【改稿版】ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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遅くなってすみません。
そして最新話ですら無い。
別の作品に浮気ばっかしてました。
途中から既存の話になります。

新規1
既存
新規2

という非常に面倒な事になってしまいすみません。
既読の方は読み飛ばしてください。


森の賢王をゲット

 

 「では、ここから森に入りますので、警護をよろしくお願いします」

 

 モモン達は、いよいよ依頼の本題、薬草採取の為に森の入り口に訪れていた。

 とはいえ、「モモンさん達が居れば大丈夫でしょう」とペテルが言うように、万が一にも事故が起こり得ない万全を通り越して過剰すぎる戦力がついているのだから、何事も起こる筈は無いが。

 

「あの、モモンさん」

 

「なんでしょう?」

 

「もし、森の中で森の賢王と出会ったら……殺さずに、追い払ってほしいんです」

 

 そりゃあ無理だろ!とルクルットが声を上げた。だがンフィーレア曰く、カルネ村が今までモンスターに襲われずに済んでいるのは、ここが森の賢王のテリトリーである為、他のモンスターが寄ってこなかった為だ。

 

 よって、それを倒してしまうと今まで寄ってこなかったモンスター達が森に入ってくるようになり、最終的にはカルネ村も襲われるようになるだろう、という事だった。

 

「話は理解出来たけどよ、流石にそれは……」

 

「いいでしょう」

 

 相手は何百年も生きている森の魔獣。流石に殺さないように追い払うというのは無理だろうと言おうとしたが、まさかの速攻OKを出してしまったモモンに漆黒の剣は驚きの声を上げた。

 

 まぁ、これもまた強者の余裕というやつなのだろう、と納得はしたものの、いったいこの人はどこまで強いんだろうという疑問は解消されない。

 

「その前にこちらから提案があるのですが」

 

「なんでしょう?」

 

「ナーベがアラームに似た魔法を持っているんです。なので、そのあたりを一度見回って来てもよろしいでしょうか?」

 

「もちろん構いませんよ」

 

 では、と二人は森の中に入っていく。ちなみに言うまでも無いがアラームに似た魔法なんてものは嘘である。とりあえず彼らから離れたかっただけに過ぎない。

 

 

「さて、ここまで来れば大丈夫かな」

 

「モモンさん、こんな所で一体何を?」

 

「(そのセリフを聞いただけで邪な何かを連想してしまうのは俺の心が汚れているんだろうか)いやなに……私の名声を上げるための作戦会議と行こうじゃないか。アウラ、そしてぶくぶく茶釜さん」

 

 

「はーい!」

 

「あれ、バレてました?」

 

「っ!?アウラ様、ぶくぶく茶釜様!?」

 

 ナーベが突然の上からの気配に顔を上げると、そこにはアウラとぶくぶく茶釜が木の枝の上で待ち構えているのが見えた。アウラはともかくぶくぶく茶釜の気配にも気付けないとは!とナーベは内心で猛省する。

 

「それで……”森の賢王を既に手中に収めている”っていうのは、どういう意味ですか?」

 

「あー……まあ、色々とあってね……」

 

 

 バツが悪そうにそう言ったぶくぶく茶釜は、木からするすると降りながら、事のあらましを話し始めた。

 

 

 

 

 

『ぶくぶく茶釜様、なんだか変わった魔獣が居ます』

 

「変わった魔獣?」

 

『ええと、銀色の毛皮で、蛇の尻尾を持っていて……私でもなんて名前の魔獣かまでは分からない、とにかく変わった魔獣です。多分この辺りで一番強いんじゃないかと』

 

「へえ……」

 

『とはいえナザリックで使役している魔獣に比べたら全然ですけどね』

 

「あらっ?」

 

 なんだ、がっくり。

 

 とはいえナザリックの魔獣にも勝るものがそうそう居ても困るし、比べれば劣るとはいえ現地の強者である事には変わりないが。

 ともすれば、アウラにその魔獣を手懐けてもらえれば、その魔獣から何らかの情報が引き出せる事もあるかもしれない。人の言葉を話す、という可能性を考慮していなかったのは、魔獣と聞いてイメージするのが普段アウラが使役している魔獣達だった為だ。

 

 ぶくぶく茶釜はひとまずアウラの言う魔獣の元へゲートを繋ぎ、さっそく会ってみる事にした。

 

「な、なんでござるか!?ダークエルフに、スライム……!?我が縄張りに、いつの間に入ったのでござるか!?」

 

「(ええ……?なんでハムスター?)」

 

 

 まぁ、結果は御覧の有様であったが。

 

 

 

 

 誰が件のアウラの説明を聞いて、銀色(っぽい色)の毛皮と蛇の尻尾を持つハムスターみたいなおめめがキュートな愛くるしい魔獣を想像出来ようか。

 

 アウラに非は無いが、なんだか騙されたような気分である。

 果たしてこれを手懐けたとして、モモンガや愚弟にどう説明しろというのか。

 

 ねえねえ、ハムスター飼いたいんだけど、いいかな?……とでも言えと? 

 

 

 

「あ~……縄張り、ってことは、この辺りの森は貴方の支配下にあるという事?」

 

「そうでござる!我こそはこの森を支配する森の賢王!!無断で縄張りに入ったからには容赦しないでござる!今こそ我が力にひれ伏すが良いでござるよ!!」

 

「(嘘……って訳でも無いんだろうなあ、多分。弱いけど、ここらの報告に上がった魔物の中では段違いに強いのは明らかだし)」

 

 はぁ……とどうやってかため息をつきながら、今後のこの魔獣の処分に困るぶくぶく茶釜。いやまあ、まずは殺すか手懐ける必要があるのだが……。

 

「殺しますか?」

 

「いや、この世界に来てからまともに身体を動かしてないから、少しは戦闘の真似事もしないとね。悪いけど、アウラ達は下がっててもらえる?もしもの時は……まあ無いとは思うけど、分かってるわね?」

 

 はあい、と間延びした返事をしながら、その場にあった手ごろな木の枝に飛び乗り、戦闘の邪魔にならないように見物するアウラ。その枝には既にアウラと同じ任務に就いていたマーレの姿もある。

 

「いいのでござるか?2人、いや、3人で来ても良かったのでござるよ」

 

「そういうのはまず私に勝ってから言ってもらえるかしら?三人じゃないと負けた時の言い訳が思いつかないというなら話は別だけど?」

 

「言うではござらんか!ではそろそろ無駄話もここまでして、命の奪い合いをするでござる!」

 

 

 そう言いながら、バッと勢いよく飛び出し、鋭利な爪を繰り出す森の賢王。

 ぶくぶく茶釜は巨体に見合わぬスピードに一瞬だけ目を見張るが……それによって彼女が傷つけられる事は無い。

 

「ぬぅ!?」

 

 森の賢王は、全く避ける素振りが見られなかったのにも関わらず、自分の攻撃が()()()()()事に少なからず驚愕した。

 

 ぶくぶく茶釜はアインズ・ウール・ゴウンの中でも防衛職についているスライムである為、この程度の攻撃ならよしんばまともに受けたとしてもかすり傷一つ負う事は無いだろう。

 そして、防御特化とは言え、かの森の賢王の繰り出した攻撃は、彼女にとってあまりに遅すぎた為、あえて受ける必要すらなく、攻撃を見てから回避余裕でしたといった所であった。

 

「回避する武技でござるか……?ならばこれならどうでござる!」

 

 ぶくぶく茶釜の真後ろに着地しながら、蛇のような尻尾を彼女の居る場所を叩き付けたが、それも彼女には容易く見切られてしまい、地面に穴を空けた程度で終わってしまう。

 

「むむう、スライムの癖になかなか素早いでござるな……!てぇい!」

 

 

 まどろっこしい、とでも言いたげに森の賢王が爪や尻尾を使っての高速の連撃や、その大きな身体を丸めながら高速で転がり、そのままタックル等を繰り出したり、不意打ちで地面から攻撃したりもしたが、全て失敗に終わってしまう。

 

「(懐かしいな……昔もよく、モンスターのヘイトを稼ぐ為にひたすらに攻撃を避けたりしたっけ)」

 

「ええい!避けてばかりでござるか!?」

 

「あら、疲れちゃったの?……じゃあ次は避けないから、全力で叩き込んできなさい」

 

 ほう?と森の賢王は顔を上げる。

 

「ふふん、いいのでござるか?某、遠慮とかしないタイプでござるよ?」

 

「良いから、来なさい」

 

「……流石に舐めすぎでござるっ!!」 

 

 舐めプである、というのは認めるが、ぶくぶく茶釜からすると、ただただ自分の防御力を試してみたかっただけ、というのが本音だったりする。

 

 そして、森の賢王は言葉通り一切の手加減無く、むしろ、自身の知る限りでは最高威力の技……名前など無いが、空中に飛び上がり、大きく回転、その後その回転力を利用、超高速で鞭のように尻尾を叩き付けるという技だ。

 

 無論、隙があまりにも多すぎるのは言うまでも無いが、事威力という点だけ見れば、周囲一帯が地響きで軽く揺れる程の威力である。

 

「【パリイ】」

 

 そして、繰り出された技がぶくぶく茶釜に直撃し……まるで金属同士を叩き付けて弾いたかのような音が鳴り、今度こそ森の賢王は驚愕することとなる。

 

 無理も無い。相手はスライム。スライムと聞いて誰がここまでの防御力を誇ると思うだろうか。

 

「……なんとっ!」

 

 森の賢王は着地しながら、かのスライムにダメージを負った様子が全く見られない事に驚愕の声を上げ、むしろ自分の尻尾の方にズクズクと鋭い痛みが走っている事が信じられずにいる。

 

「成程成程……ちゃんと昔みたいにカウンターも効くようね。この調子なら他の防御系のスキルも問題無さそうね」

 

「まさか……某の技のダメージを、そのまま某自身に跳ね返したのでござるか……!?」

 

「そうよ。獣にしては頭が回るのね」

 

 でなければこれほどのダメージを負うわけが無い、という自信が森の賢王にはあった。それこそ、魔法の武具でも叩き割れるという自負があったのだ。

 

 

「こ、降参でござる……」

 

「あら?まだまだやれそうだけど」

 

「今のが最大威力の技だったでござるよ。それに……今ので某自慢の尻尾が御覧の有様でござる。勝ち目が無いのは自分が一番良く分かるでござるよ」

 

 

 見れば、今のパリィによるダメージの反射によって、そのまま自分の技を受けたその尻尾は、先端が大きく砕け、見るも無残な形となっており、これではまともに振るう事もままならないだろう。

 

「それなら……そうね、ここで死ぬか、私達に忠誠を誓うか、ここで選びなさい」

 

 少しこのまま殺そうか迷ったが、仮にも森で一番の強者が突然居なくなった場合どんな影響があるか分からない。

 それに、殺したとしても……精々が、あの毛皮をアウラが欲しがっているという程度だったか、それ以外の活用方法が思い浮かばない。

 幸い頭は見た目ほど悪くないようだし、従うというのであれば荷物運びくらいにはなるだろう。人手は多い方が良い。

 

「……忠誠を、誓うでござる。某、子孫も残さないまま死ぬわけには行かぬ故に」

 

「そう。それじゃあ……とりあえずはあなたはこのままこの辺りを支配下においておけばいいわ、何かあればこっちから連絡するから」

 

「連れて帰らないんですか?」

 

 

 事が終わったのを見て、トン、と着地しながらそう尋ねるアウラ。

 

「ええ、まあ……今更だけど特にやってほしい事がある訳じゃないし、ただ単に軽く運動がしたかっただけだから」

 

「う、運動……某との命の奪い合いが、運動……ま、まあ、そういう事なら某、ここで姫からの命令が下るのを待っているでござるよ!……ところで、まだ名前を聞いていなかったのでござるが」

 

「ぶくぶ……いや、ウールよ。以後そう呼びなさい」

 

 

 こうして、偶然にもモモンガが森の賢王の噂をしていた同時刻、件の森の賢王と対峙……し、そして圧倒的な勝利を収め、服従に成功した。

 

「……一応、モモンガさんにも報告しとくか……めっちゃ気が引けるけど」

 

 

 そして時は現在へ戻る。

 

 

 そして、森へ入る直前に、「そういやモモンガさんもこの辺に来てるんだっけ?」と思ったぶくぶく茶釜は彼にメッセージを入れた。森の賢王っていうのを服従させたんですけど、コイツどうします?と。

 

 

「……という事なのよ」

 

「なるほど……まぁ、経緯は分かりましたが、どうしましょうかね……本来なら森の賢王の足でももぎ取って倒した証にでもするつもりでしたが、ぶくぶく茶釜さんのペットになったっていうなら、悪戯に傷つけるわけにもいきませんよね」

 

 そう、本当だったらモモンは森の賢王という魔獣を撃退する事で更なる名声を得ようとしていた(実在しなければこちらで偽者を用意するつもりだった)のだが、既に服従を誓っているなら、殺すのももったいない気がする。

 せっかくの現地の魔獣、しかも口が利けるというおまけつきなのだから、色々と情報が手に入るかもしれない。

 

 力でモモンが服従させた事にでもするか、と思案していると、ぶくぶく茶釜が口(?)を開く。

 

 

「(まぁ別に手足をもいでもいいけど)……ねえ、名声を高めるのが目的なんだよね?」

 

「え?ええまあ」

 

「それなら、こういうのはどう?」

 

 

 

 

 

 

 

 ズズン、という地響きがカルネ村付近の森に響き渡り、薬草を採取していたンフィーレアや漆黒の剣、そしてモモン達の元に届いた。

 

「まずいな……! デカいのが近づいてくる! しかも、この足音は……!()()()()()()()!」

 

「何!?森の賢王は一体じゃなかったのか!?」

 

「他のモンスターと争っているのか?あるいは、子供でも生まれたか……チッ!魔獣複数体に俺らじゃ太刀打ちできねえ!」

 

 一気に騒然とし、緊張が走る一行。そんな中、地響きが聞こえる方向から皆を守る様にして二本の大剣を構える一人の男の姿があった。

 

 

「……皆さんは先に森の入り口へ戻ってください」

 

「あ、あんた一人で相手するっていうのか!?流石に無茶だ!」

 

「大丈夫です。私もこんな所で死ぬつもりはありません。後から必ず追いかけますとも」

 

 

 この御仁は一体どこまで度量があるというのか。普通、どんな英雄でも、二体以上の魔獣を相手に生き残る事なぞ不可能だ。おそらく、後から追いかけます、とは彼の本心。つまり、自分たちが逃げるだけの時間を稼いでやる。そう言っているのだろう。

 

 現状、漆黒の剣の面々が残ったところで、彼の足手まといにしかならないのが事実。

 

 彼らは断腸の思いで先に戻る事に決めた。

 

 

「モモンさん!……無理はしないでくださいね!」

 

「ええ、もちろん。さ、早く」

 

 

 ンフィーレアと漆黒の剣の一行は言われるがまま、森の入り口へと駆けていく。

 黒い鎧を着こんだ御仁が、無事に帰ってくる事を祈りながら……。

 

 

 

 

 

 

「……で、これが森の賢王ですか?」

 

「言いたいことは分かるけど、事実なのよね~」

 

「その通りでござる!某は森の賢王と呼ばれる魔獣でござる!」

 

 

 連れて行くにしても、流石にコイツを連れて行くのは……ちょっとやだなあ……でもそうするしかないしなあ……とモモンはため息をついた。

 

 折角だから、森の賢王との戦いをもっと苦戦だったぽく演出しない?相手の数増やすとか!とぶくぶく茶釜が提案した事から始まるこの作戦は、至ってシンプルだ。

 

 まず、アウラが持つ魔獣達&森の賢王で漆黒の剣とモモンが居るところまで全力疾走する。

 

 すると音で気付かれるので、足止めをモモンが買って出る。これにより漆黒の剣と一時的に離脱。

 

 そして合流。

 

 この際、モモンは手持ちのアイテムの中から、ごく当たり前のように所持していた魔獣の身体の一部を取り出し、それを「森の賢王と縄張り争いをしていた魔獣の物」と称し、それを持ち帰ることに成功したことにする。

 

 そして、縄張りを供に守ってくれた者であり、剣と爪を交えた戦友として、森の賢王はモモンに付き従い、供に戦う事を誓った。

 

 ……というバックストーリーをでっちあげ、特にそんな理由は無いがぶくぶく茶釜の命令で従属を誓っている森の賢王を連れて帰れば、モモンは2体居る内の一体を討伐しもう一体を従属させることに成功したともなれば、かなりの名声が手に入るはずだ。

 

 ……実際にはそんな事が成し遂げられるような人物は希代の大英雄扱いされそうなものだが。

 

 ちなみに、森の賢王には既にぶくぶく茶釜とモモンガが主従関係ではなく対等な立場であり、ナザリックという大墳墓の主人であることや、その大墳墓に住まう者達については説明済みである。

 

 森の賢王はそれを聞いて「それを聞く前に会って居たら失礼をかまして死んでいたかもしれんでござるな……」と、肝を冷やした。

 

 

「(よくこんなバックストーリーを考えつくよなあ、あの人)」

 

「え~と、それで、何と呼べばいいでござるか?」

 

「好きに呼べ」

 

「えっ!?(こんな獣風情がモモンガ様を好きにお呼びできるだと……!?)」

 

「では殿と呼ばせてもらうでござる!」

 

「……ちなみにお前は?」

 

「某も好きに呼んでいいでござるよ!」

 

「そうか(うーん……この見た目だし大福……いや、まんごろ?)」


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