「カレン!無事か!」
「見て分かるでしょうが!谷底に突き落としてやったわよ!」
ルルーシュはカレンの無事な姿にとりあえず安堵するが、どう見てもボロボロである。とてもではないが、コーネリアとの戦いに参戦できる状態ではない。
ルルーシュはそれを踏まえて思案する。とりあえずこの場は5分だが、決め手にかかる。
(マーヤも奮戦はしているが…流石はコーネリア…攻めきれん。加えて、親衛隊も邪魔だ。一騎、一騎が簡単にはいかん)
加えて、強がってはいるがカレンの怪我も軽くはないことも分かっている。白兜と戦ったのだから、当然といえば当然だが無視して良いレベルではない。更に加えれば、時間の経過は騎士団の不利になる。時が経てば、他の親衛隊の連中もコーネリアの近くに続々と集まってくる。
(ここまで追い詰めて癪だが…潮時か)
ルルーシュは退き時が分かっている。当然取れるリスクは取るが、無駄なリスクは取らない。今引き上げれば、最小限の犠牲で切り抜けられる。コーネリアを打ち取れる確証がない現状では、それが妥当だった。
「カレン。撤退の準備を開始しろ。親衛隊の何人かはカレンをフォローだ」
「何言ってんのよ!アンタより先に逃げるわけないでしょ!」
「それだけボロボロで何を言っている!」
「これでもアンタよりは動けるわよ!」
もしかしたら、ではなく間違いなくそうではあるので反論はできないがそれでも怪我人の退避が優先であることに違いはない。
「これは命令だ!百目木。お前は隊を率いて、コーネリアを足止めしろ。カレンの撤退が完了したら、お前たちも撹乱して撤退を…」
そこまで言ったルルーシュは上空から羽音のような音が聞こえることに気がついた。
思わず、顔をあげる。
「飛行船…?このタイミングで…?」
「いやあ、見事に意味がなかったね」
「何も起こらないなら、その方が良いだろ。土砂崩れが起こってるのを見た時は流石にびびったけどな」
リョウとユキヤは他人事のように感想を述べている。
事実、彼等はコーネリアとの戦闘に全く参加しておらず、ただ避難誘導をしていただけなので危機感などあるわけがない。その避難誘導も土砂崩れの収まってからは進捗が芳しくはないのだが。
「たく…逃げろって言ってんのに、本当にヤバい位置にいる連中以外は言うこと聞きゃしねぇ」
「まあ、別に政府筋でもない日本人が逃げろって言ったって危機感ない奴等なら聞くわけないよねぇ」
「言うな、虚しくなる」
女性の言うことなら少しは聞く人も多少いるので、アヤノは今も説得に当たっている。
「確かに、もう土砂崩れが収まってるから言うこときかない奴の気持ちはわかるんだけどな。避難するのも面倒だろうし」
「本当は避難した方が良いんだけどね、暫くは」
「あん?」
ユキヤは、ぼーっとナリタを見ながら続きを話す。
「ゼロの策略で起こったとはいえ、土砂崩れなんて自然現象だよ。完璧にコントロールなんて誰もできない。収まってる土砂崩れがまた始まったって不思議でもなんでもないからね」
「調べたお前が言うならそうなんだろうな」
恐らく、ゼロ意外で1番今回の事象に詳しいのがユキヤだ。そのユキヤが言うなら、そうなのだろう。とは言え、だからと言って事態を好転させる方法も思いつかないが。
「さて、休憩終わりだ。アヤノにだけ働かせてないでとっととやるぞ」
「はいはいと」
二人も再び避難誘導を開始する。とは言え、権力もない二人が加わったところで進捗は芳しくないのが現状ではあった。
「ん…?待て、電話だ」
「誰から?」
「…」
「リョウ?」
無言で顔を引き攣らせて携帯を見るリョウにユキヤは首を傾げる。
だが、リョウはそれどころではない。携帯に示される送信元。先日、無理やり登録されたピンク色のヅラ少女の名前がそこにはある。
ユーフェミアという名前がそこにはある。
(第三皇女かよぉぉぉぉぉぉぉぉぁぉぉぉぉぉぉ!!!)
〜リョウが電話に出る5分前〜
「付近の隊員はランスロットの救助に向かってください!無事だとは思いますが、念の為に」
「ユーフェミア副総督!今は、イレブンに構っている場合では」
「彼は大事な戦力であり、仲間です!見捨てるなんてあり得ません!」
ユーフェミアは周囲の文官の意見に頑として言い返す。イレブンだろうと何だろうと自分たちのために戦った者を粗末に扱うなどできるはずがない。
「しかし、地形を利用されたのとスザク君の甘さが出たのはあるけど…まさか、負けるなんてねぇ…ラクシャータのナイトメアも凄かったとはいえ、あのパイロットの腕前は尋常じゃないねぇ」
「ロイドさん。不謹慎ですよ」
「ははー!いいじゃない、別に死んだわけでもないんだしぃ?僕のランスロットがボロボロになったのはアレだけど、良いデータが手に入ったからトントンだしねぇ」
ロイドの笑いながら放たれる敗北宣言にセシルは控えるように伝えるが、それで止めるようなタマではない。何が楽しいのか、更に笑い声は高まっていく。
「おい、お前たちうるさいぞ!特別待遇で此処に居させてやっているのを忘れたか!」
「あれぇ、忘れたんですか?ダールトン将軍の口添えがあったとはいえ、ランスロットを保険で向かわせるようにコーネリア殿下に進言したのは私ですよぉ?幾ら、コーネリア殿下でもあの新型ナイトメアと戦ったらどうなったか想像がつかない訳ないですよねぇ?」
ロイドの言葉に、ロイドを追求した文官は言葉に詰まる。映像越しとはいえ、あのランスロットと互角に戦ったナイトメアがコーネリア総督との戦いに加わったらどういう結果を招いたかなど火を見るより明らかだ。
まあ、その時はコーネリアがあんな無茶な進軍をしたのかどうかという疑問にも繋がるので強ち一概に言えることでもないのだが。
「まあ、どのみち退き時ですかねぇ。さっきの土砂崩れは何とか住宅地とかには被害が出ないレベルで収まりましたけど、地盤はゆるゆるになってますからねぇ。今度凄い衝撃が起きたら、また土砂崩れが起きますよ」
「そんなことは貴様が考えることではない!」
そう、ロイドに決定権などない。本人もそれを分かって嫌がらせのように発言しているだけなのだから、タチが悪い。
「ロイド伯爵。そのお話は本当ですか?」
しかし、ユーフェミアは違う。元々軍人でもなくただの学生である。指揮系統などよりも、被害の方を心配する。
「間違いありませんねぇ。黒の騎士団の差金だとは思いますが、周囲で避難誘導が行われていますけど次に本格的な土砂崩れが起きたらとてもじゃありませんが間に合わない。まあ、大変な被害になるでしょうねぇ」
その発言にユーフェミアは決断する。
「空いている人材を全て避難誘導に回してください。非戦闘員の方々だけで構いません。先行する避難誘導の方にご協力を。それと、コーネリア総督にも現状の説明を通して危険性を伝えてください!」
「ユーフェミア副総督!しかし!」
「これは副総督命令です!それとも、あなた方は黒の騎士団と戦うことの方がお望みですか?」
戦場に出たいなら出れば良いとでも言いたげなユーフェミアの発言に、文官は言葉を発さない。
あのコーネリアの軍と正面から戦えるような連中相手に戦うなど想像したくもない。
「では、異論ありませんね。ロイド伯爵。避難誘導をしてくださっている人達の名前や顔はわかりますか?」
「名前は分かりませんが、顔は分かりますよぉ。今、プリントアウトしますからねぇ」
ユーフェミアはその写真を受け取ると、今まで引き締めていた顔を少し緩める。
「まあ」
「副総督?どうなされたんですか?」
「この方々達は私の友人です。私から連絡しておきますから、皆さんはその指示に従うように」
ゼロが撤退を考え始めた同時刻、コーネリアもユーフェミアの説明から撤退を考慮し始める。そもそも、既に犠牲者の数は多い。このまま無理して良い場合ではなかった。
ゼロが退く体制に入れば、コーネリアも退く算段をつけた。
これでナリタの戦いに幕は閉じる。そのはずだった。
しかし、そのタイミングで
「主殿ぉ!盛り上がっているようですが、どうするおつもりで?」
ナリタの上空に飛行船が近づいてくる。
「決まっているさ」
自分の部下であるルキアーノの声に、シンは軽く笑う。
「つまらないだろう?ハッピーエンドなど」
飛行機から放たれる爆撃。ギリギリのところで収まっていた土砂崩れがその衝撃で再び加速し、コーネリアの残存部隊や解放戦線、黒の騎士団だけでなく周囲の街を飲み込んでいく。
誰も知らないナリタの二幕が幕を開ける。