~ナリタ日本解放戦線本部~
「何だと!?もう一度言ってみろ、桐島一等兵!!」
「落ち着け、草壁」
「いや、ですからぁ」
自分より明らかに身分が高いと思われる上司に怒鳴られているにも関わらず、飄々とした態度を崩さずに桐島彰は答える。
「止めましょうって、こんな作戦。成功するわけありませんし、成功したって馬鹿な貴族が数人死ぬだけです。メリットの割りにリスクが高すぎますよ」
「何をバカな!そうすれば、日本解放戦線の存在意義を日本人に主張できる!」
「それで?」
だから、どうしたと言わんばかりに桐島は続ける。
「主張してどーすんですか。こんなことすれば、クロヴィスも黙っていない。掃討作戦が始まります。ガチンコでブリタニア軍とぶつかります?まあ、勝つ見込みはないわけじゃありませんけど、勝率は低い。片瀬少将はそーゆー作戦は好まんでしょう。」
しれっと当たり前のことのように桐島は続ける。
その言葉にいよいよ堪忍袋の緒が切れたのか草壁は腰に下げた自らの日本刀を手に取った。
「言いたいことはそれだけか?己の命が惜しい臆病者は日本解放戦線にはいらん!この場で切り伏せてくれる!」
日本刀を手に取った草壁に対して事態を静観していた周囲の人間も流石に止め始めた。
「止めろ、草壁中佐!」
「藤堂!何故止める!」
「ここは仲間を粛清する場ではない。皆で話し合う場だ!桐島は自分の意見を述べただけだ!桐島!お前も口が過ぎるぞ!今すぐこの場から出ていけ!」
「しょーちしました」
藤堂の言葉で桐島はスタスタと扉の方にまで歩き、大人しく部屋から出ていった。
「あー、肩がこる」
会議室を追い出された俺はグルグルと肩を回しながら1人呟く。やっぱり俺には集団行動は合わんのかねぇ。そんなことを考えていた俺に声をかける物好きがいた。
「よう、またやったなバカ」
「そのバカに声をかけるあんたも相当だろ卜部さん」
そう言って笑いながら俺の隣に並ぶ。完全に組織で浮いてる俺に話しかけるのなんてこの人くらいだろう。
もしくは仙波さんか藤堂さん。千葉さんと朝比奈さんには嫌われてるから小言しか言われない。
まあ、千葉さんは分かるけど朝比奈さんは何故嫌うんや。何、ホモなの?
「そんなこと考えてるから、嫌われるんだよ」
「何故分かる」
顔に出過ぎだと更に笑われる。まあ、好き放題やってるのに藤堂さんに認められてるお前が気に食わんってのもあるだろうけど。そんなことを言いながら持ってきていたコーヒーを飲む。(もう片方の手には俺用のコーヒーがあった。うーん、イケメンや。顔以外。)
「お前があそこまで止めたってことは今度の作戦そんなに勝ち目がないのか?」
「藤堂さんがやるなら、多少はあるけどね。草壁さんには荷が重すぎでしょ」
「勝率を表すならどのくらいだ?」
「俺が千葉さんに告白して成功する確率くらいだな」
「つまり、ないってことだな」
何と失礼な。当たってるけど。いや、ワンチャン…ないな。
まあ、あの片瀬少将が大切な藤堂さんをこんなことに使う訳ないけど。藤堂さんがいなくなったら、この組織持たんしな。
「お前が手伝ったらどうだ?メンバー的にお前も選ばれる可能性高いだろ」
「あの草壁さんが俺の意見を聞くと思う?」
「…無理だな」
「でしょ?」
あー、憂鬱だ。負けると分かっている戦いに行かなくちゃならんとは。
「まあ、元気出せ!まだ結果が決まってる訳じゃないんだからよ!」
そう言って卜部さんはバシッと俺の背中を叩く。卜部さん知ってる?それって死亡フラグって言うんだぜ?
「まあ、こうなるよな」
作戦は失敗。目的の貴族を1人に怪我を負わせたくらいで部隊はほぼ全滅。
草壁さんは生き延びたみたいだが。自分の命を惜しむ人じゃないし、悔しいだろうなぁ。
俺?死なないように一番逃げやすい位置にいたよ。お陰で生き延びたよ。とはいえ…
「下水道から逃げなきゃならんとは…まあ、死ぬよりマシか」
くそ、この包囲網じゃ二、三日はゲットーまで行けんから租界にいなきゃいけんのに、この匂いはマズイ。安心できる場所まで来たら風呂に入ろう。って、ん?
「子供?しかもブリタニア人か?」
歩いてる先に倒れてる女の子を見つけた。死んでるかと思ったが、息をしてる音が聞こえることから生きてるらしい。どう考えても荒事をする身なりじゃないし、どうやらテロに巻き込まれたか。
くっそ、誰だよテロなんてしたのは。俺らだよ、チクショウ。
このまま放っておくのは罪悪感的な意味で俺の心が持たない。しょーがない。助けるか。
「おい、大丈夫か?しっかりしろ?」
「…ん?…お兄様…じゃ…ない?」
んなもん見れば一目瞭然…ってこの子目が見えないのか。
「残念ながら俺はお兄様じゃねーな。だから、そのお兄様の所まで連れてくよ。歩ける?」
「あの…すいません。私足が…」
目が見えなくて歩けない上にテロに巻き込まれるとは…運が悪い何てレベルじゃねぇ…
「んじゃ、おんぶして送ってやるよ。ちょっくら揺れるよ?」
「は、はい。ありがとうございます!えっと、あなたの名前は…?」
「俺?俺か?んーと」
本当の名前を言って良いものか。まあ、いーや。バレても困らんし。
「桐島彰だ。嬢ちゃんは?」
「桐島さんと言うのですか。私はナナリー・ランペルージと言います。あの…桐島さんはどうして私を助けてくれるのですか?」
これが俺とナナリーの出会いだった。そして、これがきっかけで俺の運命を変える究極のシスコンと出会うことになるのである。
何てことを今の俺は全く知る由もないのだった。
「いやまあ、この爆破事件を起こしたの俺たちだからね。罪悪感ってやつ?」
「え!?」
とりあえずは、ここまで。
続くかは未定です。