『ゼ、ゼロ!!な、何やってんだよ!?こ、こんな二度目の土砂崩れなんて聞いてねぇぞ!?』
「違う!私の策ではない!」
目の前で発生している土砂崩れを見ながらゼロは通信機越しに怒鳴りつける。
(どいつだ!?俺の策を読んでそれを利用した奴がいる!!だが、解放戦線やブリタニアにも被害が出ている以上、彰やコーネリアではあり得ない!そいつはたった一手で、この場にいる全ての陣営に甚大なダメージを与えた!しかも、それで民間人に被害が出たとしても黒の騎士団に全ての責任を押し付けられる!完璧な一手!尋常な奴じゃない!)
シュナイゼル以外の人間に初めてルルーシュは戦慄を覚えた。自身の策を読むどころか利用し、たった一手で盤上をひっくり返す。何より恐ろしいのは、そいつはブリタニア側の被害も、民間人の被害も全く考慮に入れていないこと。精神は既に人間の域を越えている。情も倫理も思いやりも全て捨てて目的だけを見据えている。
「カレン!無事か!?」
「私は何とか…マーヤが引っ張ってくれたから」
「良くやった百目木!他の親衛隊は?」
「カレンが限界だった。他の親衛隊は全員土砂崩れに…」
ゼロは舌打ちをするが、心を乱している場合ではない。
「扇!井上!自分達の身を最優先に考え、少しでも多くの部下を離脱させろ!撤退だ!心配するな、ブリタニアも混乱している!追ってくるようなことは絶対にない!」
『わ、分かった。ゼロ達はどうする!?』
「撤退する!私の心配は不要だ!自分たちのことだけを考えろ!」
ゼロはそう言ったが、井上はともかく扇の離脱は難しいと考えていた。扇はコーネリアの親衛隊でもトップクラスの連中を相手に時間稼ぎをしていた上に、本人の判断能力が低い。この様々に変わる状況の中で判断をくださせるのは荷が重いと言わざるを得ない。
(指揮官失格だが、この状況で全ては救えん…迅速な判断をしなければ全てを失う)
冷たいようだが、ゼロの判断は間違っていない。この場において、全てを救おうなどと傲慢な考えをしていては手遅れになりかねない。
(カレンとマーヤと合流したいが、土砂が邪魔だ。巻き込まれかねん。最善手ではないが遠回りをして合流を…)
そこまで考えてルルーシュの背筋に緊張が走る。この土砂崩れを仕掛けた奴の行動が読めたのだ。あれだけの頭のキレを持ちながら、これで終わらせるなど絶対にない。この混乱を利用して更に獲りに来る。この状況で狙いたい首など二つしかない。コーネリアの首か若しくは
(俺の首だ)
直感的にルルーシュは、敵の狙いを自分だと感じ取る。最早、日本に反ブリタニアを掲げる主要なグループは黒の騎士団と解放戦線のみ。解放戦線の介入ではあり得ない以上、問題の奴はブリタニア勢力と考えざるを得ない。
最も、そのブリタニアの被害も考慮に入れていない攻撃から相当頭がイカれた奴であることに疑いの余地はない。しかし、ブリタニアは弱者を切り捨てる。ここで、ゼロの首さえ獲れればここで死んだものたちは弱いから死んだということになり、この奇襲の正当性は担保される。断言はできないが、間違いなくそうなる。それが、ブリタニアだ。
そうであれば、ここでカレンたちと遠回りをして時間を使うことはリスクになりかねない。その時間で敵が迫る可能性がある。加えて、カレンの損失具合も不安材料だ。本人は無視して戦うだろうが、あまりにも危険が高い。
「百目木!カレンを連れて離脱しろ!私は別ルートで移動する!合流は指定場所だ!カレン!ワガママを言わずに百目木に従え!」
「ちょ!?アンタ、何勝手に決めて」
カレンの反論も聞かずにルルーシュは斜面を駆け降りる。自分がいてはカレンは何時になっても逃げようとしない。それ故の決断であった。
ルルーシュは土砂の流れを予測し、そこから考え得る最適の経路を模索する。まさに、天才の所業。何一つ間違っていない。正しすぎるほどだ。だが、正しさは逆に選択肢を狭める。相手が同じ選択をできる場合は逆算して、行動を計算できる。
「大ネズミがかかったな!」
ルルーシュが斜面を駆け抜けて暫くすると、シンがルルーシュの姿を視認する。ヴェルキンゲトリクスは土砂を無視するかのように驚異的なスピードでルルーシュとの間を詰めていく。
「こいつか例のやつは!」
シンが乗るヴェルキンゲトリクスの姿を見てルルーシュは確信したが、できることはそれだけ。頭脳戦ならともかく、ナイトメア戦でルルーシュがシンに勝てる道理はない。間の差はあっという間に消えた。
「こいつ!?」
「チェックだ」
ヴェルキンゲトリクスがルルーシュの前に回り込む。逃げる隙などない。思わずルルーシュは目を瞑る。だが、衝撃はいつまで経ってもやってこない。恐る恐る目を開けると、そこには
「カレンか!?」
紅蓮がルルーシュとヴェルキンゲトリクスの間に立っていた。ヴェルキンゲトリクスも流石に警戒したのか少し距離を取っている。
「無事!?ルルーシュ!」
「あ、ああ」
「そう。良かった」
カレンは紅蓮の中でルルーシュの無事を確認し、ほっと息を吐く。だが、安心して良いのはそこまで。こいつを倒さなければここは切り抜けられない。
紅蓮はヴェルキンゲトリクスに相対するように構える。
「紅の騎士…か」
ヴェルキンゲトリクスの中でシンは薄く微笑んだ。
「ちっ!どこの馬鹿だこんな爆発起こしたのは!?」
リョウは持ってきていたアレクサンダへと搭乗し、何とか土砂を回避したがナイトメアに乗れない周囲の人間は全員土砂に飲み込まれたようだ。
これでは、避難していない人達のところへと土砂が届くのは間違いない。さっき、ユーフェミアの部下が手伝いに来たが間に合っているはずがない。
「何とか助けられる奴だけ助けるしかねぇ。アヤノ!ユキヤ!そっちの状況の連絡を」
そこまで言ってリョウが屈んだのは完全に偶然だった。先ほどまでアレクサンダの上半身があった場所にハーケンが飛んでくる。完璧な不意打ちだったが、長年の経験からくる勘がリョウの命を救った。
その下手人はそれに対して驚きもせずに姿を現す。その姿を見て逆にリョウの方が驚きの表情を浮かべる。
「EU以来かぁ!佐山リョウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
「この、イカレ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
土砂と同時に流れるように現れたパーシヴァルは、全く躊躇なくリョウのアレクサンダへと向かう。
だが、リョウもそれを素直に受けるほどお人好しではない。受け流すかのようにパーシヴァルのためを受け流す。しかし、パーシヴァルの攻撃は止むことなくリョウへと降り注ぐ。
「何だお前、随分と俺にご執心じゃねぇか!悪いけど俺はお前みたいなのタイプじゃねぇんだわ!」
「つれないなぁ!私はお前のことがタイプだというのに!」
「そりゃ良い迷惑だな!俺のどの辺りがお前のタイプか教えちゃくれねぇか!」
「お前達が…アイツの…あの女の大切なものだからだよぉ!」
ルキアーノのパーシヴァルが持ち主の感情に呼応するかのようにスピードを上げていく。
リョウもなんとか、それに喰らいつく。しかし、追い込まれる一方であり、致命傷を負わないようにするのが精々だ。
「何をぶっ飛んだこと言ってんだ!ついに頭がイカレたか!」
「この眼に焼きついて離れてくれないんだよぉぉぉぉぉ!あのくされ女のあの顔が!」
当時はそうでもなかった。だが時が経っても。ルキアーノの脳裏に焼けついて離れないあの金髪の少女。他に幾らでも傷ついた経験がある。幾らでも苛立ちの記憶がある。幾らでも殺したい奴の記憶がある。その記憶を超えて焼け付く光景。
あの女は事もあろうに、このルキアーノ・ブラッドリーに憐憫の表情を浮かべてこう言ったのだ。
『可哀想な人ですね。貴方は』
あの女は私を。
ルキアーノ・ブラッドリーを。
ブリタニアの貴族を。
ナイトオブラウンズの候補を。
選ばれた人間を。
哀れんだ。
憐れんだ。
あわれんだ。
アワレンダ。
この光景を消し去るにはあの女を憎悪に堕とす必要がある。
自分の命よりも他者が大事という偽善者を。絶望の底の底の底にまで。
「お前の首を送りつけたらぁ!あの女はどんな表情を浮かべるかぁ!」
想像するだけで愉悦が止まらない。聖職者を気取っているようなあの女の顔が崩れる瞬間が。
「見物だなぁ!あの女の顔が憎悪に浮かぶ瞬間が!」
「勝手に人を殺せると思ってんじゃねぇよ!」
ウルナエッジでパーシヴァルの爪を弾き返すが、パーシヴァルの爪はまだ残っている。
リョウは強い。だが、ナイトオブラウンズに匹敵するルキアーノが相手では荷が重いと言わざるを得ない。相手が悪過ぎる。
「まずは一人ぃ!」
パーシヴァルのもう片方の爪が、リョウのアレクサンダへと向かう。
だが、
「私を忘れるな!」
救援に現れたアヤノのアレクサンダの飛び蹴りによって吹き飛ばされる。
「リョウ!無事か!?」
「たりめーだろうが。あんな下衆に劣るほど鈍っちゃいねぇ」
「おやおやぁ?あの時のおチビちゃんも一緒かぁ。もう1人のお兄ちゃんは何故かいないようだけど、1人で怖いんじゃないか」
「怖いのはお前の方だろ?吸血鬼とか偉そうなこと言ってるけど、精々ただの蚊だ。蚊取り線香炊いてやるから、逃げてけよ」
「くくく…口が悪いのはあの男譲りか」
アヤノの攻撃によって吹き飛ばされたとはいえ、完全にガードしていたルキアーノに損傷はない。むしろ、獲物が増えたことに喜びを感じている。
「お前達2人を殺せるとは…なんて良い日だ今日は!」
「数字も数えられないの?小学生からやり直したら?」
「ほう?お前なら、不意打ちをするのものだと思っていたがなぁ?趣旨変えでもしたか?成瀬ユキヤ」
「アンタならそんくらい予想してるでしょ。意味ないことはやんない主義」
アヤノに続くように現れたユキヤを前にしても、ルキアーノの余裕は崩れない。リョウの姿を見た時から、3対1になる可能性は考えていたのだろう。
ルキアーノの笑顔は深まるばかり、それは自身が勝つことを疑わない圧倒的な余裕。自分が勝者になることを疑わない自信。
「さあ、始めようかぁ!数年ぶりのパーティーだ!タップリと苦しんで死んでいけぇ!」