受け継がれてゆく魂の絆   作:雷月皆無

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^^「みんなのアイドル!ヴァルゴたんだよ!滅べ人類♪」


第二話 乙女の真心

 うどん屋『かめや』から自宅へと帰る途中。夕焼けに照らされる中、私とお姉ちゃんはゆっくり自転車を押しながら喋っていた。

「さて、今日は夕飯何作ろっか?」

「へ? まだ食べるの」

「樹は小食ねえ」

「お姉ちゃんが食べすぎなの」

 ケータイの着信音が鳴るけど、私のじゃない。

 横を見れば、お姉ちゃんがケータイの画面を見たまま立ち止まってた。

「お姉ちゃんどうしたの?」

 何か思いつめたような暗い表情のお姉ちゃんを見て、話し掛けずにはいられなかった。

「ううん、なんでもない」

 ハッ、と顔を上げたお姉ちゃんは本当になんでもないように笑う。赤い夕陽に照らされる山々と壁の影を背景にしたお姉ちゃんの顔に、さっきまでの暗い影はなくて。

 だから、きっと気のせい。

「ねえ樹」

「なぁに」

「お姉ちゃんに隠し事があったらどうする?」

「ええっと……よく分からないけど」

「例えばね、甲州勝沼で援軍が来ないのに戦えー! って言われたとして」

「ええっと」

 こうしゅうかつぬま?

「近藤勇」

 それなら知ってる。時代劇で聞いたことある名前だ。確か、しんせんぐみ? だったっけ。

「いきなりどうしたの?」

「はは……なんでもない」

 でも、なんで急にそんなこと……。

 もちろん私の答えは決まってる。

「ついていくよ、何があっても。お姉ちゃんは、唯一の家族だもん」

 お父さんとお母さんが事故で亡くなってから、お姉ちゃんはずっと私のために頑張ってくれてたから。お姉ちゃんの隣に立って歩いていきたい、っていうのが本音だけど……私には何もないから。今は後ろをついていくだけ。だけど、いつかきっと、隣に立って歩いていくから。

「……ありがと」

 

『大赦より、住民の、皆様に、お知らせします。近頃、集団催眠と思われる現象が、多発しています。複数人で、変な物を見たと思ったら、迷わず最寄りの、警察や、病院などの、公共機関まで、お知らせ、ください』

 

 

 世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだ。例えば、突然両親が事故(・・)で他界したり、出来合いのお惣菜に妹から苦言を呈されたり、うどんの食べ過ぎで体重計が悲惨な数字を出していたり、うどんのせいで水不足になったりと様々だ。

 そして今、犬吠埼風は廊下を走っていた。

「まさか! まさか、そんな……!」

 心に思っていることが意図せずして声に出てしまっていることに風は気付かない。

 それほどの焦燥、驚愕、恐怖。しかし、この日が来ることを覚悟していなかったと言えば嘘になる。けれどこれは風の慢心が招いた結果だ。『当たり』になる可能性は決して高いものではなく、むしろ低いもの。だから楽観視していた。だから勇者部の皆に説明していなかった。背負わないかもしれない余計な重荷を感じさせるべきではないと判断して。

 けれどもそれが裏目に出る。裏目に出てしまった。事情を知っている風はともかく、他の三人は何も知らないままに巻き込まれてしまう。

 樹海化が起こる前に、敵が来る前に、皆と合流する必要があった。

 一秒の時間も惜しい風は一段飛ばしで階段を駆け上がり、一年生の教室まで全力で走る。

「お姉ちゃん!」

「樹ィ!!」

 教室の前で右往左往する樹を見つけた風は息を切らしながら妹の肩に手を置く。

「よかった、お姉ちゃん無事だった。あのね、みんな様子が変で、それで」

 余程怖かったのか、早口でまくし立てる樹を落ち着かせるように、風はゆっくり話しかける。

「樹……。樹、よく聞いて」

「え、何?」

「アタシ達が『当たり』だった……!」

 風の顔が、まるで苦虫をまとめて噛み潰したかのように歪む。。

 樹は姉の言葉の意味を理解できなかったが、姉の顔と現状から、ただ事ではないナニカを起こっていることだけは漠然と感じ取ることができた。

 そして、更なる異変を察知した姉妹は窓の外を見る。

 見える世界が、海にそびえる植物質の壁から浸食される様に極彩色のものへと徐々に変わり、どこかから現れた色とりどりの花びらが踊り舞って、姉妹の視界を塞ぐ。その直後光に包まれたかと思うと、彼女たちのいる世界は一変する。

 気が付けばそこは学校ではなく屋外で、見渡す限りの植物しか存在しない世界が視界いっぱいに広がっていた。

「さっきまで学校にいたのに……。もしかして、夢?」

「そうだったらどれだけよかったか」

「何か知ってるのお姉ちゃん?」

「……友奈と東郷と合流したらちゃんと話すわ」

「うん、信じてるから」

「……ありがと。こっちよ、付いてきて」

 無条件に従ってくれる樹に感謝と申し訳なさを同時に感じながら風はスマフォのアプリを起動させる。画面に現れたレーダーに表示されている名前を確認した風は樹を連れて歩き出す。

 スマフォの画面を見ながら歩く風と、その後ろを歩く樹。お互いに無言のまま過ごす時間は、わずか一分にも満たない、ごく短い時間で終わりを告げる。

 風は迷うことなく目の前の茂みをかき分け、強引に道を作り前に進む。

 茂みの先にいた、赤毛の少女と車椅子に乗った少女が振り向く。

「友奈! 東郷!」

「風先輩……! 樹ちゃん……!」

「良かったです」

 結城友奈と東郷美森だ。風は二人が無事であったことに安堵する。

「はぁ……なんとか会え―――」

「うわぁーん、風先輩! 樹ちゃん!」

 声を詰まらせた友奈が風に抱き着いた。

「ふぅ……」

 安堵の息を吐く美森。

「なんで二人ともここに」

「不幸中の幸いね。スマフォを手放してたら見つけられなかった」

「え?」

 風は断りを入れ友奈のスマフォを借りる。アプリをタップすると風のスマフォに表示されているレーダーと同じものが表示される。

「これって……」

「このアプリにこんな機能があったんですね」

「隠し機能……」

「その隠し機能は、この事態に陥った時に自動で機能するようになってるの」

「このアプリ……部に入った時に風先輩にダウンロードしろって言われたものですよね」

「……えぇ」

 彼女たち勇者部が普段から使用している『NARUKO』というSNSアプリは讃州中学では勇者部の面々しか使用していないマイナーと言えるもの。

「先輩、何か知ってるんですか?」

「東郷……」

「ここ、どこなんですか?」

 美森と友奈から呈された、当然ともいえる疑問。

 ちらりと樹を見た風は意を決して話し始める。今まで皆に隠していたことを。

「みんな落ち着いて聞いて…………。私は、大赦から派遣された人間なの」

「え?」

「大赦って……」

「神樹様を奉ってるところですよね」

「何か、特別な御役目なんですか」

「……うん」

 隠していた後ろめたさから、風は力なく頷く。

「ずっと一緒だったのに……そんなの初めて聞いたよ?」

「当たらなければ、ずっと黙ってるつもりだったからね」

「風先輩……」

「アタシの班が、讃州中学勇者部が『当たり』だった」

「『当たり』……」

 嫌な響きの言葉。『当たり』があるなら『外れ』もある訳で……。

「今見えてるこの世界は神樹様が作った結界なの」

「神樹様が……」

「じゃ、じゃあ悪いところじゃないんですね」

「えぇ。でも、神樹様に選ばれたアタシたちはこの中で敵と戦わなければならない」

「え、敵?」

「戦うって……」

 風の考えすぎかもしれないが、敵と戦うということが『当たり』ならば、『外れ』になった人達は一体どんな目に遭うというのか。そうであってほしいという希望的観測を込めなければ、重過ぎる現実に押し潰されそうになる。

「あの……そういえば。この点ってなんです?」

 スマフォの画面に表示されている『乙女座』という文字が、勇者部の名前が集まっている地点に段々と近づいてきていた。

「来たわね……」

 スマフォから目を離した風が遠くを見つめる。勇者部の皆もその方向を向く。

 白い帯のようなものを身に纏い尾の様な部位が存在する巨大な異形が、張り巡らされた植物の根の陰からその姿を現す。

「あれね。遅い奴で助かった」

「浮いてる……」

「あれはバーテックス。世界を殺すために攻めてくる人類の敵」

「世界を殺すって」

「バーテックスの目的はこの世界の恵みである神樹様に辿り着くこと。そうなった時、世界は死ぬ」

「この世界に私たちしかいない?」

「どうして私たちが」

「大赦の調査で最も適正があると判断されたの」

「そんな! あんなのと戦える訳ない!」

 美森が絶叫する。

「方法はあるわ」

「えっ」

「戦う意思を示せばアプリの機能がアンロックされて、神樹様の勇者となるの」

「勇者……」

「みんな……あれ」

東郷が指差した先のバーテックス。バーテックスの尾の様な部位が光り、何かが高速で勇者部の近くに着弾、爆発する。発生した煙でむせ返る一同。

「なに!?」

「私たちのこと、狙ってる?」

「こっちに気が付いてる……」

「そんな……。東郷さん?」

「だめ……! こんな、戦うなんて。出来る訳ない!」

「東郷さん」

 恐怖で震える美森。

 そんな美森を見た風は一人であっても戦う覚悟を決める。

「友奈。ここは任せて東郷を連れて逃げて」

「でも……先輩」

「早く!!」

「は、はい!」

「お姉ちゃん!?」

「樹も一緒に行って!」

「駄目だよ! お姉ちゃんを残して行けないよ」

「樹……」

「ついていくよ、何があっても」

 樹は、風を一人では行かせないと、服の袖を掴んでいた。

「……どうしたらいいの?」

「うん。樹、続いて」

「う……うん!」

 妹の頭を一撫でした風はアプリをタップする。続く樹も同様にする。

 瞬時に犬吠埼姉妹の服装が戦闘に適したもの、勇者装束へと変わる。

 風は、左太腿にオキザリスの刻印がある、黄色を基調とした勇者服に、無骨な大剣。

 樹は、背中に鳴子百合の刻印がある、緑を基調とした勇者服に、右手首に装着した花環状の飾り。

 二人の側に一匹づつ出現する、どこかデフォルメされたような不思議な生物。風の近くの一匹は、二頭身になった青い犬のようなものの名は『犬神』。もう一匹の、樹の近くに現れた緑の毛玉に葉のような触覚を生やしている『木霊』。

 この二匹は精霊と呼ばれるもので、神樹の導きのもと、勇者に力を貸してくれる存在だ。

「これが、神樹様に選ばれた勇者の力よ!」

 バーテックスの下腹部から吐き出される高速の物体を、勇者服を纏ったことで得られた人間離れした跳躍力で回避する姉妹。

「樹避けて! 手をかざして戦う意思を示して!!」

 跳躍し、落ちながらも風は大剣で、樹は右手首の花環から出した複数のワイヤーで、敵から射出された球状の物体を切る。爆発するそれを躱しながら二人は徐々に敵に近づいていく。

 走り、跳躍しながら風は友奈に電話をかける。

『風先輩!?』

「よし、繋がった」

『風先輩大丈夫ですか!? 今戦ってるんですか?』

「こっちの心配より、そっちは大丈夫?」

『はい!』

「友奈、東郷……黙っててごめんね」

『風先輩はみんなのためを思って黙ってくれたんですよね。ずっと一人で打ち明けることもできずに……。それって、勇者部の活動目的通りじゃないですか!』

 友奈の言葉にハッとする風。

『風先輩は、悪くない!』

「……友奈、ありが―――しまっ!?」

 友奈と通話をしていたために、敵から注意が反れていた風は慌てて大剣の腹を盾にして衝撃に備える。犬神が大剣の前に出現して障壁を張るった直後、着弾した爆弾が爆発。黒煙で風の姿が見えなくなる。

「お姉ちゃん!」

 叫び、足を止めてしまった樹。木霊が障壁を張るも、爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。

 風と樹に怪我はなくとも、動けない様子で、二人を守った精霊はその姿を消した。

 

一方その頃。三森の車椅子を押す友奈は、バーテックスから遠ざかっていた。

「あ、待って」

 突然、友奈のスマフォが着信音を鳴らす。相手は風だ。

「風先輩!?」

『よし、繋がった』

「風先輩大丈夫ですか!? 今戦ってるんですか?」

 友奈の視線の先。バーテックスの近くで爆発が立て続けに起こっていた。

『こっちの心配より、そっちは大丈夫?』

「はい!」

『友奈、東郷……黙っててごめんね』

「風先輩はみんなのためを思って黙ってくれたんですよね。ずっと一人で打ち明けることもできずに……。それって、勇者部の活動目的通りじゃないですか!」

 建前でもなんでもなく、紛うことなき本心から出た友奈の言葉。

「風先輩は、悪くない!」

『……友奈、ありが―――しまっ!?』

『きゃああああああああ!』

 通話先から聞こえてしまった風と樹の悲鳴。

「先輩! 樹ちゃん! あぁっ!?」

 遠くからでも威圧感を感じさせるバーテックスがゆっくりと近づいてくる。

「こっち見てる……」

バーテックスの下腹部が光って膨らむ。

「あ、あ、あ」

 友奈の目が涙ぐみ、声にならない声が漏れる。風に樹がやられ、次は自分達の番だと悟ってしまったからではない。

 結城友奈という少女は、我が身可愛さではなく自分以外の誰かが傷つくことを恐れているから、頑張れる少女だ。例えその結果自分自身が傷つくことになったとしても、いつも通りに笑おうとする少女だ。

「友奈ちゃん! 私を置いて今すぐ逃げて!」

 足が不自由で自分の足では歩けない美森が叫ぶ。

「何言ってるの! 友達を!!」

 自分の涙を拭う友奈はスマフォを握り締める。

 美森の前に飛び出し、バーテックスと対峙する。

「そうだよ……友達を置いてなんて。そんなこと絶対しない」

「駄目! 逃げて。友奈ちゃんが死んじゃう!」

「嫌だ……! ここで友達を見捨てるような奴は―――」

「友奈ちゃん!」

「―――勇者じゃない!!」

 バーテックスの下腹部から爆弾が射出される。

 美森からは、爆弾が友奈の生身の体に当たったようにしか見えなかった。

 爆風に煽られる東郷が親友の名前を絶叫する。

「ああっ! 友奈ちゃん!!」

 微風に煽られ黒煙が晴れる。

 そこに三森が想像したような無残な友奈の姿はなく。

 友奈は無傷のままで、彼女の突き出された左腕は桜色の手甲に包まれていた。右手に持っているスマフォのアプリが起動する。画面が光り、現れる友奈の精霊『牛鬼』。それは薄桃色で羽の生えた牛のような姿をしていた。

「…………嫌なんだ」

 障壁で友奈を守り、すぐさまに消える牛鬼。そんなことはお構いなしにバーテックスから次々に爆弾が吐き出される。

「誰かが傷つくこと! つらい思いをすること!」

 右脚が光る。右脚の回し蹴りで、爆弾を迎撃。右脚に桜色の脚甲が装着される。

「みんなが、そんな思いをするくらいなら!」

 左脚が光る。右回し蹴りの勢いのまま、左脚での逆回し蹴り。左脚にも同色の脚甲が装着される。

 爆弾をジャンプで避けながら友奈はバーテックスに向かって山なりに跳ぶ。

「私が……、頑張る!」

友奈の気合がこもった叫びとともに、胸当てが着き、残る部分も桜色の勇者装束に変化。髪も伸び、赤色から桜色へと変色した。

 右のパンチで爆弾を殴る。爆発を物ともせず友奈の重力加速は止まらない。

「おぉぉおおおおおおおお!! 勇者ぁああああ!! パァアアアアアアアアアアアンチ!!!」

 振りかぶった右拳、空中のため踏ん張りが効かないどころの話ではないが、全身の回転運動を利用することで、力と想いの込められたパンチがバーテックスに炸裂する。

 バーテックスの体の一部が吹き飛ばしながら着地し、友奈はバーテックスを見上げる。

「勇者部の活動は、みんなのためになることを勇んでやる! 私は讃州中学勇者部、結城友奈! 私は、勇者になる!!」

 

 

 

 

 

「へぇ、あの人たちが今の勇者か。鍛練もなしに結構やるじゃん。この分じゃ、アタシが手を貸す必要もないかな?」

 赤と黒を基調とした衣服の人物は、高所より勇者部とバーテックスの戦いを見ながら不敵に笑った。

 

 

【大赦シークレットファイル】

 大赦シークレットファイル! 今回は、バーテックスについて説明するゾ。

 『バーテックス』は『黄道十二星座』の名前を与えられたアタシ達人類の敵で、『生命の頂点』って意味らしい。

 十二星座だから数は、『牡羊座』、『牡牛座』、『双子座』、『蟹座』、『獅子座』、『乙女座』、『天秤座』、『蠍座』、『射手座』、『山羊座』、『水瓶座』、『魚座』、の合計十二。

 今回のバーテックスは『乙女座』だから『ヴァルゴ』……『ヴァルゴ・バーテックス』って呼べばいいのかな。ヴァルゴ・バーテックスの攻撃方法は尻尾みたいな部分から無限に吐き出される長細いボールみたいな爆弾と、体から生えてる布みたいなのを使った近接攻撃。まぁ、アタシは実際にコイツと戦ったことはないから詳しくは知らないんだけどさ。

 アタシらの時はバーテックスを追い返すのが精いっぱいだったけど、今は違うみたい。

 須美、勇者部のみんな。勇者は気合と根性だ!

 それじゃ、今回はこれで終わり。

 

 またね。

 

 

 

【次回予告】

 

「手順って何、お姉ちゃん」

 

「アタシだってこんなことになるだなんて思ってなかったわよ!?」

 

「東郷さん!」

 

「もしかして先輩達を……盾にしてる?」

 

「銀の……巨人」

 

「シェア!」

 

 次回 『君にできるなにか』




最後に登場した人物は一体何者なんだぞん……?

今回もただのゆゆゆだったけど結城友奈ちゃんの変身シーン書けたので比較的満足。
ようやく次回『銀の巨人』が登場です。
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