「受けて立つわ。ミレイ・アッシュフォードの演出力を甘く見ないことね」
ミレイは不敵に微笑むと、手近にあった学園祭用の拡声器をひっ掴んだ。
「ただいまより!生徒会による動画撮影を開始するわ!」
ミレイの号令により、他の生徒達も騒ぎに気付いて集まってきた。掴みとしては上々の滑り出し。盛り上がりによって、他の生徒達にも熱が伝播し、更なる炎になっていく。
「会長!何ですか、この騒ぎ…は…」
その盛り上がりに気付いたルルーシュは騒ぎの元凶である現場を見て、一瞬思考が停止した。
それはそうだろう。カレンやマーヤがいるのはおかしいことではないが、何故か最近入隊したばかりのディートハルトがミレイと対峙するかのように向かい合っているのだから。おまけに先程の号令からすると、動画撮影を開始するらしい。
何がどうなったらこうなるんだ!?という疑問がルルーシュの思考を支配する。
しかし、直後にルルーシュの脳裏に警戒音が鳴り響く。この場にいてはいけない。ルルーシュの本能が訴えていた。
「お取り込み中のようですね。分かりました。では、私は事務作業を進めておきます」
だが、それを決して許さない者が一人いる。カレンは満面の笑顔でルルーシュの腕を抱きしめる。傍目から見れば彼氏に甘える彼女にしか見えない。現実にはルルーシュが振り払おうとしても絶対に解けない程の力で逃げられないようにしているだけなのだが。
「待って、ルルーシュ君。そんなに急がなくても良いじゃない」
直訳すると、絶対に逃さないぞ、この野郎という意味である。
「カレン。俺には仕事があるんだ。それにどういうことだ?俺は動画撮影は控えるように言ったと思ったが?」
直訳すると、俺にはこんなことに関わってる時間はない。それに止めろと言った動画撮影を何故やっている。お前は監督役だろうが。という意味である。
「ごめんなさい。でも、ちょっとマーヤ達が盛り上がっちゃって私一人だと…」
直訳すると、あんな変人どもを私一人で何とかできるわけないでしょうが。という意味である。
「大丈夫さ。カレンが本気を出せば問題ない」
直訳すると、それを何とかするのがお前の仕事だろうという意味である。
「私が本気出しても限界あるの。もう少し、バランスが取れた人が居てくれたら助かるんだけど」
直訳すると、何とかできるわけないでしょうが。何とかして欲しかったら、もっとまともなやつを連れて来なさいよ!という意味である。
「バランスが取れた人か…そんな人が居てくれれば俺も助かるんだがな」
直訳すると、そんな都合が良い奴がいる訳ないだろうが!という意味である。
「じゃあ、私に何とかしろってのが無茶でしょうが!馬鹿と馬鹿と馬鹿しかいないこの世界が悪いのよ!」
直訳すると、それで私に何とかしろって言われても…この状況じゃ難しいかな。という意味である。
「お前、完全に本音と建前が狂ってるからな!?」
当人同士から見たら責任の押し付け合い以外の何物でもないのだが、側から見たら痴話喧嘩にしか見えない光景にミレイはゆっくりと頷く。
「彼氏と彼女のいちゃつきからの喧嘩。これも青春よね。でも、これだけじゃあ、足りない。今時の学生の熱を伝えるのには。これだけじゃあ、全然足りないわ!」
「足りないんだってさ、カレン。悪いけど、ルルーシュから離れてよ」
そう言ってスザクはルルーシュからカレンを引き剥がそうとする。だが、カレンからしたら許容できない提案である。この場で大切なツッコミ要員を逃すなどあり得ない。
「ごめん、スザク君。恋人同士の問題に口を出さないでくれる?」
「そう言われても困るんだよね。だって、僕もそうだから」
「「え」」
ルルーシュとカレンの疑問を他所に、スザクはルルーシュのもう片方の腕を片手で抱く。
突然の展開に顔を青ざめさせるカレン。これはつまり…そういうことなのだろうか?
「ルルーシュ…君…?あんた、まさか…」
「そんな訳あるわけないだろうが!」
「いや、あの私は、アンタが幸せなら構わないんだけど…今時こういう問題に口を出す方が野暮な気もするし…」
「全力で口を出せ!おい、スザク!悪ふざけも大概にしろ!」
「そうだよね、ルルーシュ。カレンは愛が足りないんだよ。ほら、見てよルルーシュ」
そう言うとスザクは自身が練習で作っていたピザを口に加えてルルーシュへと向ける。
突然、背景に薔薇の花びらが舞っているように見えた。
「僕は口を出せるから…何時もみたいに纏めて食べて良いよ」
「どういう口の出し方をしてるんだぁぁぁぁぁぁぁ!!て言うか、何時もって何の話だぁぁぁぁぁぁ!!」
「ダメだよ、ルルーシュ。そこは、『そうだな…いつものように俺も口を出すか』って言ってもう片方からピザを食べないと」
「ダメなのはお前だ、この馬鹿が!会長!スザクに何をさせてるんですか!どうせ貴方の指図でしょう!」
「え?いや、最近はこういう青春もアリってニーナからの提案があったのよ」
「ニーナァァァァァァ!!!」
「え?だって、バズりたいならルルスザは鉄板でしょ?」
「いや、知らないが!て言うか、ルルスザって何だ!?」
「ルルーシュとスザクのカップリングだけど」
「勝手に名付けるな!ていうか、周りも真に受けるな!俺はノーマルだ!カレン一筋だ!」
ルルーシュのスザクのやり取りに顔を赤くして歓声を上げている女子生徒にルルーシュは全力で否定する。このままでは、ホモの烙印を押されかねない。しかも、下手をするとこれが全世界の放送される。端的に言って地獄だった。
「ちょ!?私を巻き込まないでよね!?」
「巻き込むに決まってるだろ!だって、彼女なんだからな!俺はお前を愛してるからな!」
そう言ってルルーシュはスザクが抱きしめていた腕を強引に振り解くと、そのままカレンを両腕を使って思い切り抱きしめた。
突然の展開に周りの生徒はまた別の歓声を上げるが、突然大勢の前で抱きしめられたカレンにそんな余裕はない。
顔を真っ赤にすると、そのまま自身の拳を振り上げてルルーシュの顎にクリーンヒットさせる。そのままルルーシュは宙を舞う。
「いきなり何すんのよぉぉぉぉぉぉぉ!!落ち着け、この馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ううむ…一人の男の奪い合い…王道ですが、逆に言えば間違いがない…良い選択ですな」
「でしょ?だけど…こんなんじゃ終わらないわよ?」
ルルーシュを取り合う王道の展開にディートハルトは感心するが、ミレイはこれだけでは終わらないと指を鳴らす。
「そうだな。確かにルルーシュの彼女はカレンだ。スザクの愛は偽物だろうさ。ニーナの台本に沿っただけだからな」
ミレイの合図で、リヴァルが周囲にバラ撒いた紙束――それはニーナ特製の「ルルスザ愛欲の学園生活・決定稿」から「没案」までがびっしりと書かれた狂気の台本群だった。
「驚くことじゃない、これらは全て偽物だ」
「いや、そりゃ、そうでしょうね」
リヴァルは平然と言い放ち、スザクが作ったピザの残りを口に入れる。そこには確かにルルーシュを想うスザクの愛を感じた。気のせいである。
「だがな、偽物が本物に敵わない道理なんてない」
リヴァルの声は、なぜか不思議な説得力と重厚さを伴っていた。
そのまま、リヴァルはカレンを見て不敵な笑みを浮かべる。偽物には偽物としてのプライドがあるのだ。暗にそう告げていた。
「カレン。お前の愛が本物だというのなら、悉くを凌駕してその存在を叩き堕とそう」
リヴァルは懐からニーナから手渡された重厚な装丁ー「究極の愛の台本」ーを突きつける。
「いくぞ恋人――愛の貯蔵は充分か」
「充分なわけあるかぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
唐突に始まった茶番にカレンは全力でツッコミを入れる。
「何なのこれ!?別の作品始まったの!?無限の剣製でも出すのこれ!?」
「あー、何かミレイ会長からこれ読んでって台本渡されてさ。声が良いからって」
「びびっと来たのよ。バズるならこの方向かなって。偽物が本物を超える……熱いわよね!」
「炎上的な方向ですよ!?リヴァルに言わせる所が更に悪質ですよ!?分かってやってますよね、これ!?」
「えー?何のことかにゃー?」
「絶対知ってますよね!?あー、もう!ちょっとは、まともな奴はいないの!?」
「呼びましたかー?まともな奴を」
突然、背後から聞こえてきた物凄く聞き覚えのある……そしてこの世で最も「まとも」から遠い位置にいる奴の声に、カレンは凍りついた。
「私の出番ですねー」
「この状況で一番来て欲しくない奴が来たぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」
「やですねぇ、カレンさんたら。素直じゃないんですからぁー」
「メッチャ素直で言ってんのよ!心の底から全力で叫んでんのよ!」
「ていうか、ミレイ会長ともあろう人が甘いですねー。そんな安直な手に出るなんて」
「無視すんな、ゴラァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「何かカレンがキャラ変してるのは置いといて。私が甘い?心外ね、イブちゃん」
「ええ。ちょっと露骨過ぎるんですよねー。受け狙いが見え見えなんですよ。そして何よりもー覚悟が足りない」
「覚悟?」
「ええ覚悟です。壊す覚悟。世界を。自分自身すらも!」
そこまで言うと、イブは不敵に笑いながらスザクに告げる。
「で。お願いなんですけどスザク君。私を手伝ってくれませんかー?」
「え?いや、突然そんなこと言われても」
「突然なんですけどー。スザク君が居ないと成り立たないんですよー。だから…お願いします!」
そう言ってイブは頭を地になすりつけながらお願いをする。その姿はスザクの琴線に触れた。
「生殺与奪の権を!他人に握らせるな!!」
スザクがー自分が居ないと成り立たない計画など愚の骨頂。そんな計画に全てを委ねるなど甘いと言わざるを得ない。
「惨めったらしくうずくまるのはやめろ!! そんなことが通用するならバズを起こすのは簡単にできる」
そう。簡単にはできないのだ。だから、多くの人々は必死で努力している。
「奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者がバズる? 人気者になる?笑止千万!! 弱者には何の権利も選択肢もない!」
「アンタの方が露骨だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
スザクの発言の途中で黙っていられなかったカレンはイブとスザクに踵落としを喰らわせる。
「何の刃を始める気だぁぁぁぁぁぁぁぉ!!何、今大人気のコンテンツに乗っかろうとしてんのよぉぉぉぉぉぉ!!!」
「せ、生殺与奪の権を奪われないためなんですよー。仕方なく…」
「もっと奪っちゃいけないもんがあるでしょうが!もっと気にしなくちゃいけない所があるでしょうが!」
「…あ」
「どしたの、マーヤ?静かになっちゃって」
急に青ざめたマーヤを不思議がり、ミレイが原因を尋ねる。
「とりあえず、今までのをまとめてアップロードしようとしたんだけど…」
そこまで言うと、マーヤは全員に見えるようにスマホの画面を見せる。そこには以下のように表記されていた。
『不適切な性的コンテンツ、著作権侵害、暴力描写、および公序良俗に反する声優ネタ。貴方のアカウントは永久に凍結(BAN)されました』
その画面に全員の思考が停止する中、マーヤは膝をついて呆然と呟く。
「……BAN、された」
「……私の努力が、一瞬で駆逐された。情報の濁流が、せき止められた……」
ディートハルトは膝から崩れ落ち、虚空を見つめた。
「やり過ぎなのよ、この馬鹿どもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
今後、黒の騎士団ではこの件は黒歴史として無かったことにされたらしい。