「ちっ!まさか、姉上が初手で自分の隊以外の人員を使用するとはな!」
ルルーシュは思わず舌打ちをする。コーネリアのプライドとして、特派所属の白兜を積極的に使用することはないと考えていたのだが想定を覆された。
こうなってしまっては、白兜の対処はカレンに任せるしかない。
心配でしかないが、このレベルでの戦いでは中途半端な援護では返ってカレンの邪魔になる。
この場での最善手は、一刻も早くコーネリアを捉えてマーヤをカレンの援護に回すことしかない。
「カレン!こちらは全力でコーネリアを捕らえる!絶対に無理をするな!足止めに徹しろ!」
「了解!」
指示に不満はないが、不安はある。マーヤの実力を過小評価するわけではないが多少の援護が入ったとしてもあのコーネリアを相手に、苦戦を強いられない訳がない。
であれば、可能であれば自分もそちらに加わることが最善であることに疑いはない。無理をする気はもちろんないが。
突如、白兜がーランスロットが動き出す。その動きはまさに疾風。間の空間を無視するかのような動きは、並のパイロットであれば反応することすら難しい…だが、紅蓮はー紅月カレンは並のパイロットではない。待つ才のみではなく、現時点の実力でもエースと呼ぶに相応しい逸材である。
即座に反応したカレンは切り付けられるMVSを受けることなく、回転しながら回避し、その勢いを利用して右腕をランスロットに叩きつけようと試みる。
近づいてくるその右腕を本能的に警戒したスザクはランスロットの驚異的な運動性能を如何なく発揮し、ヴァリスを叩き込みながらその反動で後ろへと後退する。攻防一体のその動きには、相手方であるカレンも素直に尊敬する。スザクからすれば、そのヴァリスを難なく躱したカレンも十分異常ではあるのだが。
(黒の騎士団の新型機…?パイロットの腕前も含めて尋常じゃない)
(流石は白兜のパイロット…見たことないはずなのに、初見で輻射波動を警戒した)
奇しくも、両者は同じタイミングで互いを認める。しかし、時間はかけていられない。スザクはコーネリアを護られなければならない。時間をかけてはいられない。
近接戦を警戒したのか、ランスロットは紅蓮の間合いに近づかない。間合いの外からヴァリスやMVSで戦うことを選択する。紅蓮の右腕を警戒しての行動だ。
紅蓮は紅蓮で近づこうとはするのだが、ランスロットの運動量に太刀打ちできない。機体自体の差はそこまでではない。しかし、カレンとスザクの経験の差が差を生む。少しずつだが、確実に紅蓮のダメージは蓄積していく。
(分かってたことだけど…私より確実に強い…)
彰からも言われていたこと。現状では、カレンでは白兜に勝てない。分かっていても腹ただしい。
だが、そんなことでは実力差は埋まらない。ヴァリスの攻撃を簡易版の輻射波動で防いだが、防ぎきれず後方へと吹き飛ばされる。ダメージは大きい。
「痛たた…」
「投降しろ。命まで奪う気はない」
「アンタは奪う気なくても、コーネリアは奪う気満々でしょうが…」
コーネリアが殺す気である以上、投降に意味などない。意味があってもする気はないが。
「ちゃんと法廷には立てるはずだ。その結果、死刑だとしてもそれがルールだ」
「アンタ、それ説得する気あんの?」
機会音のような声で聞こえるので、性別すら分からないが話している相手の神経を疑う。そんなことを言われて投降するバカなどいない。
しかし、不思議と会話が成立している。ダメージの軽減の時間稼ぎも兼ねて気になっていたことを聞いてみる。
「アンタさぁ…そんなに強いのに何でそんなことしてんの?何で戦ってるわけ?」
彰から聞いた話だが、特派というのは特殊な位置付けにあり、白兜のパイロットはその一員。特に出世などできるような立場ではないらしい。
「僕は僕にできることをやるだけだ」
「それがその立場?ボロボロの日本人を虐殺して楽しいわけ?」
「それは君たちが体制に叛逆しているからだ。理不尽なことが多いのは理解しているが、今は耐えるべきだ。それがルールだ。僕はそのルールのために戦う」
その言葉はカレンの琴線に触れる。思わず、語気が強くなる。
「はっ。つまんないやつね、アンタは。ただ強いだけよ」
「良く言われるよ」
自嘲するようにスザクは呟く。
「勘違いしないでよ?別にアンタがルールに従うってことに異論はないわ。誰だって、多かれ少なかれ何かのルールの下で生きてる」
カレンは白兜のパイロットースザクーの生き方を否定しない。ルールというのは、従うことで自分もルールに守られる…スザクが果たして守られるかどうかは微妙だがルールとはそういうものだ。
「ルールに従うのは構わない。ただ、私が聞いたのはアンタが何のために戦うのかってこと。ルールに従うのは考えの結果よ。アンタが戦う理由じゃない。それじゃ、アンタは他人に流されてるだけよ」
ルールのために戦っていては、そのルールが変わった時にまた別のルールのために戦わなければならない。そこには自分の意思がないー信念がない。
「自分が戦う理由を他人に求めるような奴が」
崩れかけていた紅蓮の足が立ち上がる。実力差があっても、勝てないとしても、それでは紅蓮は…紅月カレンは砕けない。それは、諦める理由にならない。
「私の邪魔をするな!」
そこにあるのは不屈の意思。想い。紅蓮に乗っているため、姿は見えないがスザクはそのパイロットーカレンから放たれるそんな強さに思わず尋ねる。
「どうして…君はなんでそこまでして戦う?そんなに戦いが好きか?」
「私は誓っただけよ。絶対に守るって。絶対に死なないってね」
「誓いだって?誰に?」
「誰でもないわよ」
カレンの脳裏に当時の記憶が蘇る。
『この先何があるか分からないけど、私はあんたの夢に協力する。あんたの側に居続ける。それが私が私に誓った誓いよ』
勝手に誓った誓いがある。約束がある。
「ただ、私の…」
『それは命令とか条件じゃないわよ。そういうのは約束って言うのよ。約束しましょう。私は死なない。アンタも死なない。これが約束よ』
拳を突き合わせた記憶がある。
それは紅月カレンが戦う理由になって余りある。
「魂にだ!」
紅蓮が再びランスロットへと接近を試みる。先ほどの二番煎じ。しかも、紅蓮は損傷している。近づくことすら、無理なはずだった。
それは先ほどまでの紅蓮ならば、という話である、
「速度が上がった!?」
紅蓮の右腕がランスロットに掠るようになっている。信じられない現象に流石のスザクも驚きの声を上げる。あり得ない。機体の損傷が加わっている状態で、速度など上がるわけがない。もちろん、思いの力で実力が底上げされた訳でもない。確かに、思いの力というのは前日にも存在する。メンタルトレーニングなど、トップアスリートの必須技能だ。しかし、これだけの速さの上昇はそんな理由だけでは説明がつかない。
現在のところ、紅月カレンでは枢木スザクに勝てない。経験の差がありすぎる。その前提は変わらない。
しかし、紅月カレンが枢木スザクに勝てる部分が確実に存在する。
(違う!?ナイトメアの速度自信は上がっていない!無駄な動きがなくなっている!)
カレンが紅蓮に初めて乗ってから一月も経っていない。当たり前の話だが、大枠で言えば、初心者といって差し支えない。その初心者がこの状態でランスロットと戦っている。その極限状態の命の奪い合いがカレンの才能を開花させる。始まった当初、いや、一分前のカレンよりも今のカレンの方が強い。凄まじいほどの潜在能力。凄まじいほどの適応能力。
スザクの背中に冷や汗が流れる。スザクは今まで死んでも良いと思って戦っていた。だが、それにはスザクは強過ぎた。誰かのために、身を挺して命を投げ出すことはあっても、戦闘において命の危機に晒されるようなことは一度もない。そのスザクが初めて対面する自身に並ぶ才の持ち主。初めてスザクは戦場で自分の命に手が届く存在と出会った。
「捕まえたぁ!」
紅蓮の中でカレンが雄叫びを上げる。遂に右腕のブレイズルミナスを通してとはいえ、ランスロットをまともに捕まえた。
即座に発動する輻射波動。ブレイズルミナスの防御力を貫通して、ランスロットにダメージが入る。
天才であれば、ここで崩れる。だが、枢木スザクは壊れている。
「コイツ右腕を!?」
紅蓮の攻撃に危機感を覚えたスザクは反射で捕まえられている右腕を捨てる。スザクは自分の命に頓着しない。初めて自分の命に手が届く存在に出会ったとしても、冷静に最善手を選択する。右腕のカラクリを見破ったスザクは紅蓮の右腕を壊そうと動き出す。
その選択に間違いは何もない。間違いなく最善手だ。
「そうよねぇ…アンタならそうするわよね!」
カレンはそれを読み切り敢えて自らランスロットのMVSに右腕を差し出す。
最善手こそ、読みやすい。カレンはこの瞬間を狙っていた。経験や損傷具合から考えても、カレンがスザクに勝てる可能性はこの瞬間を置いてない。カレンはこの瞬間に全てをかけた。
「正気か!?」
それはスザクをして正気ではない。一歩間違えれば、そのまま敗北に直結する博打行為。
スザクは死んでも良いと思って戦っている。だが、カレンは生きる為に。勝つ為に戦っている。その違いが、僅かの差を生む。
勝つために戦っていないスザクでは、負けても良いとどこかで思っているスザクでは勝つために全てを賭けられない。
「歯を食いしばれ!」
紅蓮の左腕が攻撃後の硬直中のランスロットへと突き刺さる。その攻撃は確実にランスロットに致命的なダメージを与える。
だが、相手は枢木スザク。
「このぉ!」
神技のような脊髄反射で紅蓮の攻撃を軽減する。深刻なダメージ。だが、致命的ではない。
対して紅蓮はこの攻撃で右腕を失っている。加えて他の部分の損傷も著しい。不利なのは明らかだ。
しかし、一瞬の隙をつき紅蓮のスラッシュハーケンがランスロットの周囲の崖に突き刺さる。響く、破壊音。予測される未来。それを避けるために、ランスロットは先ほどの紅蓮の攻撃によるダメージで機動力が死んでいる。動きには僅かのラグがある。
そのラグが結果を左右する。
「悪いけど、この戦いの勝敗はアンタに勝つことじゃないのよ」
カレンはそれをわかっている。勝てない戦い。ならば、負けなければ良い話。負けないためにカレンが選んだ最善の一手。
ランスロットの近くの崖が土砂崩れを起こす。もう間に合わない。ランスロットの身体が崖下へと消えていく。
「覚悟しときなさいよ。次はタイマンで勝つから」
紅蓮が残った左手を掲げる。
勝者 紅月カレン
何か主人公が誰だかわからなくなってきた…