「これはこれはユーフェミア副総督。どういうおつもりで?」
追加の土砂崩れの後、被害状況を確認していたユーフェミアの元にルキアーノが救助に当たっていた人間と戦闘しているとの情報が上がった。周りの反対を無視し、最低限の護衛を連れてルキアーノの戦場に向かったのである。
「それはこちらの言葉です。この状況で黒の騎士団や解放戦線でもない民間人の彼等を攻撃するとはどういうつもりですか?」
ユーフェミアの言葉通り、ルキアーノの行動には問題しかない。彰やゼロと交戦しているシンはともかく、ルキアーノが戦っているアキトやリョウは黒の騎士団でも解放戦線でもない。アキトは厳密に言うとグレーゾーンだが、アキトが誰に仕えているか知らないブリタニア側にとってはルキアーノの行動は規律違反以外の何物でもない。
「こんな所にナイトメアを持ち込んでいる彼等が民間人?平和ボケでもされているのでしょうか?」
「平和ボケだとしても、彼等がナイトメアで救助に当たっていたことは明白な事実です。実際、彼等はこの戦いに全く関与してありません」
ナイトメアを何故持っているのかに関しては問いただす必要があるのかもしれないが、間違いなくこの場においてではない。実際、救助にあたれるナイトメアがあること自体が非常にありがたいことだ。実際、おかげで助かった者たちも多くいた。
「関与していない?こいつらが黒の騎士団に雇われて救助にあたっていたことは明白ですが?」
「行動に焦点をあてるべきです、ブラッドリー卿。黒の騎士団に雇われたのだとしても、彼等が助けた者たちがいることは事実です」
実際、リョウたちは本当に黒の騎士団の戦いに関与していない。ユキヤは事前に土砂崩れの被害可能性に関して調査したが、それ以外にやったことと言えば避難誘導と救助だけである。過程はどうあれ、行動指針は人助けでしかない。
「そもそも、貴方がそれを咎められる立場ですか?貴方達が発生させた土砂崩れで何人のブリタニア人と民間人が犠牲になったと思っているんですか」
周りは土砂崩れで酷い有様になっている。正確な犠牲者は現時点で不明だが、夥しい人数になっているだろう。
「ゼロを殺せばそれで帳消しでしょう。この後のゼロによる被害を考えればお釣りがくる」
「その確証はあるのですか?それがなければただの妄想です」
シンはゼロを追い詰めたが、今では彰と戦っている。この二人はそれを知らないが、彰と戦っている最中にカレンと卜部と一緒に離れたため今となっては討ち取ることは難しい。
「コーネリア総督もブリタニアの消耗率から戦闘続行を不可能と判断し、撤退命令を出しました。これ以上の戦闘は規律違反と判断し、貴方を拘束します」
「できるとお思いで?」
「できるな。当然、俺たちは第三皇女様側に着く。俺たちと第三皇女様の軍勢両方を敵に回して勝てると思ってんのかよ?」
機を逃さず、リョウはユーフェミア側に立つことを宣言した。性格の面から考えても、ユーフェミア側に立つことに何の不満もないが結果として事前にアキトが言っていた数の優位を作ることに成功した。
アキトとしてはここでルキアーノが攻撃してくることが望ましい。ここまで優位な状況で戦えることはまずない。後々のことを考えれば、是が非でも殺しておきたい人間だった。
リョウたちも同じ考えだったのか一瞬の油断もなくルキアーノを見つめている。結果はすぐに判明した。
「ゼロ達を見逃すなんて随分とお優しくなったじゃねぇか」
「その隙を待っていた人間が良く言うな」
「そりゃ、よそ見する奴の自己責任だろ」
「相変わらずふざけた男だ」
喋りながらもシンはヴェルキンゲトリクスの中で思案に暮れる。どう考えても、この状況で優位は自分である。あのナイトメアの性能は知らないが、乗り方すら分からなかった人間だ。使い方を理解しているはずがない。
「こんな終わり方では拍子抜けだがな」
しかし、戸惑いは無い。彰との戦いはどちらが生き残るかということに尽きる。どんな決着だろうと死んだ奴が負けである。
シンは間合いを詰めるべくヴェルキンゲトリクスで駆け出す。しかし、
「遅えよ」
彰の方が一歩早い。逆に間合いを詰めた彰は叢雲の腕から現れる光の光刃を振りかぶる。
それを受け止めようとしたシンの脳裏に最大限の警報が鳴り響く。
シンは反射でそれを受け止めるのではなく、躱すことを選択する。そして、光の刃が僅かに振動しているのを見て自身の直感が正しいことを確信する。
「大した切れ味のようだな」
「当たってみたら実感できるぞ」
『天叢雲剣』。能力の効果は「輻射波動の固定化」。厳密に言えば切れるというよりも、壊すと言う方が近いかもしれないが当たったら無事では済まないことに違いはない。
形状は剣なので色々と応用が効く紅蓮の複写波動よりも遥かに使い勝手は悪いのだが、エネルギー効率の良さにかけては紅蓮を圧倒する。それに加えてかぐやAIの補助もあるのでまだ彰が慣れていない動きの補佐も併せて行うことができる。上手く使えば、彰は接近戦にだけ注意し、AIに遠距離戦を任せることも可能だ。
だが逆に言えば
「何で今のタイミングで撃たねぇんだよ!撃てよ!」
『ソウヤッテツゴウノヨイオンナミタイナアツカイハヤメテクダサイ』
「いや、お前ナイトメアだろうが!」
上手く使わなければ何の意味もない。1+1は2ではなくて0になる。
(扱いに困っている様子は見られるが…)
随分と動きがおかしいナイトメアだ。馬鹿みたいな動きをしたかと思えば、次の瞬間には驚愕の動きをしている。まだ慣れていないと言えばそれまでだが。
「これで見極めるとしよう」
ヴェルキンゲトリクスの機動力はトップクラス。先ほどは不意をつかれたが、今回は油断しない。
とてつもない瞬発力でシンは彰との距離をゼロにする。しかし、待ち受けていたかのようにヴェルキンゲトリクスのアックスを彰は天叢雲剣で受け止める。
「学習能力がねぇなぁ」
「ふはは。それでこそ…だ」
やはり桐島彰は桐島彰だ。どこまでも不真面目だが、油断はしない。初めて乗った機体で自分と張り合うとは。
シンの背中がゾクゾクと震える。やはり、この男が自身最大の障害。コイツを倒せば世界が壊せる。逆に言えば、コイツがいれば世界は壊せない。
シンはギアを入れ直す。全身全霊を尽くしてこいつを殺す。しかし、そのタイミングで
「主殿ぉ。お楽しみだとは思いますが終わりのようですよ?」
「何?」
ルキアーノからシンに着信が入る。しかも、無視するわけにはいかない内容だ。
「…コーネリア殿下の軍の消耗率が限界を超えたか?」
「その通りです。黒の騎士団や解放戦線にもかなりの打撃を与えたとはいえ、勝手な行動に怒り心頭のご様子。ここは従っておいた方がよろしいかと」
シンは内心でため息を吐く。全くわかっていない連中が多すぎる。ここで弱者を気にしてどうなるというのだろうか。コーネリアはシンから見ても、強者以外の何者でもないが、性根は甘ちゃんだ。
何かを得たいなら何かを捨てなければならない。あの女にはそれが分かっていない。
一瞬、無視しようかという考えも浮かんだがまだ早い。まだブリタニアには利用価値がある。
「おー、おー。撤退命令でも出たか?」
「そのようだ。部下の犠牲を気にしたコーネリア殿下のミスだな」
「ただ殺したいだけのお前とは違うんだよ」
コーネリアは彰から見ても理想的な指揮官である。部下に厳しいだけでなく、優しさも持っている。シンにはそれが分からない。理解できない。
「まあ良い。お前とはまた交わるさ。何処かでな」
「そん時は叩っ斬ってやるよ」
シンは鼻で笑うと、そのまま彰へと背を向ける。彰も追撃はしない。この状態であれば、戦闘終了が最も好ましいからだ。
「やれやれ…この後始末をどうすっかねぇ」
「…此処は?」
「ナリタの洞窟だ」
目を覚ましたC.C.は現状理解のため声をあげるが、その声にルルーシュが返答する。どうやら、自身の傷の手当てをしてくれていたようだ。
「まさかお前が私に手当などするとはな」
「ほとんど何もしていない。勝手に治っていた。不死とは全く便利だな」
ルルーシュとカレンは負傷していた卜部を安全圏に遠ざけた後、シンに撃たれたC.C.を探していた。不死とは知っていたが、流石に放置はできなかった。
なお、この言葉からするとこの2人の関係は険悪に思われるかもしれないが2人の距離感は原作と変わっていない。ただ、カレンなどの好感度が大幅に上昇したことや彰の影響などで険悪に見えるだけである。
「知っていたことだろう。何故、わざわざ助けた?」
「お前のあの足止めがなければ卜部の援護が間に合ったかどうか怪しかった。これはその礼だ」
「契約者に死なれては困るからな。気にすることはない」
「お前が気にせずとも此方は気にする。助けた者を放置していられるほど、俺の神経は太くない」
「無駄なプライドだな。お前のそのプライドがお前を弱くする」
「弱いかどうかなどは見方次第だろう。それに結果として良いことが知れた」
セラ・チャールズ。その言葉を聞いて、C.C.は珍しく怒気を浮かべた。
「悪趣味な男だな」
「不可抗力だ。お前が寝言で言っていたんだからな。別に隠すほどのことでもないだろう。何故名乗らない?」
「忘れた名前だ。今更そんな名前に意味はない」
「どんな名前にも意味はない。そこに意味を与えるのは他人だろう。俺にとってはどうでも良いことだがな」
C.C.の本名などルルーシュにとっては心底どうでも良い。しかし、どうでも良いが伝えなければならないことがある。
「一応言っておくが俺はお前には感謝してる。今回のことだけでなく、ギアスのこともな」
如何に仲間が増えたとしてもギアスの力は絶大だ。得体の知れない力故に、使い方には最新の注意を払ってはいるが効果は極上のものである。
ギアスの力が無ければ短期間でここまで黒の騎士団が勢力を拡大することは不可能だった。
「だから…ありがとう」
その言葉にC.C.は目を大きくするが、言葉を理解して珍しく優しく笑う。
「お前に感謝されるのは…初めてだよ」
何時もの皮肉さを忘れたようにC.C.は邪気なく笑う。こんな顔で笑えるのかとルルーシュには驚きの感情が芽生えた。
「じゃあ、お礼を返してもらおうか。さっきの私の名前を呼べ。優しく心を込めてな」
「…本気か?」
「?当たり前だ」
「本当に良いんだな?」
「だから何なんだ。しつこいぞ」
そうか…と重くうなづくとルルーシュは何故かゼロの仮面を被り、求められた言葉を発する。
「セラ・チャールズ」
その言葉をC.C.は味わうようにじっくりと聞き、くすぐったそうに笑うと感想を漏らす。
「だめだな。優しさが足りん。労りもないし、心も籠もっていない」
「じゃー、これは?セラ・チャールズ」
「いやいや、これでしょ。セラ・チャールズ」
「もっとダメだな。ふざけすぎだ。真面目にやれ…と…」
そこまで言ってC.C.の言葉は止まる。待て。自分は今誰に返事をした?誰と会話をしていた?
恐る恐る後ろを振り向くとそこには、笑顔の彰とカレンと困り顔の卜部がいた。
「いやー、何だよそんな名前だったのかよ。今度から呼んでやるからなセラちゃん」
「それともチャールズが良い?ねぇ、どっちが良い?」
「あー、すまん。立ち聞きするつもりはなかったんだが」
あり得ない展開に完全に思考が停止したC.C.に正面のルルーシュが呆れたように話しかける。
「だから言ったろう?本当に良いのかと」
「他に誰かいるって言ってくれれば良かっただろ!?」
彰「さあ、皆に紹介してあげよう!セラちゃんだよー、初めまして!」
C.C.「おい、馬鹿やめろ!」
カレン「あ、扇さん?C.C.の名前なんだけど今度からセラ・チャールズって呼んであげて。うん、そう言う名前なんだって」
C.C.「だから止めろ!」
卜部「おい、彰、失礼だろ。セラさんか。卜部という。今後ともよろしくな」
C.C.「だから私をその名前で呼ぶな」
彰「大丈夫、大丈夫。心を込めて優しく呼んであげるから」
C.C.「お前、本当に一生トラウマ見させ続けるぞ!?」