箪のようなアイテムが舌に乗せられていた。

 これで、必要な道具(アイテム)は揃った。指輪を嵌めればボク達は深淵には飲まれないし、【人の像】があればグレイ君を亡者から戻せる。そして、あの大穴にいるかもしれない術師を討伐して地上での戦闘に参加する。

 

「ロキ」

 

 アルヴィナの背に跨る前に、ボクはロキの方を向く。

 

「嫌や」

「ま、まだ何も言っていないだろ!?」

 

 ボクの考えを読んだのか、ロキがきっぱりと断る。

 

「今はいがみ合っている場合じゃないんだ!ボクに万が一があった時は」

「ちゃう。これは信頼や」

 

 ロキは目を軽く開き、ボクを見下ろして言った。

 

「自分は自分の眷属(こども)達を置いて逝くなんてヘマはせん。分かったら、とっととおとんを連れ戻してくるんや」

「ロキ……」

 

 ロキの言葉がボクを鼓舞し、ボクの迷いを吹き飛ばした。

 

「行ってくる!」

 

 ボクがアルヴィナの背に跨り、瞬きを一つすると、いつの間にかギルドの外に出ていた。

 

「神ヘスティア!?」

「はあ!?」

「どうしてここに!?」

 

 周りの冒険者達が驚愕に目を見開く中、レフィーヤ君は待っていたかのように無言で手を出す。それも、ボクが手を伸ばせばちょうど人差し指に指輪を嵌められる位置に。

 

「行くよ!」

「はい!」

 

 レフィーヤ君に指輪を装備させると、アルヴィナの背に跨ったボクは乱戦の真っ只中を駆け抜ける。その後ろを、レフィーヤ君はぴったりと追ってくる。

 

『シャアアアッ!』

『させるかぁ!』

 

 ダークレイス達がそれを妨害しようとするけど、それを周囲の冒険者達が阻む。中には、傷だらけの体に鞭を打って肉の楯となった冒険者がいた。

 隙間を縫うようにアルヴィナが走っていると、大穴は目と鼻の先まできた。

 

「「行くわよ」」

「ああ!」

「はい!」

 

 アルヴィナとシャラゴアの言葉を合図に、ボク達は大穴へ……深淵へと飛び込んだ。

 

 

 

 

「(これが、深淵……)」

 

 見渡す限りの真っ暗闇で、何処まで広がっているのか分からない空間。これを見越していたのか、レフィーヤ君が腰に下げていた角灯(ランタン)が唯一の光源だ。足元も真っ暗で、アルヴィナ達は地面に足をつけているのではなく、何か不思議な力で浮遊しているのかと考えてしまうほど。この空間の何処かに、ダークレイス達を蘇生させている術師と、その護衛が……。

 

「うわっ!?」

 

 アルヴィナが急に飛び跳ねたと思うと、さっきまでボクがいたところに何かが振り下ろされた。

 

「うぅゥウぅぅぅぅ……」

 

 それは、螺旋を描く赤熱した刀身と柄の剣。赤熱しているのは剣だけでなく、その剣の持ち主の鎧もだった。本来ならボクの瞳のように青いサーコートは、一転して炎を思わせる赤に変色。炉の中に投げ込んだように煤け、歪んだ鎧。兜は髑髏を思わせる造形に変化し、後頭部には異形の王冠が溶接されている。

 

「グレイ君……」

「……っ!」

 

 亡者へと成り果ててしまったグレイ君を見てボクは悲しみからぼそりと呟き、レフィーヤ君は涙を堪えるようにぐっと歯を食いしばっている。

 

「おぉォオぉぉぉぉ……!」

 

 ボクの呟きはグレイ君の耳に届かず、グレイ君は剣を振り回しながらボクに向かって突進してきた。

 

「しっかり掴まってなさい!」

 

 レフィーヤ君には目もくれず、グレイ君はボクに一心不乱に襲い掛かる。ソウルを欲する亡者としての本能から、ボクの有する膨大なソウルを狙っているようだ。アルヴィナの忠告に従い、彼女の毛をがっちりと掴みながらそんなことを考える。

 叩きつけが、薙ぎ払いが、刺突が打撃が、暴風雨のようにボク達に襲い掛かる。ちらりとレフィーヤ君を見ると、使用した【魔法】をグレイ君が回避してボクに命中する危険性(リスク)があるからか、攻めあぐねている。

 

「ダメだ!レフィーヤ君!」

 

 そのレフィーヤ君が、ボクを庇うように割って入る。

 

「ぐぅっ……!」

 

 グレイ君の刺突が、レフィーヤ君の脇腹に突き刺さる。刀身にこびりついた血の蒸発する臭いが、彼女の肉と脂を焼く臭いが鼻にへばりつく。

 

「い、ま、です……っ!」

 

 レフィーヤ君が杖を手放してグレイ君の腕を掴み、ボクに声を飛ばす。

 

「(二人の【ステイタス】差を考慮すると、抑えられるのはほぼ一瞬!)」

 

 ボクは【人の像】を握りしめて、アルヴィナの頭を踏み台にしてレフィーヤ君の肩に飛び乗る。

 

「父さん!戻ってきてくれ!」

 

 限界まで腕を伸ばして父さんの眼前に【人の像】を突き出し、叫び声と共に握り潰した。

 

 

 

 

「ここは……?」

 

 気が付けば、俺は灰が降り積もる空間に立っていた。何処までも広がる、広大な空間に。

 

「不死よ」

 

 突如俺の耳に届いた声。低く、威厳のあるこの声音は……!

 

「グウィン王!」

 

 声のした方向、背後を振り返れば、灰の中からグウィン王が姿を現した。刀身が燃え盛る剣を地面に突き刺し、柄頭に手を添えて俺を見つめている。

 

「貴様の旅路は、歩みは、ここで止まるというのか……?」

 

 柄頭に添えた手に力を込めながらグウィン王が問う。

 

『父さん!戻ってくるんだ!』

 

 その直後、聞き慣れた声が、ヘスティアが遠くから聞こえた。

 

『グレイ、さん……!』

 

 次に、弱弱しくも俺の名を呼ぶレフィーヤの声が。

 

「答えよ」

 

 じろり。と、グウィン王が俺を睨みつける。

 

「まだだ!」

 

 グウィン王の問いに、俺はきっぱり否と答える。

 

「まだ終わらない!俺の旅は、俺の呪いが解けて、夫婦共に皺くちゃの老人になって、孫に看取られて安らかに逝くまで終わらない!」

 

 俺の答えを聞くと、満足そうにグウィン王は頷く。

 

「ならば、行くがよい。貴様が志半ばで逝くことは、余が断じて許さぬ」

「ああ!」

 

 グウィン王の言葉を訊いた俺は、彼に背中を向けて駆けだした。

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