■■「これより、前書きあらすじ劇場の開幕です!」
■■「これまでの! 『ゆゆゆ』は~!!」
■■「『ゆゆゆ』って何かしら■?」
■Σ「さぁ? それよりもアタシの名前の後ろについてる
■■「■■■■、■■■■、気にしたら負けなんよ~」
■■「よくよく考えたら、これって名前伏せる意味ないんじゃ……」
■Σ「そもそもアタシら、本編に出てない気が……」
■■「『ついに始まってしまったお役目! ズガーンされたフーミン先輩といっつん! 変身できないわっしー! ゆーゆのボルテック勇者パンチがバーテックスに炸裂! バーテックスはギュインギュインのズドドドドにされたんよ~』」
■Σ「ガン無視だ! それに説明雑ッ!」
■■「……どうしてあらすじに私の名前が出てきたのかしら?」
■■「さてさて、どうなる第三話~。ちなみに■■■■は『出世』したから本編に出番はないんよ~」
■Σ「ソノオオオオオオオク! ……って、だからシグマってなんなんだよー!?」
■■「『注意。これは本編とは一切関係ありません』らしいわ。では皆さん本編をどうぞお楽しみください」
一度、アプリをタップしようと手を伸ばすも、その寸前で手が止まってしまう。
「みんな……友奈ちゃん」
東郷美森はスマートフォンを両手で握り締める。
「駄目、私……戦うなんてできない……」
胸に飛来する恐怖はそう簡単に拭えるものではなく。美森はみんなの無事を祈る他なかった。
「神樹様……どうか皆をお守りください……!」
勇者の攻撃でその身の一部を破壊された乙女座の名を冠する敵、ヴァルゴ・バーテックスは動きを止めて、体を再生させていた。
そのうちに犬吠埼風と犬吠埼樹、結城友奈はバーテックスを一望できる場所まで移動する。
「そんな……直ってる。どうやってこの怪物をやっつければいいんですか! 風先輩」
「バーテックスはダメージを与えても回復する。『封印の儀式』っていう特別な手順を踏まないと倒せないの」
「て、手順って何お姉ちゃん」
「攻撃を避けながら説明するから、避けながらよく聞いてね。……来るわよ!」
再生を終えたバーテックスはその活動を再開させる。下腹部が膨らみ、射出口から次々に吐き出される爆発物が勇者たちを襲う。
「そんなハードだよ~」
樹海結界に張り巡らされた根の上を走り、跳び、爆発から逃げる。
「封印をするための手順その一。まず敵を囲む」
「位置に付きました」
「こっちも付いたよ」
風から説明されたことを思い出しながら友奈と樹は、風を合わせた三人でバーテックスを中心にしたトライアングルを創る。
「よし。封印の儀行くわよ! 教えたとおりにね」
「了解」
「了解」
友奈は山桜の刻印がなされた手甲を掲げ、樹は腕の花環を掲げる。
バーッテクスの正面に陣取った風も大剣を掲げて封印の儀の準備をしようとするも、バーテックスは唯々無機質に布のような触手を彼女の首目掛けて振るう。
殺意はないが、殺す。殺す理由は、そこに人間がいるから。それ以上でもそれ以下でもなく、人間だから殺す。まるで、そうプログラムでもされている如く、非生物的に、機械的に触手を振るうバーテックス。
それらを風は一歩も動かずに大剣で切り払う。爆弾を吐き出さないのは彼我の距離が近いからか。だが意図せずして囮になっている風には好都合で、樹と友奈に封印の儀を進めるよう促した。
「こんのぉ! ほら、今のうち」
「ええっと、手順その二。敵を押さえ込む為の
「って……これ全部唱えるのぉ……?」
持ったスマフォの画面の上半分に表記された『幽世大神憐給恵給幸魂奇魂守給幸給』という祝詞の全文。
「えっと、『かくりよのおおかみ、あわれみたまい』」
「『めぐみたまい、さきみたま、くしみたま』」
読み方が下半分に表示されているのがせめてもの幸いか。二人が祝詞を唱え始めると、それぞれの武器から精霊が仄かな光を放ちながら現れる。
「おとなしくしろー!」
風が大剣を横薙ぎしてバーテックスの触手を両断すると同時に彼女の精霊も出現する。
「え、えぇぇええええ!? それでいいのぉ~!?」
「ようは魂込めれば、言葉は問わないのよ」
「早く言ってよお姉ちゃあん」
バーテックスの直下に二重の円と七角形で構成された陣が現れると、白、黄、桜色の三色の花びらがそれぞれラインを描きながらバーテックスを囲み込む。
陣の中央に三桁の漢数字が表示されると、バーテックスは突然その活動を停止させる。
バーテックスが捲れ、中に存在する逆さになった四角錘の物体『御魂』が露出し浮かびあがる。
「な、なんかベロンと出たァ!?」
「封印すれば御魂が剥き出しになる。あれは謂わばバーテックスの心臓、破壊すればこっちの勝ち」
「それなら私がいきます! くらえええー!!」
跳び上がった友奈は上から御魂にパンチする。固い物同士をぶつけた時のように甲高い音を響かせる。
「かったーーーーい!? 固すぎるよコレぇ~~」
右手を押さえ身悶える友奈。だがしかし、御魂には傷一つない。
「ねえお姉ちゃん、数字減ってるんだけど。あれ何?」
腕を掲げた樹の視線の先では、七角形の内側の漢数字が減り続けていた。
「それアタシ達のパワー残量。零になるとコイツを押さえつけられなくなって倒せなくなるの」
「と、いうことは……」
「そう。こいつが神樹様に辿り着き、全てが終わる!」
飛び出した風は上昇しながら大声を出す。
「友奈変わって!」
「はい!」
友奈が御魂の上から飛び退くと同時に、風の大剣が御魂に叩き込まれるもひびすら入らない。何度も何度も剣を振り下ろす。だがそれでも御魂が傷つく様子はなく、異常な硬度であると嫌でも理解できた。
「いきなりまずいかな……。なら、アタシの女子力を込めた渾身の一撃を!!」
生半可な攻撃では駄目だと感じた風は再び跳び上がり、バーテックスを利用して三角跳びし、更に高度を稼ぐ。今度は空中で回転しながらの唐竹割りを御魂に叩き込む。ここまでやっと、御魂に小さな傷が入る。後先考えない全力攻撃を実行した風は着地に失敗し樹海内に小さなクレーターをつくった。
「風先輩!?」
気遣わしげな表情の友奈。怪我はないと分かってはいるが、上げられた声がごく自然に荒くなるのは止められなかった。
樹海に新たな異変が発生する。バーテックスの近くから樹海が徐々に浸食され、枯れていく。
「……枯れてる?」
「くっ、はじまった。急がないと! 長い間封戦ってると樹海が枯れて、現実世界に悪い影響が出るの」
一秒ごとに一ずつ減っていく陣の数字は現在『零一七』。もう一刻の猶予もない。
「時間がない……。このぉ……はあああああああ!!」
自分を叱咤激励しながら友奈は御魂目掛けて跳ぶ。
友奈の脳裏に浮かぶのは、今日までみんなと過ごした大切な日常。世界を殺されるということは、全部が全部壊されて、消えてなくなってしまうということ。
右手が痛くて。戦うこと、日常がなくなること、色んなことが怖くて。だけどみんなを守るんだという強い意思でマイナスな気持ちを全部ねじ伏せて。
「大丈夫……!!」
友奈の気持ちに応えたのか牛鬼が現れると同時に右の手甲に存在する山桜の刻印が輝き、その花びらに色が着く。
「おおおおおおおおお……っしゃあ!!」
やたら頑丈な御魂を一発で破壊するために友奈が狙うのは、風が御魂に入れた傷。
飛び出した運動エネルギーをそのままに、ぶつかるようなパンチ。傷を中心に、御魂に大きなひびが入り、全面が割れると、御魂は光を放ちながら破壊された。
「どうだ!!」
枯れた根に降り立ち、友奈は勝利の雄叫びをあげた。
破壊された御魂は幾条もの光の束となって天に昇り、御魂を破壊されたバーテックスは上から砂になりながら消えていく。
「砂になってる……」
不思議な光景を気の抜けた表情で見ている友奈のもとに風が跳んでくる。
「友奈ぁ! やったね、ナイス友奈」
バーテックスを倒せた喜びのあまり、風は不用意に友奈の右手を握ってしまう。
「いたたたた」
「ゴメンゴメン」
怪我こそ負ってはいないものの、友奈の武器は拳。防具で守られていると言えども、痛いものは痛い。友奈は涙目になった。
「お姉ちゃん! 友奈さん」
「友奈がやったよ」
そこに樹が合流する。
無事を確認した三人は美森の元へ戻るべく、移動を開始した。
「勝った……良かった」
遠くでバーテックスが消えていくのを見つめていた美森は、ほっと一息つく。
「東郷さぁん!」
大声で名前を呼びながら友奈が空から降ってきた。着地してすぐに美森へ駆け寄る。
次いで風と樹が空から降ってくる。
「東郷さん、大丈夫。怪我とかしてない?」
「うん、私は大丈夫だよ。友奈ちゃんこそ」
ぺたぺたと体を触ってお互いの無事を確認し合う友奈と美森。
そんな二人をよそに犬吠埼姉妹は会話を交わしていた。
「お姉ちゃん、この後どうしたらいいの?」
「うーん、バーテックスを倒したら樹海化は解けて元の世界に戻るって話なんだけど……」
「なんだけど?」
「………解けないわね」
「えぇー! そんな無責任な」
「アタシだってこんなことになるだなんて思ってなかったわよ!? ……とにかく、なんとかしなくちゃ」
レーダーに表示されていたバーテックスは一体だけで、そのバーテックスは既に倒した。だから後は元の世界に戻るだけ。とにかく今は何故樹海化が解けないのかを調べる必要があった。何も話さないままみんなを巻き込んでしまった以上、自分が何とかするしかないと風は決意を固めた。
「……」
「東郷さん?」
不安げな表情の美森に友奈は話しかけた。
「私たちちゃんと帰れるのかな……」
「大丈夫。勇者部五箇条、なせば大抵なんとかなる! みんなで協力すればきっと帰れるよ」
「そうだね。……っ!?」
友奈の明るい言葉に、美森の表情も少し和らいだ。
しかし次の瞬間、何の前触れもない頭痛に襲われ彼女は頭を抱えた。そして何かのイメージが頭の中に流れ込んでくる。
「巨大な木に纏わり付く黒い靄。無数の歪な影。嗤う人影。暗い暗い底の見えない闇。なんなのこれ、気持ち悪い……」
吐き気が込み上げてきた美森は、口元をおさえる
「東郷さん!? やっぱりどこか悪いんじゃ……って、地震!?」
突然樹海内、それも友奈たちのいる場所が大きく揺れ始める。
「下から……何かが、来る。みんな気をつけて」
叫ぶ美森、しかしそれは遅きに失していた。
張り巡らされた植物の根を破壊し、土砂を巻き上げ、地下から勢いよく出現する巨大なナニカ。
丁度それの出現地点の真上にいた美森と友奈は何の抵抗もできずに、それの出現とともに空に吹き飛ばされた。
「きゃあああああああ!?」
「東郷! 友奈!」
降りかかる土砂と根の破片を払いのけながら風は二人の名前を叫ぶことしかできない。
車椅子から投げ出された美森の視界の中、逆さまになった景色が下の方にゆっくりと流れていく。落ちているんだと、どこか他人事のように理解できた。そして、このままだと死んでしまうとも。けれど彼女は達観しているのではなく、突然の出来事すぎて死ぬという実感がわかないだけのこと。
「東郷さん手を!」
友奈は必死に美森へ手を伸ばすが、その手はわずか数センチ届かない。
しかし何か細長いものに足を掴まれて、美森の落下が止まった。
安堵ではなく絶望的な表情を浮かべた友奈は美森を見上げながら落下、地面に激突する寸前に牛鬼が発生させた守護障壁に守られた。
「ジョーダンでしょ……!?」
「なんなのアレ……。アレもバーテックスなの?」
「分からないけど……味方には見えないわね」
見るもの全てに嫌悪感を与える醜悪な外見。まるでナメクジを巨大化させて無理矢理二足歩行させているような歪なフォルム。腕は太く長い触手で、胴部の鋭い歯が生え揃った縦長で巨大な口が異様な存在感を放つ。
それはまさに全高五十メートルにも達するだろう巨大なナメクジの化け物と言って差し支えのない怪物。
そして今美森は、そんなナメクジの化け物が口の周りから伸ばした触手に逆さ吊りの状態で捕まえられていた。
「あ…あ……」
怪物の鋭い歯を間近で見てしまった美森は声にならない声をあげ、自身の悲惨な末路を想像してしまった。
「東郷!」
「東郷先輩!」
「東郷さんを……離せぇええええ!」
まだ痛む右の拳を握り締める友奈。
とにかく怪物を怯ませるなどして、捕らえられている美森を助け出すための隙を作らなければならないと考えた。
風と樹を置き去りに、友奈は高くジャンプする。
怪物の頭に当たる部分を殴りつけようとした時、不意に目の前に美森が現れる。
攻撃を中断せざるを得ず、そのままどうすることもできずに彼女とぶつかる寸前、怪物の口元から触手が伸びる。
「くっ……! この!」
触手に絡めとられ、腕ごと胴体を幾重にも巻かれた友奈は身動きできない。
「ごめんなさい捕まっちゃいました。私より先に東郷さんを」
「友奈!」
「友奈さん、東郷先輩。二人とも今助けます!」
「樹ストップ」
怪物へワイヤーを伸ばそうとする樹を、風は手で制する。
「なんで止めるの!? 早く助けないと」
「そうだけど。さっきのを見てれば分かるでしょ」
「さっきの……? あっ」
「樹、気づいた?」
「もしかして東郷先輩たちを……盾にしてるの?」
「多分……ううん、きっとそう。頭悪そうな見た目してるくせに悪知恵の働く」
二人の会話の意味を理解しているのかは定かではないが、怪物はこれ見よがしに人質兼肉盾を左右に揺らす。そして口を歪め、聞くに堪えない鳴き声を上げる。ただ人間を捕まえただけで動けなくなった勇者たちを、まるで挑発しているようにも馬鹿にしているようにもとれる所作。
「迂闊に攻撃できない……けど! アタシがなんとかしないと」
無策に突っ込んだら、今もがいてる友奈の二の舞になる。かといって、時間をかければどうなるか分からない。
どう戦うか思案する風。
怪物が口の周辺から無数の触手を発生させる。すわ、美森たちのように捕まえるつもりなのかと身構えるも一向にそのような気配はない。
漂う触手が帯電する。
触手を伸ばし、無造作に近くの根に突き刺した。
根が萎れると内部から破裂した。
「なっ!?」
直接的な破壊行為に目を丸くする。風の中で一つ確定した。この怪物はバーテックスではないが、世界を壊そうとする敵だと。
時間をかければかける程、この怪物が樹海を破壊しようとするのは目に見えていた。
だから急いで倒さないといけない。けれどその手段は未だに一つも思いつかない。
「お姉ちゃんどうしたら」
怪物の頭部に存在する二本の触角の間に小さな火球が生じ、徐々に巨大化する。
「樹!」
危機感を覚えた風は妹の前に立ちはだかり、剣を盾のように構えた。
その直後、怪物から高速で発射される火球。
どんどん視界を占める火球、遠くからでも感じられる熱量に冷や汗を流す。
「きゃああああああ!?」
犬神と木霊、二体の精霊が障壁を発生させて勇者を守護するも、障壁に着弾したと同時に発生した爆風で二人は揃って吹き飛ばされてしまう。倒れた二人に起き上がる様子はなく、気を失っているらしい。
「風先輩! 樹ちゃん! こんのぉ……!!」
怪我こそ負ってないが倒れたまま動けない犬吠埼姉妹。
友奈も必死にもがく。しかし拘束がほどける様子は全くない。
脆弱な知的生命体の無様さを嘲笑うが如く怪物は歯を打ち鳴らす。
「そんな……。い、いや…………」
美森は思う、自分が捕まったりさえしなければこんなことにはならなかった。否、戦いに対する恐怖を押し込んで、戦う勇気を持って勇者になってさえいれば、こんな事態になるのは避けられていた。自分以外のみんなはそれができていたのに自分だけができなかった。後悔先に立たずで、もうどうにもできない状況。
怪物はわざわざ触手を高く持ち上げると、美森を拘束から解放する。直接口に運んで捕食しないのは餌に少しでも長く恐怖を与えるためという邪悪極まる思考からだ。
美森が落ちる先は当然怪物の口の中。
死の目前にして、浮かぶのは様々な記憶と思い。両親、友人などのこれまで生きてきた中で関わってきた、出会ってきた人たちとの記憶が走馬灯のように次々と流れる。
そんな中、まるで出会った覚えのない二人の人物が一瞬だけ映った。その人物の顔には霞がかかり、誰なのかもはっきりとは分からない。しかし、どこかの学校の制服と思われるものを着た少女たち。
二人がどんな顔をしているのか分からないのに、心底楽しそうに笑っていることだけは、はっきりと分かった。
だから一言だけ、消え入るように美森は呟く。
「……ごめんなさい」
誰に向けたものか、どんな思いが込められているのか、本人でも分からないまま発せられた言葉。
友奈を一度見つめると、美森はギュッと目を閉じた。
「東郷ざぁん!!」
怪物に拘束されたまま叫ぶ友奈。声は届けども、手はまるで届かず。風と樹も依然気絶したままであり、今動くことができる勇者は誰もいない。
友奈は親友が怪物の口の中に向かって落ちていくのを見届けるしかなかったその時だ。
「ショワ」
美森が怪物の口の中に消えようかというその瞬間、不自然に落下スピードが遅くなり、謎の声が聞こえた。
どこからか伸びてきた光の帯が、落下する東郷と捕まったままの友奈を包み込む。
赤い光を纏った何かが空から落ちてくると同時に、怪物を吹き飛ばす。
その何かから地面に光の帯が伸ばされると、そこから友奈と美森、車椅子が無傷のまま現れた。
突如として浮遊感が消えた美森は、恐る恐る目を開く。そこは倒れている犬吠埼姉妹の近くの地面。
「東郷さん……東郷さん!」
「友奈ちゃん……」
「そうだ。風先輩、樹ちゃん、しっかり」
友奈は気絶している風と樹を乱暴に揺すって起こす。
「……いったー。精霊がいなかったらどうなってたことか。樹ー」
「うん……、私も大丈夫だよ」
みんなが無事であることに、ほっと息をつく美森。
自分たちを助けてくれたそれを見上げる。
赤い光が消え、現れたのは巨大な人型だった。
その人型の全身は銀色で、仏のような穏やかな顔。胸には赤く輝くY字型の光体。まるで『光の巨人』とでも形容すべき巨人が勇者部一同を優しく見下ろしていた。
「銀の……巨人」
巨人を見上げた美森は落ち着いた声色でそう呟く。だが、妙な既視感に心がざわついた。見たことがないと断言できるのに、似たものをどこかで見たような気がする。ただの既視感と言い捨てることができない違和感があった。
美森に力強く頷いた巨人は彼女たちに背を向けると、吹き飛ばされた怪物と向かい合う。
「あ……」
その光景を見た美森は巨人に向かって無意識に手を伸ばし、気を失った。
食事を邪魔された苛立ちからか、巨人へと雄叫びをあげる怪物。
無数の触手が巨人の背後にいる人間たちを捕らえんと伸ばされる。
「フッ!」
巨人が腕に光を纏い何度も振るえば、その腕から光刃が飛び、彼女たちを捕らえんとする触手を切断する。
痛みに悲鳴を上げ怯む怪物。
隙を見せた怪物に巨人が腕を十字に組む。どういった原理か、組まれた腕から放たれるは光の奔流。光の奔流が怪物の体を焼き、怪物の体組織があちこちに飛び散るも、それでもトドメをさすには至らない。
体のあちこちが焼け焦げ、異臭を漂わせる怪物は通常の生物であれば大怪我どころでは済まない火傷を負っている。しかしそれでも活動をやめる様子はなく、ここまでの傷を負わせた巨人が憎いのか、ギチギチと歯を鳴らし不快な音を立てる。
怪物は無茶苦茶に腕の巨大な触手を揺らすと、頭部の触角から火球をロクな狙いもつけずに巨人がいる方向目掛けて連続で放ち始めた。
「ッ!? グォオォ」
これは拙いと思った巨人は、手から円形の光の壁のようなものを発生させ、攻撃を防ぐ。
徐々に後退り苦しげな声を上げる巨人。
しかし避ける訳にはいかなかった。避ければ背後の人間に被害が及んでしまう。守るため、必死に力を行使する。
「私たちを、守ってくれてるの? でもこのままじゃ」
風の声に巨人は何も返さない。
大きなダメージを受けている影響か、火球を放ちながら前進してくる怪物のスピードは遅々としたもの。腕の巨大な触手がまるで鞭のように振るわれる。
光の壁に火球が何度も着弾し爆発する。触手で何度も光の壁を叩かれる。その度に巨人は苦しげな声を出す。ついには光の壁にひびが入り、巨人も片膝を着いてしまう。
しかし、それでも光の壁を発生させ続ける。
「グァアア!?」
不意打ち気味に側面にまで回り込んだ触手に巨人は脇腹を打ち据えられてしまう。
そこは光の壁の防御範囲外であろう場所であり、なおかつ光の壁は近・遠距離攻撃の両方を防ぐことに使用されている。そのため、触手を防ぐことが叶わずに一撃をもらってしまったのだ。
大きな隙を晒してしまった巨人、それに伴い今まで発生させ続けていた光の壁が消失する。
襲い来る火球を、巨人は両腕を広げ、せめて後ろに行かないようにして、その全てを受け止める。
駄目押しとばかりに、更に触手が巨人の腕に巻きつけられ、触手がスパークする。
「ドゥァアアアアアアア!?」
苦悶の声を上げながら、倒れ伏す巨人。
散々邪魔をしてきた巨人を横に蹴飛ばした怪物は、少女たちを直接捕食しようとゆっくり接近する。
どんどん近づく巨大な口に風は恐怖を感じるも、顔には出すまいと不敵に笑う。
「くっ……とおりゃあー!!」
風の大剣が高速回転しながら飛び、怪物の頭に突き刺さる。怪物は体液を噴き出し仰け反った。
「見たか! これぞ必殺・女子力大車輪!! あんたみたいな訳の分かんない奴に食べられてたまるもんですか!」
「よくも、みんなをいじめたなー! 勇者……パンチ!!」
勇者システムの補助を受けた友奈の正拳突きが怪物の脚にダメージを与える。
ただの餌から予想外のダメージを受けてしまった怪物が怒り狂った咆哮を上げる。
しかしそれは致命的な隙に他ならなかった。
「今だ、えーい!」
いつの間にか怪物の足に巻きついていたワイヤー。樹が全力でワイヤーを引けば、怪物の足にワイヤーが食い込み、怪物が僅かにバランスを崩した。
「もう一発!!」
怪物の頭に刺さった風の大剣、その柄頭に撃ち込まれるのは友奈のパンチだ。剣が頭の内部にまで突き刺さり、勢いよく噴き出す体液。完全にバランスを崩した怪物が仰向けに倒れる。
「やったわ! ナイス友奈! 樹!」
「いえ。風先輩が頑張ったから私も頑張れたんです」
「……そう言って貰えると助かるわ。でも……」
倒れたまま動かない巨人を見る風。
「あっ、巨人さん……な、なにっ!?」
小さく地面が揺れた。
まさかと思い、三人が慌てて怪物を見やる。
そこには大きな地響きを立てながら怪物が起き上がろうともがき、何度も全身を地面に打ち据えながらも彼女たちへ近づいてくる。
「う、嘘……」
「だあああああ!? しつこい男は嫌われるわよ!!」
「ナメクジに性別なんてあったっけ?」
「風先輩、もう一回さっきのやりましょう!」
「そうね! ……って、アタシの剣アイツに刺さったままよ!!」
友奈の提案に風は頷くも、やけに手の中が軽いことに今更ながらに気付く。
「どど、どうするのお姉ちゃん」
「一度アイツから距離を取って作戦を考えないとね。アタシが殿。二人は東郷をお願い」
「お姉ちゃん、何言ってるの!?」
「そうです、危険すぎますよ! 風先輩がやるって言うなら私も!」
「友奈さんまで」
互いが互いを思いあうせいで結論が出ずに、全員身動きができないでいた。
風は小さく溜息を吐くと、固い声色で話し出す。
「……もう一回言うわ。アタシが殿を務めるから、二人は東郷を連れて逃げて。これ、部長命令ね」
「なんでそんな」
「これも全部アタシのせいみたいなもんだし、せめて巻き込んだ責任は取らないと。それにアタシは勇者部部長で樹の姉よ。こんなところで死ぬわけ―――みんな逃げて!!」
ふと影が差したように感じた。ぞわりと背筋を撫でる悪寒に、風は大声を出すと同時に動き出していた。
風が怪物に向かって走り。樹が美森の車椅子を抱えて跳び。最後に友奈が美森を横抱きにして地面の影から離れるように走り出すと同時に太い触手が地面に叩きつけられていた。
緩慢な動作で振り下ろされる腕の触手の上に乗り、怪物の頭部へ一直線に最短距離を突っ走る風。
「このっ! このっ!」
怪物の頭部に辿り着いた風は刺さっている剣を引っこ抜くと、そのまま頭の上で何度も何度も、体液に手を滑らせながらも怪物を切りつける。
ダメージこそ少ないものの、風の攻撃を鬱陶しく感じたのか、怪獣は無造作に腕の触手を無造作に振るった。
「あぁぁぁぁ!?」
触手に薙ぎ払われた風は、怪物の頭から転落。またしても精霊に守られながら、小さなクレーターを樹海内に作り上げた。
気絶したままの美森を連れて怪物から離れ、巨人の近くまでやってきた友奈と樹。美森を寝かせると、友奈は倒れたままの巨人に話しかけていた。
「あなたが誰なのか分からないし、どうして私たちを守ってくれたの分からない……。だけど、お願い巨人さん。みんなを助けて……!」
バーテックスと怪物の大きさは友奈にはほぼ同じに見えた。バーテックスには大きなダメージを与えられた攻撃も怪物にはあまり有効的ではなかった。それが一体どうしてなのか分からない。彼女の前には、純粋な質量差が大きな壁となって立ち塞がっていた。あれだけやっても倒せない敵。友奈はもう祈るしかなかった。
「ハァァ、ダァッ!」
友奈の声が聞こえたのか。手を突いて、よろめきながらも巨人が起き上がった。
巨人が全身に力を込める。巨人の体の色が銀色を基調としたものから、牡丹色を基調としたものへと瞬時に変わる。その肉体自体も、胸部の厚みが増し、全体的にどこか裃袴と甲冑を肉体と融合させたようにも見える姿へと変化する。更に、青い菱形の光体が新たに胸部に出現した。
力強い走りと体当たりで、巨人は今にも起き上がる寸前だった怪物を地面に押し倒す。すると次は、後ろに跳んで、怪物から距離を取る。光の帯で風を回収し、友奈と樹の近くで解放した。
巨人は両腕を体の前で交差させて構えを取り、胸の前で腕を大きく広げると同時に両腕の間に光が集まる。そして上半身でY字を作り、両腕を胸の前でL字に組んだ。
「ハァ!!」
L字型に組んだ腕から発射される光の奔流は、先程怪物に放ったものとは勢いからして比べものにならず、光量も圧倒的にこちらの方が上だ。
それが倒れたままの怪物に問答無用に浴びせられる。
断末魔の叫びを上げる怪物。その最中、巨人の赤いY字型光体が心臓の鼓動を表すかのように点滅を開始する。だがしかし、怪物の表面上には何も変化がなく、そしてついに光の奔流の発射が終わってしまう。
苦しげな様子の巨人が自身と勇者部を守るように巨大な光の壁を目の前に発生させる。
次の瞬間、怪物が内部から爆発した。
爆発で粉微塵になった怪物の細胞組織が青い粒子になって消えてゆく。
「うわぁ……きれい」
ある種の幻想的な光景に三人は思わず見とれていた。
怪物が完全に消え去ったのを確認した巨人は勇者部の方を見て改めて頷く。
空へと飛び上がり、腕を後方に伸ばして飛行する巨人は光になって消えていった。
そして、樹海に無数の花びらが舞い、樹海が揺れる。さらなる異変かと身構える友奈に樹、風の三人。
「あれ? ここ、学校の屋上」
「神樹様が戻してくださったのね」
気がつけば勇者部の面々は学校の屋上にいた。
「もう安全! ……ですよね?風先輩」
「そうね」
「そうだ、東郷さん!」
慌てて車椅子に乗せられた、気絶している美森に近寄り、友奈は優しく声をかける。
「東郷さん、しっかり。東郷さん」
「うぅん……こ、ここは?」
「よかった、気が付いた」
「怪我とかしてない?」
「え、ええ。頭が少し痛むくらいで、私は大丈夫です。そうだ! 『怪獣』は!? 『ウルトラマン』はどうなったの!?」
目を覚ました美森は、頭を押さえながら早口でまくし立てる。
「かいじゅう? うるとらまん?」
オウム返しに美森の言葉を繰り返す樹の頭の上にはハテナマークが浮かんでいるかのようだった。
「どうしたの急に。怪獣とウルトラマンって何のこと?」
「あのナメクジみたいな巨大生物と、銀色の巨人のことです。一体どうなったんですか!? 教えてください」
「ナメクジの化け物は巨人に倒された……のかしら? それで巨人は、どこかに消えていったわ」
「……そうですか」
「でも本当にどうしたの東郷さん。怪獣とかウルトラマンなんて名前どこから出てきたの?」
「え? それは勿論…………あれ?」
友奈に返答しようとした美森は答えに窮した。どうして怪獣とウルトラマンという二つの名前が出てきたのか自分でも理解できなかったから。記憶を遡ってみても、そんな名前を過去に聞いた覚えなどない筈で。なのに、どこか懐かしく、悲しい気持ちが溢れてくる。戸惑いの中、ようやく返せた答えはひどく抽象的かつ哲学的なもので。
「私達には理解できないような不可思議な生き物だから、怪獣という名前で。物理法則を超えた巨人だから、ウルトラマン……って名前が相応しいんじゃないかと感じたんだけど?」
自分でさえも納得できていないあやふやな答えだが、それ以外に美森は自分をぎりぎり納得させられる答えを持ってはいなかった。
「う~ん……納得できるような、できないような」
予想以上にトリッキーな美森の答えに、風と樹は頭を抱えた。
「ま、まぁそれはそれとして。ほら見て」
風が無理矢理話の方向性を真面目な方に変え、身振り手振りで屋上から見える景色を見るように促す。
「みんな今回の出来事に気付いてないんだね」
屋上から見える景色は日常そのもので、異変があったことなど微塵も感じさせない様子だった。
「そ、他の人からすれば今日は普通の木曜日。アタシ達で守ったんだよ、みんなの日常を。けど、世界の時間は止まったままだったから、今はもろ授業中だと思うから」
「「え」」」
風の発言に、友奈と樹、美森は固まった。意図せずして授業から抜け出してしまったのだからこれも当然だろう。
「まあ後で大赦からフォロー入れてもらうわ。さて、みんな怪我はないわね」
「東郷さんと私も大丈夫です」
「うん。お姉ちゃんもなんともない?」
「へーきへーき」
気の抜けた表情で校内に戻る三人とは対照的に、美森の表情は何かを思い詰めているように固かった。
「……私は、
友奈が押す車椅子の上で無意識に呟かれた美森の言葉は、誰に聞かれる事もなく四国の空に消えていった。
【大社シークレットファイル】
怪獣とは、バーテックスと並ぶ人類の敵である。最初に出現が確認されたのは西暦2009年。宇宙より飛来した無数の頭を持つ巨大な生物であり、その個体は当時の自衛隊及び日本国政府により『ザ・ワン』の名称を与えられた。ザ・ワンの特徴の一部を受け継いだ謎の生物こそが『怪獣』であり、人間を主な食料とする共存不可能な存在である。現在も怪獣の駆除活動が行われており、その絶滅が確認されるまで駆除活動が終わることはないだろう。
追記:太平風土記という古文書においても、怪獣と思わしき生物の絵を散見することができる。推測に過ぎないが、これはザ・ワンに類似する生物がかつて地球に飛来してきたことを示すものではないか。
【次回予告】
「せえええええええりゃあ!」
「大赦の……」
「お前が授業を真面目に受けないのは勝手だ。けどその場合、誰が最終的に困ると思う?」
「『今日の部活は中止』っと」
「嘘!? パンク!?」
「お母さん」
次回 『元気を出して』
読者様に最大限の敬意を。とりあえず陳謝!
某動画サイトに投稿されている、声優の照井春佳氏が実況する「結城友奈は勇者であるA」(2018年5月30日発売の「結城友奈は勇者である -勇者の章-」のブルーレイ特典Cゲーム)のサムネを二度見して発狂したので1万字初東郷です。
以下、軽く説明です。
■■……前書きネタ。前作主人公。名前がノベルとアニメの名前になってる人。なんか活躍少ないナーとは思っていても言わないように。南無八幡大菩薩。
■■……前書きネタ。大橋勇者のリーダー。鋼メンタルの人。天才肌。ネット小説作家。レッツエンジョイカガワライフ。ズガーンだよ。
■Σ……前書きネタ。現時点における神世紀勇者の中で唯一『出世』した人。シリアス、ギャグ、かっこいい、かわいい、姉、妹、犬、タラシ、主人公をこなせる逸材(ゆゆゆい含め)。足りないのは主人公補正くらいじゃないかなぁ。作者としては彼女が成長する姿を見守りたかった。
シグマ……前書きネタ。アマゾンズで検索したら不幸になります。作者が毒電波を受け取ってしまったので仕方ない。
ナメクジの怪物……怪獣。ペドレオン。
銀色の巨人……ウルトラマン。ネクサス。