かぐやの衝撃の発言でルルーシュの思考は一時的に完全に停止する。
ギアスだと明らかにしたのは、自身にギアスをかけさせないためのかぐやの策。
自身がギアスについて知っているとアピールすることで、ルルーシュがギアスを迂闊に使用するのを躊躇わせる牽制になる。
しかし、ルルーシュがギアス保持者という証拠など何もない。
だからこそ、ルルーシュがギアス保持者だとしたら、かぐやの口からギアスというワードが出れば衝撃を受けないはずがない。表情の変化でルルーシュの心情を読み取る。そこまでセットのかぐやの策。
だが
「…ギアス?何の話ですか?」
ルルーシュは全神経を集中させて動揺を必死に封じ込めた。有り難くもないことに、ルルーシュは周りの変人どものおかげで想定外の事態に原作よりも慣れていた。だからこそ、ギリギリで動揺を抑え込めている。悲しい現実が予想外のところで役に立っていた。
とはいえ、内心は驚愕に満ちているのは言うまではない。
(何処で情報が漏れた!?C.C.か!?いや、それはない!それをすることによるメリットがあの女にはない!消去法で考えれば、俺とは違うルートでギアスの情報を得たとしか思えない…何処かはわからんが少なくとも俺の能力まで把握してはいないはずだ!知っていれば不用心に現れるはずがない!ほぼ確実にかぐやは俺の能力を知らないと断言できる…だが、知らないとしても何処まで知っているのかわからない…わからない以上は不用意にギアスは使えない…この女、たった一言で状況を振り出しに…!)
かぐやの言葉の刃は深々とルルーシュに刺さっていたが、表情からはかぐやですら心情を読み取れない。
かぐやも内心感心していた。これでギアスのことを知っているのだとしたら大した役者だ。
「…いえ、そういう不思議な能力のことを聞いたことがあるだけです。ゼロ様はご存知ないのですか?」
「知りませんね。生憎と現実主義者な者で」
振り出しに戻ったとはいえ、主導権はかぐやにある。何故ならギアスが使えないのなら、ナナリーを交渉に使うことを止めることができないからだ。ルルーシュはギアス以外の方法でかぐやの行動を縛る案がないか必死に頭を回している。
そんなルルーシュの心情を知っているのかどうかは不明だが、かぐやはルルーシュと目を合わせる。
「先に断言させていただきますが、私はゼロ様と交渉する際にゼロ様の周囲を交渉材料に使うことは決してしないと誓います」
「それを信じろと?貴方らしくもない戯言だ」
かぐやの言葉をルルーシュは鼻から信じていない。何故なら、それが全くかぐやの利益にそぐわないからだ。
ルルーシュを脅すのに、ナナリーほど有効な駒はいない。知っていて利用しないなどあり得ないほどの。
「私はゼロ様と敵対する気は微塵もありません。それで信用してくださいませんか?」
しかし、かぐやにとってナナリーはハイリスクハイリターンの駒だ。上手くいけば、自分の望み通りの展開になるかもしれないが、それをすればルルーシュとの関係は絶対的に終わる。ナナリーはルルーシュの弱点だが、同時に導火線でもあるのだ。ゼロと共闘を目指すのであれば、ナナリーは決して巻き込んではならない。
「それが信じられないと言っているのです。信じるに足る根拠は?」
「ありません」
そんなものある訳がない。だからこそ、ルルーシュが信じるに足る根拠をかぐやは出せない。
そんなことは全てわかっていても、かぐやは続ける。
「ゼロ様が信じられないことなどわかっています。ですが、私は私の誇りにかけて誓うだけです。私は他者との約束だけは決して違いません」
真摯な目でかぐやはルルーシュを見つめる。ルルーシュもその目を見つめ返す…が、真実など見えてくるわけがない。つまりは、ルルーシュ自身がかぐやを信じるか否かの2択である。
信じないことが正しいのだろう。確証などないのだから。だが、信じないとしてもかぐやを脅すに足る情報を持っていないのも事実だ。ルルーシュが思案している間もかぐやはルルーシュを見つめ続ける。真っ直ぐな目からは信じてほしいという意思だけが伝わってくる。その思いの強さにルルーシュは思わず目を逸らし、同時に彰がこの少女を『苦手』と称していたことを思い出した。
(アイツと関わりがある人間はどうしてこうも厄介なのか…)
癖があり過ぎると自分のことを棚に上げてルルーシュは内心愚痴る。
「では『暫定』ですが、貴方を信じましょう。それでいかがでしょうか?」
「それで結構ですわ」
ルルーシュの言葉に、かぐやはニコリと笑う。ルルーシュが信じると言った理由は、信じないよりも信じると言った方が現状は利益があるからであり、それ以上の理由はない。
だが、そんなことは全てわかった上で今のところはそれで十分だとかぐやは笑ったのだ。
(面倒な女だ…)
無駄に疲れたやり取りを振り返ってルルーシュはため息を吐く。キョウトとの顔通しも終わり、とりあえずのノルマは達したはずなのに、予定外のことが発生し過ぎて頭が痛くなるルルーシュであった。
「あー、疲れた…ルルーシュ達がいないから生徒会の仕事俺たちだけで回さないといけないもんなぁ」
「しょうがないでしょー。イブ達は調子が悪いらしいし、ルルとカレンは…旅行行ってるし…」
「泣くくらいなら言わなければ良いんじゃ…?」
自分で言って、自分で悲しんでいるシャーリーに引き攣った顔をリヴァルは向ける。嗜虐的な趣味でもあるのだろうか。
「別に泣いてないから!彰に愚痴言って多少はすっきりしたから!」
「それでも多少なのかよ…てか、彰のやつに迂闊に接触しない方が良いんじゃないか?」
日本人とかいう以前にテロリストである。リヴァルの判断は至極真っ当なものだし、反対される要素もないと思われるのだが何故か生徒会メンバーの支持をそこまで得られない。
軍に仕えているスザクは例外としても、それ以外のメンバーからは特に反対意見は出ていない。唯一ルルーシュだけは『あのクズと喋ることによるシャーリーへの悪影響』を懸念していたが、私怨100%の意見のため除外する。
「そんなに気にしないで良いよ。だって、彰だし」
「その彰への信頼感なんなんだよ」
別にリヴァルも彰のことを悪く言うつもりはないが、ここまで謎の信頼感を見せられると追求せざるを得ない。
「ううん。別に彰のことは信頼してないよ。基本、ダメ人間だし」
とは言え、シャーリーは別に彰のことを信頼しているわけではない。あんなクズの何処を信頼しろと言うのだろう。
「そこまで言うことないんじゃないのか…?」
何故かリヴァルが彰のフォローをしている。謎の逆転現象である。
「いや、だって彰はどう見ても…あ…」
そんな話をしていると、少し先のパチンコ屋の前で男2人がパンイチで体育座りをしているのを見つけた。見覚えのある姿にシャーリーは頭を抱えているが、リヴァルは目を丸くしている。
「あれって彰だよな?もう1人は知らないけど」
「そうだね。もう1人は私も知らないけど、同じクズなんじゃないかな」
「何やってるんだ?」
「パチンコで負けたんじゃない?」
「…テロリストってパチンコ屋行くのか?」
「行くよ。こないだは夢を買うんだって言って馬券買ってた。全部、外れてたけど」
挙句、帰りの交通費まで使い込んでシャーリーに貸してもらっている。なお、その後千葉にバレてボコボコにされたのだが、そこまではシャーリーも知らない。
「テロリストって何だっけ…?」
自分の認識が間違っているのか世間の認識が間違っているのかは知らないが、あの男は全てのテロリストに謝った方が良い気がする。テロリストに謝った方が良いって何だという話なのだが。
「ねぇ、リヴァル」
「…何だ?シャーリー」
「リヴァルの気持ちはわかるよ?一応、テロリストだから距離を取らないといけないってことはさ。でもさ…」
しかし、それでもシャーリーは思うのである。
「私はテロリストとかじゃなくて、人として彰とは距離を取った方が良いと思うよ」
「…そうかもな」
そう思いながら、リヴァルは妙な外国人と自動販売機の下に手を伸ばしている知り合いのテロリストを見つめていた。
「まあ、私は手遅れなんだけどね…」
はあ〜とため息を吐きながら、シャーリーはダメ男の側に向かって歩を進める。
「え?行くのか?」
「あんな姿見てられないから…はあ…何であんなのと関わっちゃったんだろ」
心底嫌だということ見た目でも分かるのに、放置という選択肢はないらしい。これも一種の人徳ってやつなのか?とかリヴァルは思ったとか。
「ちっ、こんなマダオの言うことを信じた俺がバカだった」
「あそこで止めなかった貴様のせいだろうが…!そうすれば今頃はこんなブタメンを公園で食べる必要など…」
「だからお前はマダオなんだよ。アソコは行く場面だろ。流れが見えないのかよ」
「止めてよ見苦しい」
責任のなすりつけ合いをしている人類の底辺2人(知らない男の名前はピエル・アノウと言うらしい)にシャーリーは冷めた目を送る。どちらの責任だろうと、どの道底辺の争いなのだから大した価値はない。
「というか何やってんの?仕事は?」
「下っ端のやれることなんてそんなにねーよ。俺はプライベートも大事にしてんの」
現状、日本解放戦線は組織として機能していないため意図的にバラバラに行動している。まとまっていたところで今の解放戦線の戦力では、ブリタニアの的にしかならない。合理的な判断だった。
「そのプライベートでパチンコやるってのもねぇ…」
シャーリーから見れば他にやる事ないのかと突っ込みたい気持ちで一杯である。しかし、シャーリーからすれば、テロリスト活動に注力して欲しい訳でもないため複雑な心境だ。
「てか、お前だって暇そうじゃねぇか。何だ?あのシスコンじゃなくてリヴァルに乗り換えたのか?英断だと思うが」
「ち・が・い・ま・す!生徒会の仕事があったから帰りが一緒になっただけ!」
「そうそう。俺も別の男に夢中になってる女にちょっかい出したりしないって」
「出したって良いだろ。お前、そんなだと一生会長に告白できないぞ」
「な、何でそこで会長が出てくんだよ!」
「いやいや、良いからそういうの。全然隠せてないし、引っ張る話題でもねーよ。高校生の恋愛なんて吐いて捨てるほどあんだから」
「若いな…私も学生時代はそうだった。好きになったことも振られることもしょっちゅうだったものだ」
「だよなぁ?それなのに、最近の若いやつときたら一つの恋愛でウジウジしやがって。好きなら告白して玉砕する覚悟くらい見せろってんだ」
「全くだ。現代の若者の積極性のなさは嘆かわしいにも程がある」
「いや、情けないのは貴方達だよね。こうなっちゃいけない大人の模範解答を目の前で示してくれてるよね」
目の前のパンイチで語っている年上男性2人をシャーリーは冷めた目で見る。こんな奴等に恋愛を語られても、何も心に入ってこない。
しかし、パンイチ男2人はシャーリーの発言を全て無視して立ち上がる。
「たく、しょうがねぇ。アノウさんよ。俺たちが大人って奴を見せてやるか」
「しょうがないな。魅せてやるか。大人の背中を」
「その前に服着てよ…」