「前回の反省を踏まえようと思う」
拠点の会議室で、マーヤは真剣な面持ちでカレンとディートハルトに告げた。
前回の配信後、ゼロに怒られたことで、公式配信は禁止されたはずなのだが、マーヤは諦めていなかったらしい。
「そうですね」とディートハルトはマーヤに同意して深く頷いているが、カレンは椅子から立ち上がり、机を激しく叩いた。
「いや、反省も何も、やんなきゃ良いだけでしょうが! 怒られたばかりでしょ!?」
何故か私まで…と文句を言いたくなるカレン。まあ、実際に後でルルーシュに文句は言ったのだが。
「ダメだよカレン。言葉の裏を読まないと」
「全くですな。ゼロの真意は別のところにあります」
「言葉の裏ぁ?」
カレンが顔を引き攣らせる。マーヤは淡々と続けた。
「そう。つまり、ゼロは前回の配信の内容に不満があったんだよ。クオリティが低いって」
「絶対に違うから! 内容が論外だって言われたのよ!」
「確かにカレンさんはゼロの最も信頼する側近。だからこそ、逆に気づかないこともありますな」
「近いからこそ気づかない……とんだ皮肉ね、カレン」
「いや、近いとかそんな問題じゃないから! アンタらの頭がぶっ飛んでるだけだから!」
「多分、ゼロが懸念してるのは前回の動画に少しエロ描写があったから」
「んな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カレンは完全否定する。前回の動画にエロ要素などカケラもない。ただのオーバーキルな殺人動画である。
しかし、ディートハルトは我が意を得たりと言わんばかりに口を開く。
「その可能性はありますな。インターネット配信の規約にも抵触しかねない」
「人間としての規約を無視しまくってるアンタ達がそれ言う訳!?というか、安心な配信したいんなら扇さんとかに頼みなさいよ!例えば、黒の騎士団の目指してるものとか、現在の治世の問題点とか討論する感じで!」
「カレン。それはダメ。扇さんは出せない」
「そうです。モラルに反します」
「モラルに反してるのはアンタらの存在よ!というか、何で扇さんがモラルに反するのよ!?」
カレンからすれば、目の前のヤベェ奴等に比べたら、扇の方が遥かにマシである。
だが、この二人からするとカレンの方が間違っているのかゆっくりと首を振る。
「扇さんに問題はない。だけど、ちょっと容姿がね」
「容姿?そりゃまあ、派手さはないだろうけど」
「問題は髪型ですね。AIの判定だと『露出した陰毛』と誤認されるかもしれません」
「どういう誤認の仕方されてんのよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
どんな判別ロジックを通せば、ただの天然パーマが下半身の部位と判定されるのか。悪意しか感じない。
「エロ動画扱いされるリスクがある以上、リスクは取れない。ゼロに迷惑をかけるわけにはいかない」
「その通り。ゼロに迷惑をかけることだけは避けなければいけません」
「いや、もう、絶対無理よね!?だってアンタらの存在が迷惑かけてるから!いるだけで問題が生じる存在だから!」
明後日の方向に気を遣っているバカ二人をカレンは全否定するが、何故かカレンが間違っている雰囲気になる。理不尽だった。
「つまり、方針を変えれば良い。ペット動画みたいな癒し系のジャンルを流せば、全年齢対象でバズると思う」
「黒の騎士団の公式チャンネルなのに、何で癒し系のジャンルを流すのよ…」
カレンはゲンナリするが、否定はしない。以前のようなバイオレンスな動画配信よりは遥かにマシだろう。
「なるほど……しかし、それでは他のチャンネルと差別化できないのでは?」
しかし、ディートハルトは内容に懸念を示す。当然だ。他のチャンネルと同じようなことをやれば、人気など出るわけがない。
「その点については心配ない。ちゃんと考えてる」
マーヤはずっと立ち上がり、パチンと指を鳴らす。すると、どういう仕掛けか扉が開いた。
「ブリタニア兵をペットとして紹介するチャンネルは調べたところなかった。これなら差別化できる」
「何処が癒し系だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
扉の先の目隠しされた首輪付きのブリタニア兵を見て、カレンは絶叫する。
「癒されない?私はマイナスイオンを感じるけど」
「バイオレンスしか感じないけど!?絶対に関わりたくない異常者の集いか何かなの、これ!?」
「失礼ね。私はノーマルよ」
「ノーマルが狂っちゃってるわよ、こいつ!脊髄液毎日ガブ飲みしてるわよ、こいつ!」
「ふむ…これなら確かに差別化はできますか」
「そりゃ、できるでしょうねぇ!?だって、やってることやばいもの!!異常者以外の何者でもないもの!」
「そこのブリタニア兵も喜んでいるようだ。需要と供給が一致してる」
「とんでもない需要と供給が誕生してたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
確かに捉えられたブリタニア兵は若干顔をが赤くなっていた。カレンは戦慄した。
「喜んでるの?じゃあ、解放しよう」
しかし、マーヤはその言葉に反応してブリタニア兵を解放しようとする。
その言葉でブリタニア兵は「ヒッ、ごめんなさい! 捨てないで!」と必死に謝っていた。
地獄みたいな光景だった。
「ショック?貴方は自分の環境を喜ぶ資格もないの。家畜になった瞬間の絶望を覚えている限りは飼ってあげる」
「イキイキしちゃってるわよ、アイツ!地獄みたいな空間に舞い降りた一匹の堕天使よ!真っ黒に輝いてるわよ、アイツ!」
そこまで言うとカレンはバンと机を叩く。
「そこまでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!もう、ゼロがどうとかじゃないから!人として超えてはならない一線を余裕で飛び越えてタップダンスしてるから!」
「では、これはどうですかな?」
そう言ってディートハルトは次の案を提示する。
「租界でホームレスをしているマダオ系哺乳類のドキュメンタリーとか」
「それで何が癒されんのよぉぉぉぉぉ!!そもそもマダオ系って何なのよ!」
「底辺を見ることで、視聴者が優越感に満たされると思います」
「最低な配信すぎるでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!」
次の意見もカレンに却下された。そこでディートハルトはしばらく思案に耽った。
「ふむ…では、発想を転換させてはどうでしょう?例えば学園物はどうでしょう?青春の煌めき。それは万国共通のコンテンツです」
「学園物…丁度学校に行く時間ね」
チラリとマーヤは時計を見る。そこでマーヤに良案が浮かんだ。
「良いわね。じゃあ、アッシュフォード学園で撮ろう。あそこにはバズりそうな素材がたくさん転がってる」
「ちょっと待ちなさいよ! 勝手にそんなことしちゃまずいでしょ!」
「大丈夫。バレないようにする」
「無理に決まってるでしょうが!」
コイツにそんな高度なことなどできるわけがなかった。
だが、そんなカレンの言葉は無視され、結局放課後のアッシュフォード学園で動画作成をすることになるのであった。
そして、放課後
「…バズりそうなもの…バズりそうなもの…」
放課後の校内。マーヤはぶつぶつと呟きながら、スマホのカメラを構えてうろついていた。
横には、巨大な三脚を担いだ不審者丸出しのディートハルトが付き従っている。
カレンは二人から数メートル離れ、「私は赤の他人です」というオーラを必死に放っていた。
当然の如く、無駄なのだが。
「マーヤ、お願いだから落ち着いて。学校の人に迷惑かけないでよ?」
「わかってる。今は素材探しの段階。……カレン、あれは何?」
マーヤが指差したのは、中庭で巨大なピザの釜を囲んで騒いでいる生徒達がいた。
この行事を同じ生徒会のマーヤが知らないことにカレンは疑問を抱いたが、そういえばマーヤはこの議題の時には欠席していたことを思い出した。
「あれはミレイ会長の思いつきで始まった『世界最大のピザ作り』の練習よ。まあ、本番は割と先だけどね」
「ピザ……。ブリタニアの飽食の象徴……。これを全部ひっくり返せば、飢餓に苦しむ日本人の怒りを伝えられる…」
「やめろぉぉぉぉぉ! 普通に楽しんでるだけの人たちを襲うな!」
カレンがマーヤの腕を掴んで制止する。
だが、その喧騒を察知したミレイは目ざとく二人に声をかける。
「あら?カレンとマーヤじゃない?こんな所でどしたの?」
ピザ釜の裏から、優雅に現れたミレイはカレン達の方に近づいてくる。その後ろにはスザクとリヴァルもミーナが続いている。
「あ、カレンにマーヤ。どうしたんだい?用事があるとか言ってたじゃないか」
「ま、まあ、色々あって…あはは…そ、そんなことより、スザク君はピザ作り大変そうね…」
カレンは引き攣った笑みで応じる。対照的に、マーヤは無言でスマホをミレイに向けた。
「……? そのカメラ、なにかしら。もしかして、今流行りの動画配信?」
ミレイの瞳が怪しく光る。彼女の「面白そうセンサー」が最大出力で稼働した瞬間だった。
「ええ、そうです。私はフリーのジャーナリスト。この学園の自由な校風を世界に発信したいと思いまして、取材許可をいただきました」
ディートハルトが滑らかな口調で割り込み、ミレイに取材許可証を渡す。許可を得ているという触れ込みだが、どう見ても不審者である。
しかし、取材許可は本物であるため、ミレイも疑問を挟みはしない。
「取材?面白いじゃない! ちょうど私たちも、学園祭の宣伝用にインパクトのある動画が欲しいと思ってたところなのよ」
ミレイは不敵な笑みを浮かべ、マーヤの持つカメラのレンズを覗き込んだ。
「いいわ。協力してあげる。その代わり、中途半端なものは許さないわよ? 視聴者を絶対に退屈させないスリリングな映像を撮りましょう」
「ほほう?配信経験のない素人にしては強気な発言…それがハリボテではないことを願いたいものです」
ディートハルトとミレイ。本来交わるはずのない二人が、不気味な火花を散らす。
「現役の高校生を舐めないでくださいね?例え、貴方が本職でも私には若さというエネルギーがある。そのパワーは無限。限界なんてありません」
そう言うと、ミレイは薄く笑いながらディートハルトに宣言する。
「青春という名の輝きで世界を照らしてあげるわ!」
その言葉に、リヴァルは何か面白いことになってきたなぁと言って笑っているが、カレンとしては冗談ではない。
理不尽な展開に学園でのキャラも忘れて、大空に向かって絶叫した。
「…な、何でこうなんのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」