「分かってはいたが、ここまで圧倒的とはな」
ルルーシュはゼロの仮面の下でため息を吐く。
解放戦線がコーネリアに勝てないであろうことは最初から分かっていた。分かってはいたが、ここまで手も足も出ないとは思わなかった。
ナリタの戦場が見通せる位置にいるルルーシュだからこそ分かる現実。まるで勝負になっていない。解放戦線は彰や四聖剣、他の使える人材がことごとく別の場所に移動させられ、飛車角落ちで戦っていると分かってはいてもこれは酷い。
早く動かなければ、囮にするはずの解放戦線が全滅してしまうだろう。
「お、おい、ゼロ。何だよありゃ!?」
そんな折に、未だに事情を知らない玉城から悲鳴に近い反応が寄せられる。事情を知らない他の面々も同様の感想を抱いているだろう。
しかし、これは予想通りの反応。この状況であれば、何も知らなければ玉城でなくとも声を上げるだろう。
人間の心理として、先に文句を言った者を論破すれば他の人間は文句を言いづらい。
つまり、玉城さえ論破すればそれで問題ないという状況になったわけだ。
「ブリタニアの解放戦線への攻撃だ。こうなってしまっては、ここにいる我々もブリタニア軍を何とかしなければ逃げられないな」
「ふ、ふざけんな!ゼロ!テメェわかっててやってたのかよ!」
「無論だ。まあ、解放戦線がああも呆気なく追い詰められるとは思っていなかったがな。ここから逆転したら奇跡だ」
「奇跡なんてそう簡単に起こるかよ!やっぱりテメェなんか」
正史では、ここで玉城がゼロに拳銃を向けようとする…が、ここではマーヤが一足先に動き玉城の足を崩し、倒れ込んだところを背中から押さえて動けなくする。
「な、何すんだ百目木テメェ!」
「こっちのセリフです。勘違いしているようですから教えてあげます。今、玉城さんがこうなっているのはゼロの仕業なんかじゃない…玉城さんの選択なんですよ?」
「な、何言ってんだ!そんなわけねぇだろうが!」
「そんな訳あります。だって、ゼロを信じてここに来たのは玉城さんですよね」
最初からゼロを信じていなければ此処に来なければ良かった。更に言うのであれば、黒の騎士団に入らなければ良かったという話にも派生する。
ナリタに来たのも、黒の騎士団に入ったのも、紛れもなく玉城の選択だ。
「ゼロを信じて此処に来た以上、ゼロを信じるしか道はありません。その文句をゼロに言うのはお門違いです」
「だ、だけどよぉ」
「この作戦が失敗したら、その時はゼロを追求すれば良いんです。つまりはね、玉城さん」
瞳孔を全開に広げた状態でマーヤは額と額が触れる直前まで近づき、玉城と視線を合わせる。
「これは貴方が始めた物語でしょう?なら、最後まで続けないと」
「そ、そうですね」
美少女と至近距離で見つめ合っているにも関わらず、玉城の顔には喜びが見えないどころか、脂汗をかいて引き攣っている。その心情は恐怖で占められていた。
「ねぇ、本当はアイツの名前ってマーヤ・ディゼルじゃないでしょ。イェーガーの血が入ってるでしょ」
「それはない。血筋は徹底的に調べた」
「いや、そんなもん関係ないわよ。もうイェーガーよ、何ならエレンよ。始祖の力秘めてるわよ」
ゼロとカレンがそんな会話がしている中、マーヤの言葉は続いていく。
「玉城さんは納得してくれたようですね。他の人たちはどう?ここでゼロ以上の実力を出せる自信がある者は名乗り出なさい。そうじゃないのなら…この場は従え!ゼロにかけた自分を信じろ!」
「「「イ、イエス・マム」」」
玉城との会話を聞いていた他の人間が刃向かえる訳もなく、これで良いのかは分からないが…とりあえずゼロに対する反対意見は無くなった。
その結果を扇は顔を引き攣らせながら、一応ゼロへと伝える。
「ゼ、ゼロ。マーヤのお陰で反対意見は無くなったようだ」
「そうだな」
本来であれば拳銃を玉城達に渡して、自分を撃ってみろと言うつもりだったのだが…その必要が全く無くなった。
「そうだなじゃないでしょうが!アンタへの尊敬とかカリスマとかじゃなくて、マーヤへの恐怖心で一致団結しちゃったけど!?どうすんのよアレ!?」
ゼロの胸ぐらを掴みながら、カレンが至極当然の反論をするがゼロとて完全に予想外の結果なのでどうしようもない。
「全ては結果が証明する。結果としては問題ない」
「いや、問題しかないけど!?どうすんのアレ!?このままだと、黒の騎士団じゃなくて調査兵団になるわよ!?壁外調査行き出すわよアレ!?」
「カレンが何とかしろ。一応、講師担当だろう」
「いや、無理だから!あんな純粋培養の異常者どうしろってのよ!?後天的教育で何とかなるわけないでしょ!?」
カレンは必死に食い下がったが、時間もないことからこの問題に関しては放置され、結局カレンが何とか教導することとなった。泣いて良いと思う。
「行くのか?」
「ああ」
軟禁された部屋から出た彰は、正面にいたアキトの声に迷いなく言い放つ。
「今から行ってもお前にできることはほとんどないだろう」
「そうかもな」
そこに否定の材料はない。
「仮に何かできたとしても、戦力差は圧倒的だ。そんな終盤で救えるものなどほとんどない」
「だろうな」
そこにも否定の材料はない。圧倒的な戦力差の中、個の力などたかが知れている。
「それなのに、お前が足を止めない理由は何だ?そこに何がある?」
「何も」
解放戦線の中でも彰のことを気にかけてくれている連中は藤堂さんや四聖剣など含めてもごく僅かだ。
しかも、その殆どーもしくは全員ーが既にキョウトの命令で、ナリタから隔離されているだろう。
今ナリタにいる解放戦線のメンバーで彰が命をかけて守る理由があるような人はいないと言っても過言ではない。
だがーそれは、彰がそこに行かない理由にはなり得ない。
「何もねーよ。熱血で、そんな所に行くようなキャラでもねぇ。昔のお前と違って死にたがっているわけでもねぇしな」
「解せんな。なら、お前はなぜそこに行く?」
「行かなきゃ俺が死ぬからだよ」
肉体的には死なないかもしれない。しかし、行かなければー何もせず、仮にも仲間を見殺しにしてしまえば桐島彰は桐島彰ではなくなる。
それは言ってしまえば、死と変わらない。
「確かにあの人たちは俺に何かしてくれた訳でもねぇ。むしろ、邪魔者扱いされたことの方が多いだろ」
それこそ、草壁中佐のように彰が本当の意味で生きられることを願って教育や戦略を叩き込んだわけでもない。
「だけどなーそれでも、仲間だ」
しかし、それでも仲間なのだ。彼等は彰にとって未だに仲間なのだ。
「そんな奴等を見殺しにして、俺だけが安全圏にいて生き延びても…そこに何が残るよ?」
何も残らない。そこにあるのは肉体があるだけの抜け殻だ。
「自己満足に過ぎなくても、その自己を貫くのが俺の生き方だ」
何処までもエゴイスチック。自由気まま。自分勝手。だが、それが…桐島彰の生き方。
ブリタニアも日本もーコーネリアもゼロもかぐやも関係ない。
「前から言ってんだろ?俺は俺のルールで生きてんだよ」
どんな状況でも前を向き、自分が成したいことを成す。
そんな彰の覚悟にー生き方にーアキトは思わず目を閉じる…眩しいものから目を背けるように。
そうだ。この男はそうなのだ。空気を読まず、思惑を読まず、周りの意思も構わない。
そんな生き方を自分はー鬱陶しく思ったのだ。
自分の小ささを自覚してしまうから。
「相変わらず、鬱陶しいなお前は」
「何時までもくだらねえことに囚われてるお前の性格が原因だろうよ」
そこまで言うと、彰はアキトの隣を通り過ぎ…ようとした所で足を止める。
「そうだ。戻るついでに、あのロリ姫に伝えといてくれ」
「行きましたか」
「はい」
「例の物は彰様に?」
「仰る通りに」
アキトからの報告を聞いたかぐやは、聞こえないように僅かに、ため息を吐く。
どうやら、アレはきちんと彰に渡っているようだ。無駄にならなくて済んだのは、とりあえず良かった。別にこれで、軟禁した件がチャラになったとは思わないが。
軟禁を成したのは自分とはいえ、成した行為に後悔がないかと聞かれればーあると答える。
かぐやの本心としては、彰を軟禁などしたくはなかった。
だが、かぐやは自分の本心では生きられない。自分の立場が邪魔をする。
日本開放を最終目的と考えれば、ゼロであろうとなかろうと桐島彰は必要な戦力だ。こんな無意味な戦いで、失うリスクなど犯せない。
彰がそんなことを望まないとしても、恨まれたとしてもかぐやは成し遂げねばならなかった。
その結果として、友を失うことになったとしてもだ。
「彰様は何か言っていましたか?」
「一言だけ残していきました」
「何と?」
せめて、恨み節だけでも言って欲しい。それで自らの罪が許されるなどとは思わないが、かぐやはそんな思いを持って問いかけた。
「次は美味しい茶を用意しておけ、だそうです」
アキトの言葉にかぐやは目を少し目を丸くし、すぐに苦笑する。
「流石は彰様ですね」
自分の立場も思いも理解した上で…責めてさえくれないのか。
ある意味とんでもなく厳しい人間だ。
「かぐや様の想いも組めないような人間なら、俺がEUで既に殺してます」
「そうですね」
『次』があるということだ。『次』も会ってくれるということだ。その上で…かぐやが成すべきことを成せ…ということだ。
「あんな言葉…聞かなければ良かったですね」
かぐやの脳裏に彰からの言葉が蘇る。
『別に俺はブリタニアも日本も信じちゃいない。為政者なんてどいつも腐敗まみれだろうし、自分のことしか考えてないだろ…だけど…お前の国なら…住んでみたいとおもったよ』
彰の過去に何があったか、かぐやは知らない。けれど、相当のことがあったのだろうことは想像がつく。その上で、自分の国に住んでみたいと言ってくれたのだ。
何という人たらしだろう。アレでは、まるで呪いだ。
彰の期待に応えたい…応えなければならないという呪い。本人の自覚の有無は不明だが、どちらにせよタチが悪い。
「とにかく、こちらから一方的に負い目があるというのは気持ち悪いですね」
そう言うと、かぐやはチラリとアキトを見る。
「アキト。少しお使いを頼まれてくれませんか?」