結局、シャーリーの父親は亡くなっていた。
死因は黒の騎士団による土砂崩れの影響ということが報告されていた。死体の損壊状況は酷いものだった。
それを見たシャーリーも母親も泣いたが、悲しみが癒えるはずもなかった。
それから数日後、シャーリーは久しぶりに学校へと向かっていた。
葬式では生徒会のメンバーは全員、シャーリーに労りの言葉をかけていた。だが、そのどれよりもシャーリーの胸に響いたのは、あの言葉。
『辛い時は泣いて良いんだよ。その後は無理にでも笑っとけ。顔で笑えば人間なんて少しはマシな気分になるもんさ』
優しくも厳しいあの言葉を思い浮かべて、シャーリーは笑みを浮かべる。
泣いたって許される境遇だろう。だが、それで何が解決するというのか。自分よりも辛い過去を持ちながら笑っている男がいるのに、自分は悲劇のヒロインでいることを望んでいるのだろうか。
(それは…嫌だなぁ)
悲劇のヒロインなど望んでいない。悲しみが癒えていないとしても、同情など望んでいない。望むとすれば、この状況でも笑っていられる強さだろう。
彰が乗り越えたように、自分も乗り越えていきたい。憎しみではなく、希望を持って生きていきたい。彰のように。
だがしかし
シャーリーの顔が赤面する。
あの時のことを思い返すと、思い出したくない自分の言葉も蘇ってくる。
『ルルじゃなくて…彰を好きになれば…良かったのに』
「ああああああああああああ!!!」
即座にシャーリーは自身の頭を電柱へと叩きつける。
「私は…何で…あんなことを…」
思い出すだけで恥ずかしい黒歴史。許されるのであれば、過去の自分を抹消しに行きたい気分だ。
「いやいやいやいやいやいや、ありえない、ありえない。だって彰だよ?ないって、あり得ないって」
誰に聞かれてるわけでもないのに、何故か言い訳じみた言葉を1人で喋っている。側から見るとやべー奴である。
「まず面倒くさい人だし、迷惑しかかけないし、そもそもが彰だし。ない、ない、ない。あり得ない」
しかし、そこまで話すとまた別の記憶が蘇る。
『私は好きだよ。彰のことが』
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
今度は先程までよりも強く電柱に頭をぶつける。
忘れろ記憶!消えろ黒歴史!と想いを込めての強打だが、残念ながら顔面が血だらけになるだけである。
「……何やってんの?シャーリー」
「人間、偶には頭をぶつけたい時がありますからねー」
「うわっちゃい!?」
突然、後ろから聞こえてきた声にシャーリーは奇声をあげる。
振り返ると、そこに居たのはミレイとイブの二人組。知り合いだったことに安堵するが、珍しくミレイがドン引きしている。
「び、びっくりしたぁ。会長もイブもびっくりさせないでよ」
「え、いや、こっちのセリフだよね?完全にこっちがびっくりする側だよね?」
先程まで奇行を繰り返していた本人に言われると遺憾以外の感想が出てこない。
「え?何かありました?」
「今のが通常運転なら世界人類の大半は顔面血だらけだと思うんだけど」
「ていうかまだ血が止まってないですけど…止血しましょうかー?」
「大丈夫。一旦、私の中の血を全部流してリセットしたい気分だから」
「どうしよう、イブちゃん。私、本来はボケ側なんだけどツッコミしなきゃいけないのかしら」
「そうですねー。良い感じに頭イカレてますねー」
何があったのだろうとイブも内心疑問に思う。父親の件とは関係なさそうな気もするが。
「いや、冷静に言うけどリセットされるのシャーリーの命だけよ?お父さんの件で色々あって、混乱してるのはわかるけど落ち着いて」
「落ち着いてます。それに関しては関係ありません」
「じゃあ、愛しのルルのこと?」
「それも違います!別に私だって何時もルルのことを考えているわけじゃありません」
そう言うと、シャーリーは学校へ向かうべく一歩を踏み出す。
「あ!じゃあ、彰君のことじゃないですか〜?」
イブの言葉にシャーリーはその一歩目の目算を誤り、再び電柱へと強打する。
「「…え」」
鈍感系ではない2人はシャーリーの反応で凡そのことを察する。だが、信じられない気持ちなのは変わりない。
「シャーリー…まさか、アンタ…」
「ないないない!あり得ない、あり得ない!いやー、歩く方向ミスっちゃったなぁ!間違って電柱の方向に歩いちゃったなぁ!」
歩く方向ミスって電柱の方向に歩く人類がどれだけいるのだろうか。完全に意味不明な思考だが、パニクっているシャーリーは気付いていない。
ミレイは面白いおもちゃを見つけた顔をしているが、イブは顔が引き攣っている。
(…え?あの言葉マジだったの?)
珍しくイブこと彰は内心で驚愕している。シャーリーの言葉は当然覚えているが、あんなものは一瞬の感情であり、暫くすると忘れるだろうと思っていたが…存外、本気だったらしい。
何処で自分はシャーリールートに入ったのだろう。残念ながら思い当たる余地が全くない。強制イベントなのだろうか。
そんなことを考えているイブを置いて、ミレイはシャーリーに畳み掛ける。
「まあ、彰って何だかんだで頼りになるからねぇ」
「何にも頼りにならないと思います!ダメ人間ですから!…ま、まあ、偶には頼りになりますけど」
「優しいところもあるし?」
「何にも優しくなんかないです!…そ、そりゃ、まあ、居て欲しい時には居てくれたりしますけど」
「一緒にいて退屈しないしねぇ」
「少しは退屈したいですよ!…つまんないよりは良いですけど」
「…全然否定しないじゃない」
「否定しまくってますけど!?」
本人からすれば否定しているらしい。聞いている側からすれば、何も否定になっていないのだが。
「顔真っ赤だけど」
「これ全部血ですから!血で赤くなってるだけですから!」
「心臓の動悸メッチャ激しくない?」
「この心臓おかしいんですよ、最近!本人の意思と関係なく激しくなるし!交換しないとダメかなぁ!」
「…そ、そう」
ここまで分かりやすい人間も中々いないだろう。とは言え、そこまで否定するのであればこれ以上、詰めるのもどうかと思う。というか、これ以上詰めれば電柱が破壊されかねない。
「そ、そうです。おかしいのは私自身なんです…ふふふ…あんなダメ人間が良く見えるなんて…」
「そ、そうそう。会ったことないですけどそんなダメ人間を好きになる必要ないですってー」
何故、自分の悪口を言わなければいけないのか理解に苦しむが急に笑いだしたシャーリーに同意しておいた。
「だよね。だから…」
今度は更に思い切り、自身の頭を電柱にぶつけ出すシャーリーにミレイとイブは言葉を失う。そこで薄らと笑いながら、血だらけの顔でボソリと呟く。
「私の記憶が…なくなれば…こんな感情も消えるはず…」
「はい、ちょっと待ってねシャーリー!落ち着いて!ちょっとイブちゃん!一緒に止めて!」
「ちょっと待ってくださいねー。今、セーブデータ見直して何時シャーリールートに入ったのか確認しますからー」
「いや、何やってんの!?」
一方、その頃
解放戦線の一時的な避難場所の倉庫で藤堂は仙波から報告を受けていた。
「藤堂中佐…早急に体制を立て直す必要があります。このままでは、解放戦線は組織としての体裁すら保てません」
「うむ…」
仙波に打診されるが、藤堂とてそんなことはわかっている。わかっているが、何か具体的な手段が思い浮かばない。藤堂は優秀ではあるが、あくまでも軍人として優秀なだけであり、組織運営など門外漢だ。そして、それは四聖剣においてもそうであり、頼める相手などいない…1人の例外を除いては。
「やはり、アイツに任せるしかないな…」
「その案ですと私や卜部はともかく、他の者が納得しないでしょう。少しずつ始めなければ」
「そんなことを言っている場合ではないだろう」
そんな話をしている時に朝比奈が血相を変えて、建物に入ってくる。
「藤堂さん!ブリタニアが!」
「嗅ぎつけられたか…」
現在、解放戦線はブリタニアから逃れるべく、少数での行動を取るように促しているがそれでもある程度全体を統括しなければならない中央のメンバーはある程度の規模にならざるを得なかった。ルルーシュであれば、単独で全ての指揮をすることが可能だったかもしれないが、指揮官として藤堂にそこまでの才は無い。
そして、コーネリアの軍は百戦錬磨。崩壊寸前の組織の残り香を嗅ぎ分けることなど、造作もなかった。
「全員聞け」
藤堂の声に、四聖剣を含めた全員がピタリと動きを止める。
「この戦い…我等に勝ち目はない」
全ての面で圧倒的に負けている。何か切り札がある訳でもない現状では、藤堂としても手の打ちようがない。
「私と数名以外を除いた四聖剣を含めた全員はここから離脱しろ。私が殿を務める」
「藤堂さん!?それなら、僕が!」
「理解しろ、朝比奈。私を殺すか捕縛かしなければ奴等は止まらん」
その言葉に朝比奈や声を出しかけていた千葉は静止する。藤堂の首くらい持ち帰らなければ、外にいるブリタニア兵は攻撃を止めることはないだろう。
「その後は詳細を桐島に連絡し、アイツの指示を聞け。これが、私の最後の命令だ」
「藤堂さん…?もしかして…」
「そうだ」
卜部の確認するような声に藤堂は同意する。
「解放戦線の生き残りは桐島の下に就け。これからの日本解放戦線のリーダーは桐島だ」