「た、助かった、すまない。しかし、奇跡の藤堂が何故ここに?」
「いや、こちらの不手際を任せてしまったのだから謝罪など不要だ。百目木という者から連絡が来た。今のナリタの情報を送るとな。私は最も危険と思われる場所に来ただけだ」
突如として襲った追撃の土砂崩れやギルフォードらの攻撃などで壊滅状態にあった扇達を救ったのは、まさかの奇跡の藤堂であった。
藤堂はマーヤから連絡を受けると、即座に崩壊しかかっている前線へと足を運んだ。彰の助力に向かった卜部は除く四聖剣も全員他の戦場へと向かっている。
マーヤがルルーシュから受けた命令は今のナリタの戦況を調査してルルーシュと藤堂と彰に報告すること。現在もマーヤは比較的統制が取れている井上達の力も借りて現場の状況を調べてルルーシュへと報告を続けている。
この絶望的な状況下で黒の騎士団に唯一あった光明は総合力であれば騎士団最強のマーヤが自由に動けることであった。マーヤが居なければ藤堂達は状況もわからず向かうべき方角も分からなかったであろう。
マーヤから情報を得ていた藤堂は、即座に残存解放戦線の兵士の鼓舞を始めた。正直、ゼロならともかく扇の命令を聞くような連中ではなかったので素直にありがたい。
「これで少しは持つ。黒の騎士団はその間に離脱しろ」
「し、しかし、貴方達は」
「これはこちらの戦。最後の殿すら他人任せでは解放戦線の名が廃る」
その藤堂の後ろ姿に扇は本物の武人を見た。扇たちのような言ってしまえばアマチュアの兵士とはレベルが違う。本物の軍人のプライドがそこにはあった。
「し、しかし、それでも」
だが、扇の優しさがその決断に躊躇する。扇要は他者を切り捨てられない。ゼロの判断であれば別かもしれないが、今は扇に任が降りている。その状態で誰かを残すという判断は躊躇われた。人としては間違っていない。だが、軍事組織の責任者代理としては間違っている行動だ。
「理解しろ。これが戦争だ。誰かの犠牲無くして得られるものはない」
その扇の躊躇いを藤堂は断ち切る。この状態で扇が残ったところで邪魔でしかない。厳しいようだが、これは藤堂なりの優しさだった。
そんな藤堂の様子を見てこれ以上は無粋と判断したのか扇は部下に撤退の準備を進めさせる。
(やはり経験不足が黒の騎士団のネックか…タレントは揃っているようだが、中間層が圧倒的に不足している)
ゼロやカレン、マーヤなど藤堂から見ても天才級の才能がいるにも関わらず部下に近い中間層の才能、所謂秀才と呼ばれるような人材が足りないように見受けられた。
藤堂は彰から言われていた。ナリタの戦いの決着がどうであれ、解放戦線は終わりだと。藤堂もそう思う。少なくとも解放戦線が以前と同じでいることは不可能だ。中間層が不足している騎士団に解放戦線が加わればかなりの組織になるとは言え、騎士団に加わるのも簡単ではないだろう。部下たちの反発が目に浮かぶようだ。
しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。少しでも残すために自身ができることを成す時だ。少しでも犠牲者を減らすために、藤堂は藤堂は戦場へと降り立った。
「流石に弟君がこんな所にいるのは予想外。まあ、まだ日本にいるのも予想外だけどなぁ。趣旨変えでもしたか?」
「分かってねぇなぁ?いいか?」
ルキアーノの言葉に呆れたリョウは、アキトの前に進み宣言する。
「ロリコンなめんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ロリのためなら、全てを投げてでも邁進する!それがロリコンだ!」
直後、アキトのミサイルがリョウのもとに殺到する。躊躇いなど無かった。躊躇なく放たれたミサイルはリョウのアレキサンダに直撃する。
「何しやがんだ手前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「すまん、手が滑った」
「手が滑ってミサイルが出るかぁぁぁぁぁぁ!何?ロリト君よぉ、照れてんのか?ロリコンの性癖が暴露されて今更恥ずかしがってんのか?」
「俺はロリコンじゃない。シスコンのお前と一緒にするな」
「いやいや、今更否定しても遅いんだよ。知ってるからお前がロリコンなのは。レイラが彰のものになったから、お前なりに悔しかったんだよなぁ?原作だとお前のものだったのにあんなクズに奪われて悔しかったんだよなぁ?そりゃ、その悔しさで性癖くらい歪んじゃうよなぁ?分かる、分かる」
「よし、わかった」
アキトはアレキサンダのエッジをリョウへと向けた。
「お前が先に殺されたいんだな?」
「ロリコン肯定されたからってイラつくなよ。カルシウム足りないんじゃねーの?」
しかし、リョウはアキトのエッジを受け止めてそこから先に進ませない。しかし、そんな2人にルキアーノの銃撃が撃ち込まれる。
シリアス時にこんなアホをやってたら攻撃されるに決まっている。当たり前のことだった。
「ちっ、やるなアイツは」
「ああ、まさかこんな隙をつくとはな」
「お前らが馬鹿だからだ!」
しかし、何故かアキトとリョウはシリアス顔でルキアーノを称賛している。理解しがたい感性だが、アヤノのツッコミは無視される。
「おいおい、無視するなよ。寂しいじゃないか」
「メインディッシュは最後にとっておくタイプでな」
「気が合わないなぁ。私は最初に食べるタイプだ」
同時にアキトとルキアーノは飛び出す。アキトのエッジがルキアーノを狙うが、簡単に爪で弾かれる。
「どうしたぁ?兄上様が泣いているぞ」
「泣かせるなら勝手に泣かせていろ。俺は一向に気にしない」
「はっはぁ!相変わらずの太々しさ!」
舌舐めずりをしているようなルキアーノの言葉にアキトは思案に耽る。やはり素の状態で勝つのは難しい。
アキトの脳裏にかぐやとの会話が蘇る。
「ナリタへのお使いをする際に前提条件を話しておきます。アキトは強い。しかし、相手がラウンズクラスになると流石に勝算は少ない」
ナリタへのお使いー彰達のフォローを依頼したかぐやは珍しく真剣な顔でアキトに忠告している。並の兵士であれば簡単にあしらえるアキトであっても、相手がラウンズともなれば勝つのは難しい。
「ええ。仮に相対するとしたら、数の優位を保ちます」
「そうです。ですが、それでも尚難しいと感じれば『あの力』の使用を許可します」
その言葉にアキトは顔を顰める。『あの力』はそう簡単に使用できるものではない。確かに戦闘力は上がるが、制御は難しい。現に、何回か徹底的な管理のもとで練習したことはあるが、制御に成功したことはなかった。
「そのためにこれを作らせました」
そう言ったかぐやはアキトに錠剤を手渡す。
「これは?」
「『あの力』を制御するための薬です。ですが、まだ未完成。精々、制御できる時間は10分といったところでしょう」
10分。とてもではないが、長いとは言えない。使い所を誤れば、何もせずに過ぎるだろう。
「言うまでもないことですが、この薬は飽くまで試作品ですし、『あの力』は危険極まりない。使用しないことが望ましいですが、使用するのでしたら使い所を誤ってはいけませんよ」
かぐやはこの薬を使わないことがベストだと考えている。自分の身を案じてのことだろう。その心遣いは素直に嬉しい。だが、力をセーブして勝てる相手ではない。使わざるを得ないが、一つだけ確認をしておきたい。
「おい、吸血鬼」
「何だ弟君」
「あの人はお前のような奴でも救いたいと考えていた」
ルキアーノの口元から薄い笑みが消える。ルキアーノにとってそれはタブーだ。
「だから何だ?感謝しろってぇ?」
「感謝など不要だ。そもそもお前のような快楽殺人者に救いなど意味がない」
司令はどんな人間でも救いはあると考えていた。しかし、どうしても救われない人間というのは存在する。ブリタニアの暗黒面を煮詰めたこの男のように。
「くくく…分かっているな。流石は同じ穴の狢だ」
「そうだ。俺もあの人とは違う。クズの相手は同じクズ同士がお似合いだ」
アキトは薬を飲み力をーギアスの呪いを発現させる。
「お望みだろ?盛大に殺し合おうか」
目を赤くしたアキトは躊躇いなく、ルキアーノのパーシヴァルへと肉薄する。その速さにルキアーノはこの戦いで初めて余裕を無くす。減らず口を叩く余裕もなく、迫るナイフを爪で受け止める。
「どうした?喋っても良いんだぞ?」
「弟君がおしゃべり好きだったとは意外だなぁ。兄上様とは大違いだ」
「お前とお喋りしたくないだけじゃないのか?」
空いているパーシヴァルの腹にアキトのアレクサンダーの蹴りが炸裂する。ボールのように吹き飛んだパーシヴァルを追撃せんと、アキトが迫る。
だが、ルキアーノもやられるだけではない。カウンター狙いで爪を振るう。だが、信じられない反応速度でそれを紙一重で避け続ける。
アキトにかけられたギアスにより、アキトは「死ぬため」に戦うことになり、本来であればかけられる身体へのリミッターが外され常人ではあり得ない戦闘力を発揮する。しかし、リミッターとは本来守るために使われるもの。それが取り除かれるのだから、身体への負担は尋常ではない上に「死ぬため」に戦うのだから戦闘方法も危険極まりない。
かぐやから貰った薬は「死ぬため」という条件を外した上で身体へのリミッターを外すだけにするというもの。つまり、身体への負担は全く減っていない。常人であれば顔を顰めるレベルでは済まない激痛が襲っているはずだが、アキトは涼しい顔で戦い続けている。ギアスなど関係なくアキトも超人の域に足を踏み入れている。
だが、しかし
「また謎のドーピングかぁ!反応速度が桁違いだな!」
ルキアーノもまた紛れもない超人だ。アキトがギアスを使用してようやく到達する域にルキアーノは素で到達している。快楽殺人者であろうとも、実力はお墨付きなのだ。
しかも、加えてアキトにはタイムリミットがある。
(もう残り半分というところか…時間がないな…)
死ぬために戦う気など毛頭ないが、死を覚悟しないと勝てない相手。アキトは決死の覚悟で踏み込もうと足に力を込める。
それを見たルキアーノも意識を集中する。僅かばかりの静寂が二人の間を支配する。その静寂が破れんとしたタイミングで
「双方剣を納めなさい!」
ユーフェミア・リ・ブリタニアの声が響いた。