受け継がれてゆく魂の絆   作:雷月皆無

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結城友奈の章―開花―
第一話 純潔


 昔々、あるところに勇者がいました。

 勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王を説得するために旅を続けています。

 そしてついに、勇者は魔王の城に辿り着いたのです。

「やっとここまで辿り着いたぞ魔王! もう悪いことはやめるんだ」

「悪いことをやめろ? わしを怖がって悪い者扱いを始めたのは村人たちの方ではないか」

「だからといって嫌がらせはよくない。話し合えば分かるよ」

「話し合えばまた悪者にされるに決まってる!」

「君を悪者になんかにはしない!」

 理想を語る勇者。実体験を基に語る魔王。お互いの主張は平行線のまま交わろうとはしません。

「うぅぅ……この分からず屋め! くらえ、勇者キーック!」

「ええええええええ!? ちょ、おま……それキックじゃないし! てゆーか今話し合おうって」

 業を煮やした勇者は、キックと叫びながら魔王を殴り付けました。

 魔王もこれには困惑の色を隠せません。

「い、言ってもきかないから!」

「こうなったら……! 魔王のテーマ! ミュージック・スタート!!」

 魔王の合図に合わせて、おどろおどろしい音楽が流れ始めると魔王の様子が豹変します。

「わっははははァ! 勇者よ、ここが貴様の墓場だ」

「うわぁー! おのれー、魔王!」

 明らかに調子がよく勢いづいた魔王に、勇者はどうすることもできません。

 その時です。

  がんばれ、がんばれ、と勇者を応援する声が聞こえてくるではありませんか。

 「ぐううう……なんだこれは……。みんなの声援が私を弱らせるぅ~……」

 突然、魔王は苦しみだしました。善い心を捨て去り、悪い心だけで動いている魔王には効果てきめんだったようです。

 魔王とは反対に、みんなの声援を聞いた勇者は体の奥底から力が湧いてくるのを感じました。

「今だっ! 勇者ぁ……パーンチ!!」

「いってええええ!」

 勇者こん身の一撃がさく裂します。勇者の心が、魔王の曇り切った目を覚ますことに成功したのです。

 倒れゆく魔王を抱きとめる勇者はこう言いました。

「これで魔王も分かってくれたよね。もう友達だよ」

「う、ぁぁ…………」

 ……と、いう訳で。みんなのおかげで魔王は改心し、祖国は守られました。

 めでたしめでたし。

 

 このように日々校外活動に青春を燃やしている私達。

 魔王役を演じていたのは、三年生で部長の犬吠埼風先輩。この舞台の脚本家でもあります。

 後輩で部長の妹の樹ちゃん。学年は一年生。お姉さんの風先輩のことが大好きで、今回の音響担当です。

 そして、私の大親友の友奈ちゃん。姓は結城。今回の役どころは勇者。

 最後にこの私、今回の語り部を務めさせて頂いた東郷美森。皆には東郷と呼んで貰っています。

 私達は皆のためになることを勇んで実施する倶楽部。そう、我らは讃州中学勇者部。

 本日は幼稚園で人形劇を行ないました。

 依頼は何時でも承っております。

 

 

「―――であるために、この問の解はこうなります」

 男性教員の説明を交えながら、黒板に力強い白線で数式が書かれていく。

 今は数学の授業中だ。教室に並べられた三十余りの机と椅子。席に着く少年少女たちは教科書とノートを広げて板書をとる。

 その中の一人、犬吠埼風はどこかぼんやりとした眠たげな表情で授業の板書をとり、教科書にマーカーを引いていく。

「……あっ」

 間違った場所にマーカーを引いてしまったことに気付くも、彼女が使っているマーカーは消しゴムでは消せないタイプのもの。

 特段強調する必要のない箇所が蛍光ピンクで激しく自己主張する。

 悪あがきに消しゴムでこするも当然のことながら消えるはずもなく、白い消しカスだけが教科書の上に残り、忌々しい蛍光ピンクは今も健在だ。

 溜息を吐く。やってしまったという思いがあった。だけどそれ以上に、考え事をしながら授業を受けるべきじゃないな、という当たり前の思考もあった。

 自分の机に目を落とす。女子らしいペンケース、広げられている数学の教科書、授業内容と練習問題が書かれたノートに加え、私物のメモ帳。

 メモ帳には、文化祭の出し物と丸で強調された文字の下にいくつもの単語が思いつくままに書かれていた。だがどれも横線での打ち消しが入れられていた。

 風が授業に集中し切れていないその原因は、前日にまで遡る。

 

 幼稚園での劇は大成功に終わり、そして、次の日の放課後。その日の部活動を終えた勇者部の面々はみんなで、うどん屋『かめや』に来ていた。

 かめやは彼女たちが通う讃州中学の近くにあるうどん屋で、安くておいしいと評判だ。

 うどんを啜る彼女たちはもちろん笑顔。

 風も、樹も、友奈も、美森もうどんが大好物なのは言うまでもないことだろう。

「はい、お待ち」

 店員さんが持ってきたのは、風が注文したこの店の名物の肉ぶっかけうどん。

 これでもう三杯目なのだが健啖家の風はそんな気配を微塵も見せない。

「三杯目……」

「うどんは女子力を上げるのよ」

 友奈の呟きも何のその、風はうどんを勢いよく啜り込む。

 ことあるごとに風は女子力と口にするが……その実体は妹の樹にもよく分かってはいない。

「あ! そういえば先輩、話って?」

 部室で話があるとだけ聞いていた。肝心の本人がうどんを食すことに夢中のために、友奈が代表して風に聞く。

「そうそう、今年の文化祭の出し物の相談なんだけど……」

 話を一旦止めた風は、まだ温かいうどんのつゆを一気に飲み干す。

「あ、もう食べた」

「まだ四月なのに?」

 樹が疑問を浮かべる。唯々純粋に何故こんなに早くから文化祭のことを考えるのかと。

「夏休みに入っちゃう前にさ、色々決めておきたいんだよねぇ」

「確かに。常に先手で有事に備えることは大切ですね」

「今年こそ、ですね」

「去年は準備が間に合わなくて何もできなかったんですよね~」

 なるほど、と樹は納得がいった。去年の九月十月、姉は忙しそうだった。去年の文化祭には部活動として何もできなかったから、今年こそは。ということなのだろう。

「ま、今年は猫の手も入ったしぃ」

「私!?」

 風の意味ありげな視線の先にあるのは、彼女が愛すべきたった一人の家族がびっくりしている姿。

「う~ん、折角だし一生の思い出になることがいいよね」

「尚且つ娯楽性が高くて大衆が靡くものでないと」

「えぇ~、でも何したら……」

「それをみんなで考えるのよ。はい、これ宿題。それぞれ考えておくこと」

「は~い」

 綺麗に三人の返事が重なる。

「すみませーん! 肉ぶっかけおかわりで」

「え!? 四杯目!?」

 そして風が注文する声と、樹の驚く声が店内に響いた。うどんは別腹という言葉もある、彼女は今日の夕食も普通に食べるのだろう。

 

 そう、風が集中し切れていない原因は昨日うどんの食べ過ぎたこと……ではなく、文化祭の出し物を自分で宿題として出しておきながらも当の本人は何も思いついてはいないこと。最も、集中し切れていないのはそれだけではないのだが。

 宿題は、特に期限等は決めていないが、こういったことは早めに決めておけば後々楽になる。だから風もこうして文化祭について考えているが、焦って案が出るなら誰も苦労はしない。

 あーでもないこーでもないと頭を働かせる一方で、機械的に板書を授業内容をノートに書き写していく。無論、内容はあまり理解できていない。だから先のようなミスが出る。

 学校生活のこと、部活動のこと、家のこと、勇者部のみんなに秘密にしていること。どれも大事で、最低でも頭の片隅には入れておかなければならないことばかり。

「―――じゃあ、練習問題の問三は……伴君で」

 気が付けば、練習問題に入っていたらしく、教員に指名された生徒たちが席を立ち、各々のチョークの白い線で黒板が彩られていく。

 幸いにも風は当てられていないらしく、手持ち無沙汰に手指でシャープペンシルを回してみる。

「結構簡単なのね」

 クラスメイトの見様見真似でやってみたペン回し。指で弾けば、くるりと親指を軸にして一回転。

 気を紛らわせることができて、かつ……妙に癖になる。

 くるり、くるり、と手の中でシャーペンを回す。

「あっ」

 手からシャーペンがすっぽ抜け、変な声が出た。シャーペンの飛んでいった先はすぐ前の席。

「痛って!?」

 男子生徒の後頭部にぶつかったシャーペンが床に転がり落ちる。

「相原君ダイジョブ?」

「ったく、気を付けろよな」

「ごめんごめん」

 相原と呼ばれた生徒が落ちていたシャーペンを拾い、振り返って風に手渡す。

 軽い調子で謝罪した風はシャーペンを受け取ると黒板へと向き直り、気もそぞろにペンを回しながら授業とは関係のない思索にふける。

 意識することさえない、なんてことのないいつも通りの日常。風の『勇者部のみんなに秘密にしていること』が現実になる可能性は決して高くはなく、自分たちが『当たり』でさえなければ、この日常は続いてゆく。立ち位置が普通に暮らしている人達からは少しだけずれてしまった彼女だからこそ思えることでもある。

 ペンとチョークの音のみが支配する教室に、突然聞き慣れない警報のような音が大音量で鳴り響いた。

 誰もが音の出どころを探す中、風はその音が自身の鞄の中から聞こえてくることに気付いた。

 手を震わせた風は鞄からスマホを取り出し、画面を見る。

「犬吠埼さん、授業中は携帯の電源を切っておくように」

「嘘…………」

 教師の注意を促す声も耳には入らなかった。

 風のスマホの画面中央にデカデカと表示されているのは『樹海化警報 FORESTIZE WARNING』の赤い文字。画面下部にも赤色で右から左にスクロールする『人類保護のため出動してください。バーテックスが壁を通過しました。』の文字が流れ続ける。

「聞こえてますか犬吠埼さ―――」

 教師の言葉がぷっつりと途切れる。

 まさか、と思い嫌な予感を抱えながらも横を見る風。そこには不自然に硬直した相原の姿。更に教室を見渡す。目に入るのは、何ら動きを見せないクラスメイト達の姿。

 静止した時間、微かな音さえ聞こえない無音の空間。

 顔を青褪めさせた風は慌てて教室を飛び出した。

 

 平穏な日々を望む彼女の想いとは裏腹に、この日、勇者部のみんなの日常は、一旦終わりを告げた。

 

 

【大赦シークレットファイル】

 西暦二〇一九年を新たに神世紀元年と定め、現在の年号は神世紀三〇〇年。人類の生存圏は日本国が四国のみですが本日も日々平穏に過ごしています。市町村名が変わった場所もあり、一例としてかつての観音寺市も今は讃州市と名を変えました。かくも時間の流れは残酷なものと言えましょう。四国の外がどうなっているかについては、また別の機会に語ることにいたしましょう。

 以下は我々大赦の内部資料になりますが、西暦末期における終末戦争において四国を守り抜いた五人の……失礼間違えました、四人の勇者様達とその協力者達の尽力があったからこそ今の人類がここにあります。勇者とは、神の力が一端を振るうことを許された人物のことを指し示しています。極々最近の出来事であれば二年前の神世紀二九八年には、三人の勇者様達がその御役目を全ういたしました。

 私は願います、どうか神に翻弄される時代が終わることを……。

 

 

 

【次回予告】

 

「あれはバーテックス。世界を殺すために攻めてくる人類の敵」

 

「そんな! あんなのと戦える訳ない!」

 

「駄目だよ! お姉ちゃんを残して行けないよ」

 

「風先輩は悪くない」

 

「駄目! 逃げて。友奈ちゃんが死んじゃう!」

 

「私は讃州中学勇者部、結城友奈! 私は、勇者になる!!」

 

 次回 『乙女の真心』





(色々と)陳謝ァ!ただのゆゆゆだこれ!?
ジードロスとゆゆゆいロスが重なってうどん粉になってました。
本当に書く時間が取れません……。
こんな小説擬きに感想や評価をいただきありがとうございます。個別に返信できていないのが本当に心苦しいです。
読者様に最大限の感謝と敬意を。
結城友奈の章って友奈の掘り下げないよな~、って。





……あぁ~、天の神とクソコテ軍団と歩く溶源性細胞滅びねぇかなぁ
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