見渡す限り一面の銀世界に、見上げるほどの高さの円柱状の建築物が何十棟も建っていた。
側面は銀色に鈍く光る隔壁で出来ており、ところどころが四角く切り取られ、通風孔とおぼしき穴が開いている。
頂点の平面部にはゴテゴテとしたアンテナ類などが見受けられる。
内部は軍用クローン、その中でも傑作と呼ばれたR系列の収容ドッグとなっていた。
両側に冷凍保存が施されたクローン達が眠る装置の並ぶ通路を、一人の男が周囲を警戒しつつ歩いている。
手にしたライフルの先に付いたライトであたりを照らしているが、その光は薄く、非常に心細い。
防寒具に身を包んだ男の名はAE-16337といった。
A系列エリートシリーズの16337番目に製造されたクローンという意味である。
軍用クローンには大きく分けて四系統が存在する。そこから更に派生するがここでは割愛させてもらう。
単純作業に従事させることを目的としたA系列。大戦で最もスタンダードな型と言っていいだろう。
ドーピングを施し身体能力を劇的に高めたT系列。もっとも生体兵器には及ばないが。
搭乗兵器への適性を与えられるG系列。戦場の花形であったがAI搭載型の無人兵器の登場で衰退した。
そしてC系列。A系列のコストを削減しつつ基礎性能を向上させた後継シリーズだ。この系列の登場でA系列の生産はストップした。
型落ちしたA系列の戦場での役割は主に陽動である。非核武装地帯での資源の消費を抑える為の捨て駒であった。そして男は陽動部隊の隊長格であった。
男が向かう先はこのドッグの中枢部。すなわち制御室である。本来エリートシリーズであろうがクローンの入室が許可される場所ではなかった。
しかしドッグへの電力供給が停止する一大事が発生したのだ。それも管理者が不在の中で。この男が冷凍保存から目覚めた原因もそこにある。
最前線から離れているとは言えここも軍事施設の一つである。管理者が不在とは凄まじい人手不足だなと男は呆れた。
脳内の学習装置によってインストールされたマップに沿って進むと制御室の入り口が見えた。
中にはもちろん人の姿はない。
床には多量の埃が積もっている。その層の厚さに男は驚いた。
「…システム起動」
そう口に出しても一切の反応がみられない。電力供給が停止していた場合、予備電源に切り替わるはずだが。
何度繰り返しても反応はなかった。嫌な予感がした。
「もしや予備電源が切れているのか?」
いやそれはないだろうと男は自分で否定した。
予備とはいえ電力量は相当なものである。休眠状態の施設が消費し尽くすとは到底考えられなかった。
なんにせよまずは状況を把握することが重要である。
主電源からの供給が停止していること、異常が発生して予備電源に切り替わっていないこと、この二つを管理者へ報告する必要があった。
制御室を出て通路の突き当たりにある緊急避難用のハッチを開く。
その時にハッチの横にあった非常用物資の入ったリュックに気がついた。
中身は応急手当てセットに栄養補給剤に簡易テント、さらにはマッチのような前時代的なものまで揃えてある。
少々古びているが問題はないだろう。男はリュックを背負った。
地面との距離に目眩を覚えつつ梯子を下っていく。その途中で男は何年振りかの太陽の光に目を細めた。ゴーグル越しでも容赦なく眩しかった。極地の寒さが少し和らぐのを感じた。
軍用クローンの輸送機用の滑走路が影も形もなくなっている。整備がされず雪に埋もれているようだ。
スノーモービルなども見当たらない。全て雪の下に埋もれてしまっているのだろうか。残された移動手段は徒歩しかなかった。
「くそったれ。」
脳内のマップを確認する。電力施設を含む都市群は、ここから更に東へ30キロ。
「…行くか。」
ポツリと呟くと男は歩き出した。
毎週1本投稿できればいいのですが・・・。